6. イタリア

(1) 援助政策等
 イタリアは、現下の国際情勢、政府ODA財源の削減等を踏まえ、1995年、経済企画閣僚会議が新経済開発協力指針を策定し、以後同指針に従い開発援助を実施している。同指針は、国際社会との協調を前面に掲げ、政治、経済、人道的な側面から、(イ)先進国による対最貧国援助努力への参加確保、(ロ)イタリアの安全保障に直接影響し得る開発途上国の安定強化、(ハ)地球規模問題解決への貢献、(ニ)貧困撲滅への国際的努力への貢献、(ホ)経済改革、特に、市場経済化、経済の自由化努力支援、(へ)国際社会による人道支援への参加、を政策目標とするとしている。
 また、同指針は、今後国際社会と一体となって取り組むべき課題として、国際的環境保護、世界的人口問題、麻薬・組織犯罪、基礎教育、性差別問題、エイズ対策等を掲げ、更に、その具体的援助方策として、緊急援助、食糧援助、人材育成、民間企業支援、人権保護・民主化支援、政治・行政・経済改革のための技術協力、職業訓練、途上国内文化遺産保護、途上国内天然資源保全、経常収支改善のための商品援助・債務救済、市場経済化インフラ整備等を挙げている。
 地域別配分については、地中海東部地域(中東和平への貢献)、地中海西部地域・アルバニア(政治・経済的安定)、旧ユーゴー(人道援助、政治的紛争の解決)、アフリカの角及びサハラ以南地域を重点地域としている。他方、中南米、アジアについては、予算執行状況等を勘案しつつ選別的な援助を行うとしている。
 援助規模は、近年の財政赤字の深刻化、DAC諸国の援助予算削減化傾向等を背景に91年をピークにODA予算の削減が実施されてきたが、98年以降外務省所管予算が微増しつつあり、漸く歯止めがかかりつつある。これに対し、実績については、執行状況が影響することもあり各年の変動が大きく、96年のODA実績は相当程度改善されたが、97年には対前年比15%減の1,300百万ドルとなり、G7諸国中の最下位(ODA対GNP比0.11%)まで後退している。99年実績では、国際機関拠出・出資、政府貸付等の支出純額が増額し、18.06億ドル(対GNP比0.15%)に再び回復している。なお、99年の援助実績の内分けは、二国間援助が25.0%、国際機関を通じた援助が75.0%と、マルチの比重が高いのが特徴である。
 ちなみに、二国間援助(実績ベース)の主要受益国は、97年にはアルバニア、エティオピア、マルタ、モザンビーク、アルゼンティン、ケニア、エジプト、パレスティナ自治政府、エクアドル、アルジェリア等であった。また、同発展段階別(同上)では、LLDC及びその他の低所得諸国51%、低中所得国(LMIC)諸国40%、高中所得(UMIC)諸国9%で低所得諸国への配分が高い比率を占めている。
(2) 実施体制
 イタリアの政府開発援助は、87年に成立したODA基本法(87年法律第49号)の下で実施されており、二国間援助(有償、無償・技協、食糧援助、文化・教育関係)及び国連関係機関に対する拠出については、外務省開発協力総局が一元的に管理・実施し、世銀等国際金融機関に対する拠出については、国庫省が管轄している。また、有償資金協力については、外務省からの指示を受けて中期信用金庫(Mediocredito Centrale)が借款協定の締結、貸付実行・回収業務を行っている。中期信用金庫は更に、途上国における伊・現地企業合弁事業に対する資金援助をも行っている。

図表―123 イタリアの二国間ODA上位10ヶ国
図表―124 イタリアの二国間援助地域別シェアーの推移



図表―125 イタリアの二国間援助分野別シェアーの推移



 外務省開発協力総局は19課からなり、98年現在で職員数は493名であり、局内には中央技術ユニットと呼ばれる約80名の経済協力専門家集団を擁する。案件の発掘等は在外公館を中心になされており、98年にはODA関連の海外事務所が20ヶ国に設立され、効率的な案件の実施や当該国に対する開発戦略の策定に取り組んでいる。

