3.我が国政府開発援助のあり方

 (1) 中南米地域の位置付け
 中南米地域に対する経済協力については伝統的に我が国と中南米地域との友好関係が築かれていること、同地域が近年高い経済成長を達成し、我が国との経済的結びつきが強くなっていること、さらには多数の日系人・日本人移住者が存在すること等を勘案しつつ援助を実施してきている。その際、99年8月に発表されたODA中期政策において特に以下の諸点を重視して支援を行うこととしている。
(イ) 民主化及び経済改革努力に対する積極的な支援
(ロ) 豊かな自然環境の保全や経済成長に伴う環境負荷の増大に対応した環境保全のための支援
(ハ) 基礎教育、保健医療、農業・農村開発、地域間格差の是正のための基礎インフラ整備等、貧困問題の緩和のための支援
(ニ) 比較的低所得の国において民間活動の活発化及び海外からの投資促進に資する環境整備のための経済・社会インフラ整備等の支援
(ホ) 複数国を対象とした人材育成・技術移転等のための広域的な協力の推進
 更に、98年に壊滅的なハリケーン災害を受けた中米諸国に対する復旧・復興支援、カリブ地域の島嶼国に対する広域的な支援についても配慮していく必要がある。
 (2) 民主化及び経済改革努力に対する積極的な支援
 近年、域内各国における民政移管の実現により、ほぼ全域において民主体制がある程度定着したこと、また、過去の政権の経済政策の失敗等から経済的困難に直面している国々が市場経済原理に基づく経済再建に取り組んでおり、比較的高い経済成長を維持しインフレを沈静化させていることは評価すべきことである。これらの国の民主化努力あるいは経済再建努力を引き続き支援していくことが国際的課題である。
 我が国としても、このような観点から中南米地域に対する援助を実施してきており、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラに対して内戦終結以来、民主化促進・経済復興努力への支援のためODAを拡充してきた。また、ハイチに対しては、94年10月のアリスティド大統領の帰国により同国が民主体制の回復と経済復興に本格的な取組を開始したことを受け、91年のクーデター発生以来凍結していたODAを再開し、資金協力、人員の派遣を通じての選挙支援を含め、94年10月以降これまでに約5,000万ドルの支援を実施している。
 (3) 豊かな自然環境の保全や経済成長に対応した環境保全のための支援
 中南米地域は、アマゾン熱帯雨林の減少や、メキシコシティをはじめとする大都市における大気汚染、水質汚濁、都市への人口集中によるスラム化など、多様かつ深刻な環境問題を抱えている。我が国はこのような中南米の環境問題に対し技術協力及び資金協力の両面において積極的な協力を行っており、水質改善等のための計画策定を行うとともに、比較的所得水準が高いブラジルに対しても環境円借款を供与している。また、グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラス等に対し、低所得者層の住宅改善や上水道整備など基礎的居住環境整備のための無償資金協力を行っているほか、メキシコで「環境研究研修センター」、チリで「チリ国環境センター」(無償資金協力も実施)などの技術協力プロジェクトを実施してきた。
 (4) 貧困問題緩和のための支援
 我が国は、貧困問題の緩和のための支援として、基礎教育、保健医療、農業・農村開発、地域間格差是正のための基礎インフラ整備等を実施していることに加え、中南米地域の麻薬問題撲滅のための協力として、これまで研修員受入れ、第三国研修による技術協力を中心とした二国間協力を実施しているほか、OASの全米麻薬濫用取締委員会(CICAD)、国連薬物統制計画(UNDCP)に対して資金協力を行っている。更に、麻薬問題の解決にはその背景となっている貧困問題の解決が不可欠との視点から、食糧増産援助を含む農村開発、教育、産業振興のためのインフラ整備等の協力を実施している。ペルーにおいては、日米コモン・アジェンダの枠組みの中で、草の根無償による麻薬代替作物栽培への支援を行っており、また、98年11月に開催された麻薬対策支援国会合においても支援を表明した。
