[11]ラオス

1.ラオスの概要と開発課題

(1) 概要
 ラオスは、1986年に「新思考」政策を導入し、経済改革を進め市場原理導入等の経済開放化政策(「新経済メカニズム(NEM:New Economic Mechanism)」)を推進しているが、内陸国という地理的条件と、長期間にわたった過去の内戦の影響により経済発展は遅れており、国民一人当たりの名目GNPは331米ドル(2003年。2002年に比し0.6%の微増)と、後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)である。国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)発行の2001年「人間開発報告書」によるとラオスはアジア諸国では下から4位の最貧国であり、また、ラオス政府自身の貧困の定義(注1)に基づけば、人口の3割が貧困ライン以下にある。このような中、同国は、開放政策の下、市場経済メカニズムの積極的な導入を通じて経済の活性化に努めている。
 2003年の国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率は5.9%(ラオス政府発表。国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)、世銀発表は5.25%)を達成したが、拡大する財政赤字補填の為の政府借入金が増加しており、2002年下半期のキープ安による輸入品の値上がり、洪水被害による食料品の値上げ、イラク情勢悪化に伴う石油価格の高騰等により、インフレ率は2002年後半より上昇し、2003年3月には18%に達した。しかし、その後、緊縮財政措置が採られた結果、年平均で15%の上昇となった。為替レートは比較的安定し、2003年平均の公式レートは1米ドル=10,515キープ(2002年より1ドル当たり459キープ安)であった。
 ラオスの主要産業は農林業(米、野菜、木材等)で、国内総生産の約52%を占めており、労働人口の80%以上が従事している。その他の主要産業は農林関係加工業、水力発電等に限られている。
 財政分野では、歳出入管理に依然問題が存在し、歳入(2.7兆キープ(約272百万ドル)が目標に届かず、税収も目標額の8割強に止まる。歳入が伸び悩む一方で歳出(3.7兆キープ(約370百万ドル)が拡大した為、財政赤字はGDP比5.9%(2002年:4.9%)を占めるに至ったが、海外からの援助や借款で補填された。
 金融分野では、国営商業銀行が改革を徐々に進め、返済可能性の低い公共事業への貸出や縁故関係の安易な貸出を抑制し、不良債権の圧縮に努めた。
 貿易分野では、輸出(主に電力、衣料、木材製品)は3億5,262万米ドル(2002年比9.3%増)、輸入(主に生活用品、衣料原料、建設機材・電装具)は5億5,111万米ドル(2002年比3.2%増)で恒常的な貿易赤字が続いている。
 (注1)ラオス政府の貧困の定義:1ヶ月1人当たりの収入(現金収入のみならず、現物も含む)が、8万5000キープ〔2001年時の価値〕未満の世帯を世帯レベルの貧困基準としている。これは1ヶ月1人当たり米を16kg購入できる金額に相当(ラオス人の米の平均消費量程度)するが、米の必要量を購入すると他の衣食住、教育、医療にかかる費用は捻出できないこととなる。
(2) 経済開発計画
 ラオスでは5年ごとに開催される人民革命党大会において経済社会開発のための5か年計画を採択してきているが、前回2001年3月の第7回党大会において、従来の経済開放化政策の継続が確保されると共に、2020年までにLDCからの脱却と国民生活水準の3倍増を目指した長期開発計画が打ち出された。
 2003年9月、「国家貧困削減プログラム(NPEP:National Poverty Eradication Programme)」(後に「国家成長・貧困削減戦略(NGPES:Growth and Poverty Eradication Strategy)」に変更)が完成、貧困削減と共に投資の誘致、中小企業の育成・開発、農業を基盤とした産業開発に引続き重点を置くとした。
(3) 地域経済統合・協力
 ラオスは内陸国で制約のある経済条件を克服する為、地域の経済統合・協力にも積極的に参画している。東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)の枠組を通じた経済統合、即ち2008年から域内での関税撤廃を開始すべく(完了は2015年)、国内でその準備を進めている。さらに、インドシナでの経済協力では、タイのタクシン首相の主導による4か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ)経済協力戦略首脳会議(11月、ミャンマー・パガンで開催)に参加。また、1999年以来、カンボジア、ラオス、ベトナムの三首脳は、数回の首脳会談を開催し、3か国の国境に跨る「開発の三角地帯」(3か国で7つの県、ラオスはセコン県、アタプー県が対象)の開発を共同で進めることにより、ASEAN先進国との格差の解消に努めることに合意している。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数


