4.グローバルな情報社会に関する沖縄憲章

  1. 情報通信技術(IT)は、21世紀を形作る最強の力の一つである。その革命的な影響は、人々の生き方、学び方、働き方及び政府の市民社会とのかかわり方に及ぶ。ITは、世界経済にとって極めて重要な成長の原動力に急速になりつつある。ITは、また、世界中あらゆるところにおいて、多くの進取の気質を持つ個人、企業及び地域社会が一層の効率性と想像力をもって経済的課題及び社会的課題に取り組むことを可能にしつつある。我々すべてが活かし、分かちあうべき大いなる機会が存在する。

  2. ITにより推進される経済的及び社会的変革の本質は、個人や社会が知識やアイデアを活用することを助ける力にある。我々が考える情報社会のあるべき姿は、人々が自らの潜在能力を発揮し自らの希望を実現する可能性を高めるような社会である。この目的に向けて、我々は、ITが持続可能な経済成長の実現、公共の福祉の増進及び社会的一体性の強化という相互に支えあう目標に資するよう確保するとともに、民主主義の強化、統治における透明性及び説明責任の向上、人権の促進、文化的多様性の増進並びに国際的な平和及び安定の促進のためにITの潜在力を十分に実現するよう努めなければならない。これらの目標を達成し新たに生起しつつある課題に対処するためには、効果的な国家的及び国際的戦略が必要とされる。

  3. これらの目的を追求するにあたり、我々は、すべての人がいかなるところにおいてもグローバルな情報社会の利益に参加可能とされ、何人もこの利益から排除されてはならないという参加の原則に対するコミットメントを新たにする。この社会の強靭性は、情報及び知識の自由な流れ、相互の寛容性、多様性の尊重といった、人間の発展を促進する民主的価値に依存する。

  4. 我々は、競争と革新を促すための適切な政策及び規制の環境の強化、経済面及び金融面での安定の確保、グローバルなネットワークの最適化のための利害関係者間の協調の促進、ネットワークの健全性を損なう濫用の防止、情報格差の解消、人材への投資並びにグローバルなアクセス及び参加の促進のための政府の努力を前進させるにあたり、リーダーシップを発揮する。

  5. とりわけ、この憲章は、官民のすべての人に対し、国際的な情報・知識格差の解消を呼び掛けるものである。IT関連の政策及び行動の堅固な枠組みは、社会的及び経済的機会を世界的に促進しつつ、我々の互いのかかわり方を変え得る。共同の政策協力を通じたものを含め、利害関係者間の効果的なパートナーシップも、また、真にグローバルな情報社会の健全な発展の鍵である。

    ITが提供する機会(デジタル・オポチュニティ)の活用

  6. 競争を刺激し、生産性の向上を促進し、経済成長及び雇用を創造し、持続させる上でのITによる潜在的な利益には大きな可能性がある。我々の任務は、情報社会への移行を促進し、円滑化することのみならず、その経済的、社会的及び文化的な利益を十分に享受することである。これを達成するために、以下の主要な基盤を拡充することが重要である。
    ●適応性のある労働市場、人材養成及び社会的一体性に焦点を当てた政策に支えられた、開放性、効率性、競争及び革新の環境を促進するための経済改革及び構造改革。
    ●企業及び消費者が自信を持って将来の計画を立て、新しい情報技術の利益を利用するのに資する健全なマクロ経済運営。
    ●競争的な市場環境並びにネットワーク技術、サービス及びアプリケーションの分野での関連技術革新を通じた、迅速で、信頼性があり、安全かつ手ごろな価格でのアクセスを提供する情報ネットワークの構築。
    ●教育及び生涯学習を通じた、情報化時代の要請に応えうる人材の養成及び我々の経済の多くの分野におけるIT専門家に対する需要の増大への対処。
    ●すべての国民による政府へのアクセスの改善を確保する上で不可欠な、公的部門によるITの積極的利用及びサービスのオンラインでの提供の推進。

