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1.概 説
90年7月に発足したフジモリ政権は、前政権下でのインフレ昂進、国際社会での借用失墜や景気後退による経済危機及びテロによる社会不安等に対処すべく、経済面では構造調整政策(財政収支改善によるインフレ抑制を柱とする)の断行により経済安定化を図る一方、国営企業の民営化を推進し、内政面では、テロ対策、行政改革に着手した。フジモリ大統領は、95年4月に行われた大統領選挙において、治安状況の好転、インフレ抑制等の実績が評価され、64%の圧倒的な得票率により再選され、貧困対策、インフラ整備を重点課題として取り組んだ。2000年選挙では決選投票において51%を獲得し当選したが、同11月に罷免され、パニアグア国会議長が暫定大統領に就任した。2001年4月に総選挙が実施された結果トレド候補が勝利し、7月未にトレド政権が発足した。
外交面では、フジモリ政権(当時)は、対外債務問題等への対応のために先進国・国際機関との関係を強化してきたほか、近年はアジアとの経済関係を強化し、98年より正式にAPECに参加した。エクアドルとの間で長年続いていた国境問題は、98年10月和平合意に達し、99年5月ブラジリア合意が発効し、最大の外交課題が解決された。またトレド政権においては、米国との関係がより重視され、2002年3月にはブッシュ大統領が米国の大統領としては初めてペルーを訪問した。
経済面では、主要産業のGDPに占めるシェアは、製造業、サービス、農業の順に大きく、労働人口の34%は農業部門に従事しているが、農地がアンデス山脈を中心とした山岳地帯に多いため、小規模で生産性も低い。また、世界でも有数の鉱物資源国であり、銀、銅、鉄鉱石をはじめ各種の鉱産物を産し、主要輸出産品となっている。水産資源にも恵まれており、魚粉は重要な輸出品となっている。工業は輸入代替型の製造業が多く、繊維製品を除いて総じて輸出競争力に乏しい。
フジモリ政権下で財政健全化、インフレ抑制等で一定の成果を挙げたものの、97年後半からのエル・ニーニョ現象、アジア等の通貨危機による外貨流入の減少、主要鉱産物の国際価格下落などにより、98年の経済成長率は0.7%に落ち込んだ。99年にはエル・ニーニョ被害からの復興が堅調となったほか、製造業及び内需も回復し3.8%の成長を記録した。その後2000年11月以降2001年7月までは、9カ月連続してマイナス成長(前年同月比)を記録した後、2001年8月に0.7%のプラス成長へと転じ、2001年通年では後半の回復により0.2%のプラス成長を確保した。このプラス成長への転換は、巨大プロジェクトであるアンタミナ鉱山の操業開始があった鉱業セクターの好調によるところもあったといわれるが、その他のセクターも順調な伸びを示すようになってきている。その結果、2002年には5.2%の高成長が達成された。
治安情勢については、92年センデロ・ルミノソ(SL)、トゥパク・アマル革命運動(MRTA)等テロ組織の指導者逮捕等によりテロ活動は下火となっていたが、96年12月、我が国大使公邸をMRTAが襲撃する事件が発生した(97年4月に事件終結)。その後は、2002年3月に在ペルー米国大使館付近で爆弾事件があった他は大規模なテロ活動は起きていない。治安問題の背景には貧困問題の存在が指摘されており、社会的・地域的格差の是正とともに、約450万人の最貧困層対策がペルーにとって最大の懸案となっている。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
ペルーは中南米では我が国と最初に外交関係を結んだ国であり、メキシコに次ぐ歴史を有する国である。現在、約8万人の日系人・日本人移住者(中南米第2位の規模)が在住している。99年5月には、ペルー移住百周年記念式典が行われ、清子内親王殿下が御出席された。またそれに先立ち、5月にフジモリ大統領が大統領として10度目の訪日を行った。96年8月及び97年5月には橋本総理(当時)がペルーを訪問している。ペルーと我が国の貿易は、98、99年を除き、我が国の輸入超過が続いている。2000年実績では、我が国の輸出が379億円、輸入が380億円となっており、ペルーは我が国にとって重要な鉱物資源供給国であると同時に、我が国はペルーの主要輸出相手国(99年第2位)となっている。
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 基本方針
我が国はペルーに対し、伝統的友好関係、日系人・日本人移住者の存在を踏まえ、90年以降の経済の持続的成長及び貧困撲滅への改革努力も評価し、国際社会と協調しつつ協力を行ってきた。ペルーは我が国の二国間援助実績(99年までの支出純額累計)において第15位(中南米地域で1位)の受け取り国となっている。
我が国のペルーに対する経済協力は、民生向上のための上下水道整備、教育、保健医療等の社会分野での協力、潅漑施設整備、農業技術移転等の農業分野での協力、道路、港湾整備を中心としたインフラ整備への協力、自然災害時の緊急援助等幅広い分野で実施しており、ペルーの経済発展及び貧困緩和に貢献している。また、我が国は、同国においてDAC新開発戦略に基づく協力を重点的に実施していくこととしている。
