[10]シリア
1.概 説
(1) 国内少数派のアラウィー派出身ながら、巧みな政治手腕をもって70年以来政権を維持してきたハーフェズ・アサド大統領は、2000年6月に死去した。後継の大統領には、故ハーフェズ・アサド大統領の次男バッシャールが国民投票等のプロセスを経て選出された。新大統領は、前大統領の路線を踏襲した政権運営を行っている。
(2) シリアは、中東和平問題をはじめとする地域情勢の鍵を握る重要なプレーヤーである。ハーフェズ・アサド前大統領は、冷戦終結と湾岸危機発生に代表されるような中東に於ける地政学的構造の変動を受け、米国主導による中東和平プロセスへの参加を決意。イスラエルとの間で、ゴラン高原の返還を軸とする直接交渉(シリア・トラック)を開始した。96年のイスラエル国内での連続爆破事件で一時中断されていた交渉は99年12月に再開されたものの再び中断され、前大統領の逝去後も特段の動きは見られない。
(3) 前大統領の経済政策は、従来同様の社会主義、計画経済体制を維持しつつも、内外の民間資本の導入と規制緩和を主柱とする経済改革を慎重に進めることを基本路線としてきた。シリア経済は、GDP比20%超の割合を占める農業部門の実績が天候に大きく左右されるため、不安定な構造を有している。他方、近時の石油価格の回復は、経済情勢の好転につながるものと見込まれている。新大統領は、かねてより経済開放指向であるとされ、今後の経済政策の動向が注目される。
(4) 我が国は、シリアから綿花、石けん等を輸入し(99年輸入額25.60億円)、同国に対し自動車、タイヤ、機械類等を輸出している(同輸出額178.37億円)。95年9月には、村山総理(当時)、96年8月には池田外務大臣(当時)、99年1月には高村外務大臣(当時)が同国を訪問、また、2000年6月には河野外務大臣が故アサド大統領の葬儀参列のため訪問した。シリアからは99年3月にシャラ外相が訪日した。
(参考1)主要経済指標等
(参考2)主要社会開発指標
2.我が国の政府開発援助の実績とあり方
(1) 我が国は、シリアが、中東和平実現の鍵を握る重要な国であり、中東和平プロセスに当事国として参加していることに鑑み、各形態による経済協力を実施している。95年4月及び99年5月には無償資金協力及び技術協力に関する経済協力政策協議を実施、95年6月には円借款政府調査団を派遣し、同国の経済情勢、開発ニーズ等を調査し、今後の援助のあり方等について意見交換を行った。今後とも、中東和平プロセスへのシリアの積極的な参加を促すべく、同国民生の向上に資する援助実施を検討していく方針である。
(2) 有償資金協力については、エネルギー及び農業分野で供与実績があり、公的債務の返済状況を十分見極めつつ、優良案件を中心に援助を実施していく方針である。
無償資金協力については、一人当たりGNPの低下に伴い、92年度より無償資金協力対象国となり、食糧増産援助のほか、教育、医療、上水道、環境等の分野に対する援助を実施している。なお、文化無償協力は、80年度以降ほぼ毎年実施している。
技術協力については、行政、農業、工業等の分野において研修員受入、専門家派遣、青年海外協力隊派遣、開発調査等により実施し、特に市場経済体制への移行支援等の知的支援にも力を入れている。青年海外協力隊員派遣累計人数(99年度までの累計304人)は、中近東域内第3位である。
電力分野や水関連分野においては、資金協力と技術協力が連携した複数の協力を実施している。
3.政府開発援助実績
(1) 我が国のODA実績
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET
国際機関、ODA NET
(3) 年度別・形態別実績
(参考1)99年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
(参考2)99年度実施開発調査案件
(参考3)99年度実施草の根無償資金協力案件
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