[5]東ティモール

1.東ティモールの概要と開発課題

(1) 概要
 東ティモールは、1999年のインドネシアによる拡大自治提案の受入可否を問う直接投票後に発生した騒乱により、大部分のインフラが破壊され、25万人以上の難民が発生する等、様々かつ大きな課題を抱えていたが、国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET:United Nations Transitional Administration In East Timor)の下、独立に向けた国造りを進め、2002年5月20日にUNTAETから立法・司法・行政に係る全ての権限を引き渡され独立を達成した。
 独立後は、国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)(東ティモール支援団(UNMISET:United Nations Mission of Support in East Timor))による治安の維持と国造りへの支援の下、様々な問題解決に取り組んできている。独立後、3年近くが経過し、基本的国家機構の確立、荒廃したインフラ回復等において一定の進展が見られたものの、立法・司法・監査機関の強化、法秩序の確立、治安維持体制の強化等、所謂ガバナンス分野において未だに様々な課題を抱えている他、自立的な行政を行うだけの行政能力は確立していない。
 2005年5月20日に予定されているUNMISETのマンデート終了後、如何に東ティモール人による自立的な国家運営を行っていくかが大きな課題となっている。

(2) 国家開発計画等
 東ティモール政府は、2002年5月に2002/03年度から2006/07年度にわたる国家開発計画(NDP:National Development Plan)を作成し、全体目標を「貧困削減」及び「公平・持続可能な経済成長」の2点に定め、8分野について開発戦略を提示した。政府は、未だいかなる種類の借款も受けていないところ、貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)は策定されていないが、NDPはPRSPと同等の内容を含んでいる。
 続いて政府はNDPを実施に移していくために、施策の優先順位付けと時間軸に従った配列化(Prioritizing and Sequencing Exercise)を進め、2003/04年度から2006/07年度までの4年間に係る詳細実施計画を行程表(Road Map)案として取り纏めた。
 更に、2003年8月より、NDP及び行程表をより具体的に進めていくために、15セクターにおいてセクター別投資計画(SIP:Sector Investment Program)の作成を開始した。SIPは、各セクターにおける中期的なセクター開発戦略及び2004/05年度から2006/07年度にかけての政府の優先プログラムを提示するものであり、政府はSIPに基づいて開発パートナーに対し支援を要請することとしている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数


2.東ティモールに対するODAの考え方

(1) 東ティモールに対するODAの意義
 我が国は、東ティモールの安定と発展はアジア太平洋地域の安定と平和のために極めて重要であるとの認識の下、これまで同国における平和の定着・国造りへの取り組みに対して積極的に協力し、同国の自立に向けた国造りのために国際社会とともに可能な限りの支援を実施してきている。
(2) 東ティモールに対するODAの基本方針
 我が国は、東ティモールに対して、特に人材育成、インフラ整備、農業を重点3分野として支援を行ってきているとともに、平和構築への支援として、東ティモールにおける和解努力や元兵士の社会復帰への取り組みに対して支援を実施している。
(3) 重点分野
(イ) 人材育成
 中長期的な観点から必要な人材育成を行うことを念頭におきつつも、短期的にも効果が上げられる分野への支援を集中させながら、人材育成支援を実施する。
(ロ) インフラ整備
 道路、水道施設、灌漑施設、電力施設、港湾施設の復旧等、基礎的な経済・社会インフラ整備に対する支援を実施する。
(ハ) 農業
 食糧自給率の引き上げと持続的な経済成長のため、基幹産業である農業振興に対して、国際機関、NGOとの連携も視野に含め灌漑施設の修復や農業訓練等の支援を実施する。
(ニ) 平和構築
 紛争を経験し、独立後間もない東ティモールにおいては、国家の安定を確保する上で紛争予防・平和構築への取組が重要であり、同国の安定のために必要な本分野での支援を実施する。


3.東ティモールに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度の東ティモールに対する無償資金協力は10.78億円(交換公文ベース)、技術協力は5.25億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、無償資金協力75.44億円(交換公文ベース)、技術協力は26.78億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 無償資金協力
 同国が後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)であることを踏まえ、 2003年度からは、中長期的な視点に立った運輸交通(道路)、電力等の基礎インフラ整備及び教育、保健医療等の基礎生活分野への一般プロジェクト無償のほか、ノンプロジェクト無償、日本NGO支援無償、草の根・人間の安全保障無償を実施している。
(3) 技術協力
 同国の発展における最大の障害はあらゆる分野における人材の不足との認識の下、人材育成(キャパシティ・ビルディング)を最重点課題として支援を行っている。その中でも大統領府に対する政策・金融アドバイザー派遣は、先方政府からも高い評価を得ているほか、高等教育アドバイザーの派遣や東ティモール大学工学部に対する支援などを行っている。また、農業、インフラ、各種行政分野を中心に研修員を受け入れている。


4.東ティモールにおける援助協調の現状と我が国の関与

 東ティモールでは、1999年の騒乱直後に国連がUNTAETを設置して緊急人道支援から復興開発を進めてきたこともあり、援助協調は当初から積極的に図られている。
 独立後、2002/03年度から2004/05年度の3年の予定で、10か国/機関(オーストラリア、カナダ、フィンランド、アイルランド、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国、世界銀行)が参加する一般財政支援プログラムである移行支援プログラム(TSP:Transition Support Program)が実施されている。我が国はTSPの枠組みには参加していないが、TSPミッション来訪時にはオブザーバーとして会議に参加している。
 SIPについては、今後設置されるセクター・ワーキング・グループを通じて援助協調が図られることとなる。SIPの中では、プログラム/プロジェクトベースの支援が予定されており、我が国もこの枠組みの中で援助協調に参加していくことになる。
 また、援助窓口機関である財務計画省に対し、JICAより援助調整アドバイザーを派遣し、政府内の援助調整能力の向上を図っている。


5.留意点

 東ティモールにおける治安は落ち着いてきているものの、改善の兆しが不透明な社会・経済状況に対し不満を有する国民、元兵士や西ティモール内に残存する旧統合派民兵の存在、及び、国内治安維持組織の未発達等、不安定要素は未だ少なからず存在する。2002年12月のディリ暴動のような暴力行動が再び起こり、我が国のこれまでの支援が後退することがないよう、更なる平和の構築に向けた支援を引き続き行っていく必要がある。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対東ティモール経済協力実績

表-6 諸外国の対東ティモール経済協力実績

表-7 国際機関の対東ティモール経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-10 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件



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