3.我が国政府開発援助のあり方

(1) アフリカ地域の位置づけ
 アフリカ地域では、近年、複数政党制への移行や自由な選挙の実施等の民主化が進展するとともに、構造調整政策の進展等によって順調な経済成長の向上が見られる国々も増加している。しかしながら、世界経済が拡大する中、一人あたりGNPは同地域のみが80年代初頭以来減少しており、また、同地域の人口の約半分が依然貧困ライン(1日1ドル)以下の生活を送っている。さらに、武力紛争の発生、難民・避難民問題、HIV/AIDSをはじめとする感染症の蔓延等、開発を阻害する深刻な問題を抱える国々も多い。アフリカの過半数の国はLLDCであり、多額の債務を抱えている(いわゆる重債務貧困国、HIPCs:Heavily Indebted Poor Countries)。このようなアフリカ地域における貧困削減と経済成長及び世界経済への統合は、国連やサミットをはじめとする各種国際会議でも議論される等、国際社会全体として取り組む必要のある主要な課題となっており、国際社会において主要な役割を果たそうとする我が国としては、アフリカの開発に積極的に取り組む必要がある。
 こうした認識の下、我が国は、後述する93年の「アフリカ開発会議(TICAD;Tokyo International Conference on African Development)」プロセスを通じ、同地域の持続的開発及び世界経済への統合を国際社会に広く訴えるべくイニシアティブを発揮している。
 具体的に我が国は、社会的弱者に直接裨益する基礎教育、保健、水供給等のいわゆる基礎生活分野、持続的な農業開発に資する分野を中心に積極的に支援を行っている。また、開発政策・行政面も含めた人材育成分野、道路等の基礎的なインフラ分野等に対し支援することが求められている。さらに、アジア・アフリカ三角協力を通じた南南協力の推進や「人間の安全保障」のための取り組みにも努力している。
 また同時に、世界の独立国の約4分の1を抱えるアフリカ諸国の国際政治上の重要性にも鑑み、対アフリカ援助に当たり我が国は、二国間友好関係の強化、多国間外交の場における我が国への支持・協力の確保、アフリカが直面する国際的課題(経済社会開発の促進、平和の定着、緊急人道援助等)に対する貢献といった外交目的の達成を念頭に置くことが重要である。
(2) 我が国のアフリカ向け援助の基本方針
 TICADIIで発表した「東京行動計画」、及び我が国が99年8月に発表した「ODA中期政策」を踏まえて、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行っている。
・貧困対策、社会開発、砂漠化対策等に対する支援
・人材育成及び政策立案、実施能力構築への支援
・アフリカの経済的自立へ向けた民間セクター・工業・農業等の開発への支援(南南協力によるアジアの開発の成果と経験のアフリカへの移転、農業をはじめとする産業の生産力向上に資する基礎的インフラ整備、域内地域協力の促進等)
・アフリカの安定の基盤となる民主化・紛争予防や紛争後の復興に対する支援
・債務負担の軽減に資する支援(支援の決定に当たっては、債務国の構造改革に取り組む姿勢を勘案)
(注) 2003年9月29日から10月1日に東京で開催されたTICADIIIにおいて、小泉総理大臣は「人間中心の開発」、「経済成長を通じた貧困削減」、「平和の定着」を三本柱とする「日本の対アフリカ支援イニシアティブ」を発表した。
(3) アフリカ開発会議(TICAD)
 93年10月、我が国は国連及びアフリカのためのグローバル連合(GCA)との共催で、アフリカ開発会議(TICAD)を開催し、その後のアフリカ開発の指針ともいうべき「東京宣言」を採択した。さらに、「東京宣言」を踏まえつつ、21世紀のアフリカ開発に向け、「貧困削減と世界経済へのアフリカの統合」を基本テーマに、98年10月に、第2回アフリカ開発会議(TICADII)を東京で開催した。同会議は、貧困削減・生活水準の向上のため、アフリカ自身の自主的な取組み(オーナーシップ)に基づく包括的なアプローチを通じてアフリカの潜在力を最大限に活かし、さらに対等なパートナーシップに基づきドナーとアフリカが共同の取組みを進めていくべきとの認識が共有された。このような考え方に基づき、同会議では「21世紀に向けたアフリカ開発:東京行動計画」を採択した。
