我が国は、パキスタンが南西アジア地域及びイスラム諸国の中で政治・経済上重要な役割を担っていること、我が国と伝統的に友好関係にあること、高い人口増加率や恒常的な財政・貿易赤字等の経済社会問題に直面しながら積極的に国内開発に取り組んでおり開発需要が大きいこと、近年、経済自由化、国営企業の民営化を含む各種規制緩和を進めていること等に鑑み、パキスタンへ積極的な協力を行ってきた。
98年5月、インドの2度にわたる地下核実験に対抗してパキスタンが核実験を行うことのないよう、我が国は総理特使を派遣する等最大限の自制を求めたが、結局、パキスタンは地下核実験を実施した。我が国はパキスタンに対し核実験の即時中止及び核兵器開発の停止、NPT及びCTBTへの無条件加入を求めるとともに、新規無償資金協力の停止(緊急・人道的性格の援助及び草の根無償を除く)、新規円借款の停止、国際開発金融機関による対パキスタン融資への慎重な対応等の措置を決定した。
米国同時多発テロ後、2001年9月、我が国は、アフガン周辺国支援として、47億円の緊急の経済支援を発表、10月には、核実験モラトリアム、輸出管理といったこれまでのパキスタンの核不拡散上の取り組みを評価し、また、テロとの闘いにおけるパキスタンの安定と協力の必要性に鑑み、98年の核実験以来実施してきた措置を停止する旨発表した。さらに11月、今後2年程度にわたって3億ドルの無償資金協力(上記47億円の緊急の経済支援を含む)等の、追加的経済支援を発表した。
我が国は、パキスタンにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び96年2~3月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等によるパキスタン側との政策対話を踏まえ、核実験実施以前の対パキスタン援助方針として次の分野を重点分野としてきた。
社会セクターへの取り組み強化を旨とする社会行動計画(SAP)への支援を重視していく。教育面では特に基礎教育及び初等レベルの女子教育水準向上への協力を推進する。また、人口及びエイズ対策を含む保健・医療等の分野を中心とする人材育成支援を行うとともに、上下水道が未整備であるなどの現状に鑑み、居住環境改善への協力を進める。
(ロ) 経済基盤整備
パキスタンにおける経済開発の制約要因たる経済基盤整備への協力を推進する。電力需要の増加に供給が追いつかない状況を踏まえ、農村電化、電力設備の効率化に対する支援を行うとともに、輸送網の整備を進めるため、国道及び地方道等の新設・改修、鉄道施設及び車両のリハビリ支援を行っていく。
(ハ) 農業
特に既存灌漑施設の整備及び維持管理・補修、灌漑施設等の農業生産基盤が脆弱な地域への整備・拡充、農業研究支援等の協力を行っていく。
(ニ) 環境保全
森林破壊の進行による土壌浸食、洪水、砂漠化、都市環境悪化等の環境問題、産業公害防止に関する協力を推進していく。
なお、対パキスタン援助を実施する上で、パキスタン側実施機関の案件実施能力や、IMF及び世銀と合意したコンディショナリティー(徴税制度改革、経済構造改革、金融システム健全化、投資環境の整備等)の実施状況等には留意すべきであり、また、パキスタン側による我が国技術協力の一層の活用を図るべきである。
2001年度のパキスタンに対する援助実績は805.99億円。うち、有償資金協力は685.88億円、無償資金協力は111.36億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は8.75億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力は10,141.91億円、無償資金協力は1,753.10億円(以上、交換公文ベース)、技術協力279.97億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
(ロ) 有償資金協力
有償資金協力については、従来からの経済インフラに対する円借款に加え、洪水災害緊急支援としての商品借款、公共セクター調整計画、社会行動計画(SAP)支援に関する有償資金協力等を供与してきた。98年5月の「パ」による核実験のため新規円借款の停止を含む経済措置をとっていたが、2001年9月米行動時多発テロの発生後、「パ」のテロとの戦いを支援するため、同年10月、右措置を停止した。2001年度は、国道55号線のコハット峠の大型車両の通行、交通渋滞の安全性の確保のために、「コハット・トンネル建設計画(II)(供与限度額:40.32億円)」の円借款供与を行った。
(ハ) 無償資金協力
無償資金協力については、教育、保健・医療などの基礎生活分野及び水供給、衛生等の生活環境分野を中心に協力を実施しているほか、食糧増産援助、債務救済、文化無償、草の根無償等を供与してきた。2001年度は、9月11日、米国同時多発テロ事件が発生し、同19日にムシャラフ大統領が国際社会のテロとの闘いへの協力を表明し、我が国は他の主要国に先駆けて対パキスタン経済支援を発表した。また、11月16日、先の緊急経済支援(47億円)と併せ、今後2年程度に亘って3億ドルの無償資金協力を行う旨発表しており、合計108億円の無償資金協力を実施した。
(ニ) 技術協力
技術協力については、パキスタンが比較的高い技術力を有していることもあり、これまでの我が国技術協力の実績は比較的少ないものの、幅広い分野における研修員受入れを中心に、青年招聘、専門家派遣、青年海外協力隊派遣、技術協力プロジェクト等各種形態による協力を実施している。2001年度は、保健医療、農業、行政、人的資源、鉱工業等を重点分野として協力を実施し、また、新規にシニア海外ボランティア派遣も開始した。また、開発調査については経済インフラ分野、農業、工業開発分野を中心に協力実績がある。
3. 政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考3)2001年度実施草の根無償資金協力案件

