[1]インドネシア

1.インドネシアの概要と開発課題

(1) 概要
 インドネシア経済はアジア通貨危機により深刻な影響を被ったが、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)プログラムに沿ったマクロ経済安定化への取り組み、金融システム改革等により、2000年以降は3%以上の実質経済成長を保ち、2003年末にはIMFプログラムを終了した。この間、インフレ率の低下、為替の安定、金利の低下、財政赤字の減少、株価の安定に見られるように、マクロ経済の状況は大きく改善された。
 しかしながら、失業率は依然高く(2002年には9.06%、2003年には9.50%)、国内には約2,100万人以上の失業者(完全失業及び求職中の者の総計)がいるとされており、毎年約250万人とも言われる新規労働力を吸収するには更なる成長が必要である。最近の国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)の成長は堅調な民間消費に支えられているが(2004年第1四半期の国民支出における民間消費の割合は69.14%)、外国直接投資、国内投資いずれも低迷している。
 マクロ経済の安定を達成したインドネシアにとって、当面の最重要課題は、同国経済を現在の民間消費に支えられた経済成長から民間投資主導の持続的成長への軌道に乗せていくことであり、また、この経済成長を貧困削減に繋げていくことである。
 また、インドネシア政府は、民主化、地方分権化を進め、公正な社会造りを推進している。2004年に行われた議会選挙、大統領選挙(初めての国民直接選挙)が平穏かつ円滑に行われたことは大きな成果であった。2005年以降は各地での地方選挙が予定されており、地方当局の能力強化、司法改革、警察改革等が引き続き重要な課題である。
(2) 開発計画
(イ) インドネシア開発5か年計画(2000-2004年)
 これまでのインドネシアの「国家開発計画」(プロペナス)の概要は以下のとおり。なお、これに続く「新国家開発計画」(仮称レペナス)は現在作成作業中であり、2004年10月に発足した新政権により承認・実施される予定である。
(a) 民主的政治システムの構築及び国家統一・団結の維持
(b) 法の支配及びグッド・ガバナンスの確立
(c) 経済再建・持続的かつ公正な開発基盤の強化(貧困削減、中小企業振興、経済・金融安定及び投資・輸出拡大、国際競争力強化、インフラ整備、環境保護・管理等)
(d) 国民福祉の向上・宗教生活の改善・活力ある文化の創出(教育、科学技術開発、保健・衛生、労働者保護、弱者保護、女性の地位向上等)
(e) 地方開発の促進(地方政府の能力開発、地方格差是正、住民の能力開発と参加促進)
(ロ) 貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)
 PRSPは、2004年5月にドラフトが作成されたが、このドラフトの内容を更に充実したものとするため、インドネシア政府内で改訂作業が進められている。

表-1 主要経済指標等

表-2 我が国との関係

表-3 主要開発指数


2.インドネシアに対するODAの考え方

(1) インドネシアに対するODAの意義
(イ) インドネシアは国土、人口、資源等のいずれの面からも東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)最大の国であり、またASEANの中核を担う国である。さらに、世界最大のイスラム人口を抱える国であり、マラッカ海峡を始めとする国際航海上重要な海上交通路を擁する。インドネシアの安定と発展は、我が国を含む東アジア全体の平和と繁栄に不可欠である。
(ロ) インドネシアは、この地域における我が国の政治・経済両面において重要なパートナーであり、我が国とは、幅広い国民レベルでの長きにわたる友好関係を有している。また、両国は、貿易・投資等の経済面で密接な相互依存関係を有している。すなわち、インドネシアは我が国にとり、エネルギーを中心とする天然資源の供給国であり、同時に重要な市場・製造拠点である。
(2) インドネシアに対するODAの基本方針
 我が国としては、「民間主導の持続的な成長」、「民主的で公正な社会造り」、「平和と安定」の三分野を重点分野とし(「三つの柱」)、インドネシア政府の自助努力に対し、できる限りの支援を行っていくこととしている。
(3) 重点分野(「三つの柱」)
(イ) 「民間主導の持続的な成長」実現のための支援
 財政の持続可能性の確保、投資環境改善のための経済インフラの整備、裾野産業・中小企業振興、経済諸制度整備、金融セクター改革等
(ロ) 「民主的で公正な社会造り」のための支援
 貧困削減(農漁村開発による雇用機会の創出及び所得・福祉の向上、教育及び保健・医療などの公共サービスの向上等)、ガバナンス改革(司法改革・警察改革、地方分権等)、環境保全・防災等
(ハ) 「平和と安定」のための支援
 アチェ、マルク、パプア等の平和構築・復興支援、治安確保(テロ対策、海賊対策・海上保安体制の強化)等