  7. 情報社会における情報通信ネットワークの発達に関しては、民間部門が主導的な役割を果たす。しかし、情報社会に必要な、予測可能で透明性が高くかつ差別的でない政策及び規制の環境を整備することは、政府の役割である。ITを促進するような環境を創り出すに当たっての民間部門の生産的なイニシアティブを妨げるような不当な規制的介入を避けることが重要である。 我々は、官民の間の効果的なパートナーシップの原則、透明性の原則及び技術的中立性の原則を考慮に入れつつ、ITに関連するルール及び慣行が経済的取引における革命的変化に対応しうることを確保すべきである。ルールは、予測可能で、企業及び消費者にコンフィデンスを与えるものでなければならない。情報社会の社会的及び経済的な利益を最大化するために、我々は、次の主要な原則及びアプローチに合意するとともに、他国に対しこれらを推奨する。
    ―基本電気通信のための差別的でなくかつ原価に照らして定められる相互接続を含む、情報技術並びに電気通信関連の製品及びサービスの供給市場における競争の促進及び市場開放を継続する。
    ―ITに関連する革新、競争及び新しい技術の普及を促進するためには、IT関連技術の知的所有権の保護が枢要である。我々は、知的所有権関係当局の間で既に行われている共同作業を歓迎するとともに、我々の専門家に対し、この分野における将来の方向について議論することを更に奨励する。
    ―政府が知的所有権の保護を完全に遵守しつつ、ソフトウェアを使用することについてコミットメントを新たにすることも重要である。
    ―電気通信、運輸及び小包配達を含む多くのサービスが情報社会・経済にとって決定的に重要であり、その効率性を向上させることにより利益が最大化する。税関やその他の貿易に関する手続きもITを促進するような環境を強化する上で重要である。
    ―強固な世界貿易機関(WTO)の枠組み、WTO及び他の国際的なフォーラムにおける電子商取引に関する作業の継続、並びに既存のWTOの貿易規律の電子商取引への適用といった文脈の下に、ネットワークや関連するサービス及び手続きに関する更なる自由化及び改善を推進することによって、国境を越えた電子商取引を促進する。
    ―中立、公平、簡素などの伝統的な原則及び経済協力開発機構(OECD)の作業において合意されたその他の主要な要素に基づいた、電子商取引に対する課税に関する一貫性のあるアプローチ。
    ―次回のWTO閣僚会議における見直しを条件として、電子送信に関税を賦課しないという慣行を継続する。
    ―互換性のある技術標準などを含む、市場主導型の標準の推進。
    ―OECDのガイドラインに従って電子市場に対する消費者の信頼を推進し、オンライン行動規範、トラストマーク及びその他の信頼性プログラムのような効果的な自主的規制イニシアティブによるものも含め、オンラインの世界においてオフラインの世界と同等の消費者保護を提供するとともに、裁判外紛争解決制度の利用を含め、国境を越えた紛争において消費者が直面する困難を軽減するための方途を検討する。
    ―情報の自由な流れを保護しながら、効果的で意味のある消費者のプライバシーの保護及び個人情報の処理におけるプライバシーの保護を構築する。
    ―取引の安全性及び確実性を確保するための、電子認証、電子署名、暗号及びその他の手段の更なる開発及びその効果的な機能。

  8. グローバルな情報社会を構築するための国際的な努力には、犯罪のない安全なサイバー空間を強化するための協調行動が伴わなければならない。我々は、サイバー犯罪と闘うために、情報システムの安全のためのOECDガイドラインに示されている効果的な措置が実施されることを確保しなければならない。国際組織犯罪に関するリヨン・グループの枠組みにおけるG8の協力は強化される。我々は、最近の「G8パリ会合:サイバー空間における安全性と信頼性に関する政府と産業界との対話」の成功を基礎として、産業界との対話を更に推進する。ハッキングやウィルスといった安全性に関する緊急な問題についても効果的な政策的対応を必要とする。我々は、枢要な情報基盤を保護するために産業界及びその他の利害関係者との関与を継続する。

