21世紀を迎え、開発協力の世界においても大きな変化が生起しつつある。
国内においては、日本の厳しい経済・財政事情を反映し、ODAに対する厳しい見方が存在する。もとより、ODAは国民の税金をその主な財源とし、政府の事業として実施される以上、国民の理解と支持なくして進めることは困難である。政府としては、ODAを適正かつ効果的に実施し、透明性を高める等様々な改革を更に推進していく考えである。
開発協力における日本の貢献には途上国をはじめ国際社会の期待が高い。国際社会の有力な一員として日本がこうした期待に積極的に応えることは、日本の国際的な信頼の基となり、ひいては国際社会における存在感と影響力を高め、国益の確保につながるものと考える。特に、軍事的手段を有しない日本にとって、ODAはこうした国際貢献を果たし、国益を実現していくための重要な手段である。
海外に目を向ければ、90年代初頭の冷戦構造の崩壊は、世界的に市場指向型経済への動きを加速化させている。同時に、情報通信技術(IT)の開発・普及等を背景として急速に進むグローバル化の中で、市場の役割に全面的に依拠することの問題点も明らかとなりつつあり、政府の役割や統治(ガヴァナンス)のあり方が改めて注目されている。また、先進国、途上国を問わずNGOを含めた市民社会の役割が増大している。多くの途上国がグローバル化のもたらす恩恵に浴しえないのみならず、国際社会全体の発展から取り残されようとしている。
グローバル化推進の原動力となっている情報通信技術(IT)の急速な進歩は、国内及び国家間における情報格差の拡大に対する懸念を増大させると同時に、開発の切り札としてのITの可能性に対する期待も高まっている。2000年7月の九州・沖縄サミットでは、ITが途上国の貧困削減や開発努力の支援のために非常に大きな機会を提供しうるとの認識の下に、情報・知識格差(デジタル・ディバイド)解消のため各国・国際機関・NGO等すべての利害関係者による協力強化に努めることを宣言した(「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」)。
グローバル化の進展とともに相互依存関係の強まった現在の国際社会において、途上国の問題は他人事ではありえない。96年にOECD/DACは「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」と題する「新開発戦略」を定め、2015年までに途上国における貧困人口の割合を半減する等の目標を掲げたが、日本をはじめとした先進諸国や国際機関は、そうした目標の実現に向けて様々な努力を続けている。そして、九州・沖縄サミットにおいても、開発の問題は重要な課題として取り上げられた。貧困問題の克服なくして国際社会の持続的な安定と繁栄を確保しえないとの認識が先進国共通のものとなっていることを示しているといえよう。
中でも、東アジア諸国と日本は政治、経済、文化などの面で深い絆で結ばれており、その安定と繁栄の確保は日本自身の利益でもある。これら諸国は総じてアジア通貨・経済危機からの回復軌道に乗りつつあるが、引き続き経済・社会の構造改革や社会的弱者対策に取り組む必要がある。また、アフリカ等においては、貧困、債務、紛争、疾病などこれまでの開発努力の成果を覆しかねない困難に直面している国が多数存在しており、貧困の削減が開発協力の中心的課題となっている。先進国として、これらの国の開発を支援することは単に人道的視点のみならず、安定的な国際システムを築き上げていく上で不可欠と考える。
日本は、自らの経験とアジア諸国への援助を通じた経験から、教育や保健などの社会的な分野で直接貧困問題に対応することに加えて、それぞれの国での国民の全体としての成長の実現が貧困削減のためにも不可欠であることを強調している。貧困の削減のために衡平な成長が不可欠であることは、九州・沖縄サミットG8コミュニケにおいても述べられている。
もとより途上国の直面する困難の大きさに鑑みれば、援助国各々がなしうることに限りがあり、また、援助のみで対応できるものではない。貿易や投資など民間セクターの発展を図っていかなくてはならない。また、各々の援助国や国際機関がバラバラに支援をすることも効率的ではない。そこで、途上国の主体性(オーナーシップ)を発揚しつつ、援助国や国際機関が協調して支援を進める開発のための連携(パートナーシップ)の構築が大きな課題となっている。
本書は、このような様々の開発の課題についての日本としての考え方を概括的に述べるとともに、ODA改革に向けた努力の一端を説明したものである。ODAを考える上で参考にして頂ければ有難い。