[7]ベトナム

1.ベトナムの概要と開発課題

(1) 概要
 ベトナムは、共産党による一党支配の社会主義体制であり、党の果たす役割が大きい国柄である。またその体制を維持したまま、市場経済への移行を進める点が特徴として挙げられる。
 社会的な状況としては、経済成長の反面、経済成長のみによっては解消されず、また、場合によって悪化することのある社会・生活面の問題が存在している。具体的な問題としては、都市部と農村部との格差、少数民族の貧困、インフォーマルセクターの問題、環境悪化、都市インフラの未整備、交通問題、市場経済化や情報通信技術の進展の中での新たな様相の「貧困」などに着目する必要がある。また、北部、中部、南部のそれぞれの地域差についても留意が必要である。
 ベトナムは、1986年末にドイモイ政策を採択し、1992年以降、高い経済成長(年率7%-9%)を達成してきた。1998年、1999年に、成長率は一時的に落ち込んだが、2000年以降は回復し、6-7%台を基調とする成長率となっている。
 マクロ経済の状況としては、比較的高い成長率、安定的な為替レート、対外債務負担の減少など、一応は安定した状況にある。債務問題の面でも、対外債務の状況は持続可能とされており、重債務貧困国(HIPCs:Heavily Indebted Poor Countries)リストから「卒業」させる動きもある。
 対外経済については、一次産品の国際市況の悪化が貿易収支悪化に結びつきやすい構造であるといえる。貿易収支は赤字であるもののアメリカ及びEUがベトナムの輸出市場としてのシェアを伸ばしてきており、貿易は拡大してきている。海外直接投資も2004年は大幅に増加してきている。
 今後も大きな開発資金ニーズが見込まれるが、国内貯蓄率は改善しつつあるも、中長期資金は不足しており、金融機能に限界がある中、ODAに期待される役割は大きなものがある。
(2) 開発計画
 ベトナムは、2001年に策定された「2001年-2010年社会経済開発戦略」において、2020年までに工業国への転換を遂げるとのビジョンを掲げている。また、2002年5月には、「包括的貧困削減成長戦略文書(CPRGS:Comprehensive Poverty Reduction and Growth Strategy)」が策定された。CPRGSは、ベトナム版の貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)であり、各種開発戦略・計画実現のための行動計画と位置づけられており、経済成長と貧困削減の二つの達成を目的としている。なお、主要セクターにおいても、それぞれ10か年・5か年の開発戦略・計画が策定されている。
(3) 日越共同イニシアティブ
 2003年4月7日、小泉総理大臣とファン・ヴァン・カイ首相は、「競争力強化のための投資環境改善に関する日越共同イニシアティブ」を立ち上げることを決定した。このイニシアティブは、ベトナムの競争力を強化するためのベトナムへの海外直接投資の促進を目的としており、2003年12月4日、ベトナムと我が国との間において、優先的に取り組むべき44項目の具体的な方策を行動計画としてとりまとめた報告書が合意された。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数 