 同計画では、アフリカ開発を効果的に進めるための基本姿勢として、援助国間の協調の強化、アフリカの域内協力と統合の推進、及び南南協力(特にアジア・アフリカ協力)の拡大を重視することとし、その上で、教育、保健・人口、貧困層支援等の社会開発、民間セクター・工業、農業開発、対外債務問題等の経済開発、及び開発の基盤(「良い統治」の促進、紛争予防と紛争後の開発)を優先分野として、目標を定めつつ具体的な行動を進めていくこととした。また、上記優先分野を実施していく上で、共通の課題として人造り、組織制度作り、女性の社会・経済活動への参画(ジェンダー)、及び環境保全に配慮することとしている。
 2001年12月にはTICADIIの評価とTICADIIIの準備のため、東京でTICAD閣僚レベル会合を開催した。この会合は、成立したばかりの「アフリカ開発に関する新パートナーシップ」(NEPAD)につき重点的な意見交換をする貴重な機会となったほか、重点課題として開発の基盤整備、人への投資、経済成長を通じた貧困削減、及び重点アプローチである南南協力、地域協力、開発のためのITについて議論が行われた。ここでは、「東京宣言」と「東京行動計画」の妥当性が確認され、TICADプロセスの有用性への認識が広く共有されたほか、国際社会が一堂に会してNEPADにつき初めて意見交換を行いNEPADへの理解を深める機会を提供し、開発パートナーがTICADプロセスの強化を通じNEPADを支援する必要があるとの認識が共有された。我が国は、2003年9月末に開催するTICADIIIに向け、その後に開催した準備会合やアフリカ地域会合等で出された多様な意見を取り入れながら、アフリカ自身のイニシアチブによって採択された「アフリカ開発のための新パートナーシップ」(NEPAD)支援のため、国際社会の結集と開発パートナーの拡大を目指していく。
(注) アフリカのオーナーシップの具体化であるNEPADに対する国際社会の支援の結集とパートナーの拡大を目的として、2003年9月末から開催されたTICADIIIは、89カ国、47国際機関からアフリカ23カ国の首脳やコナレAU委員長(元マリ大統領)を含む1,000人以上の参加を得て、我が国の外交史上類を見ないレベルと規模の国際会議となった。
(4) ODA大綱原則のアフリカ諸国における運用状況
 我が国は、ODA大綱において途上国の軍事支出の動向や人権・自由の保障状況等に十分注意を払う旨の考え方を明示しているが、近年、アフリカの多くの国々が、民主化政策を推進するとともに、市場経済導入に向けた構造調整政策を進めており、我が国は、ODA大綱原則の観点からもこれらの諸政策の動向に注目していく必要がある。
 なお、開発途上国は各々多様な経済的・社会的背景を有しているため、西側先進国の政治制度や価値観を一方的に押し付ける形となる政策をとることは必ずしも適当ではない。ODA大綱原則の運用に際しては、開発途上国の努力の動向を注視しつつ、適切な運用を図ることとしている。
(5) 平和の定着
 開発が一定の成果を上げるためには、地域の平和と安定が不可欠である。このためには、紛争終結国による平和の努力を後戻りさせず、平和を着実に定着させることが必要である。紛争当事者間での対話の促進、復旧・復興の妨げとなる対人地雷の除去、紛争の犠牲者に対する支援、難民・避難民の帰還促進、元兵士の地域社会への再統合等を促進することによりアンゴラ、コンゴ(民)、シエラレオネ、リベリア等の紛争終結国の平和の定着に向けた努力を積極的に支援している。
(6) 民主化支援
