2.政府開発援助実績

 東アジア地域に対する二国間ODAは、2001年における我が国の二国間ODA総額の約38%を占め28億1,200万ドル(支出純額ベース、以下同じ)であった。
我が国は、アジア通貨・経済危機への対応として、これまでに総額約800億ドルにのぼるアジア支援策を表明しており、2000年10月までに具体化された約700億ドルのうち、ODAとしては約68億ドルを、主に東南アジアを対象に、国際収支及び社会的弱者支援のための足の速い借款(セクター・プログラム・ローン等)やノン・プロジェクト無償を中心に実施している。
 アジア支援策の具体的なイニシアティブは以下の通りである。すなわち、98年2月閣議決定された「東南アジア経済安定化等のための緊急対策」、同年4月に発表された「総合経済対策」の下での『アジア支援策に基づく支援』、98年10月に表明した合計300億ドル規模の資金支援を含むアジア通貨危機に対応するための『アジア通貨危機支援に関する新構想』(新宮澤構想。アジア諸国の実体経済回復のための中長期の資金支援として円借款・輸銀融資等150億ドル及び経済改革過程での短期資金需要への備えとして150億ドルからなる。)、成長回復のための諸施策に必要な資金調達に、世界的な信用収縮により困難を来しているアジア諸国を支援するため、98年11月16日、APEC首脳会議において日米首脳が共同で発表した50億ドルを動員した『アジアの成長と経済回復のためのイニシアティブ』(そのうち、我が国貢献分としてアジア通貨危機支援資金30億ドルを活用可能)、アジア諸国等の経済構造改革支援を目的とした99年度以降3年間で6,000億円(約50億ドル)を上限として供与される『アジア諸国等の経済構造改革支援のための特別円借款』、などである。
 具体的支援として、まず、アジア経済危機により影響を受けた東南アジアを中心とする諸国に対し、資金ギャップに対応しつつ各国の構造調整を支援するとの観点から、足の速い借款(セクター・プログラム・ローン等)やノン・プロジェクト無償等の実施、新宮澤構想の一環としての円借款供与やODA以外の公的資金協力としての日本輸出入銀行(当時)を通じた融資、日米共同イニシアティヴや特別円借款により、対応してきている。各国においては、マクロ経済の安定と実体経済の回復及び持続的な発展のための資金ニーズが増大しており、このような公的資金フローとともに、民間セクターの国際金融市場へのアクセスを促進することが重要である。
 次に、金融セクター改革、中小企業育成・振興などの経済の持続的発展に資する分野における人材育成など中長期的支援として、5年間で2万人のトレーニングを行う「日・ASEAN総合人材育成プログラム」を97年12月に発表した。結果的には予定を大幅に前倒しし、99年3月末には目標を達成した。更に99年11月、マニラにて開催されたASEAN+3(日中韓)首脳会議において、小渕総理(当時)は3つの柱(専門性の高い人材育成、市民レベルの人的交流、留学生交流)と10項目に亘る「東アジアの人材の育成と交流の強化のためのプラン」(小渕プラン)を表明した。
 また、社会的弱者への支援としては、コメ支援や医薬品支援等の直接支援、セクター・プログラム・ローンの見返り資金やノン・プロジェクト無償(見返り資金を含む)の活用を通じた社会セクター開発、食糧増産援助等を行った。また、貧困層が危機から受けた打撃からの回復が遅れていることから、我が国は世銀及びADBによる貧困対策を支援するため、「日本社会開発基金」を世銀に、「貧困削減日本基金」をADBに新設し、平成12年度予算においてそれぞれ100億円ずつ拠出した。
98年5月、小渕外務大臣(当時)が表明したASEAN基金に対する我が国の2,000万ドルの拠出(「日・ASEAN連帯基金」)については、ASEANによる人的資源の開発、または貧困の削減等に資する開発協力戦略の推進、アジア経済危機を克服するための政策の支援、我が国企業と現地企業との連携に対する支援、地域的なプロジェクトの発掘・支援等、ASEANに広域的に裨益しうるプロジェクトや構想に活用している。
