我が国は、マレーシアが我が国と貿易、投資等の面で密接な相互依存関係を有するなど、我が国にとって政治・経済面において重要な存在であること、また、調和のとれた安定した複合民族国家構築のため人造りを重視しており、労働倫理、経営哲学を日本等に学ぶ「東方政策」を推進しており、我が国との関係が全般的に極めて良好であること、ASEAN諸国の中でも主導的な役割を果たしていること、更に、80年代以降の急速な経済発展に伴い、環境、貧富の格差等様々な問題が顕在化していること等を踏まえ、対マレーシア援助を実施する。
我が国は、マレーシアの社会・経済開発努力を積極的に支援するため、98年10月発表の新宮澤構想を踏まえ、99年3月及び4月にほぼ5年振りに円借款(総額1,140億7,300万円)を供与した。更に2000年3月には特別円借款1件を含む計3案件に対する円借款(総額1,192億4,700万円)を供与した。円借款のほか、政府開発援助(ODA)援助以外の公的資金協力として、国際協力銀行(JBIC)の国際金融等業務による保証の活用も行われている。
我が国は、マレーシアにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び政策協議等マレーシア側との政策対話を踏まえ、2002年2月に国別援助計画を策定しており、以下の分野を援助の重点分野としている。
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(a) 製造業の高度化、効率化
マレーシア経済の競争力強化のため、国内の裾野産業の高度化、効率化を図っていくことが不可欠であり、我が国としては、裾野産業の技術力、品質管理能力、生産性等の向上のための支援等を行っていく。また、中小企業診断、技術指導、金融制度など、裾野産業育成の制度面でのノウハウ等についても、我が国の経験を活かしつつ知的支援を行っていく。
同時に、高度化、効率化された産業を支えるために、産業基盤も高度化、効率化していく必要があり、経済インフラをソフト面を中心に高度化、効率化するための支援を行っていく。
(b) IT分野での支援
産業の高度化、効率化のためには、その基礎となる研究開発能力の向上を図っていくことや、IT技術の活用を促進していくことが重要であり、我が国としては、IT技術者の育成及びIT技術の利用・普及に対する支援を行っていく。
(c) マレーシアの賦存資源を活かした経済セクターの育成、強化
マレーシア経済が安定した発展を遂げていくためには、マレーシアの有する資源を活かした産業を育成、強化していくことが重要である。我が国としては、かかる観点から、豊かな自然環境を活かした観光産業や、石油、天然ガスなど豊富な資源を活用した資源産業、また木材、油ヤシ、天然ゴムなどの農林産物の環境に調和した生産とそれらを利用したアグロ・インダストリー等の育成、強化のための支援を行う。
マレーシアは知識集約型経済(Kエコノミー)への移行を目指しており、そのためには、高度な知識、技能を備えた人材の育成が急務である。我が国としては、特に理工系を中心に、高等教育機関及び高度な職業訓練機関の質、量両面の拡充を支援していく。また、「東方政策」を通じて蓄積された経験を踏まえつつ、我が国への留学生派遣の一層の拡大を支援する。その際、ツイニングプログラム(自国で大学教育の一部を受けた後、留学先の大学に編入学して残りの教育を受け、学位を取得する制度)の推進、遠隔教育の活用等により、我が国の高等教育機関との連携強化に努めると共に、日本語教育の普及、質の向上を支援する。さらに、IT関連技術や先進的な生産技術など高度な技術・技能訓練の拡充を支援していく。
(ハ) 環境保全等持続可能な開発のための支援
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(a) 環境保全
マレーシアは、東マレーシア(ボルネオ島北部)を中心に、生物多様性が世界中で最も豊富な地域であると言われている。また国土の全体にわたり、熱帯林、マングローブ林などが多く残されている。このような貴重な自然環境を開発との両立を図りつつ、いかに保全していくかは、マレーシア一国のみならず地球規模の重要な課題である。我が国としては、自然環境保全に関する研究者、実務者の育成、能力向上をはじめ、自然環境に配慮した持続可能な観光開発、海洋汚染防止や環境教育など、幅広い分野において包括的に支援を実施していく。
