[2]カンボジア

1.カンボジアの概要と開発課題

(1) 概要
 カンボジアでは、1970年のクーデタ発生以降、約20年にも及んだ内戦・虐殺・混乱が1991年のパリ和平協定署名により終結し、1993年には国連の監視下で制憲議会選挙が実施され、新生カンボジア王国が誕生した。フンシンペック党(ラナリット第一首相)と人民党(フン・セン第二首相)との第1次連立政権は、国の再建に向け当初は順調な滑り出しを見せたが、1998年の総選挙を控え、1997年7月、両党間の確執がプノンペンでの武力衝突事件へと発展した。
 その後カンボジア政府自身の努力に加え、我が国を初めとする国際社会の事態打開に向けた外交努力が実を結び、1998年7月には無事総選挙が実施され人民党が第一党となり、これを受け、同年11月にフン・セン単独首相を首班とする新政府(第2次人民党-フンシンペック党連立政権)が成立した。これにより、1997年の武力衝突以降、空席化されていた国連における代表権が、1998年12月回復されるとともに、1999年4月には東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)に正式加盟するなど国際社会との関係が正常化した。
 2003年7月に行われた総選挙では、人民党が更に議席を増やした(73議席)が、憲法の規定から内閣信任には下院議席の3分に2(82議席)以上の承認がなければならず依然として連立政権が不可避であったため、連立政権を巡る政党間の駆け引きがなかなかまとまらず、ようやく2004年7月にフン・セン首相を首班とする人民党とフンシンペック党の(第三次)連立政権が成立した。新内閣ではフン・セン首相が、今後のカンボジアの経済社会開発の基本方針ともなる四角形政策を打ち出し、その中で特にグッド・ガバナンスの確立を最重点課題として取り組む姿勢を示した。
 経済面では、カンボジアは内戦前の1960年代には食糧自給を達成し、米やゴムの輸出を行っていたが、1970年代以降の内戦と混乱、特にポル・ポト政権下における恐怖政治により国土は大きく荒廃した。1991年のパリ和平協定締結後、国際社会の支援を得て国の再建が本格化し、1994年から1996年にかけて平均6.1%の国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)成長率を達成するが、1997年7月の武力衝突事件、及びアジア経済危機による外国からの援助や投資、観光収入の減少などにより経済が悪化した。しかし、1998年の新政権成立により政治的安定を達成した後、1999年には6.9%のGDP成長を遂げ、その後も経済は上向きに推移している。カンボジア経済が抱える問題としては、経済インフラと法制度が未だ十分に整備されておらず、法の支配と透明性が脆弱で事前予測可能性が乏しいことにより外国投資を十分に呼び込めないこと、国際競争力のある輸出製品として縫製品以外に目ぼしいものがないこと、国税も専ら関税が中心であり十分に徴収されておらず国家財政が脆弱であること、内戦及びその後の経済制裁に基因する人材の不足があげられる。カンボジア政府もこれらの諸問題を解決するための努力を払っており、我が国にも、こうしたカンボジア経済の基盤を強化するための支援が求められている。
(2) 国家開発計画
(イ) 第二次社会経済開発計画(SEDP II:The Second Five-Year Socio-Economic)
 2001年から2005年までの国家開発計画で、2002年7月に策定された。SEDP IIは、経済成長と貧困削減を目標とし、この目標を達成するために、1持続的な経済成長と公正な所得配分、2社会開発の促進と文化の振興、3持続的な自然資源の管理と環境問題への対応、が主要戦略の3本柱になっている。
(ロ) 国家貧困削減戦略(NPRS:National Poverty Reduction Strategy)
 2002年12月にカンボジア版貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)である国家貧困削減戦略(NPRS)(2003-2005)が策定された。NPRSにおける貧困削減の優先事項は、1マクロ経済の安定、2農村の生計向上、3雇用機会の拡大、4教育、医療、栄養の改善、5制度の強化とガバナンスの改善、6弱者支援と社会参加、7男女平等促進、8人口問題、となっている。
 なお、現在カンボジア政府は、2006年以降の第三次社会開発計画と次期NPRS(2006-2008)を統合する方向で検討している。
(ハ) 四角形政策
 2004年7月16日に組閣された第3次連立内閣の初閣議において、フン・セン首相が表明した国家開発戦略で、四角形の図表の中心部にグッド・ガバナンスを置き、グッド・ガバナンスの確立を最優先課題として取り組む姿勢を示した。また、図表の4辺には、1農業セクターの強化、2インフラの更なる復興と建設、3民間セクター開発と雇用創出、4キャパシティー・ビルディングと人材開発を掲げ、今後カンボジア政府が取り組む優先的開発課題を明確に示した。