2.ベトナムに対するODAの考え方

(1) ベトナムに対するODAの意義
 我が国の安全と繁栄にとって、東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)諸国の均衡のとれた経済発展と社会安定、およびそれに基づく我が国との緊密な関係はきわめて重要である。ベトナムはASEAN10の中で第2の人口規模をもち、勤勉で向上心に富む国民性から力強い経済発展の潜在的可能性を持つ国である。また後発ASEAN(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の先行国である同国の順調な発展は、他の後発ASEAN諸国にとってのモデルとしても、ASEAN内の先発・後発国間のバランスある発展にとっても望ましい。また、ベトナムは、我が国にとって、製造拠点、将来性ある輸出市場、エネルギー供給拠点としての意味を持っており、我が国の援助は、ベトナムの投資・貿易・ビジネス環境の改善を通じて日越(ベトナム)間、日・ASEAN間の経済面での好循環につながることが期待される。
 同時にベトナムは低所得途上国であり、近年高成長を通じ社会指標にかなりの改善をみたとはいえ、絶対的な所得・生活水準はいまだ低く、地方を中心に多くの貧困層が存在している。我が国の援助が、生活・社会面でのベトナムの開発課題に貢献することは、人道的・社会的要請に応えることになり、バランスのとれた我が国のODAの実施の観点からの意義がある。
 ベトナムは世界の開発援助政策において注目されている国であり、開発や援助に関わる我が国の考え方を知的リーダーシップをもってベトナムで実践し、国際社会に向け発信していくことは、世界の開発援助政策への我が国の貢献の点で有意義である。
(2) ベトナムに対するODAの基本方針
 我が国は2004年4月に対ベトナム国別援助計画を改定した。同計画は対ベトナムODAの基本認識、目標、援助実施の方法について明記するとともに、重点分野を設定している(重点分野の具体的内容は下記(3)のとおり。)。
(イ) 基本認識・目標
 我が国は、外交上の観点、経済的な相互依存関係の観点から、ベトナムの経済の力強い成長促進を支援していく。これは、経済・社会状況の全体的な底上げに結びつくことから、人道的・社会的要請にも応えることとなる。また、人道的・社会的関心から、貧困削減を含む生活・社会面での改善を支援していく。これは、成長によってのみでは解消されず、場合によって悪化することのある問題の軽減を図るものであり、また、将来の成長促進のための基礎的な条件を形づくるものである。さらに、成長促進、生活社会面の改善のいずれもの基礎をなす制度整備を支援していく。
 我が国は、ベトナム政府の主体性を尊重するとともに、上記1.(2)で触れられたその開発ビジョンの方向性を積極的に評価し、支援する方針をとっていく。
(ロ) 援助実施の方法
 対ベトナム援助の規模については、制度・政策環境を含む諸項目の状況、達成度を評価し、ベトナム政府と協議の上、規模の定性的な方向性を検討する仕組みとする。
 また、各セクターへの援助の方向性について、中期的なビジョンを討議する政策対話をベトナム政府と行うことにより、「要請主義」を超えた「対話型」の案件形成・採択を指向していく。
 各ドナー、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)、大学、地方公共団体、経済団体など幅広い関係者との協調・連携により、一層効果的・効率的な援助を目指していく。また、我が国の優れた技術、知見、人材及び制度を活用する。さらにODAの実施にあたっては、我が国の経済・社会との関連に配慮しつつ、我が国の重要な政策との連携を図り、政策全般の整合性を確保する。
(3) 重点分野
 我が国としては、成長促進、生活・社会面での改善、制度整備の三分野を重点分野とし、下記の通り、三分野の下で広い範囲のセクターを対象とするが、その際、ベトナムの開発にとっての意義、我が国として支援する意義、他ドナーの対応、我が国の支援能力などの観点から、各セクターの下で、我が国が重視すべきものを絞り、これを重点事項とする。
(イ) 成長促進
 経済成長を促進するためには、「成長のエンジン」となるもの(海外直接投資によるものを含めた民間セクター)、適切な「制度・政策」、経済活動の基盤(経済インフラ、人材)が重要である。かかる考え方から、下記のセクターを対象とする。
 投資環境整備、中小企業・民間セクター振興、経済インフラ整備(運輸交通、電力、情報通信)、成長を支える人材育成、国営企業改革などの経済分野の諸改革
(ロ) 生活・社会面での改善
 生活・社会面の課題は、貧困問題の諸相でもあり、また、ミレニアム開発目標で課題とされている分野でもある。これらは、人間が基礎的生活を送るために必要とされるものが欠如している状態が顕在化しているものであり、個々の人間に着目した「人間の安全保障」の視点、貧困削減に取り組む観点とともに、人道的・社会的要請に応える立場から、下記のセクターを対象とする。
 教育、保健・医療、農業・農村開発/地方開発、都市開発、環境
(ハ) 制度整備
 成長促進を達成するためにも、また、生活・社会面の課題を克服していくためにも、社会・経済の基盤となる制度の整備は、なくてはならない重要なものである。制度整備については、個別セクターに関連するものとして上記(イ)及び(ロ)に含まれるものもあるが、分野横断的なものとして、法制度整備や行政改革(公務員制度改革、財政改革)を対象とする。


