2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) フィリピンに対する政府開発援助の基本的考え方
 フィリピンは自由・民主主義・市場経済等我が国と価値観を同じくする友好国として、また、近隣国として長年にわたり我が国と緊密な関係を保っている。東南アジアにおいて中核的な役割を担う同国は、我が国の対東南アジア外交の重要なパートナーのひとつでもある。また、我が国と東南アジア・中東・欧州諸国を結ぶ海上輸送路上に位置するため、地政学的にも重要性が高く、さらに、貿易・投資等、経済面で我が国と密接な関係にある。我が国にとってこのような重要性を有するフィリピンには、依然として大きな援助需要があり、同国の安定・繁栄に向けた援助を実施することは、我が国の平和と繁栄という国益にもかなうものである。このような認識のもと、我が国はフィリピンを経済協力の最重点対象国のひとつと位置付け、対フィリピン支援を行ってきている。
 我が国は、フィリピンにおける開発の状況や課題、開発計画等に関する調査・研究、及び99年3月に派遣した経済協力総合調査団等によるフィリピン側との政策対話を踏まえ、2000年8月に対フィリピン国別援助計画を作成・公表し、以下を重点分野として援助を実施してきている。なお、2002年10月にフィリピン政府との経済協力政策協議を行い、引き続きこれら重点分野に沿った援助を行う必要性が確認された。
(イ) 持続的成長のための経済体質の強化及び成長制約要因の克服
 アジア経済危機の経験を踏まえ、中長期的観点からの産業構造強化(特に裾野産業育成)や成長制約要因である経済インフラ(交通輸送、エネルギー)の整備を促進する。
(ロ) 格差の是正(貧困緩和と地域格差の是正)
 貧困緩和にも資する農業・農村開発の整備を進める。また貧困層に焦点を当てた、保健医療(人口家族計画、母子保健、エイズ、結核対策等)、上下水道整備等基礎的サービス改善のための支援を行う。
(ハ) 環境保全と防災
 環境問題の深刻化を踏まえ、汚染源対策や環境保全・再生に向けた協力を検討する。また、頻発する自然災害(洪水、地震、火山災害等)への支援を行う。
(ニ) 人材育成及び制度造り
 校舎・教室の整備や教員の養成等により初等中等教育の普及や質の改善を目指す。また、貧困層に対する職業訓練への支援や行政官(特に地方)能力向上にも配慮する。
 長きに亘る紛争の影響を受け、深刻な貧困とテロの問題を抱えるミンダナオ地域については、我が国はフィリピン一国のみならず、アジア地域の安定と繁栄にとって重要な問題と捉え、地域における「平和の定着」への取組の観点からも支援していく。具体的には、我が国はミンダナオ地域の最貧困からの脱却と平和の定着に貢献するため、「平和と安定のためのミンダナオ支援パッケージ」を策定し、01政策立案・実施に対する支援、02基礎的生活条件の改善に対する支援、03平和構築、テロ対策に直接資する支援を柱として、中長期的視野に立った持続的な支援を行っていくこととし、このことを2002年12月にアロヨ大統領が来日した際、小泉総理より表明した。
(2) 2001年度の援助実績
(イ) 総論
 2001年度のフィリピンに対する援助実績は1,309億円。うち、有償資金協力は1,144億円、無償資金協力は93億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は72億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力2兆1,515億円、無償資金協力2,372億円(以上、交換公文ベース)、技術協力1,517億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
 我が国はフィリピンに対して、2001年に4.12億ドル(支出純額)を供与しており、フィリピンは我が国二国間ODAの第5位の受取国となっている。また、2001年までの累計額は94.42億ドル(支出純額)で第3位である。
(ロ) 有償資金協力
 有償資金協力については、電力等のエネルギー分野及び道路、港湾等のインフラ整備の案件が中心となっているが、近年は環境保全、地域間格差是正等にも重点を置いており、2001年度は、これらの分野も含め、第25次円借款及び特別円借款として8案件に対し総額1,144.18億円を供与した。
(ハ) 無償資金協力
 無償資金協力については、従来から、教育・人造り分野及び国民の福祉向上に直接資する基礎生活分野や農業分野に重点を置いているが、特に近年は、保健・医療施設の整備や防災対策に資するプロジェクト等幅広い協力を実施している。2001年度には保健・医療、農業、防災等の分野の7案件、食糧増産援助、草の根無償、文化無償により総額71.73億円を供与した。
(ニ) 技術協力
 技術協力では、従来から、農業、産業技術、医療、教育・職業訓練等幅広い分野における人造り協力を進めている。2002年度には、いまだ世界第7位の罹患率である結核を始めとして、先のG8沖縄感染症イニシアティブで定めたエイズ、マラリアに対する技術協力を引き続き行うこととした。開発調査は、これまで、インフラ整備、地域開発、農業、水資源、鉱工業、電力、環境等多岐にわたる分野において実施してきており、2001年度は、交通、防災、電力等で新規案件を開始した。
(ホ) その他
 我が国は、日・ASEAN感染症情報・人材ネットワーク構想において、フィリピンを結核の拠点と位置付けている。具体的には、我が国の無償資金協力により建設された国立結核研究所を拠点として、第三国研修やワークショップの開催などを行っていく。
 環境分野については、フィリピンにおいては環境保護法等の法令面の整備は行われているものの、その執行が不十分であることに鑑み、技術協力を中心に、政府関係機関の行う環境モニタリング、環境影響評価や環境改善指導の実施体制の整備、人材育成に対する支援を行うこととしており、これまで首都圏の一般廃棄物処理及び産業公害対策、森林等環境保全、上下水道の整備等を実施してきている。
 フィリピンにおいては、ドナー間の意見交換、援助調整のための対話の場として、毎年1回開催される世銀主催の支援国会合(CG)を始め、非公式主要援助国朝食会(世銀主催)、ローカルCG会合(フィリピン財務省、世銀共催)、ODA実施促進会合(フィリピン国家経済開発庁主催)などの会合が開催されている。また、最近ではミンダナオ地域への支援に関するドナー会合やワーキンググループが開催され、活発な情報交換が行われるとともにドナー間の連携が模索されている。
 2002年3月には第24回フィリピン支援国会合が、前回に引き続きフィリピンで開催され、「アロヨ政権下の開発」、「組織・公的部門改革の進捗・計画」、「貧困削減政策およびプログラムの進捗・計画」、「ODAの活用振りと開発協力の方向」等に関する議論が行われ、ドナーより総額約20億ドルの支援が表明された。我が国はフィリピンに対する最大の援助国として、援助の効果的かつ効率的な実施を求めつつ、同国の持続的な経済成長に向けた努力を支援するため、第25次円借款および特別円借款として7案件に対し総額724億8,700万円を新たに供与することを表明した。

3.政府開発援助実績

(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)2001年度実施開発調査案件
(参考3)2001年度実施草の根無償資金協力案件



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