第4章 日本のODAの仕組み
1.無償資金協力

(1) 総説
 無償資金協力は、被援助国に返済義務を課さずに資金を供与する援助である。
 この形態の援助は、開発途上国の中でも比較的所得水準の低い諸国を中心として実施している。具体的な供与対象国は、その国の経済社会開発状況と開発需要、日本との二国間関係、要請案件の内容等を総合的に考え合わせ、必要な調査を実施の上決定している。同時に、援助実施対象国の決定に際しては、国際開発協会(IDA)の無利子融資適格国基準を一応の目安としており、2000年度については、98年の一人当たりGNPが1,460ドル(ただし、文化無償については5,280ドル―世銀統計)以下の国を原則的に無償資金協力の供与対象国としている。
 対象分野としては、基本的には収益性が低く、借款で対応することが困難な医療・保健、衛生、水供給、初等・中等教育、農村・農業開発等の基礎生活分野(Basic Human Needs、BHN)、環境、及び人造り分野が大きな柱となっている。

(2) 分類
(イ) 一般無償資金協力
(i) 一般プロジェクト無償
 一般プロジェクト無償は、幅広い分野におけるプロジェクト型の無償資金協力を行うものである。対象分野は民生・環境改善、通 信・運輸、医療・保健、教育・研究、農林業に大別される。但し、これまで基本的に円借款で対応してきた道路、橋梁、港湾、通 信等経済インフラについても、LLDCを中心とする開発途上国の経済インフラの悪化等を考慮し、個別 の状況に応じて協力の対象に組み込んできており、一般プロジェクト無償の対象分野は多様化している。


(ii) 債務救済無償
 債務救済無償は深刻な債務返済困難に直面する開発途上国に対し、円借款債務の返済があった場合に、返済額の一部または全部に相当する金額を無償資金協力として供与するものである。78年、国連貿易開発会議(UNCTAD)の特別 貿易開発理事会(TDB)において、多くの開発途上国が深刻な債務返済困難に直面 していることに鑑み、先進援助供与国がこれらの国に対し債務救済措置をとるよう決議されたことを受けて開始した。具体的には、後発開発途上国(LLDC、対象国20ヶ国)から円借款(87年度以前交換公文締結分)の債務が返済された場合には、返済された元利合計額と同額の無償資金を供与し、石油危機で最も深刻な影響を受けた開発途上国(MSAC、対象国6ヶ国)から円借款(77年度以前締結分)の債務が返済された場合には、金利の調整額(約定利息をより低く設定した場合に生じたであろう差額分)に相当する無償資金の供与を行っている。98年度より、従来より債務救済無償を実施してきているLLDC5ヶ国(ウガンダ、ギニア、タンザニア、マラウィ、モーリタニア)については、97年度の交換公文締結分まで救済対象債務を拡大し、また、新たにマリ、ザンビアに対し、88年度から97年度までの交換公文締結分の円借款債務を対象に債務救済無償を実施することとした。
 なお、98年度より、IMF・世銀により、一定基準を満たし、債務負担が継続不可能な状態にあると認められた国を対象に、当初16年間は利子返済分、据置期間以降は返済される元利合計額と同額の無償資金を供与する重債務貧困国支援無償を予算化した。99年6月のケルン・サミットで合意されたケルン債務イニシアティブに基づく債務救済は、重債務貧困国支援無償の供与の形で行われることとなる。
(iii) 経済構造改善努力支援無償(ノン・プロジェクト無償)
 ノン・プロジェクト無償は、累積債務の増大、国際収支赤字拡大等の経済困難が深刻化している開発途上国が、世銀・IMFの指導の下に経済構造調整政策を推進していく上で緊急に必要とする物資の輸入を支援するものである。この援助は国際収支支援の性格を有し、即効性が期待されている。
 また、被援助国政府は、わが国が援助資金(外貨)を供与することによる内貨の余剰分を積み立て(見返り資金)、わが国と使途につき協議の上、経済・社会開発に資する事業に使用することができる。
 98年度より、被援助国が社会開発や環境問題の分野別計画を進めている場合、見返り資金をこれら計画に集中的に使用する「環境・社会開発セクタープログラム無償」を新設した。

(iv) 草の根無償
 草の根無償は、開発途上国の地方公共団体、研究・医療機関及び開発途上国において活動しているNGO等からの要請に対し援助を行うものである。従来の政府間における無償資金協力では対応が困難であった比較的小規模な案件に対し、当該途上国の経済・社会状況等の諸事情に精通 している日本の在外公館が迅速かつ的確に対応することにより、開発途上国の多様な需要に対応できるようにすることを狙いとしている。

(ロ) 水産無償
 開発途上国の水産振興に寄与するために、漁船、漁具、漁業訓練施設、訓練船、漁港施設、水産研究施設建設等の水産関係案件に協力するための資金供与である。

