[30]ペルー
1.概 説
(1) 1990年7月に発足したフジモリ政権は、前政権下でのインフレ昂進、国際社会での信用失墜や景気後退による経済危機及びテロによる社会不安等に対処すべく、経済面では構造調整政策(財政収支改善によるインフレ抑制を柱とする)の断行により経済安定化を図る一方、国営企業の民営化を推進し、内政面では、テロ対策、行政改革に着手した。フジモリ大統領は、95年4月に行われた大統領選挙において、治安状況の好転、インフレ抑制等の実績が評価され、64%の圧倒的な得票率により再選され、貧困対策、インフラ整備を重点課題として取り組んだ。右実績とともに2000年選挙に出馬し、決選投票において51%を獲得し当選した。(注:2000年10月時点。同11月にフジモリ大統領は罷免され、パニアグア国会議長が大統領に就任した。2001年4月に総選挙が実施され、7月末に新大統領が就任する予定。)
(2) 外交面では、フジモリ政権は、対外債務問題等への対応のために先進国・国際機関との関係を強化してきたほか、近年はアジアとの経済関係を強化し、98年より正式にAPECに参加した。長年エクアドルとの間で続いていた国境問題は、98年10月和平合意に達し、99年5月ブラジリア合意が発効し、最大の外交課題が解決された。
(3) 経済面では、主要産業のGDPに占めるシェアは、製造業、サービス、農業の順に大きいが、労働人口の34%は農業部門に従事している。農業は、農地がアンデス山脈を中心とした山岳地帯に多いため(海岸部は砂漠となっている)、規模が小さく生産性も低い。世界でも有数の鉱物資源国であり、銀、銅、鉄鉱石をはじめ各種の鉱産物を産し、これらは主要輸出産品となっている。また、水産資源にも恵まれており魚粉は重要な輸出品となっている。工業では、輸入代替型の製造業が多く、繊維製品を除いて総じて輸出競争力に乏しい。
(4) フジモリ政権の下で財政の健全化、インフレ抑制等で一定の成果を上げてきたが、97年後半からのエル・ニーニョ現象、その後のアジア、ロシア、ブラジル等の通貨危機による外貨流入の減少、主要鉱産物の国際価格下落などにより、98年の経済成長率は0.7%に落ち込んだ。99年にはエル・ニーニョ被害からの復興が堅調となったほか、製造業及び内需も回復し3.8%の成長を記録した。他方、景気対策のための財政支出が増加した反面、内需の落ち込みから財政歳入の減少となり、中央政府の財政赤字は拡大し財政均衡が課題となっている。
(5) 治安情勢については、92年センデロ・ルミノソ(SL)、トゥパク・アマル革命運動(MRTA)等テロ組織の指導者逮捕等により活動は下火となっていたが、96年12月、我が国大使公邸をMRTAが襲撃する事件が発生した。97年4月、人質となっていた72人のうち1名の死者を出したが、残る人質は解放され、事件は終結した。その後、ペルーで大規模なテロ活動は起きていない。こうした犯罪の一因に、貧困問題の存在が指摘されており、社会的・地域的格差の解消とともに、約450万人の最貧困層への対策がペルー政府の社会政策上最大の懸案となっている。
(6) ペルーは中南米では我が国の最初の外交関係を結んだ国であり、メキシコに次ぐ歴史を有する移住国である。現在、約8万人の日系人・日本人移住者が在住している。99年5月には、ペルー移住百周年記念式典が行われ、清子内親王殿下が出席された。またそれに先立ち、5月にフジモリ大統領が大統領として10度目の訪日を行った。96年8月及び97年5月には橋本総理(当時)がペルーを訪問している。ペルーと我が国の貿易は、我が国の輸入超過が続いていたが98年から輸出超過(99年実績では、我が国の輸出355億円、輸入331億円)、ペルーは我が国の重要な鉱物資源供給国であると同時に、我が国はペルーの主要輸出相手国(99年第2位)となっている。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 我が国は、ペルーに対し、我が国との伝統的友好関係、日系人・日本人移住者の存在を踏まえ、フジモリ政権下における90年以降の経済の持続的成長及び貧困撲滅への改革努力も評価し、国際社会と協調しつつ積極的な協力を行っており、ペルーは日本の二国間援助実績(99年までの支出純額累計)において第15位(中南米地域で1位)の受け取り国となっている。
