[4]中  国

1.中国の概要と開発課題

(1) 概要
 中国は急速な経済成長を続けており、2003年の国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率は9.3%で、一人あたりGDPも初めて1000米ドルを突破した。その一方で、依然として多くの貧困人口を抱えており、世界銀行が貧困ラインとする1日1ドル以下で生活する人は2億人を超えると言われている。
 高い経済成長の一方で、多くの構造的問題も抱えており、引き続き痛みを伴う調整を行っていく必要がある。中国政府現指導部は、実務重視と評され、「科学的発展観」、親民路線を打ち出して各種問題に取り組んでいるが、いずれも容易な課題ではない。
 まず沿海部と内陸部の地域間格差、都市と農村の格差は縮まらないばかりか、貧困人口減少傾向が反転する等、格差が拡がる方向にあり、一人あたりのGDPが最も高い上海と低い貴州省では13倍の格差となっている(注:東京と沖縄は2.6倍)。また、大都市の内部でも、農村からの出稼ぎ労働者に対する給料の遅配、踏み倒し等の問題が顕在化する等、都市内部における階層化、所得格差も拡がっている。
 また、経済的弱者救済対策も大きな課題である。かつてゆりかごから墓場まで労働者の面倒を見ていた国有企業が改革され、不採算部門として病院や学校が切り離される中、年金受給者や失業者に対する各種社会保障制度の未整備もあって社会的弱者にしわ寄せが行っている。SARS渦の際には公衆衛生分野の整備不足が露呈され、感染症対策も重要な課題となっている。
 さらに持続的成長のためには環境、エネルギー等の問題への対応も必要である。自然環境への負荷を考えない生産活動や不十分又は恣意的な法執行が、大気、水質汚染等の公害や生態系の破壊等様々なひずみを深刻化させている。
 2001年12月の世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)加盟後、中国経済の世界経済への統合が一層進みつつあるが、今後痛みを伴う構造調整の問題(農業、国有企業、金融等)に対処する必要がある。また、知的財産権保護等の分野で、制度構築や執行能力の向上が中国側に求められている。
 人民元問題について中国側は、「将来的には変動相場制を指向しているが、その前に、(a)貿易、サービス貿易の開放、(b)資本取引の過度な規制緩和、(c)国有商業銀行の初歩的解決が先行すべし」との主張を行っている。
(2) 「第10次5か年計画」
 2001年3月、全国人民代表大会で採択された2001年から2005年までの5か年計画。2010年までに2000年時のGDP(89,468.1億元)の倍増を目標としていたが、その後2002年11月の第16回党大会、2003年の第10期全国人民代表大会で、2020年までに2000年時GDPの4倍増と修正された。
 現在、2006年からの第11次5か年計画を策定中である。
(3) 「西部大開発」
 1999年に打ち出された中国の国家プロジェクトであるが、経済の発展した沿海地域が経済的に立ち後れた西部地域を引っ張り上げ、地域間格差を是正すべく政治的に打ち出されたもの。その対象地域は、四川、重慶、貴州、雲南、陜西、甘粛、青海、新疆、チベット、寧夏の10地域となっている。
 「西部大開発」により、高速道路や青海-チベット鉄道といったインフラ建設が進む一方、水力・天然ガスといった西部のエネルギー源を東部沿海地域が吸い上げるストロー現象等も生じている。内陸部は石炭を燃料とする火力発電所を建設し、沿海部に電力を供給して収入を得る一方で、窒素酸化物や硫黄酸化物による大気汚染等の公害に悩まされるといった問題も生じている。
(4) 「東北地区等の旧工業基地の振興」
 2002年11月の第16回党大会で打ち出された新政策。大型国有企業を中心とした東北地区の社会構造改革、産業構造改善等のため、民間資本や外資を導入し、国有企業の体質を市場経済に適応したものに転換し、企業の再生、地域の再生を図ろうとするもの。東北地区には重工業を中心とした大型国有企業が多く、その企業制度改革は普遍性を持つとされ、試験的に様々な措置が講じられることとなった。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数