 開発途上国の民主化促進にあたっては、開発途上国の民主化をより直接的に支援することも重要である。93年1月、アフリカ9カ国の中堅クラスの指導者を招聘して、市場経済化と民主主義の関係、選挙制度等について、我が国の経験、制度等を紹介するための民主化研究セミナーをJICA主催にて開催して以降、これまでに、南部アフリカ地域(94年度/10カ国)、東部アフリカ地域(96年度/6カ国)、仏語圏アフリカ地域(97年度/10カ国)及び英語圏アフリカ地域(98年度/5カ国、99年度/3カ国、2000年度/7カ国)を対象に同様のセミナーを開催した。
 また、近年、複数政党制の下で議会選挙・大統領選挙等を予定している国が、我が国に対して選挙に必要な機材の供与、要員派遣等を要請することが多く見られる。99年度は、ジブチ、中央アフリカの大統領選挙、南アフリカ、マラウイの総選挙、ギニア・ビサオ大統領選挙・国民議会選挙に対して、選挙監視員の派遣、資金協力等を行った。2000年度は、ガーナ大統領選挙・国民議会選挙、ジンバブエ国民議会選挙、エチオピア下院・地方議会選挙、タンザニア大統領・国民議会選挙、ウガンダ国民投票(複数政党制導入の要否)、マダガスカル、マラウイ、南アフリカの地方選挙に対して、選挙監視員の派遣、資金協力を行った。同年度に、南アフリカ警察行政セミナー、アジア極東犯罪防止研修所におけるケニア国設研修を実施するなど、治安確保のための協力を実施している。2002年3月には、国家権力の三権のなかでも、アフリカでは特に肥大化している行政府に対するチェック・アンド・バランス機能である立法府への貢献策を検討するために、ウガンダ・ザンビア・南アフリカへ調査団を派遣した。
(7) 債務救済に対する協力
 アフリカにおいては、脆弱な経済力に加え、構造調整政策に伴う困難、紛争や自然災害等の影響から、深刻な債務返済困難に陥っている国が多い。こうした状況に対し、78年の国連貿易開発会議(UNCTAD)の特別貿易開発理事会(TDB)で開発途上国に対する債務救済措置を行うことが決議されたり、パリクラブ(債務返済困難に直面した債務国に対する二国間公的債務の返済負担軽減措置を取り決める国際的な枠組み)において、債務削減幅が漸進的に引き上げられるなど、国際的にも途上国の債務救済の重要性が指摘されている。
 また、経済構造調整・改革の実績が良好な重債務貧困国(HIPCs、42カ国、そのうちサハラ以南アフリカ諸国33カ国)について、その二国間及び対国際機関の債務負担を持続可能な水準まで低減させることを目的とする「HIPCイニシアティブ」が96年9月に世銀・IMFにより策定されたが、99年6月のケルン・サミットにおいては、これを改善・拡充し、二国間ODA債権の100%削減、非ODA債権の原則90%削減等を行うことにつき合意された(=拡大HIPCイニシアティブ)。対象国はPRSP(貧困削減戦略書)の策定を行い、右戦略に沿った政策の実施が求められている。なお、我が国は2000年4月、ケルン・サミットで合意された枠内で自主的に非ODA債権の削減率を100%まで拡大すること、世界銀行のHIPC信託基金に対し既拠出分とあわせ2億ドルまでの追加拠出を行うこと等の重債務貧困国に対する「追加的措置」を発表した。
 従来より我が国は、LDC諸国に対しては無償資金協力を実施するとともに、パリクラブの国際的枠組みの下での債務救済、債務帳消しと同等の効果を有する債務救済無償資金協力を行ってきた。2001年度は4カ国に対し総額約223.56億円にのぼる債務繰延を実施し、また10カ国に対し総額58.28億円の債務救済無償資金協力を行った。なお、途上国の債務問題のより早期の解決、債務国の負担の軽減、ODAの透明性及び効率性の観点から、2003年度より債務救済無償に代えて国際協力銀行の円借款債務の放棄を実施する。
 また、アフリカ諸国の債務管理能力向上を支援するため、98年10月のTICADIIでは、我が国技術協力による研修事業や、我が国の資金を活用したアフリカ開発銀行(AfDB)やUNDPを通じた人材育成を行うことを発表した。
(8) 地球規模問題に対する協力