7. デンマーク

(1) 援助政策等
 デンマークは、国の規模に比べて多くの援助を行っているが、これは同国外交の基本姿勢である人道主義、人権尊重主義に基づくものである。71年には、いわゆる援助基本法にあたる「国際開発協力法」を制定している。これはODAの目的、実施機関、議会との関係、技術協力、資金協力、広報活動、文化協力、開発研究などに関し、援助のガイドラインを簡略かつ広範に定めている。
 また、94年3月、当時のダイン開発協力相は、「2000年に向けたデンマークのODA戦略」を発表した。この戦略では、個別プロジェクトから分野(セクター)毎の包括的なプログラム援助アプローチへの移行を行い、支援分野の絞り込みを通じた援助の効率化に重点が置かれており、(イ)貧困救済(特にLLDCにおける最下層への開発の利益の浸透が重要)、(ロ)環境配慮、(ハ)女性の役割強化、(ニ)民主化推進及び人権尊重の促進、が主要な戦略目標として定められている。また、97年には、この戦略の実施状況について中間報告が発表され、被援助国とのパートナーシップ、政策対話が強調されている。
 更に、85年3月、議会決議によりGNPの1%をデンマークの援助額とすることが表明されている。政府は、上記の基本法、戦略及び議会決議に基づき、今後5年間の予算を示す計画を毎年立案し、議会の承認を得ることとなっている。この予算案では、今後5年間にわたり、GNPの1%が援助額として示されている。
 99年のデンマークのODAの実績(DAC報告ベース)は、17.33億ドルで、対GNP比は1.01%である。
 このうち二国間援助と国際機関を通じた援助の比率は約6:4と二国間援助の割合が若干大きくなっている。
 二国間援助は98年実績でアフリカ、アジア、中南米の割合がそれぞれ45.5%、20.1%、7.9%となっており、対アフリカ援助の割合が大きい。また、デンマークは、途上国20ヵ国(バングラデシュ、ベナン、ブータン、ブルキナ・ファソ、エジプト、エリトリア、ガーナ、インド、ケニア、モザンビーク、ネパール、ニカラグァ、タンザニア、ウガンダ、ヴィエトナム、ザンビア、ジンバブエ、ボリヴィア、マラウィ、ニジェール)を二国間援助の重点対象国(プログラム・カントリーと呼称)に選定し、集中的な援助を実施しており、その他の国・地域については徐々に援助を削減することとしている。
 国際機関を通じた援助は、98年実績で、UNDPに対する9,284万ドル(国際機関を通じた援助の13.5%)を筆頭に、UNHCR(同6.1%)、WFP(同6.0%)、UNICEF(同5.2%)、UNFPA(同5.0%)等国際機関に3.02億ドル(マルチ全体の43.7%)、EU開発プログラム関連に1.10億ドル(同15.9%)、世銀グループに9,876万ドル(同14.3%)等となっている。なお、デンマークは96年に、拠出金の効果的活用と国際機関との効率的な連携強化を目的として「積極的なマルチラテラリズム(Active Multilateralism)」を提唱し、連携・協力の対象とする国際機関の絞り込みを行っている。
(2) 援助の実施体制
 デンマークにおける開発援助の計画立案及び実施は、外務省南総局が、途上国等を対象とする通常の業務に加え担当している。また、デンマークの行う国際開発援助活動はDANIDA(Danish Internationlal Development Assistance)と呼称されている。DANIDAは、従来援助の実施機関であった外務省国際開発協力(南総局の前身)の別称であったが、91年の組織改編により同局が廃止されたのに伴い「Agency」を「Assistance」に変え、「援助活動」一般を指すものとして使われるようになった。
 ラスムセン内閣が93年に発足して以来、外務省は外務大臣及び開発協力大臣の2大臣制を採用しており、援助関連は開発協力大臣が担当している。予算は外務省に一括計上されている。
 外務省南総局職員は333名(98年末)であり、また、在インド・デンマーク大使館兼轄のブータンを除く19カ国のプログラム・カントリーには128名の在外職員が配置されている(98年「デンマーク開発援助」)。

