2.我が国の政府開発援助の実績とあり方

(1) インドネシアは、01貿易・投資等の面で我が国と密接な相互依存関係を有し、我が国にとって政治・経済面において重要な存在であること、02我が国の海上輸送にとって重要な位置を占めるとともに、石油、ガス等の天然資源供給国となっていること、032億人にのぼる人口規模を有し、ASEAN諸国の中核となる国として東南アジア経済の発展と安定のため重要な役割を担ってきていること、04従来より貧困撲滅、地域格差是正等のため多大な援助需要があったことに加え、97年のアジア経済危機の影響によって社会経済情勢が不安定化し、現在は明るい兆しが見え始めているものの、引き続き適切な経済改革の遂行及び新たな状況への対策を通じ、経済の回復と民生の安定を図ることが課題となっていること等を踏まえ、援助を実施する。
(2) 我が国は、インドネシアにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び94年2月に派遣した経済協力総合調査団、2000年9月の経済協力政策協議等による政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としてきている。
(イ) 公平性の確保
 経済危機の影響を特に強く受けている社会的弱者への対応を中心に、社会的・地域的公平性を確保しながら国全体の均衡ある発展を目指す。具体的には、(a)貧困撲滅(貧困層の生活環境の改善)、(b)基礎生活分野に対する支援(居住環境の整備、保健医療)、(c)人口・家族計画及びエイズ対策、(d)東部インドネシアの開発(地域間格差是正)を重視する。
(ロ) 人造り・教育分野
 インドネシアが経済危機を克服し、国際競争力の強化と付加価値の高い工業化を進めるためには、教育水準の向上をはじめ広範な分野での人造りが重要。(a)初等・中等教育の充実、(b)教員の質の向上(小・中学校の理数科教員を中心とする)、(c)技能・技術者教育の充実を重視する。
(ハ) 環境保全
 急速な開発に伴い生じてきた環境問題(森林等の自然資源の減少、公害・災害の発生)の深刻化と大都市への人口集中による居住環境の悪化への対応が必要。(a)森林等の自然資源・自然環境の保全(生物多様性の保全等)及び持続可能な利用、(b)都市居住環境及び公害面での協力、(c)環境問題全般における体制の整備(環境関連の政策実施能力の向上等)を重視する。
(ニ) 産業構造の再編成に対する支援
 経済危機の克服とその後の経済成長の回復・維持のため健全なマクロ経済運営と裾野の広い産業振興、農業振興のための支援を行う。(a)マクロ経済運営に対する支援、(b)サポーティング・インダストリーの振興及び中小企業支援、(c)農業振興(農産物の多様化、付加価値の高い農産物の生産)を重視する。
(ホ) 産業基盤整備(経済インフラ)
 インドネシアの持続的経済発展のためには外国直接投資の継続的な導入が必要であり、このための投資環境整備を行う。(a)電力、(b)水資源開発、(c)運輸、(d)通信を重視する。
(3) 98年以降我が国は、アジア経済危機を踏まえて、経済構造改革支援、社会的弱者支援に重点をおいた経済協力を実施している。99年6月の総選挙が概ね自由・公平かつ円滑に実施された直後の7月、パリで開催された第8回CGI会合には20カ国、14機関が参加し、新政権が引き続き経済・社会的課題を達成するための改革及びガヴァナンスの改善に取り組むことを期待して、総額59億ドルの支援表明が行われた。我が国はインドネシアに対する最大の援助国として、同国が経済・政治改革を引き続き実施し、国際社会の信認強化に努めると共に、民主的で公平な社会の建設、良い統治と汚職等の撲滅を求めた上で、社会的弱者支援を中心とした可能な限りの支援を継続していくことを表明し、総計約1,880億円の支援策について表明を行った。
(4) 引き続き同年10月の大統領選挙も民主的に大きな混乱もなく終え、国際社会からの評価を得たこともあり、我が国として新政権誕生後のインドネシア経済及び社会を出来るだけ早くから可能な限りサポートするとの観点から、99年12月に経済協力政策ミッションを派遣し、新政権成立の早い段階で我が国の経済協力方針、重点分野、関心事項、問題点等を伝達した。
