[12]ケ ニ ア
1.概 説
90年代に入って強まった内外からの民主化要求圧力を受け、91年複数政党制へ移行したが、92年及び97年、複数政党制の下で実施された大統領・国民議会選挙において、いずれもモイ大統領が再選を果たし、KANU(ケニア・アフリカ人国民同盟)体制が続いた。(なお、2002年12月の総選挙で野党連合NARC(ナショナル・レインボウコアリション)のムワイ・キバキがモイ大統領(当時)の推すKANUを破り、24年間に亘るモイ政権は幕を閉じ、キバキ大統領が第3代大統領に就任した。キバキ政権は、汚職対策や司法改革、初等教育の無料化など、ガバナンスの改善を軸に各種の社会・経済改革に取り組んでおり、内外から高い評価を得ており、国際社会もケニアのかかる取り組みに積極的な支持を表明している。)
外交面では、非同盟を基調とする一方、先進諸国との関係強化にも努めている。アフリカ諸国との関係では、スーダン、ソマリア内戦等の平和的解決のために当事者間の仲介努力を行う等、地域の平和と安定に関与するとともに、隣国タンザニア、ウガンダとの間で経済・社会開発等の分野で相互協力を推進し、共同市場設立を目的とする東アフリカ共同体(EAC)の枠組みで協力関係の構築に努めている。
90年代に入り、政治・経済改革の停滞に伴い援助資金流入が減少したこと、天候不順による干魃、洪水災害等から、経済は深刻な状況に陥った。
こうした中、世銀・IMFの支援を受けた構造調整政策に基づき、農業部門では、生産者価格の引上げ、市場流通制度の改革等を、工業部門では、独占禁止法の改正、外国投資保護法改正等による投資・輸出促進政策を、金融部門では、中央銀行の権限強化、金融セクター再編成等を推進してきている。
ケニアは、現在、生活水準向上と持続的な開発のための工業化を目指した第8次国家開発計画(97~2001年)の実施を通じ、改革に取り組んでいる。しかし、97年以降、天候不順、道路等インフラの劣化、治安の悪化等に伴う農業及び観光分野の不振により、GDP成長率は97年2.3%、98年1.8%、99年は1.4%、2000年には-0.3%、更に2001年には1.2%と低迷している。また、経済改革の遅れや汚職への対応ぶり等を理由として、97年財政支援型の援助が停止された結果、厳しい財政状況に陥り、過大な対外債務の重圧に直面することとなっている。2000年7月、懸案であったIMFによる融資が再開したものの、同年12月、改革の進捗がはかばかしくないことから再び停止している。
我が国との関係は従来から良好である。要人往来も活発で、モイ大統領が大喪の礼(89年1月)及び即位の礼(90年11月)に参列し、最近ではゴタナ外相が第2回アフリカ開発会議に出席のため98年10月に訪日したほか、2000年6月にはサイトティ副大統領が小渕元総理葬儀参列のため、また2001年12月にはアワィティ計画大臣がTICAD閣僚レベル会合のため訪日した。また、我が国からは99年1月には橋本総理外交最高顧問が、更に、同年12月には高円宮同妃両殿下がケニアを訪問した。2001年1月には現職総理初のアフリカ訪問の一環として、森総理(当時)が訪問している。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
貿易関係については、我が国はケニアからコーヒー、ナッツ、魚の切り身等を輸入し(2001年輸入額208億8,423万円)、同国に自動車、機械、鉄鋼等を輸出している(同輸出額34億7,241万円)。
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) ケニアに対する政府開発援助の基本的考え方
我が国は、ケニアが、東アフリカでの地政学的な重要性に加え、域内で政治経済面で主要な役割を果たしていること、独立以来市場経済体制をとり、特に93年以降構造調整等経済改革努力を積極的に行ってきていること、92年、97年、2002年と複数政党制の下で自由かつ公正と評価し得る大統領・国会議員選挙を実施し、民主化プロセスを進めていること、我が国と緊密な友好関係を有していること、一人当たりGNPが350ドルと低く、援助需要が大きいこと等から、東アフリカにおける我が国援助の重点国の一つとして位置付けている。
我が国は2000年8月対ケニア援助の一層の透明性の確保及び効率性の増大のために、「ケニア国別援助計画」を策定した。同計画では以下を重点分野としている。
(イ) 人材育成
人材育成は各分野共通に重要であり、将来の自立的な経済・社会発展のために、基礎教育の拡充に加え、経済・社会運営に携わる行政官の能力向上、中小企業の経営者・技術者の育成などが課題である。
(a) 基礎教育
人材育成の基礎として基礎教育の重要性は言うまでもないが、93~95年の小学校への就学率は85%で、サハラ以南アフリカ地域平均の75%より高いものの、年々低下しており、また、中退者・落後者の多さ、教科書、教育関連施設・機材等の絶対的な不足、教員の質の低さ、理数科教育の遅れが問題となっている。我が国としては、専門家派遣、青年海外協力隊の派遣を実施するとともに、教育施設・機材の充実等の可能性を検討していく。
