[22]ハ イ チ
1.概 説
91年9月の軍事クーデターによりアリスティッド大統領は国外退去を余儀なくされ、国内は事実上軍の支配下に置かれることとなった。国際社会は民主主義秩序の回復のため、国連安保理決議に基づく経済制裁を実施するとともに、94年7月には、国連加盟国に対して「多国籍軍」の創設を認める国連安保理決議を採択した。米国は、軍指導部の平和裡の退陣を実現するため、カーター元米大統領らの特使を同年9月に派遣した。同特使とハイチ軍指導部の間の合意を受け、軍指導部が全員出国し、10月、アリスティッド大統領はクーデター以来3年ぶりの帰国を果たした。
95年6月、民主体制復帰後初めての選挙として全国議会・地方首長選挙がOAS(米州機構)を主体とする選挙監視の下実施され、同年12月の大統領選挙では、アリスティッド大統領の支持を得たプレヴァル候補が約88%の圧倒的得票率で当選した。
プレヴァル政権は、与野党間の対立による首相不在、国会の機能不全といった問題を抱えていたが、5年間の任期を全うし、2000年5月、再三延期されていた国会議員選挙が実施された。同選挙ではラバラス党が圧勝したが、上院議員選挙の得票率算出方法を巡って国内外からの批判が出た。同年11月には大統領選挙が実施されアリスティッド大統領が再選されたが、野党連合は両選挙の無効を主張し、以来、与野党が激しく対立している。このような状況の中で、ハイチの政治危機の打開を図るため、OASやカリコム(カリブ共同体)を中心とする国際社会による仲介努力が重ねられてきているが、依然として不安定な政治情勢が続いている。
農業国であるハイチの経済社会開発上の問題は、農業国である一方で農業の生産性が著しく低く、他に見るべき産業のない国土に多数の貧困人口を抱えていることにある。失業率も高く(約70%とも言われる)、社会資本、医療、食糧、エネルギー供給等が大きく立ち後れている(例えば、電気普及率は20%)。
民政復帰と共に国際社会からの援助が再開され、民主化定着への取り組みが行われたが、97年後半以降政情が不安定である。とりわけ、2000年の選挙結果に起因するハイチの民主化プロセスの停滞は、米国を始めとする一部主要ドナー国の援助停止という結果を招き、ハイチ国内経済に大きな影響を与えたこともあり、2002年のGDP成長率は-1.5%となった。
なお、2001年2月に大統領に返り咲いたアリスティッドは、その就任演説でインフラ整備の拡充、国内生産性の向上、教育振興、保健医療水準の向上、司法改革、経済構造改革を重要な政策課題とする旨を発表するとともに、同年7月にはハイチ経済活性化のための5カ年計画(2001~2006年)を発表したが、未だ完了していない。対日貿易は恒常的にハイチの大幅な入超となっている。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 基本方針
91年のクーデターの際には、我が国はこれを民主化努力に著しく逆行するものと判断し、人道的観点からの保健医療分野での草の根無償等を除き、経済協力を凍結していた。しかし、94年10月、アリスティッド大統領の帰国が実現し、民主体制の回復と経済復興に本格的に取り組み始めたことに鑑み、凍結解除を決定した。
民政復帰後は、保健・医療、交通等の基礎インフラ、行政能力向上のための人造り、農業の4分野を中心に協力を行うとの方針の下、ノンプロジェクト無償、災害緊急援助及び一般無償の二国間援助に加え、世界食糧計画及び赤十字国際委員会の要請に基づく人道援助、ハイチにおいて活動する国際機関に対する緊急援助、国連の信託基金(ハイチ国際警察監視活動とハイチ国家警察創設に対する支援)、UNDP信託基金への拠出等により総額5,000万ドルを超える経済協力を実施した。また、92年度より導入された草の根無償は年々件数が増加し2001年度は17件を数えており、医療保健、基礎教育等の分野で大きな効果を挙げている。また、ハイチ国民から高い評価を得ている案件として「バナナ紙製造訓練普及施設建設計画」があり、バナナの繊維から薬品を使用せずにバナナ紙をつくるための技術協力移転等も実施した。
技術協力として、95年3月には我が国の対ハイチ援助の本格的な再開に向けた調査を行うため調査団を派遣したほか、同年6月の全国議会・地方選挙が同国の民主主義定着の上で重要との観点から、国連ハイチ選挙支援信託基金に対し「民主化支援無償」初のケースとして拠出を行い、更にはOAS選挙監視団に対し7名の選挙監視要員を派遣した。また、97年4月及び2000年5月に実施された全国・地方議会選挙を支援するための草の根無償資金協力を行った。民主化支援として、95年に二度にわたる「ハイチ警察行政セミナー」のほか、ハイチ人2名を含む「民主化研究セミナー」を開催、98年2月には、中南米諸国司法・治安関係若手行政官研修計画にて、ハイチ国家警察公安介入維持隊隊長補佐を我が国に招聘し、各種セミナーを開催している。また、99年3月に開発計画の専門家を派遣した。
(2) 2001年度の実績
(イ) 総論
2001年度のハイチに対する援助実績は8.52億円。うち、無償資金協力は7.54億円(交換公文ベース)、技術協力は0.98億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、無償資金協力は224.89億円(交換公文ベース)、技術協力は10.00億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
(ロ) 無償資金協力:保健医療、環境、農林水産分野及び食糧援助を中心に実施。
(ハ) 技術協力:保健・医療分野を中心に実施。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考)2001年度実施草の根無償資金協力案件
前ページへ 次ページへ