 更に2000年7月の日・ASEAN外相会議において、河野外務大臣(当時)とニエン・ベトナム外務大臣との間の書簡の交換により設立された「日・ASEAN総合交流基金」を通じて、ASEAN新規加盟国のASEAN関連部局の機能強化やASEAN事務局の機能強化のための新たな支援を行ってきている。
 我が国の二国間ODA全体に占める東アジア地域のシェアは、80年代前半には5割前後を維持してきたが、86年以降、南西アジア等他の地域への円借款の支出が進んだことや、無償資金協力の対LDC援助重視によるアフリカ地域のシェア増加、及びタイ、マレーシアが経済成長したことにより無償資金協力対象国から「卒業」したこと等から、約3割に低下した。しかし、アジア経済危機後の対応で政府貸付を中心として再び増加し、98年は40.9%、99年は49.7%となり、2000年には、40%となっている。なお、2001年のDAC諸国全体の対東アジアへの二国間ODA(支出純額ベース)は総額48.63億ドルで、対全世界の13.9%を占めている。我が国は、対東アジア地域への二国間ODAの約57.9%を占める最大のドナー国である。
 2001年度の有償資金協力(円借款)は約4,513億円(交換公文ベース、債務繰延を除く。)であり、同年度における新規円借款全体の67.2%(うち43.2%はASEAN諸国向け)を占めている。また、東アジア地域での分野別では、運輸セクター(陸運、海運、航空)に対するシェアが大きく、その比率は46.2%であり、エネルギーセクター(電力・ガス)を併せると全体の69.5%になる。我が国実績全体の上位10か国のうち、東アジア諸国は5カ国(中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナム)を占めた。我が国は従来から経済インフラ整備や農業分野に対する協力を中心として、この地域の経済発展を支援してきたが、最近は、社会セクター(上下水道施設、教育等)に関するプロジェクトに力を入れるとともに、環境分野での協力も拡大している。東アジア地域への新規円借款のうち、環境案件に対するものは、総額1,096億円(24.3%)であった。
 無償資金協力については、2001年度、インドシナの後発開発途上国におけるインフラ案件への継続的な支援、人造り拠点(中国、ラオス)の構築支援、植林無償(中国、インドネシア、ベトナム)、経済構造改善努力支援(ノン・プロジェクト無償資金協力)の実施が特徴的であり、東アジアは二国間無償資金協力等の総額の24.5%を占め(約585億円)、依然として高い割合を維持した。無償資金供与の上位6カ国(債務救済を除く)が東アジア諸国で占められた(フィリピン、ベトナム、カンボジア、インドネシア、ラオス、モンゴル)。協力分野は、民生・環境、保健・医療、運輸、教育・人造り分野が中心となっている。
技術協力は、2001年には、金融セクター改革、中小企業育成・振興等、経済危機を克服し、持続的経済発展に資する人材育成のための協力を中心に実施し、我が国二国間技術協力実績総額の37.2%(594億6,400万円)を占めた。なお、我が国実績の上位10カ国のうち9カ国(インドネシア、中国、フィリピン、ベトナム、タイ、ラオス、カンボジア、マレーシア、ミャンマー)を東アジアが占めている。技術協力は、60年代後半には東アジア地域のシェアが50%を越えたが、その後は概ね30%から40%台のシェアを続けてきている。協力分野は農業・工業等に加え、近年、行政、法整備、環境など幅広い分野における人造りを支援している。また、ASEAN後発加盟国の市場経済化を支援し、地域格差是正を推進するため、ベトナムやミャンマーにおいて政策提言を行う市場経済化(経済構造調整)支援を行っているほか、インドネシアにおいて中小企業振興支援、ラオスにおいては経済政策支援などの知的支援を行っている。
 なお、ドナー会合、開発課題毎のワーキング・グループを開催するなど、より効果的・効率的な援助のための援助協調が進められている国も多い。また、貧困削減ペーパー(PRSP)策定作業については、モンゴル、ラオスでは、既に暫定(interim)版のものを作成済みであり、完成(full)版の作業を進めており、ベトナム、カンボジアについては完成(full)版が既に作成されている。

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