 このミッションの成果を踏まえ、2000年2月ジャカルタで開催された第9回CGIでは、我が国はインドネシアの経済回復に向けた努力を支援し、同国において経済構造改革等を実施していく上で高まっている資金需要に応えるため、2000年度2国間ベースでの経済協力として、約160億円の新規円借款を表明すると共に、無償資金協力及び技術協力(開発調査を含む)約120億円が行われる予定であることを表明した。これらを合計すると2000年度の新規の対インドネシア経済協力の総額は約280億円となる。なお、同会合では、「経済・社会情勢」、「開発の優先課題と計画」、「統治(ガヴァナンス)」、「森林」、「公的債務とファイナンスの必要性」、「支援表明」等につき意見交換が行われ、国際社会として総額約47億ドルに及ぶ供与が表明された。
(5) インドネシアは、99年の我が国二国間ODAの第1位の受取国であり(支出純額、16.06億ドル)、99年までの累計でも第1位(支出純額163.95億ドル)である。また、インドネシアにとって我が国は世銀、ADBとともに最大の援助供与国であり、インドネシアが受け取る二国間ODAの66.6%(98年支出純額シェア)を供与している。特に97年7月以降は、経済危機への対応として新宮澤構想をはじめとする様々な支援策を打ち出し、特に資金規模の大きい円借款をプログラム型借款という形で迅速かつドナーとして最大の援助を行なった。
 有償資金協力については、従来から経済インフラ整備を主目的とする案件を中心に供与し、近年は、環境分野、社会インフラ整備、人材育成等の分野の協力も行ってきている。しかし、アジア通貨危機発生後は、インドネシアの国際収支支援と社会的弱者対策を主目的とした、足の速い借款の供与が中心となった。99年度には、99年2月に表明した新宮澤構想(総計24億ドル相当円、うち円借款分9億ドル相当円)の一環として、世界銀行との協調融資により、719.28億円(当初予定3億ドル相当円を増額したもの)を供与した。更に、2000年4月に開催されたインドネシア債権国会合(いわゆる非公式パリ・クラブ)においては、2000年4月1日から2002年3月31日までの間に期日が到来する中長期のインドネシア向け公的債務(政府・中央銀行向け債権及びその保証付債権;未繰り延べ分)のうち元本の返済の繰り延べを行うことが合意された。右合意を踏まえ、我が国も、インドネシアとの間で対象債権の確認作業を行い、債務繰り延べを行うこととしている。
 無償資金協力は、従来から技術協力との連携案件を中心に資金供与を行ってきており、保健・医療分野及び人造り・教育分野、環境分野、農業分野に重点をおいた協力を行ってきた。今後、経済危機対策、特に社会的弱者支援に力点を置きつつ柔軟に対応していく。98年度は、通貨危機に関して、新たな緊急食糧支援の仕組みを活用したコメ支援策(5万トンの食糧援助23億円、政府貸付米70万トンの海上輸送費等緊急無償73.36億円)やノンプロ無償30億円に加え、食糧増産援助(14.5億円)、教育・保健医療・電力分野での一般プロジェクト支援を行った。99年度は森林火災対策、2000年人口センサスへの支援、干ばつ地域における灌漑施設整備などの協力を実施した。
 技術協力では幅広い分野での人造りに貢献しているほか、特に通貨危機に対応した危機の克服及び社会的弱者支援に資する分野に重点を置いており、また、99年6月の総選挙では、20名の選挙支援専門家を派遣し、混乱のない投票に貢献した。現在は、99年に提唱した「東アジアの人材育成と交流の強化のためのプラン」(小渕プラン)に基づき人材育成支援を行っている。2000年には中小企業政策に関するハイレベルアドバイザーを派遣し、政策提言を行った。また、地方分権、警察改革などインドネシアの抱える重要課題に対する支援を行っている。
 開発調査については、社会的弱者支援及び地域間格差の是正に資する案件を優先的に検討している。なお、一層効率的な協力を図るため、将来的に資金協力事業等、他の援助形態の協力実施に結びつく可能性の高い案件を優先的に選定している。
(6) この他、インドネシアにおいて我が国は以下のような支援を行ってきている。
