[41]南アフリカ共和国
1.概 説
南アフリカでは、かつて「アパルトヘイト(人種隔離)」に基づく人種差別政策が行われていたが、94年4月に全人種が参加する初の民主的総選挙が実施され、マンデラ大統領(当時)率いるアフリカ民族会議(ANC)を中心とした政権が発足した。国民融和を訴えつつ健全な経済運営を営む同政権の下で政情は安定し、99年6月に第二回目の総選挙が行われた結果、ANCが約3分の2の議席を占め、ムベキ副大統領が大統領に選出された。ムベキ政権は、国民融和の実現と国内格差是正、失業対策、黒人貧困層の生活環境改善などの重点課題について取り組んでおり、徐々に成果を上げつつある。
外交面では、ムベキ大統領は、グローバル化の中で途上国と先進国の格差が拡大しつつあることを問題視し、途上国の立場に立った世界秩序の構築に貢献することを主要な外交課題としているほか、非同盟運動及び英連邦の議長国として広く途上国を代表し、マルチ外交において「南北の架け橋」としての役割を果たすことを目指している。また、ムベキ大統領は「アフリカン・ルネッサンス」(アフリカの再生)というビジョンを掲げ、アフリカ自らの力で紛争、貧困、独裁、汚職といった問題を克服すべきことを提唱しており、同大統領の呼びかけによりアフリカ自身の手による包括的開発計画「新アフリカ・イニシアティブ」が策定され、2001年7月のアフリカ統一機構(OAU)首脳会議において採択された。同年10月、「新アフリカ・イニシアティブ」は「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」と改称され、2001年12月に東京で開催されたTICAD閣僚レベル会合において、ドナー及び国際機関の承認を受けた。
経済面では、第一次産業が10%、第二次産業が25.6%、第三次産業が63.5%を占めているが、近年は鉱業の比率が減少を続けており、逆に商業、金融・保険等が拡大傾向にある。南アフリカ共和国のGNIはサハラ以南アフリカ全体の約4割を占めており、圧倒的な経済力を有する同国の経済発展は、南部アフリカのみならずアフリカ全体の発展にとって重要な役割を有している。
政府は、最大の課題である人種間の社会経済格差是正のため、復興開発計画(RDP)による黒人等の生活水準・地位向上を目指している。また、96年6月には、新たに、投資インセンティブの導入、財政赤字の削減、徴税の強化、為替管理の段階的緩和、公営企業の民営化、賃金上昇の緩和等を通じ、経済成長と雇用の拡大を目指す「マクロ経済戦略(GEAR)」を打ち出した。景気の低迷により、98年の経済成長率は0.6%まで落ち込んだが、99年に入ると民間消費及び貿易収支の改善により景気は徐々に回復し始め、2000年には3.4%、2001年には2.2%の成長率を達成した。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
二国間関係は良好であり、96年4月には池田外務大臣(当時)、99年1月には橋本総理外交最高顧問が同国を訪問し、また、95年7月にはマンデラ大統領(当時)、98年4月及び10月にはムベキ副大統領(当時)がそれぞれ訪日しており、要人の往来も活発である。我が国は、特に国際問題を協力して解決すべきパートナーとして南アフリカ共和国との関係を強化しつつあり、98年4月のムベキ副大統領訪日時に「日・南ア・パートナーシップ・フォーラム」の設置に合意し、以後、政治、経済、文化、科学技術等多用な分野に関する二国間協議を行っている(2001年7月まで計4回のフォーラムを開催)。更に、2000年7月には、我が国のイニシアティブにより実現したG8首脳と途上国首脳との対話(東京)及びG8外相と途上国外相との対話(宮崎)に、非同盟運動(NAM)の代表としてムベキ大統領及びズマ外相がそれぞれ出席し、2001年1月には、森総理(当時)が現職として初めて南アフリカを訪問している。同年10月にはムベキ大統領が国賓として訪日を果たし、日・南ア両国は「南北の架け橋」として引き続きパートナーシップを拡大・深化させていくことに合意した。