なお、2000年8月、我が国は対ペルー国別援助計画を発表し、以下の分野を対ペルー援助重点分野としている。
(イ) 貧困対策
都市と地方の所得格差是正や農村開発が大きな課題であることを踏まえ、農業インフラおよび農業生産技術の近代化支援を重点として、資金協力を通じた給水・小規模潅漑に関わるインフラ整備及び零細農民への資金貸付等の協力を検討する。基礎的生活基盤(BHN)分野では、今後も上下水道整備を中心とした協力を推進する。また、コカ栽培対策としての代替作物の栽培については、米国と協調して引き続き協力を行う。また、貧困地域の生活環境改善に資する事業についても協力していく。
(ロ) 社会セクター支援
初等教育就学率、識字率ともに都市・農村間及び男女間の格差が大きいことを踏まえ、現職教員の再訓練、教材・教育機材整備等を支援する。また、妊産婦及び幼児の死亡率が高いことから、母子保健・家族計画の改善とともに、保健・医療施設への機材供与や医療従事者の育成のための協力を重視する。なお、社会セクター支援に当たっては、新しい情報通信技術の活用も検討していく。
(ハ) 経済基盤整備
持続的成長を維持していくために不可欠な交通、電力、情報通信等の経済インフラ整備につき、居営化の動向を踏まえつつ、地方部への対応も視野に置きながら協力する。また、食料生産拡大のための農林水産業の体質強化や、輸出の主要な担い手となっている鉱業部門における環境配慮型鉱山開発の推進、石油・天然ガス等エネルギー関連のインフラ整備等を支援していく。
(ニ) 環境保全
持続可能な開発を進める上で環境問題への対処は不可欠であることから、我が国の「ISD構想(21世紀に向けた環境開発支援構想)」に基づき、大気・水質汚染対策や廃棄物処理、産業公害対策等の都市環境問題や、温暖化を始めとする地球環境問題の改善に資する支援を進める。また、エル・ニーニョ現象等による自然災害対策への協力も重視していく。
有償資金協力については、91年度以降、貿易、金融等の分野におけるセクターローンを実施していたが、ペルーの多様な開発ニーズに対し、質・量ともに支援を強化するため、96年から原則として毎年円借款を供与することを決定した。以降、電力網は拡大、幹線道路整備、エル・ニーニョ現象による被害復旧のための道路整備、上下水道整備等の他、地方のインフラ整備など貧困層が直接裨益する案件に対して円借款を供与している。ただし、現在、ペルーはIMFのスタンド・バイ・プログラム下でマクロ経済目標値を達成するために、自国の公的部門の財政支出を制限していること等から、既往案件の進捗が遅れがちであり、当面は既往案件の実施促進に努める必要がある。
無償資金協力については、近年保健・医療・教育等の分野における一般プロジェクト無償のほか、食糧増産援助、文化無償、ノンプロジェクト無償等の協力を行ってきた。また、草の根無償による支援も実施しており、2002年度においては、世界第7位の草の根無償受け取り国となっている。また、草の根無償では、95年の選挙に際しての機材供与、日米コモン・アジェンダの枠組みにおける麻薬代替作物栽培への支援等を行っている。
技術協力については、91年7月の我が国専門家3名の殺害事件、96年12月の日本大使公邸占拠事件と、要員の安全確保に重大な懸念を生じさせる事件があったことから、環境、保健・医療などの分野を対象に、研修員受入れや短期専門家派遣、第三国研修など、安全上の問題が比較的起こりにくい協力を中心に限定的に実施してきた。2003年1月に安全確認ミッションが派遣され、治安情勢の改善に伴い、人の派遣にかかわる制限の緩和が行われた。
また、ペルー・エクアドル国境問題和平が達成されたことを受け、99年8月には、同国境地域開発に関するプロジェクト形成調査団を派遣するとともに、同地域開発支援を目的に、資金協力、人的交流等を実施している。
緊急援助に関しては、2002年7月の寒波災害に対して緊急援助物資(1,300万円相当)及び2003年1月の洪水災害に対して緊急援助物資(1,300円相当)を供与した。
なお、ペルーにおいては、麻薬対策やペルー・エクアドル国境開発、貧困対策、ジェンダー、保健、農業等、一部分野でドナー会合が開催されている。
(2) 2001年度の実績
(イ) 総論
2001年度のペルーに対する援助実績は18.11億円。うち、無償資金協力は7.98億円(交換公文ベース)、技術協力は10.13億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力は4,046.90億円、無償資金協力は536.11億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は400.40億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
(ロ) 無償資金協力:保健医療、農林水産、教育分野を中心に実施。
(ハ) 技術協力:水産分野を中心に実施。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)2001年度実施開発調査案件
(参考3)2001年度実施草の根無償資金協力案件
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