[5]エルサルバドル
1.概 説
エルサルバドルは中米5カ国の中でも最も国土面積が小さく、人口過密な国(人口密度292人/km2、99年)である。79年以来、ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)と政府軍との間で内戦が続いていたが、92年1月、クリスティアーニ政権下において和平合意が成立し、国連の監視・検証の下、和平プロセスが順調に履行された。95年に「国連エルサルバドル監視団(ONUSAL)」、96年には「和平合意完遂のための国連ミッション(MINUSAL)」が派遣され、内外より国連平和維持活動の成功例として高い評価を得た。我が国も国際平和協力法のもと、94年の大統領選挙・総選挙にあたり、延べ30名の選挙監視要員を派遣し、ONUSALの活動に直接貢献した。94年6月に発足したカルデロン政権は、高い経済成長を達成するとともに、98年には和平合意の完全履行を宣言した。99年6月に就任したフローレス大統領(任期は2003年5月まで)は、貧困対策や産業活性化、雇用創出に重点的に取り組んできている。
経済面では、コーヒーを主要産品とする農業及びマキラによる繊維産業が中心で、外貨収入はコーヒー輸出及び海外移住者からの送金(年17.5億ドル以上(2000年))に大きく依存している。内戦中停滞した経済は、クリスティアーニ政権以後、貿易及び金融部門の自由化を図るとともに、投資の促進と生産性の向上を目指した政策を進めたことから順調に成長してきた。
しかしながら、98年11月に中米を襲ったハリケーン・ミッチは同国にも大きな被害をもたらした。また2001年1月及び2月に発生した2度の大震災は、死者1,159人、負傷者約7,800人、被害総額は約20億ドル(国家予算の90%)という未曾有の被害をもたらした。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
我が国とは35年に外交関係を樹立した。79年には、治安情勢の悪化から大使館機能を縮小していたが、内戦終結に伴い93年3月より常駐大使を再び派遣している。
近年、カルデロン大統領(97年)、ブリスエラ外相(2000年、2001年)、キンタニージャ副大統領(2000年、2001年)の訪日、山口外務大臣政務官(2001年)の訪問等、要人往来も活発化している。また、我が国と中米諸国とのハイレベル定期協議として95年11月に発足した日本・中米「対話と協力」フォーラムの第1回、第3回及び第5回会合(2001年2月)が同国で開催された。
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 基本方針
我が国は、エルサルバドルの民主化定着及び市場指向型経済導入に向けた努力、和平プロセスの順調な履行を評価し、また同国を含む中米地域の安定が中南米の平和と安定等に重要であること等を踏まえ、援助を実施してきている。
中米諸国が内戦状態にあった87年、倉成外務大臣(当時)が、中米和平達成の暁には我が国は同地域の復興開発にできる限りの援助を実施する意向である旨を表明した。92年1月に政府とゲリラ(FMLN)との間で和平合意が達成されたことから、同年3月「緊急支援パッケージ」として5億円のノンプロジェクト無償援助及び帰還兵士・内戦避難民に対する緊急援助を行い、国際公約である援助の強化を実現した。
また、92年7月にはエルサルバドルの復興開発のための今後の具体的な協力のあり方を協議するため経済協力調査団を派遣し、93年3月には電力・上下水道分野に対する円借款供与を含む「復興支援パッケージ」を開始した。我が国は、エルサルバドルにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究ならびに94年12月に派遣した経済協力総合調査団、ハリケーン災害後の99年2月に派遣したプロジェクト確認調査団並びに2000年11月の経協政策対話等を踏まえ、以下を対エルサルバドル援助重点分野としている。
(イ) 生産部門活性化(交通、農業生産基盤、エネルギー関連等)
エルサルバドルでは、潜在能力の大きい生産部門の活性化に資する支援として、また、ハリケーン災害からの復興の観点からも、交通、農業生産基盤、エネルギー関連等の経済インフラ整備及び技術移転が重要である。
(ロ) 社会開発(教育、保健・医療)
エルサルバドルは我が国と同様に、人口に対して国土が狭く資源も乏しいため、国の発展のためには人材開発が不可欠であり、初等教育の充実、教員の養成が急務である。また、社会的弱者、貧困層への保健医療サービス提供に向け地域保健医療も重視する。
(ハ) 環境(上下水道、廃棄物処理)
持続可能な開発のためには、水資源の有効利用や、全国的に深刻な問題となっている汚水処理、大都市の廃棄物処理の改善に向けた協力が必要である。
(ニ) 民主化・経済安定化支援
我が国は、エルサルバドルの民主化及び経済安定化のための支援につき、NGO活動の重要性を念頭に置いた草の根無償の活用や、日米コモン・アジェンダに基づく日米協調等により実施してきたが、今後とも同分野における協力を継続していく。
有償資金協力については、74年度に「首都新国際空港建設」の円借款を供与した後は、91年度まで協力実績がなかったが、同国の和平合意後の復興を支援するため、92年度以降は、電力、上下水道、道路整備、港湾整備の分野への協力を行っている。
無償資金協力については、82年度に協力を開始して以来、食糧増産援助、内戦で疲弊した基礎インフラ整備、学校建設及び飲料水供給のほか、ハリケーンや地震からの復興支援案件を多数実施している。また、草の根・人間の安全保障無償及び文化無償を実施している。他方、内戦後の順調な経済成長により個人所得が増加したため、援助の重点を有償資金協力及び技術協力に移しつつある。
技術協力については、専門家派遣、研修員受入を中心とする協力を実施してきており、92年度から青年海外協力隊の派遣を再開した。また、技術協力プロジェクトについては、97年より看護教育強化、99年より農業技術開発普及強化、2001年3月より沿岸湖沼域養殖開発計画を開始した。開発調査については、港湾整備や流域開発等の分野で協力が行われている。また、中米地域の警察組織の強化を目的として、中米高等警察研修所に対する協力も実施されている。
96年4月のクリントン米大統領訪日時に、日米コモン・アジェンダの対象分野として「市民社会と民主化」が加わり、その後の次官級会合において、エルサルバドルの選挙準備・司法制度強化等に関する日米協力について合意した。また、97年7月と99年1月の2回、日米コモン・アジェンダの一環として、同国の国会議員、行政官等を研修員として招聘し、本邦において「民主化セミナー」を開催した。
また、2001年1月及び2月、同国を2度にわたり襲った地震災害に対して、国際緊急援助隊・医療チームを派遣し、緊急無償及び緊急援助物資の供与を行った。
なお、同国においては、現地大使館・援助機関代表との間で、震災復興支援にかかる「対エルサルCGフォローアップ会合」及び「G6会合」、主に麻薬問題を議論する「ミニ・ダブリン・グループ会合」等が開催されている。
(2) 2001年度の実績
(イ) 総論
2001年度のエルサルバドルに対する援助実績は133.78億円。うち、有償資金協力は112.33億円、無償資金協力は2.66億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は18.79億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。2001年度までの援助実績は、有償資金協力は465.02億円、無償資金協力は277.58億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は103.69億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)である。
(ロ) 無償資金協力:ハリケーン・ミッチによる洪水の影響で道路および橋梁の多くが被災したのに対し、主要幹線上橋梁緊急復旧計画を実施、また教育分野を中心に支援。
(ハ) 技術協力:家畜、農業、港湾分野に対し重点的に実施。
(ニ) 有償資金協力:増加する国内及び国際貨物量に対応するための港湾関連施設を整備するために「ラ・ウニオン県港湾活性化計画」に対して112.33億円を限度とする円借款の供与を行った。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)2001年度実施開発調査案件
(参考3)2001年度実施草の根無償資金協力案件
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