(1) 総説
無償資金協力は、被援助国に返済義務を課さずに資金を供与する援助である。
この形態の援助は、開発途上国の中でも比較的所得水準の低い諸国を中心として実施している。具体的な供与対象国は、その国の経済社会開発状況と開発需要、日本との二国間関係、要請案件の内容等を総合的に考え合わせ、必要な調査を実施の上決定している。同時に、援助実施対象国の決定に際しては、
国際開発協会(IDA)の無利子融資適格国基準を一応の目安としており、2000年度については、98年の一人当たりGNPが1,460ドル(ただし、文化無償については5,280ドル―世銀統計)以下の国を原則的に無償資金協力の供与対象国としている。
対象分野としては、基本的には収益性が低く、借款で対応することが困難な医療・保健、衛生、水供給、初等・中等教育、農村・農業開発等の基礎生活分野(Basic Human Needs、BHN)、環境、及び人造り分野が大きな柱となっている。
(1) 総説
技術協力は、途上国の国造りの基礎となる「人造り」を目的とする援助であり、日本の技術や知見を相手国の当該分野で指導的な役割を担う人々(技術協力の「カウンター・パート」)に伝え、カウンター・パートを通じてその技術が当該途上国の国内に広く普及し、その経済・社会発展に寄与するものである。現在、技術協力は、医療・飲料水の確保等の基礎生活分野からコンピューター技術や法律・制度の整備等の高度な協力まで幅広い分野に及んでいる。
政府間の約束に基づき行われる技術協力は
国際協力事業団(JICA)を通じて実施されている。その他、公的資金をもって実施されている技術協力事業には、開発途上国からの国費留学生受入れ事業、各省庁附属機関等が途上国政府機関との間で実施している調査研究事業、更には、地方公共団体による研修員受入れ等、あるいは、政府補助金を得て民間援助団体(NGO)が行う技術協力が含まれる。
技術協力は、所得水準が比較的高いため無償資金協力・有償資金協力の一般的対象にならない国や、累積債務が多く有償資金協力の対象とすることに制約がある国などに対しても行われる。
(2) 分類
- (イ) 研修員受入れ事業
- 研修員受入れ事業は、技術協力の中でも最も基本的な形態の一つである。
開発途上国から、国造りの担い手となる有為の研修員を日本や特定の開発途上国に受入れ、行政、農林水産、鉱工業、エネルギー、保健・医療、運輸・通
信等多岐にわたる分野で専門的知識、技術の移転を行っており、最近は市場経済化や法整備といった分野での研修も実施している。
「第三国研修」は、ある程度開発の進んだ途上国において、日本の技術協力により移転された技術が定着した分野について当該途上国が、日本の資金的、技術的協力を得て、近隣諸国からの研修員に対する研修を実施するものであり、技術レベル、言語、習慣等の面
に配慮した、より開発途上国の実情に即した研修を実施し得るという利点がある。
現地国内研修は、日本の技術協力によって育った開発途上国の人材が、自らの得た技術・知識を自国の行政官・技術者にさらに広い範囲で伝えることを支援するもので、93年度から開始された。
- (ロ) 青年招へい事業(「21世紀のための友情計画」)
- 青年招へい事業は、技術協力の一環として日本が開発途上国から将来の国造りを担う青年を日本に約1ヶ月間招へいし、専門分野別
の研修や各地方におけるホームステイ等を実施するプログラムであり、これら青年が幅広い日本側関係者との交流を通
して我が国に対する理解を深め友情を培うことを目的として84年に始められた。本招へいの対象は、18歳~35歳前後の各国政府に推薦された青年男女であり、公務員、教員、農村青年等のグループ別
に招へいを行う。
- (ハ) 個別専門家派遣事業
- 個別専門家派遣事業は、開発途上国にいろいろな分野の専門家を派遣して、主として政府機関において技術指導を中心とする技術協力を行うものであり、研修員受入れ事業と並んで技術協力の基本的な形態となっている。