表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数


2.カンボジアに対するODAの考え方

(1) カンボジアに対するODAの意義
 1970年代以降約20年に亘る内戦と政治的混乱を経て、現在、国家再建に取り組むカンボジアを支援することは、同国が再び政治的に不安定な状況へ逆戻りすることを阻止し、我が国外交上最も重要な地域の一つであるアジアの平和と安定に大きく寄与するものである。かかる観点から、我が国は、これまで、カンボジアの和平及び復興支援に対し、国際社会をリードする主導的な外交を展開してきている。1992-1993年に我が国初の国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)を派遣したこと、カンボジア支援国会合において積極的な貢献を行ってきていること等は、その例である。かかる我が国の姿勢は、カンボジア国民はもとより、シハヌーク前国王、フン・セン首相自身にも理解されており、同国より我が国の支援に大きな期待と感謝が寄せられているのみならず、同国は、国際場裏での我が国の政策を強く支持する等、様々なレベル、機会において、両国間に緊密な友好関係が根付きつつある。
 さらに、カンボジアへの支援の意義は、世界経済のグローバル化の文脈におけるASEAN全体の経済的底上げの観点からも強調されるべきである。ASEAN自由貿易地域(AFTA:ASEAN Free Trade Area)に見られるように、経済統合を推進するASEANにとり最大のネックは、ASEAN域内に存在する経済格差である。中でも、長期に亘る紛争等により疲弊したカンボジアは、多大な開発ニーズと著しい経済的ハンディーキャップを有しており、同国の開発と復興を支援することは、同国一国への支援に止まるものではなく、長期的なASEAN全体の経済の活性化、あるいはASEANの優先課題であるメコン地域開発にも大きく貢献するものであり、ひいては、我が国経済にとっても有益な結果をもたらすものである。
(2) カンボジアに対するODAの基本方針
 我が国は、上記で述べたとおり、カンボジアの再建のため、常に国際社会をリードして支援を実施してきた。その結果、我が国の貢献は他のドナー国・機関に比して、相当重要な役割を担っており、一層効果的・効率的な支援を実施していく必要がある。カンボジアは、これまで復旧・復興に尽力し、現在は、更に基礎的経済社会開発の充実にも向かいつつある。カンボジアの経済社会開発のためには、自身が解決すべき多くの困難があることは事実であるが、一方、我が国が他ドナー国・機関を引き続きリードして、こうしたカンボジアの開発努力に適切に対処していく必要がある。
 更なる同国の開発の喫緊の課題は、内戦の結果としての人材不足を補うべき人造りと制度の再構築、そして基礎的経済インフラの整備等々であり、持続可能な開発を前提としつつ、持続的な経済成長と貧困削減の視点から支援していくことが必要である。
(3) 重点分野
 我が国の対カンボジア援助重点分野は、2002年1月に策定された「対カンボジア国別援助計画」に定められている。対カンボジア国別援助計画は策定後5年間を目途とする具体的な案件形成の指針となるものであり、以下の分野を援助の重点分野としている。
(イ) 持続的な経済成長と安定した社会の実現
1 5つの改革(行政改革、財政改革、兵員削減、自然資源管理、社会セクター)支援とグッド・ガバナンス
2 社会・経済インフラ整備推進と経済振興のための環境整備
3 農業・農村開発と農業生産性向上
4 対人地雷問題への包括的支援
(ロ) 社会的弱者支援(教育、医療分野等)
(ハ) グローバルイシューへの対応 環境保全、薬物対策等
(ニ) ASEAN諸国との格差是正のための支援
1 メコン地域開発
2 IT支援


3.カンボジアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
 2003年度のカンボジアに対する無償資金協力は62.49億円(交換公文ベース)、技術協力は37.55億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款56.59億円、無償資金協力954.64億円(以上、交換公文ベース)、技術協力305.72億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 円借款については、同国が後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)であること及び政治的に不安定であったことから従来見送ってきた経緯がある。しかし、1996年の新政権誕生後に見られる政治的安定性の高まりや、経済再建に向けた諸政策の着実な実施に鑑み、将来の債務負担を考慮しつつ、同国の経済復興と周辺諸国との地域格差是正のために必要な案件から円借款供与を検討していく方針としている。1999年度に「シハヌークヴィル港緊急リハビリ計画」に対し41.12億円を限度とする円借款を供与した(以降、2003年度までの円借款の実績はない)。
(3) 無償資金協力
 無償資金協力では、2003年度は、「国道七号線コンポンチャム区間改修計画」、「プンプレック浄水場拡張計画」、「シアムリアップ電力供給施設拡張計画」、「プノンペン市洪水防御・排水改善計画」、「シアムリアップ上水道整備計画(詳細設計)」などのインフラ案件に供与を行った他、教育分野として「人材育成奨学計画」、医療分野として「感染症対策」などへの供与を行った。その他、食料援助、非政府組織(NGO:Non Governmental Organization)支援無償、文化無償、草の根・人間の安全保障無償(45件)などの協力を行っている。
(4) 技術協力
 技術協力については、2003年度は、352名の研修事業、123名の専門家派遣事業、24名の海外青年協力隊派遣事業、27名のシニア・ボランティア派遣事業を行った。その他、技術協力プロジェクトとして、「水道事業人材育成プロジェクト」、「医療技術者育成プロジェクト」、「バッタンバン農業生産性強化計画」、「ジェンダー政策立案援助計画」、「国税局人材育成プロジェクト」を新たに開始した。
(5) その他
 その他協力としては、アンコール遺跡保存修復支援がある。1991年のカンボジア和平成立後、国際社会がアンコール遺跡保護に対する関心を高める中、我が国は政府レベルでのカンボジアへの協力を本格化させ、1993年10月に「アンコール遺跡救済国際会議」を東京で開催した。以降、1989年に設置された「ユネスコ文化遺産保存日本信託基金」を通じて、アンコール遺跡保存修復支援を実施しており、1999年5月からは第二期事業を実施中(2005年4月までの予定)。


