アクション・フロム・ジャパン |
1.基本的視点 | |
(1) 紛争は開発上の重要課題 | |
冷戦の終焉後頻発する紛争は、一人一人の人間の生命や生活、尊厳のみならずそれを支える経済・社会基盤など開発の成果を損ない、更には難民・国内避難民の発生、放置された対人地雷による被災など、紛争後の復旧・復興、そして、その後の開発を困難とする様々な問題を引き起こす。 | |
(2) 開発は紛争の各段階に関連 | |
開発協力の中で、貧困や経済格差といった紛争の要因となる課題に積極的に取り組むことは、紛争の予防にも資する。 また、紛争発生時には、緊急人道支援による紛争国の被災民に対する支援に加え、紛争国からの難民の流入等に直面する紛争周辺国への支援にも考慮する必要がある。 さらに、紛争終結後には、復旧・復興に向け、開発協力が重要な役割を果たす。特に、紛争の再発防止の観点より、緊急人道支援からその後の復興開発協力へのスムーズな移行を確保し、その間の空白、(ギャップ)を極力解消することが重要となる。 | |
(3) 国際機関・NGOとの連携・協力
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紛争の予防・解決・再発防止には、国際社会が一致してこれに当たる必要があるが、その一翼を担う開発協力の実施に当たっても、関連国際機関や他のドナー、更には国内の民間部門やNGOとの連携・協力が不可欠である。特に、機動性に優れ、現地の草の根レベルでのニーズに柔軟な対応が可能なNGOの役割は大きく、その活動を積極的に支援していく必要がある。 | |
2.対応の原則 | |
(1) 紛争予防の重視 | |
一旦紛争が発生した場合、紛争国にもたらされる人的・物的損害の大きさ及び緊急人道支援、復旧・復興に要するコストの大きさに鑑みれば、紛争予防の観点からの開発協力を重視することが効果的・効率的である。援助案件の立案・実施・評価にあたっては、紛争予防の視点に配慮するとともに、紛争予防に直接貢献する案件を積極的に取り上げていく。特に被援助国国民の意思疎通及び民主主義の基盤の強化に留意する。 | |
(2) 迅速な対応 | |
紛争は、多くの場合、多数の難民・国内避難民を発生させ、食糧不足、貧困、病気の蔓延など様々な問題を引き起こし、時の経過とともに解決への困難が増すことから早期の対応が必要となる。特に、緊急人道支援においては、可能な限り迅速に支援を進めることとし、そのためNGOとの迅速な連携を強化する。 | |
(3) 一貫性のある支援 | |
紛争後の復旧・復興支援では、我が国は帰還民の生活再建支援、治安やガヴァナンス(統治)の回復・強化のための制度構築に向けた支援、経済基礎インフラや医療・教育等の社会開発分野における開発計画の策定や復旧・整備など、多岐にわたる支援を実施しているが、さらに復旧・復興計画の策定段階に積極的に参画していくとともに、現地のニーズを踏まえて中・長期的視点から人づくり、国づくりに必要な支援を行っていく。 | |
(4) ギャップの解消 | |
緊急人道支援から復旧・復興支援、本格的な開発支援へと開発協力を円滑に進めることができないと、紛争の再発や難民・国内避難民の再発生を招きかねない。国際社会においては、緊急人道支援と復興への開発協力では中心となる協力主体が変わることもあり、この間に空白(ギャップ)が生じやすい。このギャップを埋めるための国際的努力に我が国としても積極的に参画し協力を進める。 | |
3.具体的施策 | |
(1) 紛争予防に資する支援 | |
平和・安定を維持している国であっても、貧困や経済・社会的な格差が多民族・多宗教の存在などとともに紛争の要因となりうることから、公平な社会の実現に向けて貧困削減・社会開発のための支援に重点を置く。また、民主主義、法制度整備、市場指向型の経済運営といった「ガヴァナンス(統治)」への支援が、紛争のない安定した公平な社会造りの礎となることから、ガヴァナンス強化のための人づくり、制度づくりに対し支援を強化する。 国内の対立が先鋭化し、現地の治安、安全状況が悪化した場合においても、可能な限り、国際機関、NGO等を通じた支援の継続の可能性を追求する。こうした状況での支援は、対立の当事者が共同で参画し双方の利益となるものを優先的に実施し、当事者同士の共存・意思疎通の回復による対立の緩和を図る。 | |
