[28]ブラジル
1.概 説
(1) 中南米一の人口(1億6千万人超)と国土面積(日本の約23倍)を有する。人口は南東部と東北部に集中しており、アマゾン地帯を含む北部・中西部の人口密度は極めて低い。
95年、カルドーゾ政権がレアル・プランの成功を背景に世論支持率70%を超える歴史的に高い支持を得て成立した。社会的公正に配慮した国家の近代化と経済開発の促進を政策目標とし、経済安定化の定着にとって緊急かつ不可欠とされる憲法改正をはじめとする重要課題に取り組み、98年10月の大統領選挙で再選された。
(2) 外交面では、開発途上国のリーダー格としての立場を維持しつつ、国際社会における発言力の強化を目指し、中南米諸国及び先進諸国との関係緊密化、現実的な通商拡大等の政策を積極的に展開している。
(3) 経済面では、輸送機器、エネルギー、鉄鋼、電気・電子等の産業が発展しており、中南米最大の工業国となっている。農業は、GDPの約1割を産出するにすぎないが、労働人口の約3割を吸収している。鉱物資源にも恵まれており、鉄鉱石、ボーキサイト、マンガン、ウラニウムなどが豊富に存在し、水産資源、林産資源も豊富である。特にアマゾン地域の熱帯林は、世界の熱帯林面積の約50%を占めている。
(4) 94年のレアル・プラン導入後、長年の高インフレは収束し、95年第2四半期以降落ち込んでいた景気は96年下半期から回復し始め、96、97年と3%台のGDP成長率を記録した。しかし、アジア経済危機及びロシア通貨危機の影響から急激に外貨準備高が減少し、98年11月、IMF等から総額415億ドルに上る支援が発表された。99年1月の変動相場制移行後、レアルは大幅に下落し、インフレ鎮圧を目的として金融引き締めが行われ、経済は低迷したが、同年3月にIMFプログラムが改訂され、為替及び物価も安定化する中、金融も緩和され、99年の実質GDP成長率は1.1%となり、当初の予想(-4%程度)に比べて急速に回復した。99年のインフレ率は、97年の4.34%、98年の2.49%を上回ったが、IMF合意の目標値(8%マイナスプラス2%)内の8.9%に留まった。他方、貿易収支は期待されたほどの改善を見せず、輸出480億ドル、輸入492億ドルと12億ドルの赤字となっている。なお、経済開放化政策の進展を背景に海外からの対伯直接投資はロシア危機やブラジルの通貨危機にもかかわらず一貫して増加しており、99年は約300億ドルの直接投資があった。
(5) 我が国とは1895年に外交関係を樹立し、伝統的に友好関係にある。1908年には日本人の組織的な移住が始まった。
70年代に入ってからは、我が国企業のブラジルに対する関心が高まり、経済関係も急速に緊密化した。現在、日系人・日本人移住者約130万人が在住しており、要人往来も盛んで、96年3月にカルドーゾ大統領が訪日し、同年8月に橋本総理(当時)、97年5月~6月には天皇・皇后両陛下がブラジルを御訪問された。また、98年6月、移住90周年記念式典出席等のため小渕外務大臣(当時)がブラジルを訪問した。また、90年の「出入国管理及び難民認定法」の改正以降、日系人を中心とする在日ブラジル人が急増し、99年末現在、約22万人が本邦に在住している。
(6) 我が国の対中南米貿易に占めるブラジルの比重は大きく、我が国からの輸出(機械機器等)は、99年実績でみると25.8億ドル(中南米地域で第1位)、輸入(鉄鉱石、コーヒー等)は21.9億ドル(同第3位)となっている。貿易収支は79年以降ブラジル側の輸出超過が続いたが、99年は日本側の輸出超過となった。99年の対ブラジル直接投資は466億円で、中南米におけるシェアは7.2%となっている。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 我が国は、ブラジルとの伝統的友好関係及び緊密な経済関係、約130万人の日系人・日本人移住者の存在、中南米地域におけるブラジルの政治・経済面での重要性、アマゾン地域等における熱帯林の保全に対する世界的な関心等に鑑み、また、所得水準が比較的高いことから、技術協力、有償資金協力を中心に協力を行ってきており、我が国の二国間援助実績において第18位(中南米地域で第2位)、ブラジルにとり我が国は第1位の援助国となっている。我が国は、ブラジルにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び92年3月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等によるブラジル側との政策対話を踏まえ、次の分野を援助の重点分野としている。また、96年のカルドーゾ大統領訪日及び橋本総理(当時)のブラジル訪問に際し、ブラジルが推進している周辺国やアフリカ諸国に対する南南協力を積極的に支援していく方針である旨強調した。更に、2000年3月には、ブラジルの南南協力への支援を更に強化するため、「日本・ブラジル・パートナーシップ・プログラム(JBPP)」が署名された。
