3. 我が国政府開発援助のあり方

(1) 中東地域の位置付け
  我が国は、原油の約88%を中東地域から輸入し、域内の多くの国にとっても我が国が最も重要な貿易相手国の一つであるなど、同地域とは極めて高い相互依存関係にある。他方、中東地域は、種々の政治的・民族的紛争の不安定要因を抱えているほか、特に非産油国は国際収支赤字、累積債務問題等の経済的困難に直面している。
  こうした状況において、米国に次ぐ同地域への援助国(2000年)である我が国は、友好協力関係増進の観点のみならず、同地域の政治的安定に貢献する観点からも、同地域の政治的変化を考慮しつつ経済協力を実施していく必要がある。
  更に、同地域は、2001年世銀の所得分類による低所得国が3カ国(アフガニスタン、イエメン、スーダン)、低中所得国が9カ国(アルジェリア、イラク、イラン、エジプト、シリア、チュニジア、トルコ、モロッコ、ヨルダン)、高中所得国が5カ国(バーレーン、オマーン、サウジアラビア、リビア、レバノン)、高所得国が4カ国(アラブ首長国連邦、イスラエル、カタール、クウェート)と、多様な構成になっており、経済発展段階に応じた木目の細かい援助を実施していく必要がある。
(2) 我が国の中東向けの援助の基本方針
  我が国は、この地域の社会的安定と和平に向けた環境造りのための支援を積極的に行ってきている。また、水資源の確保は地域の安定にも影響をもたらしうる重要課題である。中東地域は産油国、LLDCを含み、経済状況は国により様々であるが、国内技術者の育成等の人材開発が大きな課題となっている。
  以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(イ) 中東和平プロセス支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援、多国間協議関連案件の支援等)
(ロ) 比較的低所得の国における農業、水資源開発等の経済・社会インフラ整備支援
(ハ) 比較的高所得の湾岸諸国における脱石油経済のための経済多角化に向けた国内技術者層の育成、教育等に資する技術協力による支援及び海外からの投資促進のための環境整備への適切な支援
(ニ) 比較的高所得の国等における環境保全対策への支援
(3) 対アフガニスタン復興支援
  長年の内戦及び米国同時多発テロ以降の多国籍軍の攻撃により国土が著しく荒廃したアフガニスタンの再建のためには、和平・復興の両面からの支援が重要との観点から、我が国は2001年11月、米と共同でアフガニスタン復興支援高級事務レベル会合の共同議長を務め、その後のアフガニスタン復興支援運営グループ第一回会合(於:ブリュッセル、同年12月)、アフガニスタン復興支援国際会議(於:東京、2002年1月)という一連のプロセスにおいて主要的な役割を果たした。東京で行われたアフガニスタン復興支援国際会議においては、国際社会がアフガニスタンの復興を一致団結して支援していくというメッセージを送ると共に、我が国よりは、「和平プロセス・国民和解に対する支援」及び「人造りに対する支援」を重視しつつ、具体的には、「難民帰還・再定住」、「地域共同体の再建」、「メディア・インフラ」、「地雷・不発弾の除去」、「保健・医療」、「教育」、「女性の地位向上の問題」を重点分野として今後2年6カ月の間に最大5億ドルまで、その内最初の1年間で最大2億5千万ドルまでの支援を行う用意があることを表明した。既に約2億9,700万ドルの復旧・復興支援を実施又は決定している(2002年末現在)。
(4) 中東和平プロセス支援
  91年10月に現行の中東和平プロセスが開始されて以降、我が国は、ODAについても同地域の安定につながる和平プロセス支援を実施している。米国、EUとともに主要な支援国としてパレスチナ支援を行っているのをはじめとして、エジプト、ヨルダンといった和平推進に積極的な当事国・関係国に対し、重点的に援助を実施している。更に、我が国は、和平プロセスを支援するため、当初から中東和平多国間協議に積極的に参画し、その環境部会の議長国を務める等の協力を行っている。
 また、北部アカバ湾岸油汚染防止プロジェクトにおけるヨルダンへの無償資金協力による機材供与、世銀の砂漠化防止プロジェクトに対する立ち上げ資金の供与、中東淡水化研究センターの設立等の貢献も行っている。
 エジプトについては、79年に中東地域で最初にイスラエルとの平和条約を締結し、その後の和平プロセスにおいてアラブ・イスラエル間の重要な調整役を果たしていること、地域大国として同国の安定が地域の安定にとって重要であること、我が国との良好な二国間関係等に鑑みて支援を実施している。
 ヨルダンについては、その地政学的重要性、94年にイスラエルとの平和条約を締結するなど中東和平プロセスにおける積極的な貢献、民主化・経済改革への積極的な努力、我が国との良好な二国間関係等に鑑みて支援を実施している。
 シリアについては、中東和平プロセスへの同国の関与を考慮しつつ経済協力を行っている。なお、同国は、92年度より一人当たりGNPの低下に伴い無償資金協力対象国にもなっており、基礎生活分野等における無償資金協力を実施している。有償資金協力については、エネルギー及び農業分野で供与実績がある。
 レバノンは、ヨルダン及びシリアと同じく中東和平の当事国であり、16年間にも及んだ内戦からの復興、及びイスラエル撤退後の南レバノンの復興を着実に進めることが今後の国内安定化及び中東地域の安定化にとって重要である。今後和平プロセスの動向及び国内経済状況(特に国家財政の安定化)等を見極めつつ、援助実施を検討していく方針である。
 我が国は、劣悪な社会・経済状況に置かれているパレスチナ人に対し、93年以降2003年3月末までに、UNDP、UNRWA等の国際機関への資金拠出、緊急援助、基礎生活分野の直接支援、パレスチナ評議会選挙支援、研修員受入れ等を約6億4,000万ドルの援助を実施している。今後とも、人道的配慮はもちろんのこと、中東和平プロセスの促進に貢献するとの立場から、和平の段階に応じた支援を実施していく方針である。
(5) 湾岸諸国に対する協力