    情報格差(デジタル・ディバイド)の解消

  9. 国内及び国家間の情報格差の解消は、我々それぞれの国民的課題の中で決定的に重要性を帯びるに至っている。誰もが情報通信ネットワークへのアクセスを享受しうるべきである。我々は、この問題に取り組むための一貫した戦略の策定及び実施のために、現在進められている努力へのコミットメントを再確認する。我々は、また、格差の解消の必要性に関する産業界及び市民社会の認識の高まりを歓迎する。産業界及び市民社会が有する専門知識及び資源を動員することは、我々がこの課題に対応するにあたって不可欠の要素である。我々は、急速な技術及び市場の発展に対応しうるような、政府と市民社会の間の効果的なパートナーシップを引き続き追求する。

  10. 我々の戦略の主要な構成要素の一つは、すべての人々によるかつ手ごろな価格でのアクセスに向けての継続的な取り組みでなければならない。我々は次のことを継続する。
    ●手ごろな価格での通信サービスの供給に資するような市場環境を促進すること。
    ●一般に利用可能な設備を通じたアクセスを含む、他の補完的手段を探求すること。
    ●特にサービスの行き届いていない都市部、農村地域及び遠隔地域におけるネットワークへのアクセスの改善を優先すること。
    ●社会的に恵まれない人々、障害者及び高齢者のニーズ及び制約に特に注意を払い、これらの人々のアクセス及び利用を促進するための措置を積極的に追求すること。
    ●携帯端末を通じたインターネットへのアクセスを含む、「利用者に優しい」、「バリアフリー」な技術の更なる開発を奨励すること、及び、無料かつ一般に利用可能なコンテンツを知的所有権を尊重した形でより幅広く利用することを奨励すること。

  11. 情報社会の前進のための政策は、情報化時代の要請に応えうる人材の養成によって支えられたものでなければならない。我々は、教育、生涯学習及び訓練を通じて、すべての市民に対し、IT関連の読み書き能力及び技能を育む機会を提供することにコミットしている。我々は、学校、教室及び図書館をオンライン化し、教員をIT及びマルチメディア情報源に関して習熟させることにより、この意欲的な目標に向けて引き続き取り組んでいく。中小企業及び自営業者がオンライン化し、インターネットを効果的に利用するようにするための支援及びインセンティブの提供を目的とした措置も追求する。我々は、また、特に他の方法によっては教育及び訓練を得られなかった人々に対して革新的な生涯学習の機会を提供するためのITの利用を奨励する。

    全世界的参加の推進

  12. ITは、新興市場諸国及び開発途上国にとって非常に大きな機会を提供する。ITの潜在性を利用することに成功する国は、インフラ開発に関する従来の障害を乗り超え、貧困削減、保健、衛生、教育のような極めて重要な開発目標をより効果的に満たし、世界的な電子商取引の急成長から利益を得ることを期待しうる。いくつかの開発途上国は、それらの分野において既に著しい進展を見せている。

  13. しかしながら、国際的な情報・知識格差を解消するという課題は過小評価できない。我々は、多くの開発途上国がそのことに優先度を与えていることを認識する。実際、IT革新の加速的進展についていけない開発途上国は、情報社会・経済に十分に参加する機会を享受できないかもしれない。このことは、電力、通信、教育のような基礎的な経済・社会インフラ面での現存する格差がITの普及を妨げる場合に、特に当てはまる。

  14. この課題に応えるに際して、我々は、開発途上国の多様な条件やニーズを考慮に入れるべきであることを認識する。解決のための「万能薬」はない。IT促進的で、競争促進的な政策及び規制の環境を築き、開発目標及び社会的一体性の追求に向けてITを利用し、IT技術を持った人材を開発し、そして地域社会イニシアティブ及び域内の企業家精神を奨励するための、首尾一貫した国家戦略の採用を通して、開発途上国が主体的に取り組むことが決定的に重要である。