(ハ) 緊急無償

(i) 災害緊急援助
 海外における自然災害及び内戦の被災民や難民・避難民等の救済のために緊急に供与される人道的資金援助である。被災民等への救済活動に資するための資金を直接被災国政府に対し供与する場合と、世界食糧計画(WFP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等の国連機関や日本赤十字社、赤十字国際委員会(ICRC)等の国際的な援助実施機関に対し供与する場合がある。
 災害が発生した場合、直ちに現地の日本大使館や国際機関からの情報及び被災国政府あるいは国際機関の要請を踏まえ、被害の規模、日本としての援助の必要性等を総合的に考慮した上で、供与金額、内容を決定する。災害緊急援助の実施は緊急性を要することから、その他の無償資金協力の手続とは違った、極めて迅速化された手続によって決定、実施されている。
(ii) 民主化支援
 開発途上国における選挙等の民主化促進事業を成功させるために必要な投票箱、投票ブース、投票用紙等にかかる費用につき、途上国政府あるいは選挙等を実施管理している国際機関を通 じて支援するものであり、95年度より開始している。
(iii) 復興開発支援
 和平成立後地域紛争から復興に向けて努力している国において、通常の二国間経済協力が実施可能とするような国内情勢の安定が得られるまでの間、復興に向けた足どりを確かなものとすることを目的に、国際機関あるいは国際機関設立の信託基金を通 じた資金援助として復興開発支援を96年度より開始している。
(iv) NGO緊急活動支援無償
 近年、自然災害や内戦等により発生した多数の被災者・難民等を救済するための国際緊急援助活動において、高い機動性を有するNGOの役割の重要性が高まっていることを受け、わが国NGOの緊急人道活動を支援するため、2000年度より新たに開始した。

(ニ) 文化無償

 文化無償は、文化交流に関する国際協力の一環として、75年度より開始された。これは社会の経済的な発展とともに、開発途上国等において固有の文化の維持・振興に対する関心が高まり、文化面 を含む広い視野からバランスのとれた国家開発の努力がなされていることから、こうした努力に対し協力するものである。具体的には、開発途上国等における文化財及び文化遺産の保存活用、文化関係の公演及び展示の開催、並びに教育及び研究の振興のために使用される資機材の購入に必要な資金の供与を行う援助であり、1件につき5,000万円以内で実施されることになっている。
(ホ) 食糧援助

 食糧援助は、食糧不足に直面する開発途上国に対し、小麦、米、メイズ等の主要穀物を購入するための資金を供与するものである。日本の食糧援助は、食糧援助規約に基づいて実施されており、日本は小麦換算で30万トンの年間最小拠出量 を義務づけられている。
(ヘ) 食糧増産援助

 食糧増産援助は、食糧自給達成に向け努力している開発途上国の増産計画を支援するものとして、肥料、農薬、農業機械等農業機材の購入に必要な資金を供与するものである。

2. 技術協力

(1) 総説
 技術協力は、途上国の国造りの基礎となる「人造り」を目的とする援助であり、日本の技術や知見を相手国の当該分野で指導的な役割を担う人々(技術協力の「カウンター・パート」)に伝え、カウンター・パートを通じてその技術が当該途上国の国内に広く普及し、その経済・社会発展に寄与するものである。現在、技術協力は、医療・飲料水の確保等の基礎生活分野からコンピューター技術や法律・制度の整備等の高度な協力まで幅広い分野に及んでいる。
 政府間の約束に基づき行われる技術協力は国際協力事業団(JICA)を通じて実施されている。その他、公的資金をもって実施されている技術協力事業には、開発途上国からの国費留学生受入れ事業、各省庁附属機関等が途上国政府機関との間で実施している調査研究事業、更には、地方公共団体による研修員受入れ等、あるいは、政府補助金を得て民間援助団体(NGO)が行う技術協力が含まれる。
 技術協力は、所得水準が比較的高いため無償資金協力・有償資金協力の一般的対象にならない国や、累積債務が多く有償資金協力の対象とすることに制約がある国などに対しても行われる。
(2) 分類
(イ) 研修員受入れ事業
 研修員受入れ事業は、技術協力の中でも最も基本的な形態の一つである。
 開発途上国から、国造りの担い手となる有為の研修員を日本や特定の開発途上国に受入れ、行政、農林水産、鉱工業、エネルギー、保健・医療、運輸・通 信等多岐にわたる分野で専門的知識、技術の移転を行っており、最近は市場経済化や法整備といった分野での研修も実施している。
 「第三国研修」は、ある程度開発の進んだ途上国において、日本の技術協力により移転された技術が定着した分野について当該途上国が、日本の資金的、技術的協力を得て、近隣諸国からの研修員に対する研修を実施するものであり、技術レベル、言語、習慣等の面 に配慮した、より開発途上国の実情に即した研修を実施し得るという利点がある。
 現地国内研修は、日本の技術協力によって育った開発途上国の人材が、自らの得た技術・知識を自国の行政官・技術者にさらに広い範囲で伝えることを支援するもので、93年度から開始された。
(ロ) 青年招へい事業(「21世紀のための友情計画」)
 青年招へい事業は、技術協力の一環として日本が開発途上国から将来の国造りを担う青年を日本に約1ヶ月間招へいし、専門分野別 の研修や各地方におけるホームステイ等を実施するプログラムであり、これら青年が幅広い日本側関係者との交流を通 して我が国に対する理解を深め友情を培うことを目的として84年に始められた。本招へいの対象は、18歳~35歳前後の各国政府に推薦された青年男女であり、公務員、教員、農村青年等のグループ別 に招へいを行う。
(ハ) 個別専門家派遣事業
 個別専門家派遣事業は、開発途上国にいろいろな分野の専門家を派遣して、主として政府機関において技術指導を中心とする技術協力を行うものであり、研修員受入れ事業と並んで技術協力の基本的な形態となっている。
 専門家の指導分野は、農林水産業、鉱工業、運輸、電気、通信、電子工学などの分野での技術移転から、最近では市場経済化、法制度整備、環境対策、福祉などの分野での計画・行政における政策・知的支援型の指導が増えてきており、きわめて多岐にわたっている。
(ニ) 青年海外協力隊派遣事業及びシニア海外ボランティア派遣事業