図表―126 デンマークの二国間ODA上位10ヶ国
図表―127 デンマークの二国間援助地域別シェアーの推移



図表―128 デンマークの二国間援助分野別シェアーの推移



8. カナダ

(1) 援助政策等
 現クレティエン政権は、95年2月に新たに外交政策報告書("Canada in the World")を発表し、その中でカナダのODAの目的を「貧困を解消し、より安全、公正かつ繁栄する世界に貢献するために途上国の安定的成長を支援する」と規定した。その際、援助目的のキーワードとして「貧困削減」を、全ての援助活動の優先項目に反映させることを決定した。カナダ政府は、こうした援助方針と共に、援助の優先項目として、(イ)基礎生活分野(BHN)、(ロ)途上国における女性支援(WID)、(ハ)インフラ整備、(ニ)人権、民主主義、「良い統治」、(ホ)民間セクター支援、(へ)環境、の6分野を挙げている。
 このほか、近年、カナダは、緊急人道援助、貧困削減を目的とする長期的開発協力、衡平で持続可能な成長、人権、民主化、「良い統治」の推進等の開発課題への総合的な取り組みを通じて、紛争予防や平和構築支援にも貢献していくとのアプローチを打ち出している。この関連では、地雷基金(Landmines Fund)を通じた地雷除去関連プログラムの実施のほか、平和構築基金(Peace-building Fund)を通じたプログラムの実施が挙げられる。
 さらに、カナダ政府は援助のあり方に係わる方針として、(イ)ODAの目的・優先活動分野の明確化、(ロ)開発パートナーシップの強化、(ハ)より効率的な援助活動に向けた更なる改革、(ニ)援助結果の適切な報告の4項目を国民に対する公約として発表し、援助活動への国民の理解を深めるよう努めている。
 なお、2000年9月、国際開発庁(CIDA:68年設立)は、今後5年間で総額28億加ドルを(イ)保健・栄養、(ロ)基礎教育、(ハ)HIV/AIDS、(ニ)子供の保護(Child Protection)の4分野への援助に対し優先的に配分することを柱とする「CIDA社会開発優先策(CIDA's Social Devlopment Priorities)」を発表した。同政策では、途上国の多くの社会開発ニーズに対応するため、より戦略的かつ優先分野に資源を集中させることとしており、これらの分野での取り組みは「人間の安全保障」、平和構築のみならず貧困削減にも資するとしている。
(2) 予算・実績
 93年度以来の行財政改革の一環として、援助予算も削減対象とされており、カナダは現在G7中最低の予算規模となっている。ODA予算の対GNP比についても、90年代初頭の0.5%から、99年には0.28%となっており、99年のカナダのODA実績(DAC報告ベース)は1,699億ドルとなっている。なお、2000年度政府予算案によれば、カナダのODA予算は、前年度の約20.1億加ドル(うちCIDA分は約16億加ドル)から、約22.7億加ドル(うちCIDA分は17.9億加ドル)と僅かながら増加に転じた。
 98年度のCIDAの実績の内分けは、二国間援助が62.2%、国際機関を通じた援助が37.8%となっている。また、二国間援助実績(出所:CIDAパフォーマンス・レポート)では、以下の特徴が見られる。まず、地域別では、アフリカ・中東地域(16.2%)、アジア(13.2%)、中南米(9.1%)の順となっている。次に、分野別では、(イ)BHN(39.6%)、(ロ)人権、民主主義、「良い統治」(13.4%)、(ハ)インフラ整備(13.9%)、(ニ)民間セクター支援(11.8%)、(ホ)環境(7.5%)、(ヘ)WID(4.7%)の順となっている。なお、援助額は多くはないものの、自然災害や紛争による被災民の支援といった人道支援、平和構築分野での協力にも積極的にイニシアティブを発揮しているほか、99年3月に、加独自の債務救済策である「カナダ債務イニシアティブ(Canadian Debt Initiative)」を発表する等、最貧国の債務救済にも取り組んでいる。
(3) 実施体制
 1996年1月の内閣改造で新設となった国際協力大臣の管轄下にあるCIDAにODA予算全体の約8割が計上されており、残りの2割については、世銀グループを管轄する大蔵省や、加国際開発センター(IDRC:主に途上国も含めた内外調査活動)やカナダ・コモンウェルス・スカラーシップ等を管轄する外務貿易省に計上されている。但し、ODA予算全体について議会に対する責任はCIDAが負っている。二国間援助(技術協力を含む)、多国間援助ともCIDAが中心となっており、外務貿易省、大蔵省等と協議しつつ、政策の立案及び援助の実施に当たっている。
 加の援助の特徴は、無償援助の比重が高いこと、二国間援助の実施に際してその多くをNGOに業務委託していること等に窺われ、援助実施に際しNGOと密接な連携をとっている。
 なお、厳しい財政事情にも鑑み、94年にPerformance Review Policyを作成し、ODAの評価体制を強化したほか、我が国を含むドナー間、被援助国との間の援助協調の一層の促進を図る等、援助の一層の効率化に取り組んでいる。