    今後の進むべき道

  15. 国際格差を解消するための努力にとっては、我々の社会でもそうであるように、すべての利害関係者の間の効果的な協力が非常に重要である。二国間並びに多国間による援助は、ITの開発のための枠組み条件づくりに引き続き大きな役割を果たすであろう。国際開発金融機関、特に世界銀行を含む国際金融機関は、成長を促進し、貧しい人々に利益をもたらすとともに、相互接続性、アクセス及び訓練を拡大する計画を策定し実施することによって、この点における貢献を行うことができる格好の立場にいる。国際電気通信連合(ITU)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、国連開発計画(UNDP)及びその他の関連国際フォーラムもまた、重要な役割を有している。民間部門は、依然としてITを開発途上国へ普及させる上での中心的な存在であり、情報格差を解消するための国際的な努力に重要な貢献を行うことができる。NGOは、草の根地域に達することのできる特有の能力を備えており、人材開発及び地域開発に有効に貢献できる。要するに、ITは世界規模の広がりを見せており、したがって世界規模の対応を必要としている。

  16. 我々は、二国間の開発援助、国際機関や民間団体によって既に進行中である、国際情報格差を解消するための努力を歓迎する。我々は、また、世界経済フォーラム(WEF)のグローバル・デジタル・ディバイド・イニシアティブ、電子商取引グローバル・ビジネス・ダイアログ(GBDe)そしてグローバル・フォーラムのような民間部門からの貢献を歓迎する。

  17. 知識に基づいた世界経済という文脈におけるITの役割に関する国連経済社会理事会(ECOSOC)の閣僚宣言において強調されているように、開発途上国とのIT関連の計画や事業の効果を高め、また「最良の慣行」を集め情報格差を縮小させるのに役立つべくすべての利害関係者から利用可能な資金を動員するために一層の国際的な対話と協力が必要とされている。G8は、先進国、開発途上国、民間企業及びNGOを含む市民社会、財団及び教育機関、国際機関の間のより強固なパートナーシップの創設を推進するために努力する。我々は、また、開発途上国が、他の利害関係者と協力して、ITにとってより良い環境並びにITのより良い利用方法を生み出すために、金融面、技術面、政策面での貢献を手にすることができるように努力する。

  18. 我々の努力をより広範な国際的アプローチに統合するため、我々は、デジタル・オポチュニティ作業部会(ドット・フォース)を設立することに合意する。この目的のため、ドット・フォースは、利害関係者の参加を確保する最善の方法について検討するためにできるだけ早く会合を持つ。このハイレベルの作業部会は、他のパートナーと緊密に協議しつつ、また、開発途上国のニーズに対応するようにしつつ、次のことを行う。
    ●政策、規制及びネットワークの環境整備を促進し、相互接続性を向上させ、アクセスを拡大させ費用を引下げ、人材を育成し、世界的な電子商取引ネットワークへの参加を奨励するとの観点から、国際協力を推進するため、開発途上国、国際機関及びその他の利害関係者との議論を積極的に促進する。
    ●IT関連の試験的な計画及びプロジェクトにおける協力のためのG8自身による努力を奨励する。
    ●パートナー間のより緊密な政策対話を推進し、課題と機会についての一般の認識を世界的に向上させるようにする。
    ●グローバル・デジタル・ディバイド・イニシアティブによる貢献などの民間セクター及びその他の関心を有するグループからの提言を検討する。
    ●我々のジェノバでの次回会合までに、結果及び活動について我々の個人代表に報告する。