(イ) 環境
アマゾン地域における農牧業等の開発による森林破壊や野生生物の種の減少、北東部における砂漠化といった自然環境問題、更に、工業化と都市化による大気・水質汚染、廃棄物処理問題等の公害対策等、更には地球温暖化防止対策など、環境問題対策支援として、専門家派遣、開発調査の実施等による技術移転を図るとともに、環境関係プロジェクトに対する円借款供与を行っていく。
(ロ) 工業
工業の近代化、国際競争力強化のため、我が国の有する工業技術あるいは品質管理体制や生産性の向上といったノウハウを移転するための協力を行っていく。
(ハ) 農業
農業分野はGDPの約1割を占めるに過ぎないものの、労働人口の約3割、輸出総額の約3割を占めている。我が国としては、地域の特性・技術レベルに応じて、環境保全や産品の流通にも配慮しつつ、例えば付加価値の高い産品の創出、灌漑技術の普及等、技術の移転・開発及び地域の所得向上を目指した協力を行っていく。また、セラード地帯(土壌が強酸性で灌木が散在する半乾燥地域)への協力の継続について検討する。
(ニ) 格差是正・貧困対策
持続的成長を将来にわたって確保するため、地域格差、所得格差解消のための努力が必要であり、保健・医療、教育等への支援を含め協力を行っていく。
なお、98年3月の二国間協議において、これまで比較的開発の遅れていた北部・北東部開発を重視していくことが確認された。
(2) 98年までの我が国援助の支出純額累計をみると、ブラジルは第7位の技術協力の受取り国となっている。
技術協力については、ブラジルのニーズが高く、援助吸収能力も大きいことから、中南米地域の最重点国として積極的に協力を行ってきており、農業、保健・医療、行政、人的資源、経済改革努力支援などの分野を中心に各種形態により幅広く協力を行っている。プロジェクト方式技術協力に加え、南米地域におけるブラジルの技術水準の高さ等を背景に、第三国研修を実施しており、中南米及びモザンビーク等アフリカのポルトガル語圏の一部の国からの研修員を受入れている。開発調査についても、環境、農林水産等の分野で協力を実施している。
有償資金協力については、60年代に計4件の協力を行い、その後しばらくは協力実績はなかったが、81年度、82年度、89年度には、灌漑、港湾整備、農業開発、農村電化等の案件について円借款を供与した。また、92年6月にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED)において、我が国が今後環境分野へのODAを拡充・強化する旨表明したことを受けて、下水処理、河川流域の汚染改善などの環境改善案件に対し、円借款を供与している。更に96年8月、橋本総理(当時)がブラジルを訪問した際には、「風力発電建設計画」等4つの環境プロジェクトに対し円借款を供与した。また、98年11月のランプレイア外相の日本公式訪問に伴い、「カーチンガ環境保全計画」等4件の環境プロジェクトに対する円借款について我が国より条件提示を行い、2000年7月に実施した。
無償資金協力については、ブラジルの所得水準が高いこともあり、これまでに災害緊急援助1件及び文化無償2件を行っているのみであるが、99年より草の根無償資金協力を開始している。
この他、開発協力事業として、セラード地帯(ブラジル中西部に広がる半乾燥地)における農産物の生産拡大、地域開発の促進を目的とする「セラード農業開発協力事業」をはじめとする各種事業に対して協力を行っている。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET
国際機関、ODA NET
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)99年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)99年度実施開発調査案件
(参考3)99年度実施草の根無償資金協力案件
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