[6]エジプト

1. 概   説

(1) 内政面では、81年に就任したムバラク大統領は99年9月の国民投票で第4期目(1期6年)の信任を得、20年に亘って安定的な政権を維持している。同大統領はサダト前大統領の開放政策を継承し、90年以降は市場経済化に向けた経済改革を通じた経済発展を指向している。特に、99年10月に発足したオベイド内閣は、国内の社会格差の是正や輸出産業振興を重視し、また諸外国に対しては、経済援助とともに投資と技術移転の促進を求めている。与党である国民民主党は、2000年末の人民議会選挙において全議席の8割以上を獲得したものの、選挙前より議席を減らしたこともあり、以降積極的な党内改革を実施している。なお、97年のルクソール事件以降、エジプト当局はイスラム過激派に対して徹底的な取り締まりを行い、同事件以降、国内でテロ事件は発生していない。
(2) 外交面では、中東・アフリカ地域における大国として、中東和平をはじめとする地域紛争解決に向けた指導的役割を追求するとともに、イスラム諸国及び非同盟諸国との連帯や欧米諸国との協調も重視する多角的な外交を展開。中東和平については、アラブ世界の重鎮(アラブ連盟の中心)として、また、対イスラエル和平の先駆者として、中東和平における重要な調整役を自負し、2000年以降のパレスチナ情勢激化に対しては、パレスチナ当局の後ろ盾になるとともに、米国をはじめとする国際社会の強力な介入を要請。イラク問題については、平和的解決の重要性を主張するとともに、現実的な路線でのアラブ諸国のコンセンサス造りに努力した。
 また、エジプトにとって米国は、冷戦後のアラブ世界における唯一最大の外国勢力として、また、エジプトの対イスラエル和平の後見人として、最も重要な西側のパートナーである。他方米国も、エジプトを中東地域の安定勢力として重視し、毎年20億ドルにも上る軍事・経済援助を継続している。更に、国際場裏においては、国連改革や軍備管理等の国際問題に関しても、第三世界の代弁者として確固たる主張(「公正な」安保理改革、大量破壊兵器の廃止、デジタル・ディバイドの解消等)を展開している。
(3) 経済面では、IMFとの連携による市場経済化に向けた構造改革の効果もあり、90年代半ばは5%台に高い成長率を実現し、マクロ経済情勢は大幅に改善した。しかし、近年は、石油輸出余力の低下や輸入の拡大によって外貨不足が深刻化し、これに政府の財政赤字の拡大等による金融引き締めも加わって、経済は減速傾向に入った。2001年9月の米国同時テロ事件による観光収入の激減も経済の低迷に拍車をかけることとなり、2001/2002年度の成長率は2%程度と推定されている。
 政府はまた、農業生産力や輸出競争力の向上、民営化の推進、若年層を中心とした失業者に対する雇用創出等の課題に取り組んでいるが、未だ顕著な進展は見ていない。他方、天然ガスは、政府が最も期待を寄せる部門であり、2005年までに10億ドル規模の輸出を計画している。

(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標

(4) 我が国とエジプトとの関係は、36年の公使館設置(54年大使館に昇格)以来、良好な関係を維持している。99年のムバラク大統領訪日時には、両国首脳による共同声明において、「日本・エジプト・パートナーシップ・プログラム」を発表し、「平和と協力」、「経済、貿易及び投資」、「環境」、「文化交流」及び「教育、青年・学術交流」の5分野での協力促進を約束した。両国間の要人往来・人物交流も活発化し、また、年間の邦人渡航者も、数万人の規模に達している。
 エジプトは、我が国との貿易の拡大及び我が国からの投資の活発化を強く希望しており、99年のムバラク大統領訪日の際には、民間の日・エジプト経済委員会の再活性化が合意され、以降年平均1回のペースで、両国経済関係の強化のための会合を開催している。両国の貿易関係は、日本側の大幅な輸出超過が続いており、2001年の我が国からの輸出額は約5.7億ドル、主な輸出品は輸送機器、一般機械機器であり、他方エジプトからの輸入額は約0.7億ドル、主な輸入品は石油製品、綿花、繊維製品である。