 国連の統計によれば、中南米地域では女性世帯主の割合が比較的高く、扶養する子供を持つ女性世帯主がその大きな割合を占めている。我が国としても「途上国の女性支援」(WID)の観点から女性の役割に配慮しつつ援助を実施しており、グアテマラにおいては、米国と協調しながら、我が国から派遣された専門家が中心となって女子教育振興のための訓練プログラム共同開発等を実施したほか、無償資金協力を通じて女子教育振興の視点に立った「小学校建設計画」を実施した。
 (5) 南南協力、広域的な協力の推進
 中南米地域では、メルコスールに加え、カリブ諸国や中米においても地域統合を考慮した効果的な支援が求められていることや、文化的・社会的に共通の土壌を多く持つ地域であり援助の効果的・効率的な実施の観点から、広域的な協力に配慮していく必要がある。中米地域とは、地域的な統合に資する協力の必要性から、毎年定期的に開催されている日本・中米フォーラム等を通じ、今後の具体的な協力の方向性等につき協議を行っている。また、カリブ諸国とは、国連等国際場裡における協力関係が強化されつつある一方、近年これらの国々の我が国援助に対する期待が高まっており、これらの島嶼国に対する援助の充実が求められていることから、我が国は93年に開始された日・カリブ協議等を通じてカリブ諸国地域への広域的な支援及び関係強化に努めている。
 更に、99年6月にはチリ、2000年3月にはブラジル、そして2001年5月にはアルゼンチンとの間でパートナーシップ・プログラムに署名し、南南協力等の広域的な支援するための基本的枠組みが設定された。
 (6) 経済協力関係者の安全確保
 91年、ペルーで農業技術専門家として技術協力活動に従事していたJICA専門家3名の殺害事件が発生し、同国に対する人の派遣を伴う協力を一時停止した。ペルーに限らず、中南米の一部の国及び地域でテロ組織の破壊活動や一般犯罪の増加等による治安悪化が見られることから、今後も経済協力、特に人員の派遣を伴う技術協力を実施していくに当たっては、相手国政府に協力を求めるなど安全確保に十分配慮していくことが必要である。
 (7) 日系人に配慮した援助
 中南米地域においては、多数の日本人移住者・日系人が存在することを考慮して、経済協力の実施に当たっては、移住者・日系人に配慮した援助も行っている。具体的には移住事業としての移住者あるいはその子弟を対象とした研修員受入れ等のほか、パラグアイの「イタプア県地方道路整備計画」、「東都農村地域給水計画」、ボリビアの「サンタクルス県北部橋梁建設計画」、ドミニカ共和国の「コンスタンサ畑地潅漑計画」、「ダハボン地区農村開発計画」及び「西部三県給水計画」等、移住地を含む地域一帯の経済社会インフラ整備のための協力を行っている。
 (8) 所得基準の弾力化
 中南米地域には比較的所得水準の高い国が多いが、人類共通の課題である環境問題対策や地域全体に裨益するプロジェクト、災害復興支援などでは、例外的に無償資金協力及び有償資金協力の供与基準を柔軟に運用している。例えば、環境問題対策では、チリに対する「環境センター機材整備計画」、メキシコに対する「メキシコ首都圏植林計画」、ブラジルに対する「グアナバラ湾流域下水処理施設整備計画」等があり、域内に裨益するプロジェクトとしては、コスタリカに対する「中米域内産業技術育成センター建設計画」等がある。

表―3 中南米地域に対する我が国の二国間ODA形態別・国別・年度別実績
(1) 有償資金協力
(2) 無償資金協力
(3) 技術協力
表―4 中南米地域に対する我が国技術協力の年度別・形態別実績
表―5 中南米地域に対する我が国無償資金協力の分野別実績
(1) 全体内訳
(2) 一般プロジェクト無償内訳
表―6 中南米地域に対するDAC主要援助国の二国間ODAの推移
表―7 中南米地域に対するDAC主要援助国の国別二国間のODA実績(2000年)
表―8 中南米地域に対するDAC諸国のODA実績
表―9 中南米地域に対する国際機関のODA実績

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