[26]ブラジル

1.概   説

 ブラジルは、中南米随一の人口規模(1億6千万人超)と国土面積(我が国の約23倍)を有する大国である。人口は南東部と東北部に集中しており、アマゾン地帯を含む北部・中西部の人口密度は極めて低い。
 2003年、「変革」を求める国民の声を背景に4度目の大統領選挙出馬で初当選したルーラ大統領による労働者党政権が発足した。同政権は、経済の安定・成長の確保に意を用いつつも、社会政策に重点を置き、中・長期的には「飢餓撲滅計画」(全ての国民が毎日3度の食事をとることができるようにする事業)の推進、また、短期的には、社会保障制度・税制改革、労働法改革等の各種改革の推進を政策目標としている。 
 外交面では、開発途上国のリーダー格としての立場を維持しつつ、国際社会における発言力の強化を目指し、中南米諸国及び先進諸国との関係緊密化、現実的な通商拡大等の政策を積極的に展開している。
 経済面では、輸送機器、エネルギー、鉄鋼、電気・電子等の産業が発展しており、中南米最大の工業国となっている。農業は、GDPの約8%を占めるにすぎないが、成長率は約6%と高い伸びを示している。鉱物資源にも恵まれており、鉄鉱石、ボーキサイト、マンガン、ウラニウムなどが豊富に存在し、水産資源、林産資源も豊富である。特にアマゾン地域の熱帯林は、世界の熱帯林面積の約50%を占めている。
 2002年4月未以降、政治不安を発端とした信用問題等により急激なブラジル通貨(レアル)の下落、カントリーリスクの上昇が起こり、金融市場が不安定化した。しかし、ブラジル経済の悪化を防ぐため、2002年9月、IMFは総額約300億ドルの新規融資プログラムを承認した。大統領選挙(2002年10月)以降はルーラ大統領及びその側近が穏健な発言を行い、更に新政権の大蔵大臣及び中央銀行総裁の人選が市場に評価されたことなどから、市場は一定の落ち着きを取り戻した。2002年のGDP成長率は1.3%(推定値)、インフレ率は12.53%と目標値を上回ったが、貿易収支は131.3億ドルの黒字と前年比大幅増を記録した。なお、海外からの直接投資は166億ドルであった。
 我が国とは1895年に外交関係を樹立し、伝統的に友好関係にある。2008年には日本人の組織的な移住が始まった。70年代に入ってからは、我が国企業のブラジルに対する関心が高まり、経済関係も急速に緊密化した。現在、日系人・日本人移住者は約150万人在住しており、世界最大の日系人社会を形成している。要人往来も盛んで、96年3月にカルドーゾ大統領が訪日し、同年8月に橋本総理(当時)、97年5月には天皇皇后両陛下がブラジルを御訪問された。また、98年6月、移住90周年記念式典出席等のため小渕外務大臣(当時)がブラジルを訪問した。また、90年の「出入国管理及び難民認定法」の改正以降、日系人を中心とする在日ブラジル人が急増し、2001年未現在、約27万人が本邦に在住している。
 我が国の対中南米貿易に占めるブラジルの比重は大きく、我が国からの輸出(機械機器等)は、2001年実績でみると3,005億円(中南米地域で第2位)、輸入(鉄鉱石、コーヒー等)は3,084億円(同第1位)となっている。2001年の対ブラジル直接投資は1,714億円で、対中南米投資の17.9%を占める。