 青年海外協力隊派遣事業は、原則として20歳から39歳までの青年男女を開発途上国に派遣し、現地の住民とともに生活しながら、自らの技術を移転する草の根レベルの援助形態であり、日本政府と受入国政府との間で締結される青年海外協力隊派遣取極に基づき実施されている。本事業は、そのボランティア性、公募性等他の技術協力とは異なる特徴がある。
 また、開発途上国の開発に係る事業に自発的に参加し協力する意志を有する日本の中高年齢層(40歳から69歳)の人員を広く募集し、派遣する「シニア海外ボランティア」が90年度に開始された。
(ホ) プロジェクト方式技術協力事業
 技術協力の基本的な形態である「研修員受入れ」、「専門家派遣」及び「機材供与」の3つの形態を有機的に組合せ1つの案件として数年間(通 常5ヶ年)にわたって計画的に実施する方式の技術協力を特に「プロジェクト方式技術協力」と呼んでいる。最近では、日本の無償資金協力により施設建設を行い、そこでプロジェクト方式技術協力を実施するといった無償資金協力との連携も数多く行われている。プロジェクト方式技術協力は、現在、社会開発協力事業(道路交通 、電気通信、教育等)、保健医療協力事業、人口・家族計画協力事業、農林水産協力事業、及び産業開発協力事業について行われている。

図表―159 プロジェクト方式技術協力の業務

  


(ヘ) 開発調査
 開発調査は、道路、港湾、電力、通信、上下水道、農業といった様々な経済・社会基盤の整備を中心とした公共的な開発計画策定を目的とする調査を行い、あるいは、そのような計画の基礎となる基礎的情報の整備のための調査を行い、その結果を報告書にとりまとめ相手国政府に提供することにより、開発途上国の社会経済発展に役立てようとするものである。報告書は、開発途上国政府が開発政策を立案する際の重要な指針となるとともに、開発計画実現のための資金協力・技術協力を要請する際の基礎資料として活用される。


図表―160 開発調査の流れ

  


近年、中長期経済開発計画、市場経済化支援等のソフト型・政策提言型の調査も行われている。調査業務自体はJICAが派遣するコンサルタント会社の技術者等で編成されるチームによって実施される。

(ト) 開発協力事業
 JICAが行う開発協力事業は、日本の企業等が開発途上地域等で行う事業活動のうち、01試験的に行われる事業であって、技術の改良又は開発と一体として行わなければその達成が困難な事業(試験的事業)、もしくは、02開発事業に付随して必要となる関連施設であって周辺の住民の生活、福祉の向上にも役立つ公共性の高い施設の整備事業(関連施設整備事業)に対し、JICAが非常に緩やかな条件(長期・低利)の資金を融資し(開発投融資)、また必要に応じて各種の調査の実施、技術専門家の派遣、開発途上国からの研修員の受入れといった技術協力を行うものである。