3.ベトナムに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のベトナムに対する円借款は793.30億円、無償資金協力は56.50億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は55.77億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款9,253.93億円、無償資金協力1,092.31億円(以上、交換公文ベース)、技術協力557.54億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 経済活動の基盤強化、成長の牽引役である民間セクター並びに外国投資の活発化の観点から、運輸・電力セクターといった経済インフラ整備を中心として、合計9件、総額793.30億円の円借款を供与した。
(3) 無償資金協力
 農村生活の向上に資する「北部地下水開発計画」「ゲアン省ナムダン県農村生活環境改善計画」を実施したほか、地方における運輸インフラ整備、教育分野、医療分野及び環境分野への支援を行った。また、経済改革を担う人材の育成のための留学生支援無償や、草の根・人間の安全保障無償資金協力(20件)等も併せて実施した。
(4) 技術協力
 協力分野としては、行政分野、市場経済関連分野をはじめ、農業、保健医療、教育等の人造り・制度造りに幅広く貢献している。特に、世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)加盟やASEAN自由貿易地域(AFTA:ASEAN Free Trade Area)を控え、市場経済化のための制度整備は急務であり、民商事分野の立法と法曹強化を支援する「法整備支援プロジェクト(フェーズ3)」を開始した。また、経済成長に伴う都市部の水質汚染対策や、森林部の環境保全のための技術協力プロジェクトを開始した。


4.ベトナムにおける援助協調の現状と我が国の関与

 1999年に世界銀行によって「包括的開発フレームワーク(CDF:Comprehensive Development Framework)」が提唱され、ベトナムがそのパイロット国とされ、各セクターについてベトナム政府とドナーとの対話(「パートナーシップ」)のための作業グループが形成され、活動を開始した。また、ベトナム政府は、2002年5月に、アジアで初めてのPRSPとしてベトナム版PRSP(CPRGS)を策定した。このCPRGSは、大規模インフラなどの成長促進措置が経済成長を通じて貧困削減に貢献するとの役割が示されていないものであったため、我が国のイニシアティブにより大規模インフラについての章が追加され、2003年12月の支援国会合(CG:Consultative Group)において報告された。
 CPRGSをサポートするものとして世界銀行が実施してきた貧困削減支援貸付(PRSC:Poverty Reduction Support Credit)に対し、2004年6月、我が国がCo-financierとして参加することを表明した。2004年のプログラムであるPRSC3に対し、我が国も含め、Co-financierは7ドナーと増え(PRSC2は4ドナー)、PRSCがベトナムにおけるマルチ・ドナー政策協議のメカニズムとして重要性を増している。我が国は、ベトナムPRSCのこのような重要性に鑑み、かつ、我が国自身が重要と考える政策課題の反映に積極的に関与する見地から、PRSCへのCo-financeを初めて行うこととした。PRSC3における政策パッケージの策定に当たっては、我が国としては公共支出管理及び投資環境整備の二点に重点を置いた。前者は公共支出の質の向上を目指したものであり、後者は日越共同イニシアティブの作業を踏まえたものであるが、PRSC3の政策パッケージでは、これらについて我が国の問題意識がよく反映されたものとなっている。
 また、国際的に、援助の効果・効率の向上の観点から、援助手続きの調和化の議論が盛んになされているが、ベトナムは、多国間開発銀行のパイロット国となり、現に、JBIC、世界銀行、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)、AFD(フランス)、KfW(ドイツ)の間で、手続き調和化の努力が進められている。また、グラント分野でも、欧州を中心とするドナー・グループ、EU、国連機関がそれぞれの内部での調和化を進めている。こうした中で、ベトナム側及びドナーの双方が援助実施におけるベトナム側の能力構築(キャパシティ・ビルディング)の重要性に着目する流れになってきている。


5.留意点

 ベトナムにおいては、現地ODAタスクフォースが制度化される前より、4J(大使館、JICA、JBIC及びJETRO)の関係者が、上述の国別援助計画の見直しや、CRPGS及び援助手続き調和化等への対応において、密に意見交換や会合を行ってきた。2003年4月、現地ODAタスクフォースを設置し、今後も同タスクフォースの活動を通じ、一層の戦略的、効率的、かつ効果的なODAの実現に努めていく。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対ベトナム経済協力実績

表-6 諸外国の対ベトナム経済協力実績

表-7 国際機関の対ベトナム経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図




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