  19. これらの目的を追求するため、ドット・フォースは、以下で特定された優先事項に関して具体的な措置をとるための方法を探求する。
    ●政策、規制及びネットワークの環境整備の促進
    ―競争促進的かつ柔軟で社会参加型の政策及び規制の環境を推進するため、政策助言及び地域的なキャパシティ・ビルディングを支援する。
    ―開発途上国とその他のパートナーの間の経験の共有を促進する。
    ―貧困削減、教育、国民の保健、文化などの幅広い分野を含む開発努力におけるITのより効果的かつ一層の活用を奨励する。
    ―参加型の政策策定に関する新たな手法の検討を含む良い統治を推進する。
    ―インフォ・デブなどの協力計画に関し、知的・財政的資源を集めるための国際開発金融機関(MDB)及びその他の国際機関による努力を支援する。
    ●相互接続性の向上、アクセスの拡大及び費用の引下げ
    ―政府、国際機関、民間セクター及びNGOがかかわる「パートナーシップ」アプローチに特に重点を置きつつ、情報通信基盤を改善するための資源を動員する。
    ―相互接続にかかる開発途上国側の費用を削減する方法について作業を行う。
    ―各般のコミュニティ・アクセス計画を支援する。
    ―開発途上国における個別の要求に対応した技術及びアプリケーションの研究開発を奨励する。
    ―ネットワーク、サービス及びアプリケーションの相互運用性を改善する。
    ―様々な母国語によるコンテンツの開発を含め、地域密着型で有益なコンテンツの製造を奨励する。
    ●人材の育成
    ―IT技能の開発に特に重点を置きつつ、基礎教育並びに生涯学習の機会の増加に焦点を当てる。
    ―IT並びにその他の関連する政策分野及び規制課題における訓練を受けた専門家層の形成を支援する。
    ―遠隔地学習及び地域的な訓練を含め、技術協力の伝統的な範囲を拡大する革新的なアプローチを開発する。
    ―学校、研究施設及び大学を含め、公的施設及び地域社会のネットワークを構築する。
    ●世界的な電子商取引ネットワークへの参加の奨励
    ―開発途上国における新規企業に対する助言の提供、並びに、効率性及び新たな市場へのアクセスを改善するために企業がITを使用することを手助けするための資源の動員を通じ、電子商取引に関する環境整備と利用の状況を評価し、向上させる。
    ―「ゲームのルール」が作り出される際に、それらが開発努力と矛盾しないことを確保するとともに、これらのルールの決定に際して開発途上国が建設的な役割を果たすための能力を構築する。

5.沖縄感染症対策イニシアティブ

平成12年7月 外務省

1.基本理念
(1) 開発の中心課題としての感染症への対処
 
 感染症(*1)は、単に途上国住民一人一人の生命への脅威という保健上の問題にとどまらず、今や途上国の経済・社会開発への重大な阻害要因(*2)となっている。特に、貧困層への影響は甚大であり、途上国における急速な人口増加、貧困、性別 (ジェンダー)(*3)による格差、脆弱な保健医療システム、予防・看護・治療サービスの不備、安全な水供給の欠如、栄養不良等の問題が感染の危険を高めており、また、健康の悪化が貧困を深刻化させるという悪循環についても断ち切る必要がある。感染症対策は、途上国の開発、特に貧困削減計画の中心課題の一つである。
(2) 地球的規模での連携と地域的対応
 
 感染症問題は地球規模の問題として捉え、地球規模での連携(パートナーシップ)をもって取り組む必要がある。他方、感染症対策を効果 的に実施するためには、プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)(*4)の理念に基づいた地域レベルでの対応が必要であり、地域開発の促進(community development)を目指した包括的なプログラムの中に感染症対策を有機的に組み込んでいくことが重要である。
(3) 公衆衛生活動と連携させた日本の経験と役割
 
 日本が世界の感染症対策に積極的に貢献することは、途上国の人々の健康を守るだけではなく、ひいては日本国民の健康にも関係する。日本は戦後、保健所制度の確立、保健婦の育成、母子保健の普及、学校保健の徹底等により、戦後の短期間で乳幼児死亡率を減少させるなど大きな効果 をあげた。感染症、寄生虫症対策についても多大の努力を行い、例えば、戦後の公衆衛生活動と連携した結核対策により結核による死亡を激減させた。沖縄自身においても、マラリアやフィラリア等の疾患の撲滅に成功した歴史を有している(*5)。このような取組みの原点に立って、日本の経験を途上国において応用、普及する支援の方策に努める。その際、近年著しい進歩を遂げている情報通 信技術(IT)の可能性を踏まえ、遠隔医療の活用を進めていく。
2.感染症対策の方針