3.インドネシアに対する2003年度ODA実績

(1) 総論
  2003年度のインドネシアに対する円借款は1,046.34億円、無償資金協力は50.16億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は91.01億円(JICA経費実績ベース)であった。2003年度までの援助実績は、円借款38,328.65億円、無償資金協力2,222.18億円(以上、交換公文ベース)、技術協力2,587.39億円(JICA経費実績ベース)である。
(2) 円借款
 インドネシアの持続的成長のためには財政の持続可能性とともに国際競争力の強化が必要との観点から、我が国はインドネシアの投資環境改善に役立つ経済インフラ整備案件を円借款の重点分野と位置付けており、電力、鉄道、港湾等の7案件に対して総額1,046.34億円の円借款供与を約束した。
(3) 無償資金協力
 ジャカルタ及び地方におけるインフラ整備や通信分野等への支援を行ったほか、総選挙及び初の大統領直接選挙のための支援を行った。また、経済改革を担う人材の育成のため留学生支援無償を実施した。
(4) 技術協力
 技術協力では、1999年に国軍から分離独立した国家警察に対する民主化支援などに代表されるガバナンス分野への協力や2001年より施行された地方分権化にかかる法律に関して中央政府の機能の適正化と地方政府の公共サービス提供能力向上を目指した協力、そしてアジア経済危機以降の財政金融分野への各種改革の推進に対する協力など幅広い分野での人造りに貢献している。
 また、開発調査については、国別援助計画の重点分野に則って、投資環境改善に資する案件を優先的に検討してきた。なお、一層効率的な協力を図るため、将来的に資金協力事業等、他の援助形態の協力実施に結びつく可能性の高い案件を優先的に選定している。


4.インドネシアにおける援助協調の現状と我が国の関与

 インドネシアでは、我が国、世界銀行、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)を中心に多数の援助主体が活動を行っており、インドネシア支援国会合(CGI:Consultative Group on Indonesia)及びその分野別作業グループが援助主体間の調整のための主要な場となっている。各援助主体がインドネシアの開発課題に関して共通の認識を持ち、連携を図りながら援助を実施していくことは資源の効果的活用という観点から極めて重要である。我が国としては、そのような援助主体間の共同作業に貢献するためにも、また、我が国の援助に対する適切な評価を得るためにも、援助主体間の調整に引き続き積極的役割を果たす必要がある。


5.留意点

(1) パートナーシップの重視
 上述の他の援助国・国際機関との協力・連携の他に、次のように、インドネシア政府はもとより、その他の幅広い関係者と連携を図ることが重要である。
(イ) インドネシア政府との政策対話
 政策対話は、これまでも年次協議という形で実施されてきているが、今後、よりニーズに適った援助手法の活用、具体的案件の形成をインドネシア政府との共同作業で行っていくためには、現地ODAタスクフォースの有効活用や有識者を含む対話など、多数のチャンネルを通じた政策対話が効果的である。
(ロ) 民間経済関係者との連携
 民間投資主導の持続的な成長の実現を目指すインドネシア政府の努力に対して、我が国が適切な支援を行うためには、民間経済関係者、とりわけ民間投資の主体である企業との連携が重要である。ジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC、現地日系企業を含む団体)等民間団体や進出企業との対話を深め、インフラ整備や法制度整備等そのニーズや提言を踏まえてハード面及び政策面での支援を行っていくことが極めて重要である。
(ハ) 非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)・市民社会との連携
 住民参加型の開発を進めていくために、具体的案件形成に当たっては、できる限り計画段階から地域住民の意見を求め、それらを反映するよう努める必要がある。また、援助の実施に当たっては、NGOの長所を活かし、援助のパートナーとしての連携を一層強化していくべきである。
(2) 実施・管理の強化及び実施の促進
(イ) 案件実施体制
 地方分権化や中央省庁の権限見直しに伴い、実施機関である地方政府や個別省庁、財務省に権限が分散され、国家開発企画庁(BAPPENAS)による一貫した援助実施が行い難い状況となっているため、BAPPENASの総合調整機能の強化など、案件実施体制の強化を求めていく必要がある。
(ロ) 地方分権への対応
 地方分権に伴い、中央政府と地方政府の役割・責任について混乱が見られるため、中央政府のみならず地方政府と十分な対話を行うとともに、地方政府の案件形成能力、実施・管理能力を向上させるべく必要な援助を行っていく必要がある。
(ハ) 透明かつ適正な事業の実施
 (a) JICA及びJBICの定める調達ガイドラインの遵守
 (b) インドネシア中央政府及び地方政府の職員に対する我が国援助の調達システムについて適正な指導
 (c) インドネシア政府が検討中の国家調達庁の新設、政府調達法の制定等の制度作りの促進
 (d) 機材供与案件に対する国際機関及びNGOとできるだけ連携したモニタリング体制
(ニ) 環境社会面及びジェンダーへの配慮
 JICA及びJBICの定める環境配慮ガイドラインの遵守及びジェンダーへの配慮
(ホ) モニタリング・評価の強化
 実施後の案件の適正使用及び効果について、政策レベル、プログラムレベルで評価
(ヘ) 広報の強化

表-4 我が国の年度別・援助形態別実績

表-5 我が国の対インドネシア経済協力実績

表-6 諸外国の対インドネシア経済協力実績

表-7 国際機関の対インドネシア経済協力実績

表-8 我が国の年度別・形態別実績詳細

表-9 2003年度までに実施済及び実施中の技術協力プロジェクト案件

表-10 2003年度実施済及び実施中の開発調査案件

表-11 2003年度草の根・人間の安全保障無償資金協力案件


プロジェクト所在図


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