




更に、1998年に壊滅的なハリケーン災害を受けた中米諸国に対する復旧・復興支援、カリブ地域の島嶼国に対する広域的な支援についても配慮していく必要がある。
(2) 民主化及び経済改革努力に対する積極的な支援
近年、域内各国における民政移管の実現によりキューバを除き民主体制がある程度定着したこと、また、過去の政権の経済政策の失敗等から経済的困難に陥っている国が市場経済原理に基づく経済再建に取り組んでおり、比較的高い経済成長を維持しインフレを沈静化させていることは評価すべきことである。これらの国の民主化努力あるいは経済再建努力を引き続き積極的に支援することは世界的な課題である。
我が国としても、このような観点から中南米に対する援助を実施してきており、ニカラグァ、エル・サルヴァドル、グァテマラに対して内戦終結以来、民主化促進・経済復興努力への支援のためODAを拡充してきたほか、ペルーについても同様に積極的に支援を行っていくこととしている。更に、ハイティに対しては、94年10月のアリスティド大統領の帰国により同国が民主体制の回復と経済復興に本格的な取組を開始したことを受け、91年のクーデター発生以来凍結していたODAを再開し、資金協力、人の派遣を通じての選挙支援を含め、94年10月以降これまでに約5,000万ドルの支援を実施している。
(3) 豊かな自然環境の保全や経済成長に対応した環境保全のための支援
中南米地域は、アマゾン熱帯雨林の減少、メキシコシティーをはじめとする大都市における大気汚染、広域な水質汚濁、都市への人口集中によるスラム化など、多様かつ深刻な環境問題を抱えている。我が国はこのような中南米の環境問題に対し技術協力及び資金協力の両面において積極的な協力を行っており、水質改善のためのマスタープランの作成等の開発調査を行うとともに、所得水準の比較的高いメキシコ、ブラジル等に対しても環境円借款を供与している。また、グァテマラ、ニカラグァ、エル・サルヴァドル、ホンデュラス等に対し低所得者層の住宅改善や上水道整備など基礎的居住環境整備のために無償資金協力を行っているほか、プロジェクト方式技術協力を通じ、メキシコで「環境研究研修センター」、チリで「チリ国環境センター」(無償資金協力も実施)などのプロジェクトを支援している。
(4) 貧困問題緩和のための支援
我が国は、貧困問題の緩和のための支援として、基礎教育、保健医療、農業・農村開発、地域間格差是正のための基礎インフラ整備等を実施していることに加え、中南米地域の麻薬問題撲滅のための協力として、これまで研修員受入れ、第三国研修による技術協力を中心とした二国間協力を実施しているほか、OASの米州麻薬濫用取締委員会(CICAD)、国連薬物統制計画(UNDCP)に対して資金協力を行っている。更に、麻薬問題の解決にはその背景となっている貧困問題の解決が不可欠との視点から、食糧増産援助を含む農村開発、教育、産業振興のためのインフラ整備等の協力を実施している。ペルーにおいては、日米コモン・アジェンダの枠組みの中で、草の根無償による麻薬代替作物栽培への支援を行っており、また、98年11月に開催された麻薬対策支援国会合においても支援を表明した。
国連の統計によれば、中南米地域では女性世帯主の割合が30%近くと比較的高く、扶養する子供を持つ女性世帯主がその大きな割合を占めている。我が国としても「途上国の女性支援」(WID)の観点から女性の役割に配慮しつつ援助を実施しており、グァテマラにおいては、日米コモン・アジェンダの枠組みの中で米国と協調し、我が国から派遣された専門家が中心となって女子教育振興のための訓練プログラムの共同開発等に取り組んでいるほか、無償資金協力を通じて女子教育振興の視点に立った「小学校建設計画」を実施している。
(5) 南南協力、広域的な協力の推進
中南米地域では、メルコスールに加え、カリブ諸国や中米においても地域統合を考慮した効果的な支援が求められているところ、広域的な協力に配慮していく必要がある。中米地域とは、地域的な協力の必要性から、毎年定期的に開催されている日本・中米フォーラム等を通じ、今後の具体的な協力の方向性等につき協議を行っている。また、カリブ諸国とは、国連等国際場裡における協力関係が強化されつつある一方、近年これらの国々の我が国援助に対する期待が高まっており、これらの島嶼国に対する地域的な我が国援助の充実が求められていることから、我が国は93年に開始された日・カリブ協議等を通じてカリブ諸国地域への広域的な支援及び関係強化に努めている。
コスタ・リカにおいては、無償資金協力で建設した産業育成センターを活用し、92年より5年間のプロジェクト方式技術協力「中米域内産業人材育成計画」を実施、更に第3国研修を開始し、中米5カ国並びにパナマから研修員を受け入れた。更に上述したように、1996年6月にはチリと、2000年3月にはブラジルとの間でパートナーシップ・プログラムに署名し、域内の南南協力を支援するための基本的枠組みが設定された。
(6) 経済協力関係者の安全確保
91年、ペルーで農業技術専門家として技術協力活動に従事していたJICA専門家3名の殺害事件が発生し、人員の派遣を伴う協力を停止した。フジモリ政権下において徹底したテロ対策が講じられ、治安情勢は著しく改善したが、96年、同国において我が国大使公邸占拠事件が発生した。また、中南米全体を見た場合、一部の国、地域では一般犯罪の増加等治安の不安定化も見られることから、今後とも経済協力、特に人員の派遣を伴う技術協力を実施していくに当たっては、相手国政府に協力を求めるなど安全確保には十分に配慮していくことが重要である。
(7) 日系人に配慮した援助
中南米地域においては、多数の日本人移住者・日系人が存在することを考慮して、経済協力の実施に当たっては移住者・日系人に配慮した援助も行っている。具体的には移住事業としての移住者あるいはその子弟を対象とした研修員受入れ等のほか、パラグァイの「イタプア県地方道路整備計画」、「東部農村地域給水計画」、ボリヴィアの「サンタクルス県北部橋梁建設計画」、ドミニカ共和国の「コンスタンサ畑地灌漑計画」、「ダハボン地区農村開発計画」及び「西部三県給水計画」等移住地を含む地域の経済社会インフラ整備のための協力を行っている。
(8) 所得基準の弾力化
中南米地域には比較的所得水準の高い国が多いが、人類共通の課題である環境問題や地域全体に裨益するプロジェクト、更には災害復興のために、例外的に無償資金協力や有償資金協力の供与基準を柔軟に運用している。なお、環境問題に対する例としては、チリに対する「環境センター機材整備計画」、メキシコに対する「メキシコ首都圏植林計画」、ブラジルに対する「グアナバラ湾流域下水処理施設整備計画」があり、地域全体に裨益するプロジェクトとしては、コスタ・リカに対する「中米域内産業技術育成センター建設計画」がある。