 上記の基本理念を踏まえ、以下の方針に沿って協力を進める。
●途上国の主体的取組み(オーナーシップ)強化
 
―途上国による主体的な取組み(コミットメント)の強化・支援
―政策対話と保健制度・政策等のソフト面での協力
―コスト・リカバリーの観点からみた持続可能な保健・医療セクター改革
●人材育成
 
―途上国の感染症専門家・公衆衛生専門家の育成
―日本人専門家との連携
●市民社会組織、援助国、国際機関との連携
 
―本邦・現地NGO、国際NGO等との連携によるきめの細かい対応
―援助国、WHO、UNAIDS等国際機関との連携強化
●南南協力
 
―途上国同士の知見・経験の交流支援
―日本を含めた先進国・途上国における成功例や教訓の共有
●研究活動の促進
 
―感染症に関する世界の研究機関間のネットワーク構築に向けての支援
―貧困層に裨益すべく貧困国の感染症研究活動の推進
―ワクチン研究・開発に向けた国際協調の推進>
●コミュニティレベルでの公衆衛生の推進
 
―基礎教育における学校保健を通じた支援
―安全な水供給の確保
―地域保健の機能強化

3.我が国の支援する主な感染症対策

HIV/AIDS
 
―途上国間の知見の共有:南南協力(ソーシャル・ワクチン(*6)対策の成功例(タイ等)の他国への応用)
―避妊具や安全な注射器の供給などの予防施策及び治療薬配布に関連した支援
―リプロダクティブヘルス(*7)と連携した若者に対する教育・啓発プログラム
―エイズ孤児に対するケア及びカウンセリング
―母子感染対策、ハイリスク・グループ(性産業従事者、長距離トラック運転手等)対策
―安全な血液の供給
―ワクチン開発に係る国際的な努力への協調
―HIV/AIDS・結核重複感染対策
●結核
 
―DOTS(直接監視下投薬)(*8)戦略の拡大及び着実な実施:
WHO西太平洋地域における結核対策の推進
―多剤耐性結核(*9)に対するDOTSプラスの開発(調査、耐性検査、監視)
―PHCに基づいたDOTSのアクセスや効果改善のための実践的研究
●マラリア・寄生虫
 
―WHOのロールバック・マラリア・イニシアティブ(*10)と連携し、国際寄生虫対策としての「橋本イニシアティブ」(*11)推進
―南南協力(例:メコン・プロジェクト(*12)
―マラリア疫学調査(サーベイランス)
―マラリア対策の評価のための調査・研究(オペレーション・リサーチ)
―安全な水供給の確保
●ポリオ
 
―西太平洋地域のポリオ野生株根絶確認
―南アジア、アフリカ地域におけるポリオ根絶に向けた協力強化

4.ODAを通じた感染症対策支援の強化

 上記2.及び3.の協力を積極的に進めるため、「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブG02)」(*13)をも踏まえ、各援助スキームにおける感染症分野及び右に関連する社会開発分野への協力の取組みを強化することとし、無償資金協力、技術協力を中心に、また、相手国のニーズを踏まえ、必要に応じて、円借款による支援の可能性についてもその役割に留意しつつ検討していくこととする。具体的には、一般 無償(子供の福祉無償を含む)、草の根無償、JICA開発福祉支援事業、JICA開発パートナーシップ事業、技術協力、開発調査、国際機関への拠出等を活用して、個別 の感染症対策支援、公衆衛生の増進、研究ネットワーク構築、初等・中等教育、水供給等の分野での協力を強化することとし、今後5年間で総額30億ドルを目途とする協力を行う。
 また、感染症分野における支援を地域の人々まで行き亘らせるためには、途上国におけるNGOの役割が重要であり、国連に設置された「人間の安全保障基金」を活用して協力を行っていく。