(イ) インドネシアでは、資金協力(無償資金協力、有償資金協力)と技術協力(プロ技、専門家派遣、研修員受入れ、開発調査)の有機的な連携を図りセクター単位の総合的な協力を行うアンブレラ協力を、農業セクターにおいて実施してきた。即ち、81~85年度の第1次アンブレラ協力「米増産協力」、及び86~90年度の第2次アンブレラ協力「主要食用作物生産振興計画協力」では米の自給達成等に貢献した。
 更に、95年10月より「農民の生活水準の向上」を最上位目標として第3次アンブレラ協力を開始した。その後、99年3月に実施した中間評価調査の結果、97年以降の社会危機を踏まえ、協力の重点を食糧増産に移してきた。その一環として、2000年9月には米生産技術に係るシンポジウムを開催した。
(ロ) インドネシアにおいては急激な開発に伴い、自然資源の減少や公害の深刻化、大都市への人口集中による居住環境の悪化等の問題が生じてきている。
 我が国は、89年11月に環境ミッションを派遣し、インドネシアとの環境分野協力につき政策対話を行うとともに、環境問題対処能力の向上に資する協力として、環境モニタリング手法の確立、環境行政分野の人材育成を目的として93年1月から「環境管理センター」への協力(2000年3月までのプロ技)を行った。このプロジェクトを通じてインドネシア政府側の環境担当者は、基礎的モニタリング技術を習得しており、各地でのモニタリング調査、地方政府職員への指導を行えるまでになりつつある。
 また、インドネシアの高い生物多様性の保全と研究を米国と共同で支援する「インドネシア生物多様性保全計画」を95年4月から98年6月まで行った。この協力により、生物多様性情報センターの設置等、自然環境の調査研究等のための環境が整い、また、グヌン・ハリムン国立公園の管理計画が策定されるなどの成果が上がっている。現在は、そのフェーズ2を実施中である(98年7月から2003年6月まで)。我が国は、無償資金協力やプロ技により、センター建設など生物多様性保全を担当する政府機関の強化に対し協力を行い、米国は生物多様性に関するNGO等の活動を支援するための基金設立のために資金を供与し基金運営に必要な技術協力を行うこととしている。
 更に、97年に近隣諸国を含め甚大な被害を生じさせた森林火災に対しては、「森林火災/煙害対策」(プロジェクト形成調査)を実施し、火災への当面の対策及び今後の体制整備に向けた検討を行うとともに森林火災跡地の復旧造林を無償資金協力として実施中である。
(ハ) インドネシアは、我が国の人口・エイズ協力の重点対象国となっている。特に母子保健サービスの充実が課題であり、これまで、家族計画普及活動強化計画(無償資金協力:92年度)、家族計画・母子保健プロジェクト(プロ技:89年11月~94年11月)等の協力を行ってきている。母子保健プロジェクトで開始された母子健康手帳制度については、乳幼児及び妊産婦の保健衛生向上のため健康の記録と教材として有効であることが確認された。また、「母と子の健康手帳プロジェクト」が98年10月から2003年9月までの予定で開始し、現在母子手帳のインドネシア全域への普及を目指し、年内93万冊の拡張配布を目指し7名の専門家が活動している。また、94年11月及び95年7月の2回にわたり、人口・エイズ分野を対象としたプロジェクト形成調査団をインドネシアに派遣している。さらに経済危機の影響を受けて家族計画を自力で継続できなくなった夫婦等に対し、無償資金協力により低用量ピルの供与(3.66億円)を行った。
(ニ) 緊急援助の分野では、97年の森林火災に対しては、国際緊急援助隊・専門家チームを2次にわたり派遣した。同チームは火災現場を調査し、更には日本より派遣したヘリコプター2機により、森林火災のホット・スポットの確認、延焼状況等に関するモニタリングを実施し、現地の関係機関等に対して消火活動に関する助言・指導を行った。この他、消火器等の緊急援助物資(9,200万円相当)を供与した。また、2000年6月のスマトラ島南部における地震災害に対して、国際緊急援助隊・医療チームを派遣し、被災地での医療活動を行った他、テント等の緊急援助物資(1,500万円相当)を供与した。

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