2.中国に対するODAの考え方

(1) 中国に対するODAの意義
 我が国の安全と繁栄を維持・強化するためには、平和な国際環境の保持が必要であり、特に我が国が位置する東アジア地域の安定と繁栄が不可欠である。そのためには、地域のいかなる国も孤立することなく、協力していくような環境を醸成する必要があり、中国もまたより開かれ、安定した社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくようになることが望ましい。
 我が国は、中国が国際社会への関与と参加を深めるよう働きかけるとともに、中国自身のそうした方向での努力を支援していく必要がある。
 このような観点から、我が国としても、政治面、経済面、文化面など広範な分野での二国間協力・交流や、草の根レベルでの人的交流、学術交流などの強化を通じ、中国との間で幅広い重層的な関係を構築していくとともに、両国間の相互理解及び相互信頼の増進を図ることが極めて重要である。また、民間の貿易・投資活動の発展に加えて、ODAを通じて中国の改革・開放政策を支援していくことも引き続き大きな意義を有している。
 近年、アジア太平洋地域においては、アジア太平洋経済協力(APEC:Asia Pacific Economic Cooperation)、ASEAN+3(日中韓)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)など、地域協力、地域対話のための枠組み作りが進んでおり、中国も最近これら枠組みに積極的に参画している。こうした傾向を踏まえ、このような多国間協調の枠組みに対する中国の関与が一層強まるよう我が国としても更に可能な支援を行っていく必要がある。
(2) 中国に対するODAの基本方針
 我が国は、1979年の大平総理(当時)訪中の際、中国の近代化努力に対して我が国として出来る限りの協力をすることを表明して以来、中国が安定して発展し、また、日中間に友好な二国間関係が存在することは、我が国のみならずアジア太平洋地域の平和と繁栄にとり極めて重要との考えの下、ODA大綱を踏まえ、中国の援助需要、経済社会状況、日中二国間関係を総合的に判断の上、対中経済協力を実施してきている。
 我が国の対中ODAは、1970年代末、中国が改革開放政策に転換し、我が国に対し協力を要請してきたのに対し、改革開放政策の支持の一環として実施されてきたものである。以来、対中ODAは、中国の改革開放政策の維持・促進に貢献すると同時に、日中関係の主要な柱の一つとして安定的な日中関係を下支えする強固な基盤を構成してきた。さらに、対中ODAによる経済インフラ整備等を通じて中国経済が安定的に発展してきたことは、我が国にとっても利益をもたらし、ひいてはアジア太平洋地域の安定にも貢献してきた。我が国ODAによるインフラ整備等は、中国における投資環境の改善にも貢献し、日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与してきており、中国側も、様々な場で、このような我が国の対中ODAに対して高い評価と感謝の意を表明してきている。
 他方、我が国の厳しい財政事情や中国の経済発展、軍事力の近代化やビジネスの競争相手としての存在感の増大といった変化を背景に、我が国国内において、対中ODAに対する厳しい批判が存在する。また、中国の急速な経済発展は、中国の援助需要を大きく変化させた。
 これらに応えるべく、国民各層に存在する様々な意見や議論等を踏まえ、2001年10月に政府は「対中国経済協力計画」を策定した。同計画では、我が国国民の理解と支持が得られるよう国益の観点に立って個々の案件を精査することとしている。具体的には、従来型の沿海部中心のインフラ整備から環境保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度作り、技術移転などを中心とする分野をより重視すること、また、日中間の相互理解促進により資するよう一層の努力を払うこと等に重点を置くこととしている(「対中国経済協力計画」における重点分野は以下(3)のとおり。)。
(3) 重点分野
(イ) 環境問題など地球的規模の問題に対処するための協力
 環境保全(水資源管理、森林保全・造成、環境情報の作成、対応政策に関する調査研究)、新・再生可能エネルギーの導入及び省エネルギー促進、感染症対策(HIV/AIDS、結核)の協力を行う。
(ロ) 改革・開放支援
 世界経済との一体化支援(制度整備や人材育成支援を含む市場経済化促進、世界基準・ルール(WTO協定を含む)への理解促進)、ガバナンス強化支援(法の支配や行政における透明性・効率性向上、草の根レベルでの啓発・教育活動支援)を行う。
(ハ) 相互理解の増進
 専門家派遣・研修員受入・留学生支援・青年交流・文化交流・学術交流・大学間交流などの強化(日本研究促進、日中共同研究を含む)、留学生受入の環境整備、観光促進のための政策提言・人造りなどを行う。
(ニ) 貧困克服のための支援
 貧困対策に関する政策・制度面での整備・人造り、貧困層を対象とした草の根レベルの保健・教育分野の支援、貧困人口を多く抱える地域の民生向上に向けた協力で貧困層に裨益するもの(日本農業などへの影響の有無に留意)を支援する。
(ホ) 民間活動への支援
 中国側の投資受入のための基盤整備努力支援(知的所有権保護政策の強化など)、我が国の優れた設備、システム、技術などの活用を図ることができる案件の発掘努力を行う。
(ヘ) 多国間協力の推進
 日中両国による第三国に対する支援、東アジアにおける環境分野などでの域内協力の推進を行う。