(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標

2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) 基本方針
 我が国は、ブラジルとの伝統的友好関係及び緊密な経済関係、約150万人の日系人・日本人移住者の存在、中南米地域の政治・経済等における同国の重要性、アマゾン地域等の熱帯林保全に対する世界的な関心等に鑑み、技術協力、有償資金協力を中心に協力を行ってきており、我が国の二国間援助実績(2000年までの支出純額累計)において第16位(中南米地域で第2位)、ブラジルにとり我が国は第1位の援助国となっている。我が国は、ブラジルにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び92年3月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等によるブラジル側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助重点分野としている。また、96年のカルドーゾ大統領訪日及び橋本総理(当時)のブラジル訪問に際し、ブラジルが近隣諸国及びポルトガル語圏アフリカ諸国に対して推進している南南協力を、積極的に支援していく方針である旨強調した。2000年3月には、ブラジルの南南協力への支援を更に強化するため、「日本・ブラジル・パートナーシップ・プログラム(JBPP)」が署名され、2001年8月にポルトガル語圏アフリカ諸国に対する共同研修が開始され、2002年からは、独立したばかりの東ティモールも対象とした。
(イ) 環境
 アマゾン地域における森林破壊や野生生物種の減少、北東部における砂漠化といった自然環境問題、更に、工業化・都市化の進展に伴う大気汚染、水質汚濁、廃棄物等の都市環境問題、更には地球温暖化対策など、環境分野への支援として、専門家派遣、開発調査等を通じた技術移転行うとともに、環境関係プロジェクトに対する円借款供与を行っていく。
(ロ) 工業
 工業の近代化、国際競争力強化のため、我が国の有する工業技術、品質管理及び生産性向上に関するノウハウを移転するための協力を行っていく。
(ハ) 農業
 農業分野はGDPの約1割を占めるに過ぎないものの、労働人口の約3割、輸出総額の約3割を占める重要分野である。我が国としては、地域の特性・技術レベルに応じて、環境保全や産品流通等にも配慮しつつ、付加価値の高い産品の導入や灌漑技術の普及等の技術移転及び農村部の所得向上に資する協力を行っていく。
(ニ) 保健
 開発が遅れている東北部を重点地域として、感染症や家族計画、母子保健等の協力を継続する。
(ホ) 社会開発関連
 地域間格差是正のため、貧困撲滅につながるコミュニティ開発に係る協力を進める。
 技術協力については、ブラジルのニーズが高く、援助吸収能力も大きいことから、中南米地域の最重点国として積極的に協力を行ってきており、農業、保健・医療、行政、人的資源開発、経済改革支援など、多岐に渡る分野で各種形態により協力を行っている。また、ブラジルの相対的な技術水準の高さを背景に、JBPP等により、我が国とブラジルが協力して中南米やポルトガル語圏途上国の経済社会開発支援を進めている。開発調査は環境分野、鉱工業分野等を中心に実施している。
 有償資金協力については、60年代に計4件の協力を行い、その後しばらくは協力実績がなかったが、80年代に入り、灌漑、港湾整備、農業開発、農村電化等の案件について円借款を供与した。また、92年6月にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED)においては、我が国が環境分野へのODAを拡充・強化する旨表明したことを受けて、下水処理、河川流域の汚染改善などの環境案件に対し円借款を供与した。96年8月に橋本総理(当時)がブラジルを訪問した際には、「セアラ州風力発電建設計画」等4つの環境プロジェクトに対し円借款を供与した。また、98年11月のランプレイア外相の日本公式訪問に伴い、「カーチンガ環境保全計画」等4件の環境プロジェクトに対する円借款供与の意図表明を行い、2000年7月に「ジャカレパグア環境改善計画」を加えた5件の円借款を供与した。更に、2003年8月に「サンパウロ州沿岸部衛生改善計画(SABESP)」に対し、円借款の供与を行った。
 無償資金協力については、ブラジルの所得水準が高いこともあり、これまでに災害緊急、援助1件及び文化無償2件を行っているのみであり、99年度より草の根無償資金協力を実施している。
 この他、開発協力事業として、セラード地帯(ブラジル中西部に広がる半乾燥地)における農産物の生産拡大、地域開発の促進を目的とする「セラード農業開発協力事業」に対し、20年以上にわたり協力を行ってきたが、所期の目的が達成されたため2001年3月に同事業は終了した。

(2) 2001年度の実績
(イ) 総論
 2001年度のブラジルに対する援助実績は36.68億円。うち、無償資金協力は2.13億円(交換公文ベース)、技術協力は34.55億円(JICA経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力は3,337.17億円、無償資金協力は6.59億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は867.19億円(JICA経費実績ベース)である。
(ロ) 無償資金協力:保健医療、教育、民生・環境分野を中心に実施。
(ハ) 技術協力:保健医療、農業分野を中心に実施。

3.政府開発援助実績

(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)2001年度実施開発調査案件
(参考3)2001年度実施草の根無償資金協力案件
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