3.国際緊急援助

 日本政府は、海外で大規模な自然災害などが発生すると、被災国等の要請に応えて、迅速に人的、物的、資金的援助を行う体制を持っている。このうち人的援助としては、国際緊急援助隊を派遣する体制が整っている。これは、被災者の救出、救助活動を行う救助チーム、救急医療等を行う医療チーム、災害応急対策、災害復旧などについて被災国関係者に助言を行う専門家チーム、及び医療活動、浄水・給水活動、輸送活動などを行う自衛隊の部隊等をそれぞれ個別 に、または組み合わせて派遣するものである。この他、災害発生後、被災国の要請を待たずに派遣され、災害情報・支援ニーズを探る調査チームがある。また、物的援助は、海外の被災者が緊急に必要としている物資を供与する援助であり、被災地に近く、かつ航空便の連絡がよい海外の4ヶ所(ワシントン、ロンドン、シンガポール、メキシコ・シティー)及び成田に緊急援助物資の備蓄倉庫がある。資金的援助としては、被災国政府に対し、災害救助に必要な無償資金を供与する事業を行っている(本章1.(無償資金協力)参照)。


  


4.有償資金協力

(1) 総説
 有償資金協力(円借款)は、開発途上国に対し長期低利の緩やかな条件で、開発資金を貸し付けるものである。
 借款の供与に当たっては、開発途上国の置かれた発展段階がLLDCから中進国まで多様であることを考慮し、開発途上国の経済情勢、債務負担能力に応じ、その供与条件(金利、償還期間)を変えるとともに、当該国の経済状況に応じた債務負担となるよう配慮している。
 主な対象分野は経済インフラであるが、上下水道、保健・医療、教育等の社会セクターへの供与を増加しておりソフト分野にも対応している。
(2) 対象国
(イ) 年次供与国
 年次供与国とは、当該国政府から円借款要請が出されることを前提に、定期的(原則年1回)に円借款の供与が検討される国である。年次供与国の場合、日本と当該国との定期的な協議を通 じて政策対話や相互理解が深まり、また、円借款に関するノウハウが蓄積しやすくなる等の利点がある。96年度よりペルー、モロッコ、テュニジアの3ヶ国が加わり14ヶ国*1が年次供与国となっている。
(ロ) 債務繰延措置適用国(リスケ国)及びLLDC
 円借款は元本返済及び利息支払を前提とする融資であるため、債務繰延措置適用国やLLDCに対する円借款供与については慎重な検討が必要である。しかし、長期かつ譲許的資金の新規供与が当該国の経済を活性化し、債務返済能力も高めうるという観点から、当該国からの円借款に対する強い要請がある場合、その国の発展段階、債務負担能力、開発計画、日本との関係、あるいは各案件の必要性や規模等を総合的に検討した上で対応することとしている。なお、債務削減措置適用国に対する円借款供与は困難である。

図表―161 円借款(プロジェクト借款)のしくみ



(ハ) 中進国
 開発途上国の中でも比較的高い所得水準を有する中進国(2000年度の目安としては、98年の一人当たりGNP3,031ドル以上)については、当該国に対する譲許的な円借款の供与の妥当性を検討し、対象案件の性格等を勘案しつつ対応している。特に、重要分野でありながら収益率が低いために事業化の難しい環境案件については、中進国においても積極的に円借款の対象としている。

5. 国際機関を通じた援助

 国際機関を通じた援助には、それぞれの機関の有する専門知識や経験を活かした援助を世界的なネットワークを通 じて行うことができるという長所がある。開発の分野においては、従来よりの経済・社会開発のみならず、環境、麻薬、難民、感染症等、地球規模での取組を必要とする問題の重要性が高まっており、こうした観点からも国際機関の果 たすべき役割は大きい。また、開発の基盤ともいうべきガバナンスの確立に向けては、国連機関の中立的な立場からの支援が不可欠である。
 我が国は、これら国際機関の活動に対して、専門家の派遣等人的な貢献と、分担金、拠出金の供与、出資の形での支援を行っている。
 分担金は国際機関の設立憲章等により、各加盟国が義務的に支払う資金協力分である。分担率の算定方式は、将来の事業年度における国際機関の予算総額を決定し、それに各加盟国の分担率を乗じて決定するという方式が一般 的である。拠出金は、各加盟国が当該国際機関の事業活動を有益と認め、支援すべきと判断する場合、将来の事業活動規模を念頭に置きつつ、相応と考えられる金額を拠出するものである。
 近年、国連をはじめとする国際機関は、援助の効率性を高めるべく、国際機関間及び援助国との援助協調の推進に取り組んでいる。このような動きがある中で、我が国は、我が国二国間援助と国際機関による援助との相互補完を図ることにより援助の効率性を高める、いわゆる「マルチ・バイ」の連携の強化に取り組んでいる。



*1 中国、インドネシア、タイ、フィリピン、マレイシア、ヴィエトナム、モンゴル、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリ・ランカ、モロッコ、テュニジア、ペルー

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