[3]タ  イ

1.タイの概要と開発課題

(1) 概要
 2001年2月のタクシン政権の成立以来、安定した政権基盤を背景に、タクシン首相は種々の経済政策を積極的に実行し、安定的な経済成長を遂げており、2002年には5.4%、2003年には6.9%と順調な成果をあげている。タクシン首相は高い支持率を背景に、積極的に内外の諸課題に取り組んでいる。外交面ではタイは伝統的に近隣諸国との友好関係維持を中心とした東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)重視の政策を基盤に置きつつも、我が国、米国、中国等との協調に努めてきており、現在のタクシン政権では、アジア地域の潜在力の集結をコンセプトに、アジア協力対話(ACD:Asia Cooperation Dialogue)、アジア・ボンド構想、イラワディ・チャオプラヤ・メコン経済協力戦略(ACMECS:Ayeyawady-Chao Phraya-Mekong Economic Cooperation Strategy)、ベンガル湾多分野技術経済協力構想(BIMST-EC)等、地域における様々なイニシアティブを積極的に打ち出している。また、東ティモール国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)やアフガニスタン、イラク復興のための部隊派遣など、国際社会の課題に対しても積極的な役割を果たす姿勢を示している。
 経済面では、1997年に発生した経済危機に対し、タイ政府は我が国や国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)等国際社会からの支援を受けつつ、構造改革を含む経済再建に努力、1999年には財政政策を含む景気対策、輸出の好調などにより経済は回復基調に転じ、2000年をもってIMFの構造プログラムを終了した。タクシン政権は、「国際競争力強化」と「内需拡大、草の根経済の底上げ」の2つの目的を等しく掲げる経済政策(dual track policy)をとっており、草の根レベルからの経済回復を掲げて政権を発足させ、従来の輸出主導による経済の牽引に加え、農民、中小企業を重視したボトムアップ型所得拡大策による国内需要の活性化に取り組んでいる。具体的には、農民債務の一時モラトリアム、村落における開発基金の創設、一村一品運動、マイクロ・クレジットである国民銀行の創設等、ボトムアップ的な誘致による国際競争力の向上等である。タクシン政権のボトムアップ政策の奏功と見られる個人消費の活性化等により、2003年の経済成長率は6.9%と好成績を収めた。
 我が国とタイは、両国の皇室・王室の親密な関係を基礎とする伝統的な友好関係を維持している。その他に、1960年代からの日本企業の急速な進出により、バンコク日本人商工会議所の会員数は約1200を超え世界有数の規模となっている。さらに、1980年代後半以降の我が国の対タイ投資の急増により、輸出入双方の貿易額、投資累計額も我が国は第一位の地位にある。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数


2.タイに対するODAの考え方

(1) タイに対するODAの意義
 我が国とタイは伝統的に友好関係にあり、政治・経済・文化等の各分野において協力関係を増進させてきた。特に貿易・投資等の面で密接な相互依存関係を有し、さらには東南アジア諸国のマクロ経済安定化のためにはタイ経済の安定が欠かせないこと等を踏まえ、対タイ援助を実施している。つまり、我が国にとってこのような重要性を有するタイに対し同国の安定・繁栄に向けた援助を実施することは、我が国の平和と繁栄にかなうものである。
 ASEAN域内の格差の拡大やHIV/AIDSやSARS、鳥インフルエンザ、環境問題など国境を越える課題は、地域全体の安定と発展に関わる深刻な問題であり、これらの地域共通の開発課題に日本とタイが共同して取り組むことは、地域全体の持続的な発展に不可欠である。これらの点で我が国が、地政学的にも枢要な位置を占めるタイとの協力関係を更に強化していくことは、メコン地域のみならずアジアの安定と繁栄の為にも極めて重要である。
 自らを新興援助国と位置づけるとともに、様々な外交的イニシアティブを発揮しつつ周辺国等への支援を展開しているタイは、日本にとって第三国を支援する際の「パートナー」に相応する存在である。1994年8月に合意された「技術協力における日本・タイ・パートナーシッププログラム(JTPP:Japan-Thailand Partnership Programme in Technical Cooperation)」は、我が国とタイが他の開発途上国の開発努力を支援するために、共同で技術協力を実施する枠組みを定めたものであり、これまで我が国がタイに行ってきた技術協力の成果を活用し、タイ側が経費の一部を負担し、タイでの第三国研修の実施、他の途上国へのタイの専門家派遣等を行っている。2003年12月には、両国の外務大臣の間で「JTPP2」が署名され、両国が他の開発途上国へ共同で実施する技術協力を強化・拡充すると共に、その協力対象を地域内の途上国のみならず域外国にも拡大していく重要性を再確認した。
(2) タイに対するODAの基本方針
 我が国は2000年3月、ODAの効率化・透明性の向上に向けた取り組みの一環として、以後5年間の具体的な案件策定の指針となる対タイ国別援助計画を策定した。同計画は、これまでの政策協議等によるタイ側との政策対話、タイの政治・経済・社会情勢認識、タイの開発計画や開発上の課題を勘案して策定されたものであり、以下の分野を援助の重点5分野としている。なお、タクシン政権の成立以降、タイ内外の環境が急速に変化しているので、我が国の対タイ協力に関する新たな指針を策定する作業が開始されている。
(3) 重点分野
 対タイ国別援助計画によれば重点分野は以下のとおり。
(イ) 社会セクター支援(教育、HIV/AIDS問題を中心として)
 経済危機から回復軌道にあるが、安定的な経済成長のために貧困層など社会的弱者救済のための支援に引き続き留意していく。特に、タイは「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ」の重点国であり、エイズ予防等への支援を継続していく。また、教育分野への支援は、技術協力による職業訓練や留学生借款等による高等教育、特に理工系技術者の養成に重点をおいてきた。これら社会セクターを支援する際には、タイには多数の我が国の非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)が活動していることから、現地NGOとの連携を図るとしている。
(ロ) 環境保全
 タイにおいては経済成長に伴う各種の環境問題が顕在化している。我が国が蓄積してきている環境保全に関する技術的なノウ・ハウの移転を促進するなど、環境への協力を実施する。
(ハ) 地方・農村開発
 タイは、バンコク一極集中の緩和及び地域間の経済格差是正に向けて、地方振興を図るため地方への投資優遇措置の実施等に努力している。我が国は、タイの地方格差是正に資するよう、企業の地方展開の拠点造りにつながる地方都市のインフラを整備し、就業人口の50%を占める農業の振興を図り、あわせて農村地域の開発(特に東北タイ等の貧困農村地域開発)に積極的に努力する。
(ニ) 経済基盤整備
 タイが輸出志向型の高度な産業構造を形成し国際競争力の強化による継続的な経済発展を達成し、バンコク一極集中の現状及び産業構造の高度化に対応するために、経済インフラの整備と共に、特に現在深刻な不足に悩まされている技術系の人材の育成に資する職業訓練等への協力を行う。同時に、産業構造の裾野を拡げる中小企業・サポーティング・インダストリー育成への支援も引き続き検討する。
(ホ) 地域協力支援
 我が国は、JTPP等を通じタイの関与する南南協力を支援してきた。また、タイを拠点としたメコン地域開発等、関係国に裨益する案件の発掘・形成に努力する。