また、海洋生物資源の持続的利用に向けての支援に当たっては、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)等の国際的枠組みと十分連携がとれた支援を実施していく。
(b) 生活環境の改善
マレーシアでは、90年代の急速な経済発展に伴い、都市部を中心に交通渋滞、上下水道の未整備、ゴミ問題など、生活環境の悪化が進んでいる。我が国としては、急激な成長に伴って生じた歪みの是正への協力として、社会インフラの整備や担当部局の人材育成や能力向上に対する協力を通じ、生活環境の改善に対する支援を行っていく。また、我が国の経験を活かしつつ、産業公害の防止や、自動車排気ガスに含まれる有害物質の削減、CO2等温室効果ガスの排出抑制などの分野における支援を行う。
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(a) 格差の是正
急激な成長に伴って生じた歪みの是正への協力として、環境改善に加えて、貧困撲滅・所得間及び地域間格差の是正についても支援を行っていく。また、社会的弱者に対する福祉の向上に資する支援を行っていく。
この際、社会階層間の所得格差や、IT分野、医療分野等における地域間格差を是正するためには、関連する中小企業の育成や高度な知識・技能を備えた人材の育成が寄与することも踏まえ、こうした格差是正に資する案件に対しては、中小企業育成及び人材育成に対しても個別具体的に重点的な支援を検討する。
(b) 農村部における女性の地位向上
マレーシアにおける女性の社会進出は、都市部と地方、農村では差があるため、我が国は、特に地方、農村の女性の社会進出や現金収入増大のための支援を行っていく。
2001年度のマレーシアに対する援助実績は43億円。うち、無償資金協力は1億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は42億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力8,797億円、無償資金協力124億円(以上、交換公文ベース)、技術協力949億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
我が国はマレーシアに、2001年までの支出純額累計で18.03億ドルを供与している(我が国二国間ODAの第13位)。
(ロ) 有償資金協力
有償資金協力については、これまで経済インフラ整備(エネルギー開発等)を中心に行ってきている。但し、マレーシア国民の一人当たりGNP(2002年3,610ドル)が我が国円借款基準を上回る(中進国)ようになったことに鑑み、94年度を最後に通常の円借款を「卒業」し、その後は例外的に検討を行うこととしている。例外的に検討を行う趣旨としては、「急速な経済成長に伴って生じた歪みの是正」への協力が挙げられており、対象分野としては、「環境改善」、「貧困撲滅・所得間格差是正」に加え、「中小企業育成」及び「人材育成」についてもこれに資する案件であれば採り上げることとしている。なお、98年12月には経済危機の影響を受けているアジア諸国等の経済構造改革支援のための特別円借款が創設され、マレーシアについては特別円借款の対象分野であれば、上記の分野以外の案件についても供与することとし、2000年3月に、生産基盤強化のための火力発電所リハビリ計画に対する特別円借款を含む、総額1,192億4,700万円の円借款を供与した。さらに、2003年3月には、高い水需要に対応するための「パハン・スランゴール導水計画」に対する特別円借款を供与した。
(ハ) 無償資金協力
マレーシアは国民一人当たりのGNPが比較的高いため、無償資金協力は原則として文化無償及び草の根・人間の安全保障無償のみ実施している。
(ニ) 技術協力
技術協力は、同国の経済開発が進んだ結果、農林水産、鉱工業、医療等の分野の人造り支援に加え、環境や産業育成支援等の分野での比較的高度な協力の割合が高い。
開発調査は、従来、エネルギー、都市整備、治水計画、工業化計画等の社会・経済インフラの分野を中心に実施していたが、近年は、環境保全に資する案件や地域格差是正に資する案件を優先的に検討している。
(ホ) その他
我が国は、急速なマレーシアの経済成長を受けて、マレーシアが一歩進んでより主体的な援助国へ移行できるよう、同国の「援助国化」に向けた南南協力支援を推進している。99年8月には、UNIDOへの拠出金によるプロジェクトで、99年8月にヒッパロス・センター(アジア・アフリカ投資・技術移転促進センター)を設立した。