我が国のペルーに対する経済協力は、民生向上のための上下水道整備、教育、保健・医療等の社会分野での協力、灌漑施設整備、農業技術移転等の農業分野での協力、道路、港湾整備を中心としたインフラ整備への協力、自然災害時の緊急援助等幅広い分野で実施しており、ペルーの経済発展及び貧困対策に貢献している。また、我が国は、同国においてDAC新開発戦略の考え方を具体的行動を以て重点的に実施していくこととしている。
2000年8月、我が国は対ペルー国別援助計画を発表し、以下の分野を我が国援助の重点分野としている。
(イ) 貧困対策
都市と地方の所得格差是正や農村開発が大きな課題であることを踏まえ、農業生産のインフラおよび生産方法の近代化支援を重点として、資金協力を通じた給水・小規模灌漑に関わるインフラ整備等の協力、零細農民への資金貸付等の協力を検討する。基礎的生活基盤(BHN)では、今後も上下水道整備支援を中心とした協力を推進する。また、非合法なコカ栽培に対する代替作物の栽培については、日米コモン・アジェンダの観点からも引き続き協力を行う。
また、劣悪な生活環境は貧困問題と密接に関連していることを踏まえ、貧困地域の生活環境改善に資する事業について支援を進める。
(ロ) 社会セクター支援
初等教育就学率、識字率ともに都市・農村間及び男女間の格差が大きいことを踏まえ、現職教員の再訓練・研修、教材・教育機材整備等を支援する。妊産婦及び幼児の死亡率が高いことから、母子保健、家族計画の推進とともに、保健・医療施設への機材供与や医療従事者の育成に関する協力を重視する。なお、社会セクター支援に当たっては、新しい情報通信技術の活用も検討していく。
(ハ) 経済基盤整備
持続的成長を維持していくために不可欠な運輸(道路、空港、港湾)、電力、情報通信等の経済インフラの整備につき、民営化の動向、遠隔地等地方への対応も念頭に置きつつ協力する。また、食料生産の拡大等農林水産業の体質強化・改善、輸出の主要な担い手となっている鉱業部門における環境に配慮した鉱山開発の推進及び石油・天然ガス等エネルギー関連のインフラ整備を進めるほか、観光開発も重視していく。
(ニ) 環境保全
持続可能な開発を進める上で環境問題への対処は不可欠であり、ISD構想(21世紀に向けた環境開発支援構想)に基づき、大気・水質汚染対策や廃棄物処理、産業公害対策等の公害問題対策や温暖化等の地球環境問題対策を中心とした支援を進める。更に、エル・ニーニョ現象等による自然災害への予防・復旧対策の検討が必要である。
(2) 有償資金協力については、90年以降、貿易、金融、厚生等の分野におけるセクターローンを実施していたが、ペルーの多様な開発ニーズに対し質・量ともに支援を強化するため、96年より原則として毎年円借款を供与することを決定した。以降、水力発電等の大型プロジェクトを実施してきたが、最近の実績としては、エル・ニーニョによる被害復旧のための道路整備のほか、上下水道整備や灌漑施設整備、零細農家支援など貧困層が直接裨益する案件に対して円借款を供与している。
無償資金協力については、近年保健・医療、教育等の分野における一般プロジェクト無償のほか、食糧増産援助、文化無償、ノンプロジェクト無償等の協力を行っている。
また、草の根無償による支援も実施しており、95年の選挙に際しての機材供与、日米コモン・アジェンダの枠組みにおける麻薬代替作物栽培への支援等を行っている。尚、近年、同国の個人所得水準の向上により経済協力の中心を有償資金協力に移行しつつある。
技術協力では、小規模企業対策、環境対策、保健・医療などの分野を中心とする研修員受入れ、第三国研修等を中心に協力を実施している。開発調査については、鉱工業、環境等の分野で協力実績があるほか、98年からは「全国観光開発マスタープラン作成調査」等を実施している。
(3) また、ペルー・エクアドル国境問題和平が達成されたことを受け、99年8月には、同国境地域開発に関するプロジェクト形成調査団を派遣するとともに、同地域開発支援を目的に、資金協力、人的交流等を実施している。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET
国際機関、ODA NET
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)99年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)99年度実施開発調査案件
(参考3)99年度実施草の根無償資金協力案件
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