2.ラオスに対するODAの考え方

(1) ラオスに対するODAの意義
 ラオスは、インドシナ半島の中心部に位置し、国境を中国、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムの5か国と接する内陸国であり、山がちな国土で海を持たないことから経済開発には不利であると見られがちである。しかし、その国境の多くを接しているメコン河の流域地域は、今後新たな経済圏として注目を集めており、ラオスはこの地域における人・物の流れの中心になり得る。また、ラオスは1997年にASEANに加盟したが、ラオスの社会経済の安定した発展がASEAN後発のカンボジア、ベトナム、ミャンマーとともに着実に進み、ASEAN内の地域格差が是正され、ASEAN加盟国間の相互補完・協力関係が強化されることは、ASEAN全域の更なる経済発展にとって大きな重要性を有する。このような観点から、我が国としてラオスの経済発展に資する相応の支援を行うことが重要である。
(2) ラオスに対するODAの基本方針
 我が国は、ラオスとは伝統的に友好関係にあり、同国の安定・発展がインドシナ全体の経済圏としての発展を図る上で重要であること、LDCであることに加え、内陸山岳国であるとの制約があること、経済開放化政策や民主化を進めていること、さらに、2008年までのASEAN域内関税の引き下げに対応するために、財政構造改革や制度・組織体制等の整備が不可欠であり、支援を必要としていること等を踏まえ、また、ASEANの内部格差是正による統合支援の観点からも、我が国ODA大綱の理念・原則を踏まえつつラオスの経済開放政策に基づく国造りの努力に対し、着実に支援を行っていくこととしている。
(3) 重点分野
 我が国は、ラオスにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び1998年3月に派遣した経済協力総合調査団等によるラオス側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。
 なお、援助の重点分野については、ラオスの開発の現状と課題を踏まえ、我が国の対ラオス経済協力をより一層効率的かつ効果的なものとすべく、現在、国別援助計画を策定中であり、同計画の中で改めて整理することとしている。
(イ) 人造り
 ラオスではあらゆる分野において人材が不足しており、人造りが最重要課題である。市場経済化促進、行政強化、農業開発、インフラ整備等に資する人材育成を重視し、特に、行政官の育成、税関職員・徴税官吏の育成、公共企業及び民間部門の実務者・技術者の育成、高等教育支援、銀行・金融部門における人材育成を重点的に行う。
(ロ) 基礎生活分野(BHN:Basic Human Needs)支援
 初等教育(校舎建設・改修、機材供与等)、保健・医療(基幹病院を中心に施設改修・機材整備、子供の健康)、環境保全(森林造成等)
(ハ) 農林業
 農業はGDPの約5割、労働人口の約8割を占めるが、人口増等に伴い食料輸入が増える懸念もあり、依然食料自給の見通しは定かではない。具体的には、農業政策の企画・策定、灌漑施設整備、ポストハーベスト(貯蔵、流通、加工)改善、焼畑対策/森林保全、農村開発を重点として農林業分野への支援を行う。
(ニ) インフラ整備
 水力発電は重要な外貨獲得源となっているが、今後、売電以外の産業育成に努めつつ、環境配慮、近隣国の電力需要等を見極めつつ慎重に対応していく。道路及び橋の整備については、国土の東西・南北の骨格となる幹線道路整備を当面の目標とし、その後維持管理面の強化を図る。
 協力に当たっては、上記の合意された個々の重要分野への支援継続と並び、ラオス側の開発計画の策定と実施の体制を支えるために、分野横断的な課題として政策支援型の技術協力(政策アドバイザーの派遣、開発計画策定・政策実施の能力向上、法的・制度的基礎強化の為の支援等)も常に念頭に置く必要がある。
 また、ラオスは市場経済への移行方針の下に経済運営のノウハウ修得等につき我が国への協力を求めており、我が国としてもラオスのこのような姿勢を歓迎し、支援することとしている。


3.ラオスに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のラオスに対する援助実績は、無償資金協力が41.11億円(交換公文ベース)、技術協力が29.83億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款131.04億円、無償資金協力989.26億円(以上、交換公文ベース)、技術協力357.47億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 2001年度に、インドシナをベトナムからミャンマーまで東西に横断する「東西回廊」の一部をなす「第二メコン国際架橋計画」に対して40.11億円を限度とする円借款の供与を行ったが、その後2003年度までの実績はない。
(3) 無償資金協力
 無償資金協力では、2003年度は、経済インフラ分野、教育分野に供与を行った他、世界食糧計画(WFP:World Food Programme)を通した食糧援助、草の根・人間の安全保障無償(11件)、文化無償、日本NGO無償などを行っている。
(4) 技術協力
 技術協力については、2003年度は、研修事業、青年招聘、専門家派遣、海外青年協力隊事業等各種形態による協力を行った。その他、技術協力プロジェクトとして、経済政策支援、法制度整備、森林管理・住民支援、水道技術者育成、ラオス国立大学工学部情報化対応人材育成機能強化に新たに着手した。


4.ラオスにおける援助協調の現状とわが国の関与

 国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)主導で非公式ドナー会合が3ケ月に1回程度の頻度で開催され、ドナー間の情報交換及び政策協議の場となっている。また、ラオス国家成長・貧困削減戦略(NGPES)の実施に向けて、各ドナーが協調して協力していくために、NGPESで重点課題とされている8分野(教育、保健、インフラ、村落開発・自然資源管理、ガバナンス、麻薬対策、不発弾対策、マクロ経済)に関し、それぞれドナー調整のための作業部会が立ち上げられている。我が国は保健と麻薬対策で議長を、インフラで副議長を務める等、現地ODAタスクフォースのメンバーにより、これらの会合に積極的に参画している。現時点では、各作業部会ではそれぞれの分野における各ドナーと取り組み状況に係る情報共有及び政策対話を行っており、今後は援助政策の調和化を図る場として活用していく予定である。


表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ラオス経済協力実績

表-6 諸外国の対ラオス経済協力実績

表-7 国際機関の対ラオス経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



前ペ ージへ  南西アジア地域へ