(2) 紛争再発防止のための復興・開発支援 | |
除隊兵士の社会復帰や帰還兵の再統合、難民帰還等の前提となる対人地雷除去など紛争再発防止に対する支援を強化する。紛争の手段となる小型武器の規制・削減と治安の安定化とに資する支援を行う。 特に、復興の大きな障害となっている対人地雷の除去活動については、我が国の対人地雷に関する「犠牲者ゼロ・プログラム」を念頭に置きつつ、政府間協力に加え、草の根無償資金協力を活用(注1)した、より積極的なNGO支援等をも実施していく。 また、上記(1)の「ガヴァナンス」支援を重点的に行い、対立を先鋭化させず平和・安定を永続できる社会制度の構築に努める。 さらに、紛争地域において各当事者間の融和を図ることが、紛争の再発防止に資することから、当事者に等しく裨益する域内を対象とした協力への支援を重視する。 なお、社会内での対立を平和裡に解決し、社会再統合を進める上で民主主義の健全な機能が重要であることに鑑み、我が国の「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD)」に基づきつつ、我が国及び他国の近代化・民主化の経験等を紹介する民主化セミナーの開催をはじめとする民主化支援への取組みを強化して行く。 | |
(3) NGOへの支援の強化 | |
我が国NGOの緊急人道支援活動への関心の高まりを踏まえ、これまで関係国際機関を通
じ、あるいは直接に我が国NGOの関連活動を支援してきたが、我が国NGOによる「顔の見える援助」の重要性に鑑み、すでに実施中の「NGO緊急活動支援無償」(注2)など我が国NGOへの支援策の拡充・改善を進める。 また、紛争の予防や再発防止においては、対立(紛争)当事者間の橋渡しをできるネットワークやノウハウを有するローカルNGOや国際NGOの役割に留意し、支援を行う。 さらに、我が国NGOと国際NGOとの間での人的交流(注3)の強化等による経験・ノウハウ等の共有を通 じた能力強化など、我が国NGOの組織強化を支援して行く。 | |
(4) 緊急人道支援における民間・NGOとの連携 | |
緊急人道支援を我が国国民の幅広い参加により効果的に実施できるよう、NGO・民間企業・メディア等が連携しつつ活動を行うための環境整備に寄与していく。特に、紛争発生時にNGOが行う初動調査や、事業立ち上げの段階で必要となる情報、資金、ノウハウ、応急救援物資、通信機器・車両の機材等の手当を、政府及び民間が協力して実施できるよう支援する。 また、NGOの緊急支援活動や国際機関との連携を初動段階で支援し得るよう、政府・NGO合同の調査団を迅速に派遣できるシステムを検討する。 こうした観点から、「ジャパン・プラットフォーム構想」(注4)にも積極的に関与するとともに、支援を検討する。 | |
(5) 緊急復興計画の策定に向けた支援 | |
紛争後の復旧・復興計画の迅速な策定、並びに緊急人道支援と復旧・復興支援の間のギャップの解消及び切れ目のない援助の実施を確保するために、NGOも含めた形での調査団(注5)を現地に早急に派遣するとともに、復旧・実行計画の策定及びパイロット事業の実施(注6)を行うことを検討していく。 | |
(6) 調査・評価と知識の共有 | |
紛争予防・再発防止に果たす開発援助の役割について具体的なケースを対象として評価を実施し(例えばカンボディア)、その意義・メリットを広く伝える。 | |
(7) 人材育成 | |
紛争に伴い難民、国内避難民が発生した場合に、効果的かつ迅速に緊急人道支援を行うためには、所要の訓練と人材の育成が不可欠である。そのため、アジア・大洋州地域のNGOを中心とする関係者を対象にしたトレーニングへの支援を行う(UNHCRが「アジア・大洋州地域国際人道支援センター」計画を策定)。UNHCRの「センター」計画に対しては通 信教育や講習会等を行う経費に対する「人間の安全保障基金」からの拠出を積極的に検討する。 |