沖縄感染症対策イニシアティブ【注釈】

(*1)主な感染症

(*2)感染症の開発への影響
 HIV/AIDSについて言えば、労働人口の感染死亡の結果、個人レベルでの種々の苦難、医療負担による家計収入への影響のみならず、国家レベルでも人的損失による平均余命の低下、孤児の増加、社会構造の変化、マクロ経済・財政等に大きな影響を及ぼしている。例えば、サブ・サハラ・アフリカでは生まれつつある中産階級に打撃を与えているため、国造りそのものを阻害している。

(*3)ジェンダー
 各々の社会で共有されている価値観や、各個人の考え方などによって規定される「社会的・文化的な(男女)性差」。

(*4)PHC
 1978年の「PHCに関する国際会議(アルマ・アタ会議)」でWHOとUNICEFにより提唱された概念。地域社会に住む誰もがその発展の程度に応じた負担で身近に利用でき、科学的にも適正かつ社会的にも受け入られているやり方に基づいた人々の暮らしに欠くことのできない保健医療。


(*5)沖縄におけるマラリア、フィラリア対策
 公衆衛生的アプローチの結果、沖縄のマラリアは1962年に新規発生ゼロ、フィラリアは1978年に防遏に成功している。

(*6)ソーシャル・ワクチン
 HIV感染率を抑えたタイが90年代に実施した予防教育、避妊具使用の徹底化、地域住民の啓発などを組み合わせた総合的なパッケージ。

(*7)リプロダクティブ・ヘルス
 性と生殖に関する健康。人口・家族計画問題を基礎保健医療、エイズ対策、初等教育、女性の権利などとの関連で捉える包括的な概念。

(*8)DOTS
 DOTS(Directly Observed Treatment, Short Course:短期化学療法を用いた直接監視下治療)

(*9)多剤耐性結核
 抗結核薬の乱用により抗体をもち、薬に対し耐性を持つ結核。

(*10)ロールバック・マラリア
 WHOの推進するマラリア対策イニシアティブ。包括的な保健システムの構築、2010年までにマラリアによる負担の50%削減、多剤耐性菌対策等を目的とする。

(*11)国際寄生虫対策(「橋本イニシアティブ」)
 98年のバーミンガム・サミットにおいて、橋本総理(当時)は、国際寄生虫対策を効果 的に進めるために、アジア(タイ)とアフリカ(ケニア及びガーナ)に「人造り」と「研究活動」のための拠点をつくり、WHO及びG8諸国とも協力して、このような拠点を中心とした国際的ネットワークを構築し、寄生虫対策の人材育成と情報交換を推進していくべきことを提案。98年10月のアフリカ開発東京会議(TICAD02)において、これら拠点を人材育成などの南南協力の推進拠点とする旨表明し、現在、この拠点づくりに向けた準備を進めている。

(*12)メコン・プロジェクト
 メコン川流域6ヶ国(中国雲南省、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジディア、ヴィエトナム)を対象とするマラリア対策。WHOの進める「ロールバック・マラリア(*10参照)」の下、WHO、UNICEF、UNDP、ADB等の国際機関と日本を含む主要援助国が協調してマラリラ対策を進めている。

(*13)「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(G02))」
 94年2月、我が国の独自のイニシアティブとして発表。94年度から2000年度までの7年間にODA総額30億ドルを目途に人口・エイズ分野に対する援助を推進していくもの。G02の実施においては、リプロダクティブ・ヘルスの視点を踏まえ、人口・家族計画等に直接資する協力に加え、基礎保健医療、初等教育、女性の地位 向上等を含めた包括的アプローチをとっている。また、その実施に当たり、「日米コモン・アジェンダ」の枠組みの下、日米連携を図るとともに、NGOとの連携を重視している。

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