 アフリカ諸国における人口増加率は平均3%弱と極めて高い水準にあるが、人口の増加は、生活水準の向上、環境保全に大きな負担をもたらす深刻な問題となっている。また、アフリカ大陸は多様な生物の宝庫であり酸素の供給源ともなる広大な熱帯雨林地帯を有する一方で、サハラ砂漠等の深刻な砂漠化問題にも直面しており、環境保全のために積極的な協力を必要としている。こうした人口増加・貧困・環境劣化が悪循環をなす状態にあるアフリカにおいては、全体としてより効果が高まるよう総合的な視点で協力を検討していく必要がある。
 アフリカの人口は、世界の約1割を占めるにすぎないが、アフリカには世界のエイズ感染者の7割以上に相当する2,900万人が存在するといわれており、その被害は深刻である。このため我が国は、2000年にHIV/AIDSをはじめとする「沖縄感染症イニシアティブ(IDI)」を発表し、2000年から5年間で30億ドルを目処とする協力を行うことを表明している。
 我が国は、ガーナ、ケニア、ザンビアを対アフリカ医療協力の3拠点として、エイズ等感染症対策に関する技術移転や人材育成、国際機関やNGO等を通じた予防・治療プロジェクトの実施、医療施設の整備、孤児対策等を行っている。
(9) 途上国の女性支援(WID/ジェンダー)
 アフリカの食糧生産の8割近くは女性の手に委ねられている(国連統計)等アフリカ開発における女性の役割の重要性は、我が国を含む援助国の共通の認識となっている。我が国は、WID/ジェンダーの視点を念頭に置きつつ、社会全体の持続可能な経済社会開発を目標としているが、アフリカにおけるこの分野の具体的な取組みとしては、93年より実施されているアフリカの女性教師の本邦招聘、アフリカ地域へのWID分野の青年海外協力隊員の派遣が挙げられる。
(10) 他ドナーとの連携強化
 アフリカは、元来歴史的にも地理的にも我が国との関係が希薄であることもあり、案件発掘のための情報収集、協力実施段階におけるきめ細かい配慮、的確なフォローアップ等を十分に行うための協力実施体制の一層の整備に特に配慮する必要がある。同時に、歴史的にも関係が深い欧米諸国や、アフリカ諸国内にもネットワークを有する世銀、UNDP、UNICEF等の国際機関との連携をできる限り図ることが重要である。こうした背景において、我が国は、オーナーシップとパートナーシップの考え方に基づき、開発途上国自身あるいは世銀・UNDP等が主催する援助国会合や現地におけるドナー代表者の会合を通じて、各ドナーとの意見交換を行い、アフリカの多くの国で、貧困削減戦略(PRSP)やセクター・ワイド・アプローチ(SWAPs)に基づくドナー連携に取り組んでおり、当該国に対する整合性のとれた援助の実施に努めている。また、二国間レベルでは、米、英、仏等主要なドナー国との間で政策対話を行うと共に、特定の国・分野において、それぞれの比較優位を生かす形で、援助協調を実施している。例えば、米国とは「保健分野における日米パートナーシップ」を進めているほか、フランスとの間では、タンザニアの「キルワ遺跡修復・保存計画」における協力を行っている。また、英国との間では、シエラレオネにおいてコミュニティー再統合計画を日英合同で支援している。
(注1) PRSPは、99年に世銀及びIMFにより導入されたもので、被援助国政府のオーナーシップの下、幅広い関係者(ドナー・国際機関、市民社会、NGO、民間セクター等)が参画して作成する貧困削減に焦点を当てた、その国の重点開発課題とその対策を包括的に述べた3年間の経済・社会開発戦略書である。なお、PRSPは、拡大HIPCイニシアティブに基づく債務救済措置の適用のための条件の一つとなっている。
(注2) SWApsの主眼は、希少な援助資金の効率的な運用のために、被援助国が主体的に各セクターの開発計画(プログラム)を立案する一方、各ドナーは各々の援助を右計画に沿って実施し、ドナー間の援助調整をより効率的かつ効果的な開発を進めることにある。我が国はアフリカの中でもこれらSWApsが相当程度進んでいるガーナ、タンザニア、ザンビア等の保健、教育分野等を中心に積極的に関与することとしている。

表―10 アフリカ地域に対する我が国の二国間ODA形態別・国別・年度別実績
 (1) 有償資金協力
 (2) 無償資金協力
 (3) 技術協力

前ページへ 次ページへ