図表―129 カナダの二国間ODA上位10ヶ国
図表―130 カナダの二国間援助地域別シェアーの推移



図表―131 カナダの二国間援助分野別シェアーの推移



9. スウェーデン

(1) 援助政策等
 スウェーデンの援助の主目標は貧困に苦しむ人々の生活水準の改善にあり、1962年に制定された開発協力基本法においてこの目標が規定されているところである。また、この主目標の下に、資源の拡大、経済的・社会的平等の拡大、経済的・社会的自立、社会の民主的発展、長期的視野に立った天然資源開発及び環境への配慮、男女平等の推進の6つが援助の目標として議会により定められている。
 99年のスウェーデンのODA実績(DAC報告ベース)は、16.3億ドル(対GNP比0.70%)、対前年比3.6%増であった。ここ数年、援助実績は伸び悩んでいるが、これはスウェーデン政府は96年、当時の厳しい国家財政の再建のため、97年度以降99年度までの3年間、援助予算をGNP比0.7%の水準まで引き下げることを決定したことによるものである。しかし、2000年には0.72%に増額されるとの見通しが示されている。
 援助の内訳としては、援助総額の70.3%が二国間援助、29.7%が多国間援助となっている(99年実績)。また、贈与比率は90%以上であり、アンタイドを原則としているが、例外的に譲許的信用(ODAに当たる贈与資金とODAに当たらない輸出信用を組み合わせたスキーム)のうちの贈与資金部分がタイドとなっている。
 緊急援助や人道援助を含めると、スウェーデンの援助を受けている国は100ヵ国を越えるが、スウェーデンでは70年代初期以降、援助重点国(プログラム・カントリー)制度を実施しており、これが援助の中心となっている。この制度の目的は、20ヵ国程度の援助重点国に対し2~3年にわたる援助を表明することで、被援助国がスウェーデンの援助を自らの長期的開発戦略全体に組み込むことができるようにすることである。援助重点国は、スウェーデンの援助目標、歴史的関係、人道的見地、貧困の度合い等を考慮して選定されている。

図表―132 スウェーデンの二国間ODA上位10ヶ国
図表―133 スウェーデンの二国間援助地域別シェアーの推移



図表―134 スウェーデンの二国間援助分野別シェアーの推移



 地域ごとの援助戦略については外務省とスウェーデン国際開発協力庁(Sida)が共同でこれを立案することとされている。地域別では、アフリカ、次いでアジアに比重が置かれており、主として南部アフリ力、東部アフリカに主要援助国が位置している。
 NGOを通じた支援も盛んであり、例年、開発プロジェクト、緊急援助、啓蒙活動、人道支援として二国間援助無償部分の約20%がNGOを通じて分配されている。
 国際機関を通じた援助においては、UNDP、UNICEFを重視してきたが、近年は、難民救済として、UNHCR、UNRWAを通じた支援にも力を入れている。
(2) 実施体制
 援助は国際開発協力担当大臣(閣内相)の管轄であり、外務省の国際開発協力担当次官が統括する外務省国際開発協力局が補佐を行う。援助政策の企画・立案、予算計上は外務省が行う。援助の実施は、国際機関を担当する外務省国際開発協力局と二国間援助を担当するスウェーデン国際開発協力庁(Sida)によって行われる。
 なお、外務省国際開発協力局の職員は約70人、Sidaの定員は現在約650人(うち国内約550人、海外約100人)となっている。

前ページへ 次ページへ