4.カンボジアにおける援助協調の現状と我が国の関与

 我が国は、カンボジアの和平・復興及び安定に向け種々の外交努力を行っている。1992年に「カンボジア復興閣僚会議」を主催したのをはじめ、中長期的な復興援助の調整メカニズムとしての「カンボジア復興国際委員会」(ICORC:International Committee on the Reconstruction of Cambodia)の議長を1993年から3年間務めた。また、1996年には国際支援の新たな援助調整会合として、「第1回カンボジア支援国会合」(CG:Consultative Group Meeting for Cambodia)が東京で開催され、我が国は世界銀行と共同議長を務めた。1999年2月に東京において開催された支援国会合では、フンセン首相自ら財政、行政、司法、天然資源管理、兵員削減、社会セクター等の分野での諸改革実施に向けた強い決意を示した。これを踏まえ、CGの下に、ガバナンス、財政改革、行政改革、司法改革、天然資源管理、社会セクター改革の6つのワーキング・グループを設置し、カンボジア政府とドナーとの間で改革への支援、改革の進捗状況について議論を行うことになった。
 2002年6月にプノンペンで開催された第6回CG会合で、我が国は113百万ドルの支援をプレッジし、全ドナーから総額で635百万ドルのカンボジア支援がプレッジされた。また、同CG会合において、一層の援助協調を進めるために、政府ドナー・パートナーシップ・ワーキング・グループが新たに設置され、議長はカンボジア開発評議会(CDC:Council for the Development Cambodia)ヤナラ副委員長、副議長には国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)当地代表と在カンボジア日本大使館次席が務めることになり、我が国としてもカンボジアにおける援助協調に積極的に取り組んでいる。
 2003年7月の総選挙の後、2004年7月まで約1年間新内閣が組閣できない状態であったこともあり、2002年6月のCG会合以降2年以上CG会合が開催されていなかったが、2004年12月に第7回CG会合が開催され、ワーキング・グループもこれまでの7つから更に細分化し、17のワーキングループに再編成された。


5.留意点

(1) 各国、国際機関との連携
 多くの援助国・国際機関が開発に関与するカンボジアでは、ドナー社会とカンボジア政府とが通常年に1回CG会合を開催する他、ドナー間の援助協調を図るワーキンググループ会合等が頻繁に開催されている。我が国も引き続きこれらの会合に積極的に参画し、我が国の政策意図を反映していくとともに、相互補完性があるなど援助効果の観点から有意義である他ドナーとの連携については、積極的に取り組んで行く。
(2) 現地ODAタスクフォース
 カンボジアでは、現地ODAタスクフォースが設置されており、2004年4月にはカンボジア政府との政策協議が実施された。今後、同タスクフォースの活動を通じ、一層の戦略的、効率的、かつ効果的なODAの実現に努めていく。
(3) 各経協スキームの連携
 全ての分野に際限なく資金を投じることは不可能であり、メリハリを付けた援助を重点的に実施すべきことは言うまでもないが、限られた援助リソースをより有効に活用するためには、円借款、無償資金協力(含む草の根・人間の安全保障無償)、技術協力の各スキームの有機的連携が必要である。
(4) NGOとの連携
 我が国が援助を効果的に進めるにあたっては、案件の形成、実施、モニタリング等において当該地域で豊富な経験を有するNGOとの連携を強化していくことが有用かつ有効である。また、援助の実施に際しても、NGOと意見交換等を行うとともに、我が国のODAスキームとの連携を積極的に図っていくことで、よりきめ細かい援助並びに地域社会に根付いた援助の実施に配慮する必要がある。

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対カンボジア経済協力実績

表-6 諸外国の対カンボジア経済協力実績

表-7 国際機関の対カンボジア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図



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