3.中国に対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度の中国に対する円借款は966.92億円、無償資金協力は51.50億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は61.80億円(JICA経費実績ベース)であり、2003年度までの援助実績は、円借款は3兆471.81億円、無償資金協力は1,416.21億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は1,446.35億円(JICA経費実績ベース)となっている。
(2) 円借款
 対中国円借款は、1979年の供与開始以降、複数年度にわたり供与額を約束するラウンド形式で行われてきたが、2001年度からは「円借款候補案件リスト」(いわゆるロングリスト)に基づき各年度毎に取り上げる案件を選定する単年度方式へ移行した。
 2001年以降、「対中国経済協力計画」に従って環境分野や人材育成等に重点分野を絞り込むなど協力案件を精査して対中国円借款を実施してきた結果、円借款の交換公文ベースでの供与額は2000年から3年間連続して大幅に減少している。
(3) 無償資金協力
 対中国無償資金協力は、1979年、「日中友好病院建設計画」を端緒に開始され、1995年8月に中国の核実験を契機に一時原則凍結の措置がとられたが、1997年3月より再開された。2001年以降、「対中国経済協力計画」において無償資金協力の重点分野とされている(イ)環境・感染症などの日中両国民が直面する共通の課題の解決に資する分野、(ロ)日中両国民の相互理解に資する分野及び(ハ)中国内陸部貧困地域を中心とする民生向上に資する分野を中心として協力を実施している。
(4) 技術協力
 対中国技術協力は、1978年の供与開始以降、これまで1万人以上の研修員受入や5000人以上の専門家派遣を通じ、日中両国及び両国民の間の相互理解及び相互信頼を増進してきた。2001年以降、「対中国経済協力計画」の重点分野に即して案件採択を行うとともに、機材供与等ハード面だけでなく、人造りや政策支援、知的支援等ソフト面での協力を重点的に実施している。


4.中国における援助協調の現状と我が国の関与

 中国においても援助国によるドナー会合が行われ、我が国の他、英国、ドイツ、オーストラリア、スウェーデン、カナダ、世界銀行、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)等が主要なメンバーとなっている。ドナー会合では各ドナー国が対中援助において抱える問題や経験についての意見交換が行われている。

 援助協調に関しては、広大な国土に多数の開発ニーズがあり、中国側の援助受け入れ窓口の調整能力も高いことから、各地方やセクターで重複した援助が行われないよう中国側が中心となって調整を行っている。整備著しい中国の高速道路網も我が国を含む幾つかのドナーを異なる区間に割り振って整備が進められている。


5.留意点

 中国では、現地ODAタスクフォースが設置されており、各スキーム間の連携に関する協議等が行われている。今後、同タスクフォースの活動を通じ、一層の戦略的、効率的、かつ効果的なODAの実現に努めていく。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対中国経済協力実績

表-6 諸外国の対中国経済協力実績

表-7 国際機関の対中国経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図




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