[6]エル・サルヴァドル
1.概 説
(1) 中米5カ国の中でも最も国土面積が小さく、人口過密な国(人口密度292人/km2、99年)である。79年以来、ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)と政府軍との間で内戦が続いていたが、92年1月クリスティアーニ政権において和平合意が成立し、国連の監視・検証の下、和平プロセスが順調に履行された。「国連エル・サルヴァドル監視団(ONUSAL)」は95年4月に、また、これを引き継いだ「和平合意完遂のための国連ミッション(MINUSAL)」も96年4月にそれぞれ任務を終了したが、内外より国連平和維持活動の成功例として高い評価を得ている。我が国も国際平和協力法のもと、94年の大統領選挙・総選挙にあたり、延べ30名の選挙監視要員を派遣し、ONUSALの活動に直接貢献した。94年6月に発足したカルデロン政権は、高い経済成長を達成するとともに、98年には和平合意の完全履行を宣言した。99年6月に就任したフローレス大統領は、貧困対策や産業活性化、雇用創出に重点的に取り組むことを表明している。
(2) 経済面では、コーヒーを主要産品とする農業が中心で、外貨収入はコーヒー輸出及び海外移住者からの送金(年10億ドル以上)に大きく依存している。内戦中停滞した経済は、クリスティアーニ政権が自由主義経済を掲げ、貿易の自由化及び金融部門の自由化を図るとともに、投資の促進と生産性の向上を目指した政策を進めたことから順調に成長(98年の実質GDP成長率は4.0%)してきた。しかしながら、98年11月に中米を襲ったハリケーンは同国にも大きな被害をもたらした。財政面においてはカルデロン政権下において、電話公社(ANTEL)、電力供給公社、非公務員を対象とした年金システムの民営化が実現し、財政のスリム化に成功した。
(3) 我が国とは1935年に外交関係を開設した。我が国は治安情勢の悪化から79年以降大使館機能を縮小していたが、内戦終結に伴い93年3月より常駐大使を再び派遣している。
また、カルデロン大統領(97年)、ブリスエラ外相(2000年)の訪日、東外務政務次官(当時)の同国訪問(94年)等、要人往来も活発化している。日本と中米諸国政府間のハイレベル定期協議機構として、95年11月に発足した日本・中米「対話と協力」フォーラムの第1回及び第3回会合(98年3月)が同国で開催された。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 我が国は、エル・サルヴァドルの民主化定着及び市場指向型経済導入に向けた努力、和平プロセスの順調な履行を評価し、また同国を含む中米地域の安定が中南米の平和と安定等に重要であること等を踏まえ、援助を実施してきている。
中米諸国が内戦状態にあった87年、中米和平達成の暁に我が国は同地域の復興開発にできる限りの援助を実施する意向である旨を倉成外務大臣(当時)がグァテマラにおいて表明したが、92年1月に政府とゲリラ(FMLN)との間で和平合意が達成されたのを受け、3月には「緊急支援パッケージ」として5億円のノンプロジェクト無償援助及び帰還兵士・内戦避難民に対する緊急援助を行うなど援助の強化に努めた。
また、92年7月にはエル・サルヴァドルの復興開発のための今後の具体的な協力方策を調査するために経済協力調査団を派遣し、93年3月には電力・上下水道分野に対する円借款供与を含む「復興支援パッケージ」を実施した。このような段階的な援助を踏まえ、現在、同国への支援形態は多岐にわたっている。
我が国は、エル・サルヴァドルにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究ならびに94年12月に派遣した経済協力総合調査団及びハリケーン災害後の99年2月に派遣したプロジェクト確認調査団等によるエル・サルヴァドル側との対話を踏まえ、以下を対エル・サルヴァドル援助の重点分野としている。
(イ) 生産部門活性化に資する分野(運輸・交通、農業生産基盤、エネルギー関連等)
エル・サルヴァドルでは、潜在能力の大きい生産部門の活性化に資する支援として、また、ハリケーン災害からの復興の観点からも、運輸・交通、農業生産基盤、エネルギー関連等の経済インフラ整備及び人造り・技術移転が重要である。
(ロ) 社会開発分野(教育、保健・医療)
エル・サルヴァドルは人口に対して国土が狭く資源も乏しいため人材開発が不可欠であり、初等教育の充実、教員の養成が急務である。また、社会的弱者、貧困層への保健医療サービス提供に向け地域保健医療に力を注ぐ。
(ハ) 環境(上下水道、廃棄物処理)
持続可能な開発のためには、水資源の有効利用や全国的に深刻な問題となっている汚濁水の処理、大都市の廃棄物処理への協力が重要である。
(ニ) 民主化・経済安定化支援
我が国は、エル・サルヴァドルに対し民主化と経済安定化のための支援を、NGO活動の重要性を念頭に置いた草の根無償の活用、及び日米コモン・アジェンダの下での日米協力等として行ってきたが、今後とも同分野における協力を継続していく。
(2) 無償資金協力については、82年度に協力を開始して以来、食糧増産援助、内戦で疲弊した基礎インフラ整備及び文化無償などを実施してきたが、内戦後の順調な経済成長により、個人所得が増加したため、我が国の経済協力の重点を有償資金協力及び技術協力に移しつつある。
技術協力については、専門家派遣、研修員受入れを中心とする協力を実施してきており、92年度から青年海外協力隊員の派遣を再開した。また、97年6月より看護教育強化、99年2月より農業技術開発普及強化のプロジェクト方式技術協力を開始した。開発調査については、河川、環境等の分野で協力が行われている。更には、中米地域の警察組織の強化を目的とした中米高等警察研修所に対する協力につき、98年1月に要請背景調査団が派遣された。
有償資金協力については、74年度に空港建設に供与した後は、91年度まで協力実績がなかったが、同国の和平合意後の復興に協力するため、92年度以降には電力、上下水道、道路整備の分野への協力を行った。
(3) 96年4月のクリントン米大統領訪日時に日米コモン・アジェンダの新分野として「市民社会と民主化」が加わり、96年6月の日米コモン・アジェンダ次官級会合において、エル・サルヴァドルの選挙準備・司法制度強化等に関する日米協力について合意した。
また、97年7月と99年1月の2回、日米コモンアジェンダの一環として、同国の国会議員、行政官等を招待(研修員受入)して、本邦において「民主化セミナー」を実施した。
(4) 2001年1月、同国を襲った地震被害に対して国際緊急援助医療チームの派遣、緊急無償、緊急援助物資の供与を行った。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET
国際機関、ODA NET
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)99年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)99年度実施開発調査案件
(参考3)99年度実施草の根無償資金協力案件
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