専門家の指導分野は、農林水産業、鉱工業、運輸、電気、通信、電子工学などの分野での技術移転から、最近では市場経済化、法制度整備、環境対策、福祉などの分野での計画・行政における政策・知的支援型の指導が増えてきており、きわめて多岐にわたっている。
- (ニ) 青年海外協力隊派遣事業及びシニア海外ボランティア派遣事業
- 青年海外協力隊派遣事業は、原則として20歳から39歳までの青年男女を開発途上国に派遣し、現地の住民とともに生活しながら、自らの技術を移転する草の根レベルの援助形態であり、日本政府と受入国政府との間で締結される青年海外協力隊派遣取極に基づき実施されている。本事業は、そのボランティア性、公募性等他の技術協力とは異なる特徴がある。
また、開発途上国の開発に係る事業に自発的に参加し協力する意志を有する日本の中高年齢層(40歳から69歳)の人員を広く募集し、派遣する「シニア海外ボランティア」が90年度に開始された。
- (ホ) プロジェクト方式技術協力事業
- 技術協力の基本的な形態である「研修員受入れ」、「専門家派遣」及び「機材供与」の3つの形態を有機的に組合せ1つの案件として数年間(通
常5ヶ年)にわたって計画的に実施する方式の技術協力を特に「プロジェクト方式技術協力」と呼んでいる。最近では、日本の無償資金協力により施設建設を行い、そこでプロジェクト方式技術協力を実施するといった無償資金協力との連携も数多く行われている。プロジェクト方式技術協力は、現在、社会開発協力事業(道路交通
、電気通信、教育等)、保健医療協力事業、人口・家族計画協力事業、農林水産協力事業、及び産業開発協力事業について行われている。
日本政府は、海外で大規模な自然災害などが発生すると、被災国等の要請に応えて、迅速に人的、物的、資金的援助を行う体制を持っている。このうち人的援助としては、
国際緊急援助隊を派遣する体制が整っている。これは、被災者の救出、救助活動を行う救助チーム、救急医療等を行う医療チーム、災害応急対策、災害復旧などについて被災国関係者に助言を行う専門家チーム、及び医療活動、浄水・給水活動、輸送活動などを行う自衛隊の部隊等をそれぞれ個別
に、または組み合わせて派遣するものである。この他、災害発生後、被災国の要請を待たずに派遣され、災害情報・支援ニーズを探る調査チームがある。また、物的援助は、海外の被災者が緊急に必要としている物資を供与する援助であり、被災地に近く、かつ航空便の連絡がよい海外の4ヶ所(ワシントン、ロンドン、シンガポール、メキシコ・シティー)及び成田に緊急援助物資の備蓄倉庫がある。資金的援助としては、被災国政府に対し、災害救助に必要な無償資金を供与する事業を行っている(
本章1.(無償資金協力)参照)。
国際機関を通じた援助には、それぞれの機関の有する専門知識や経験を活かした援助を世界的なネットワークを通
じて行うことができるという長所がある。開発の分野においては、従来よりの経済・社会開発のみならず、環境、麻薬、難民、感染症等、地球規模での取組を必要とする問題の重要性が高まっており、こうした観点からも国際機関の果
たすべき役割は大きい。また、開発の基盤ともいうべきガバナンスの確立に向けては、国連機関の中立的な立場からの支援が不可欠である。
我が国は、これら国際機関の活動に対して、専門家の派遣等人的な貢献と、分担金、拠出金の供与、出資の形での支援を行っている。
分担金は国際機関の設立憲章等により、各加盟国が義務的に支払う資金協力分である。分担率の算定方式は、将来の事業年度における国際機関の予算総額を決定し、それに各加盟国の分担率を乗じて決定するという方式が一般
的である。拠出金は、各加盟国が当該国際機関の事業活動を有益と認め、支援すべきと判断する場合、将来の事業活動規模を念頭に置きつつ、相応と考えられる金額を拠出するものである。
近年、国連をはじめとする国際機関は、援助の効率性を高めるべく、国際機関間及び援助国との援助協調の推進に取り組んでいる。このような動きがある中で、我が国は、我が国二国間援助と国際機関による援助との相互補完を図ることにより援助の効率性を高める、いわゆる「マルチ・バイ」の連携の強化に取り組んでいる。