(b) 高等教育・技術教育
今後の経済成長実現のためには特に輸出振興・外貨獲得に資する農業・中小工業分野等を中心に、生産性向上及び品質管理能力の向上が不可欠であり、そのための要となる中堅技術者層、中間管理者層の育成等が重要である。また民間セクター主導による経済的自立を達成するために中小企業の技術者、経営者の育成も重要である。
我が国としては、これまでジョモ・ケニヤッタ農工大学等における協力により、高等教育、職業訓練の分野で貢献してきているところであるが、今後は、TICAD II「東京行動計画」の目的も踏まえ、ケニア国内にとどまらず域内、域外へも裨益効果が波及するようなアフリカの人造り拠点としてこれらの機関の機能の充実等を検討していく。
(c) 行政能力の向上
ケニア政府の行政能力の向上は極めて重要である。政府の政策策定能力や実施能力の向上は、より長期的観点から自立的な産業構造のあり方を検討し、産業振興や輸出振興について、包括的な政策の立案及び実施を行う上で不可欠である。かかる観点から、行政官の政策策定・実施能力向上を目的とした専門家派遣や研修員の受入による人材育成の実施等を検討していく。
(d) 民主化支援
ケニアの開発の鍵となるのが民主化であり、政府のガバナンス改善の観点からも、行政・司法・立法を始めとする、民間企業も含めた組織内部及び組織間でのチェック・アンド・バランス機能を整備し、国民の幅広い参加を可能とするシステムを構築することが重要である。我が国としては、組織能力の向上(institutional building)に資する専門家派遣や、民主化セミナーへの招聘などの研修員受入を通じた支援を検討していく。
(ロ) 農業開発
GDPの25%、総就労人口の75%、総輸出額の60%及び国家収入の45%を担う農業の発展は、貧困層の大半を占める農民層の生活レベルの向上という観点から特に重要である。農業分野の課題は、生産拡大、商品作物の多様化・高付加価値化、及び効率的かつ公平な流通システムの確立である。農業生産の拡大のためには、農業生産基盤の改善、適正技術・経営の普及、肥料・農薬等の農業投入財の活用、環境に配慮した効率的な灌漑農業の導入・拡充を行っていく必要がある。
商品作物に関しては、伝統的輸出作物であるコーヒー、紅茶などは国際価格の影響を受けやすいため、輸出作物の多様化・高付加価値化が必要である。また、野菜、果物、ナッツ類、花卉等の更なる振興も必要である。
全農業生産に占める小規模農家の比率が高く、その流通合理化のためには農協などの農民組織育成による小規模農民の組織化も重要である。
我が国としては、特に、農家の80%以上を占める小規模経営農家を対象とした小規模農業の振興を中心に、生産性向上、灌漑技術の確立と施設のリハビリ・拡充、農民の組織化、流通システムの改善さらには他のアフリカ地域への裨益効果も勘案した農業分野における農業生産基盤の改善、研究協力及び技術普及に重点を置き、協力の可能性を検討していく。
(ハ) 経済インフラ整備
貧困緩和や社会開発を進めるためには、持続的な経済成長を確保することが不可欠であり、その下支えとなる経済インフラの整備の重要性は引き続き高い。現在ケニアにおいては、未だに経済・社会開発の基盤となる交通・電力・通信等のインフラ整備が不十分であり、かつ劣化が進行している状況である。我が国としては民間投資促進も考慮に入れつつ、ケニア政府の経済財政状況等を慎重に見極めた上で、投資効果の期待できる経済インフラ整備を支援していくことを検討する。特に東アフリカ地域の交通網の拠点として、周辺諸国への波及効果も期待できる運輸・交通インフラ整備やリハビリ、産業活動に欠かせない電力供給の不足を緩和すべく、環境との両立や住民との関係に配慮した上でのエネルギー資源の開発、また、都市や遠隔地等地方レベルにおいては、新しい情報通信技術の利用可能性にも配慮しつつ、情報通信網を重点的に整備していくことが重要である。また、地方の小規模橋梁等、住民の生活に密接に関連した緊急性の高いものも重要である。民間投資促進との関連では、必要に応じて民間セクターと連携して相乗効果を発揮させることも考慮しつつ、また経済成長実現のための潜在的な主体となりうる中小企業の育成や生産性向上、観光振興等についても重視していく。
(ニ) 保健・医療
ケニアにおいて持続的な経済開発の障害となっている高い人口増加率を抑制するため、家族計画・母子保健サービスの拡充や人口教育の必要性は高い。また、近年ケニアにおいてエイズ問題が極めて深刻な社会問題になっている。WHOの報告では、96年末時点におけるHIV感染者数は約130万人と推定され、エイズ患者への医療費の増大、開発の担い手となる労働力の損失や、親が死亡した孤児やストリート・チルドレンの増大につながるものであるため、早急な対応が必要である。エイズ問題については、治療法が確立されていない現在、治療法開発のための研究支援とともに、予防対策としての教育・普及活動や避妊具の供給並びに早期発見のための検査手法の確立が重要である。