貿易関係について見ると、我が国の全貿易額(約92兆円:2000年)に占める南アの貿易額(5,200億円:2000年)は例年0.5~0.6%であり、対アフリカ総輸出の約3割は南ア向けとなっている。例年、我が国は南アフリカから非鉄金属、石炭、鉄鋼、鉄鉱石等を輸入し、南アフリカに対し自動車部品、一般機械、鉄鋼等を輸出しているが、2001年の貿易バランスは約1,600億円に及ぶ我が国の貿易赤字(対南ア輸出1,800億円、対南ア輸入3,400億円)となっている。南アにとって、我が国は米、独、英に次ぐ第4の貿易相手国であるが、我が国にとって南アはサハラ以南アフリカ諸国の中で第一位の貿易相手国となっている。
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 南アフリカに対する政府開発援助の基本的考え方
(イ) 我が国は、アパルトヘイトの犠牲者である南アフリカの黒人層の自立を支援するため、90年度より国際機関を通じた資金協力、草の根無償資金協力、研修員受入れ等により、南アの黒人社会支援を行ってきた。
(ロ) 我が国は、94年4月の総選挙実施を受けたマンデラ新政権発足を、民主的、平和的に新体制への移行を成功させた象徴的なケースとして高く評価し、94年7月、その後2年間でODA3億ドルに加え、輸銀融資5億ドル及び貿易保険枠5億ドルからなる対南ア支援策を発表した。
また、アパルトヘイト撤廃後の貧困撲滅と黒人の地位向上を目指した経済社会改革を支援するため、99年6月のムベキ大統領就任時に、過去5年間の我が国の支援実績(総額約15億ドル)を踏まえ、今後とも十分な規模の支援を継続する新支援策を表明した。
(ハ) 具体的な援助については、有償資金協力では、96年4月経済・社会インフラ整備のために初の円借款を供与したほか、社会インフラ部門の案件を供与してきた。無償資金協力では、97年6月に、人種間格差が極めて大きい南アの医療事情に鑑み、黒人貧困層に裨益する医療機材整備のため、初の一般プロジェクト無償資金協力を実施した。また、草の根無償資金協力では、黒人貧困層に直接届くNGO支援等を積極的に行ってきている。技術協力では、教育、保健医療、中小企業振興等のための人材育成の観点から研修員受入れ、専門家派遣等の協力を実施している。また、青年海外協力隊派遣取極を2001年1月に締結し協力隊派遣を開始している。なお、2001年6月にはIT協力に関する政策対話を行うための調査団を派遣した。
(ニ) 我が国は、南ア支援が南ア自身の民主化及び経済発展に資するのみならず、南部アフリカ地域、ひいてはアフリカの開発問題全体にも資するとの認識の下、98年12月に経済協力政策協議を行い、TICADIIの成果に基づくフォローアップに関し議論を行うとともに、我が国の今後の対南アフリカ支援の重点分野として、人造り、基礎教育、保健・医療、中小企業振興、環境及び南部アフリカへの地域協力への取組みを確認した。また、99年8月には第2回政策協議を行い、協力実施にあたっての課題等について率直な意見交換を行い、両国間の相互理解を深めた。
(ホ) 援助協調については、南アフリカでは主要課題である教育、HIV/AIDS、水資源開発に関するドナー会合が開催されている。
(2) 2001年度の援助実績
2001年度までの我が国の援助累計実績では、有償資金協力201.45億円、無償資金協力77.06億円(以上交換公文ベース)、技術協力38.04億円(JICA経費ベース)の協力を行っている。2001年度は、無償資金協力27.99億円(交換公文ベース)、技術協力12.10億円(JICA経費実績ベース)を行った。
無償資金協力については、教育分野や保健医療分野における協力を実施した。
技術協力については、農業、教育、行政等の分野における専門家派遣、研修員受入れ及び開発調査等による協力を実施した。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度実施開発調査案件
(参考2)2001年度実施草の根無償資金協力案件
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