表―6 中東地域に対するDAC諸国のODA実績
表―7 中東地域に対するDAC主要援助国の二国間ODAの推移

 アラブ湾岸諸国については、国民1人当たりのGNPが比較的高いため、富裕産油国への資金協力は行っていない。しかし、エネルギー供給先としての湾岸地域の政治的安定性は我が国及び世界にとり死活的に重要であり、また、これら諸国の国内技術者層が薄く、国造りを支える人材の育成が重要であることから、国家開発のニーズに応えた協力を行う必要性は極めて高い。
 このような中で、97年11月に橋本総理(当時)がサウジアラビアを訪問し、「21世紀に向けた包括的パートナーシップ」の構築として、政治分野、経済分野及び「新分野」(人造り(教育・職業訓練)、環境、医療・科学技術、文化・スポーツ分野(その後、投資・合弁分野も追加))の3つを柱とする協力関係強化を図る旨を表明した。このうち特に「新分野」については、「日・サウジ協力アジェンダ」としてサウジアラビアの国家開発に協力していくこととし、ODAによる協力として、人造り、環境、医療分野における技術協力を実施していく方針である。また、その他のGCC(湾岸協力会議)諸国に対しても、対サウジアラビアの場合と同様の3分野における協力推進の枠組みとしての「日・GCC21世紀協力」を推進していくこととなった。
 また、アラブ首長国連邦、カタール及びクウェートについては、96年1月よりDACリストパート1からパート2に移行し、98年度を以てODAによる協力は終了したが、今後引き続き協力を行うに際し、有償(費用先方負担)による技術協力を含め、協力のあり方について検討していく必要がある。

表―8 中東地域に対するDAC主要援助国の国別二国間のODA実績(2000年)
表―9 中東地域に対する国際機関のODA実績

(6) 北アフリカ諸国に対する協力
 北アフリカ地域は、アラブ諸国の一員であるとともに、地中海地域として欧州諸国との経済的つながりも深く、更にはサハラ以南アフリカ諸国とのつながりも有している。こうした地政学的重要性を有するとともに、我が国の石油、天然ガスの輸入先である同地域の安定は重要であることから、我が国は同地域に対し援助を実施している。
 具体的には、上記で述べたエジプトの外に、チュニジア及びモロッコに対して、両国における重要産業である農業・水産業の開発・振興、水資源開発、基礎インフラ整備、地方開発、環境分野等を重点分野として援助を実施している。また、我が国が積極的に取り組んでいるTICADプロセスの一環として、サハラ以南アフリカ地域に対する援助を共同で実施する観点から、98年10月にはエジプトと、99年3月にはチュニジアと、アフリカにおける南南協力推進のための三角技術協力に対する枠組み文書の署名をそれぞれ行った。
(7) ODA大綱との関係
 我が国はODA大綱において途上国の軍事支出の動向や人権・自由の保障状況等に十分注意を払う旨の考え方を明示しているが、中東地域には、軍事支出、武器輸出入等との関係で注意を要したり、民主化や人権の面での問題が見られる国もある。
 ODA大綱の原則に鑑み援助方針を見直した例としては、スーダンの例がある。スーダンについては、内戦に起因する同国における人権侵害状況に対し、我が国を含む各国が再三の改善要求を行ってきたにもかかわらず変化が見られなかったため、92年10月以降当面は緊急・人道的性格のものを除き原則として援助を停止する旨同国に伝え、現在に至っている。

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