我が国としては、他の援助国・国際機関やNGOとの連携に十分に留意しつつ、また周辺諸国への裨益という視点も含め、人口・エイズ問題を中心に、地方レベルへの裨益効果に焦点を充てた医療・保健サービスとの効率的・有機的連携を十分に図りつつ、協力することを検討していく。また保健・医療改善の一環として、安全な水へのアクセス率の向上に資する水質改善についても重要であり、支援を検討していく。
(ホ) 環境保全
地球規模の環境保全は、持続可能な開発のために長期的な視点に立って取り組む必要がある。また、この分野への投資は、時間の経過とともに多額の経費が必要になるため、迅速な対応が効果的であることから、特に援助国と途上国が協力し、共同作業によって推進されるべきものである。
具体的には、近年急激に減少が危惧されている野生生物保護を始めとする生態系の保護、人口増加及び都市化を背景として国土の約8割を占める乾燥地及び半乾燥地が拡大している状況を防ぐための森林の保全・造成及び農地の保全、都市・産業排水や廃棄物の増加に伴う湖沼や河川の汚染に対して、都市衛生環境の整備及び水質保全に資するための上下水道整備等の支援を検討していく。
2001年4月には、政策協議を実施し、「国別援助計画」に基づく我が国の方針を説明するとともに、ケニアにおける開発の現状と課題及び開発計画を確認し、引き続き、上記5分野を中心に支援を行うことで先方政府と合意した。
なお、ケニアは重債務貧困国(HIPC)であることから、債務負担能力を考慮し、今後は無償資金協力・技術協力をより一層活用した支援を検討していく。但し、有償資金協力についても、ケニア政府が自助努力による債務返済への意思を国際的に明確に表明し、新規資金による経済・社会開発を引き続き希望していることを勘案し、個別案件毎にケニアの財政・債務状況、実施体制等を慎重に見極めた上、検討していく。
上記5つの重点分野を実施するに当たっては、援助の効果的・効率的活用の観点から、援助受入体制の強化、NGO、他援助国、国際機関との連携、南南協力推進、債務管理能力の向上、等に留意していく必要がある。また、ODA大綱を踏まえ、汚職問題への取り組みや治安の確保及びIMF・世銀の進める構造調整政策や貧困削減戦略書(PRSP)策定等の経済構造改革に対するケニア側の一層の努力を促しながら、援助を実施していく方針である。
技術協力については、幅広い分野において実施しており、研修員受入れ、専門家派遣、機材供与等の各形態における2000年度までの累計人数・件数はアフリカ域内第1位である。また、「ジョモ・ケニヤッタ農工大学」、「ムエア灌漑農業開発」等のプロジェクト方式技術協力は、無償資金協力とも連携してその効果を挙げている。開発調査についても、農業、運輸等のインフラ整備、鉱工業分野等幅広い分野において実施している。
TICADのフォローアップの観点から98年5月のバーミンガム・サミットにおいて提唱された国際寄生虫対策の一環としての拠点の立ち上げに関し、ケニア中央医学研究所(KEMRI)をアフリカ側の拠点の一つとして人材開発等の南南協力を推進することとしている。また、アフリカ人造り拠点(AICAD)設置構想のモデルケースとしてジョモ・ケニヤッタ農工大学を中心とした人造り活動を行うための協力を推進することとしている。
有償資金協力については、運輸・通信・電力分野等の経済インフラ整備をはじめ、農業分野等を含む幅広い分野に対し協力を行っている。無償資金協力については、農業分野、水供給分野、教育分野、保健・医療分野等の基礎生活分野、経済インフラ分野等で協力を実施している。
また、我が国は、同国の構造調整努力を支援するため、2000年度までに合計348億円の円借款及び合計115億円のノン・プロジェクト無償資金協力を供与した。
援助協調については、ケニアでは経済ガバナンスに関するドナー会合が毎月一回の割合で実施されている。
(2) 2001年度の援助実績
2001年度までの我が国の援助累計実績は、有償資金協力は1,816.99億円でアフリカ域内第1位、無償資金協力は808.79億円で域内第4位(以上交換公文ベース)、技術協力は714.34億円で域内第1位(JICA経費実績ベース)と積極的に協力を行っている。2001年度は、無償資金協力48.23億円(交換公文ベース)、技術協力30.51億円(JICA経費実績ベース)を行った。
無償資金協力については、アフリカ人造り拠点整備、水供給分野、保健分野、食糧援助等の支援を行った。技術協力については、アフリカ人造り拠点、寄生虫症対策、感染症対策、中等理数科教育等への支援を行った。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)2001年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)2001年度実施開発調査案件
(参考3)2001年度実施草の根無償資金協力案件
前ページへ 次ページへ