3.タイに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のタイに対する円借款は448.52億円、無償資金協力は4.30億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は42.96億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款2兆93.00億円、無償資金協力1,582.79億円(以上、交換公文ベース)、技術協力1,919.90億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
「第2バンコク国際空港建設事業(第6期)」に対して、448.52億円を供与した。本事業は経済発展に伴い増加しているタイの航空需要に対応するため、バンコク東方約30Kmに位置するノングーハオに新空港を建設するものであり、本空港はメコン地域の国際ハブ空港として機能することが想定されている。
(3) 無償資金協力
 タイは無償資金協力の対象外であるが、例外的に、広域開発無償資金協力案件として、2002年度から2004年度まで「アジア太平洋障害者センター建設計画」を実施している。これは、アジア太平洋地域各国の障害者の社会的地位の向上と社会参加の促進を行うことを目的として、タイを核とした広域的な障害者支援を実施するための拠点施設を建設するものである。なお、同センターのソフト面については2002年度より技術協力プロジェクトを実施し支援している。その他、文化無償(1件)、草の根・人間の安全保障無償資金協力(24件)、日本NGO支援無償資金協力(2件)を実施した。
(4) 技術協力
 技術協力の協力分野は多岐にわたり、農林水産、エイズ対策等の保健・衛生、大学や職業訓練などの人造り、環境等のほか、IT等の比較的高度な分野についても協力を実施している。2003年度は、公的医療保健に関する情報制度、農業統計、自治体の開発計画策定に関する支援や自治体間協力に関する技術協力プロジェクトを開始した。
 また、タイは徐々に援助国としての役割を担い始めており、我が国としても、長年にわたる技術協力の成果を他の途上国に移転すべく、タイを中心とした広域協力案件を積極的に実施している。2003年度には、ASEAN域内の工学系教育機関の連携を促し人材育成を図る目的で「ASEAN工学系高等教育ネットワーク」を開始した他、第三国研修を8コース実施している。


4.タイにおける援助協調の現状と我が国の関与

 世界銀行、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)、米国国際開発庁(USAID:U.S. Agency for International Development)等はタイを拠点として周辺諸国を中心に地域協力を重視し、具体的な取り組みを開始している。ここでは、主にHIV/AIDS、麻薬、環境、教育、グッド・ガバナンスなどが主要テーマとされている。我が国としては、二国間協力と地域協力をどう整理するか、さらに国際機関との地域協力をどのように協調し連携するかが今後の課題となるであろう。


5.留意点

 タイは「中進国」の仲間入りを果たそうとしており、特にタクシン政権以降、「援助受入国」から「援助供与国」へ転換しようとする姿勢が明確になっている。特にACMECSをタイ主導で立ち上げる等、近隣諸国への支援を積極的に実施する姿勢を見せており、タイ側はタイと我が国が共同して近隣国を支援するケースも含め、我が国がタイ以外のメコン地域諸国の経済発展に貢献することを期待している。我が国や他のドナー諸国・国際機関に対しては、従来の「ドナー・レシピエント」の関係から「パートナーシップ」に基づくより対等な関係に移行することを要望している。
 このような転換期にあるタイに対して、我が国の援助・協力のあり方も随時見直していく必要がある。このような変化に機敏に対応すべく、現地ODAタスクフォース内での緊密な情報共有・意見交換を実施している。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対タイ経済協力実績

表-6 諸外国の対タイ経済協力実績

表-7 国際機関の対タイ経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図




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