2. 我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) エジプトに対する政府開発援助の実績とあり方
 我が国は、エジプトが、中東地域の大国であり、政治的安定と穏健な外交政策を維持しつつ、中東和平プロセスをはじめ中東地域の平和と安定の達成に向け重要な役割を果たしていること、市場指向型経済に向けた努力が顕著で、民主化、人権、報道の自由の分野で改善されるべき点はあるものの、ODA大綱上総じて望ましい方向に向かっていること、我が国との関係が緊密であること、高い人口増加率、貧困・失業者増大等の問題を抱えており、援助需要が大きいこと等の理由に基づき、積極的に援助を実施している。
 対エジプト援助協調にかかる動きとしては、各国大使館・援助機関代表、国際機関との間で「援助国支援グループ(DAG)会合」が月一回の割合で開催されている。
 我が国は、平成12年6月に発表した国別援助計画を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。
(イ) 経済・社会基盤の整備、産業の振興
 民間資金やOOFとの連携を重視しつつ、インフラ整備への民活導入を支援する。また、各種産業の育成、輸出振興を通じ、貿易・投資拡大のための支援を行い、重要な外貨源である観光業の振興も支援する。インフラ整備に当たっては、新しい情報通信技術の利用の可能性も検討する。
(ロ) 農業生産の拡大
 食料の国内需要増大をまかない貧困を緩和するためにも農業生産を拡大する必要性は高い。農業生産性向上のための農業基盤整備や食糧増産援助を実施してきており、これらを継続すると共に、農業・農村開発、農業生産技術の向上、農産物加工・流通の改善及び水産業の振興等の分野においても支援する。
(ハ) 保健・医療の充実、社会福祉の向上
 小児医療や看護師の育成といった従来の協力とともに、保健・医療の質、特に基礎医療分野におけるサービスの質の向上を図り、死亡率の低下や治癒率の向上に資する支援を行う。また、環境保健等への対応、保健・医療システムの改善、社会福祉の向上を図る。
(ニ) 人材育成、教育の充実
 人材育成、教育の充実は、あらゆる分野の基礎となり、エジプト自身による持続的開発を支えていく礎ともなるため、教員の再訓練などの支援を行い、長期的視点に立って基礎教育、人材育成分野の底上げを目指す。また政府の効率性改善の観点から、組織のスリム化、公務員の質の向上を目指した研修員の受入を継続する。
(ホ) 環境の保全、生活環境の向上
 環境モニタリングや産業汚染対策、風力や太陽光のようなクリーンエネルギーの分野において緊密に協力していく。エジプトの持続的な成長を可能とするため、安全な飲料水の安定供給などを含む生活環境の向上及び環境の保全を目指した包括的な支援を実施する。
 なお、我が国は、GII(人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ)の人口分野における重点国の一つとして同国を位置付けている。
(2) 2001年度の援助実績
(イ) 総論
 我が国はこれまで有償資金協力、無償資金協力、技術協力の各形態において積極的に援助を行っており、2001年度までの我が国の援助累計実績についてみると、有償資金協力は6,603.30億円(以上、交換公文ベース)、無償資金協力1,229.36億円(同)、技術協力は478.83億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)で全ての援助形態において中東域内第1位となっている。2001年度のエジプトに対する援助実績は100.98億円。うち、有償資金協力は51.94億円、無償資金協力は27.91億円(以上、交換公文ベース)、技術協力は21.13億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)であった。
(ロ) 有償資金協力
 有償資金協力については、債務を段階的に実質50%削減するとの91年5月のパリ・クラブにおける合意を受け、同年7月より実質的な債務削減を実施していたため、新規円借款の供与を実施してこなかったが、96年10月に経済改革プログラムに関するIMFとの合意が成立したこと及び債務削減の最終段階に移行したことを踏まえ、96年11月の中東・北アフリカ経済会合のカイロ開催の機会に新規円借款の供与再開検討の意図を表明した。99年4月のムバラク大統領訪日時に要請された「社会開発基金計画」について、2001年6月円借款を供与することとする交換公文を締結した。
(ハ) 無償資金協力
 無償資金協力については、食糧・農業分野、保健・医療分野、水供給分野等の基礎生活分野を中心に、運輸・交通分野等幅広い分野で援助を実施してきている。
(ニ) 技術協力
 技術協力については、農業、保健・医療、工業、運輸・交通等の広範囲の分野に、技術協力プロジェクト、開発調査等を中心に積極的に実施している。我が国とエジプトは、98年10月には、我が国のアフリカ諸国に対する効果的かつ効率的な技術協力の一形態として「アフリカにおける南南協力の推進のための日・エジプト三角技術協力計画」に関する枠組み文書に署名し、第三国研修を中心とした三角協力を実施している。今後の国造り・人造りが課題となっているパレスチナ人を対象にしてもこのような協力を強化していきたいと考えている。
(ホ) その他
 なお、資金協力と技術協力との効果的な連携は援助の質と実効性を高めるものであり、「カイロ大学看護学部」、「水道技術訓練研修センター」及び「環境モニタリング研修センター」に対する技術協力プロジェクトは無償資金協力との連携で実施されている。

3. 政府開発援助実績

(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)2001年度実施開発調査案件
(参考3)2001年度実施草の根無償資金協力案件

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