3.我が国政府開発援助のあり方

(1) 中近東地域の位置付け
 我が国は、原油の約85%を中近東地域から輸入し、域内の多くの国にとっても我が国が最も重要な貿易相手国の一つであるなど、同地域とは極めて高い相互依存関係にある。他方、中近東地域は、種々の政治的・民族的紛争の不安定要因を抱えているほか、特に非産油国は国際収支赤字、累積債務問題等の経済的困難に直面している。
 こうした状況において、フランス、ドイツ、米国に次ぐ同地域への援助国(97年)である我が国は、経済協力を通じ中近東地域の経済開発と民生の安定に寄与し、友好協力関係増進の観点のみならず、同地域の政治的安定に貢献する観点から、同地域の政治的変化に対し機動的に経済協力を実施していく必要がある。
 更に、同地域は、98年世銀の所得分類による低所得国が3カ国(アフガニスタン、イエメン、スーダン)、低中所得国が8カ国(アルジェリア、イラク、イラン、エジプト、ジョルダン、シリア、テュニジア、モロッコ)、高中所得国が6カ国(バハレーン、レバノン、リビア、トルコ、オマーン、サウディ・アラビア)、高所得国が4カ国(アラブ首長国連邦、イスラエル、カタル、クウェイト)と、多様な構成になっており、経済発展段階に応じたきめの細かい援助を実施していく必要がある。
(2) 我が国の中近東向けの援助の基本方針
 我が国は、この地域の社会的安定と和平に向けた環境造りのための支援を積極的に行ってきている。また、水資源の確保は地域の安定にも影響をもたらしうる重要課題である。中近東地域は産油国、LLDCを含み、経済状況は国により様々であり、国内技術者の育成等の人材開発が大きな課題となっている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(イ) 中東和平プロセス支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援、多国間協議関連案件の支援等)
(ロ) 比較的低所得の国における農業、水資源開発等の経済・社会インフラ整備支援
(ハ) 比較的高所得の湾岸諸国における脱石油経済のための経済多角化に向けた国内技術者層の育成、教育等に資する技術協力による支援及び海外からの投資促進のための環境整備への適切な支援
(ニ) 比較的高所得の国等における環境保全対策への支援
(3) 中東和平プロセス支援
 91年10月に現行の中東和平プロセスが開始されて以降、我が国は、同地域の安定につながる和平プロセス支援の観点からもODAを実施している。米国、EUとともに主要な支援国としてパレスチナ支援を行っているのをはじめとして、エジプト、ジョルダンといった和平推進に積極的な当事国・関係国に対し、重点的に援助を実施している。更に、我が国は、和平プロセスを支援するため当初から多国間協議に積極的に参画し、その環境部会の議長国を務める等の協力を行っている。多国間協議の活動の一環として、和平当事者間の信頼醸成を図り、将来の域内協力と域内発展を図る観点から、アラブ、イスラエル双方より参加者を得て、水資源及び観光分野において、ジョルダンでの汽水淡水化に関するプロジェクト形成調査、エジプト、ジョルダンにおける観光プロジェクト形成調査を93年に実施し、調査結果を基に開発調査を実施している。
 また、北部アカバ湾岸油汚染防止プロジェクトにおけるジョルダンへの無償資金協力による機材供与、世銀の砂漠化防止プロジェクトに対する立ち上げ資金の供与、中東淡水化研究センターの設立に対しても貢献を行っている。
 さらに、中東・北アフリカ開発銀行を設立するための協定が96年8月に策定され、我が国は、97年5月に同協定の署名・受諾を完了した。これは、地域の平和、安定及び開発を強化、促進するとの観点から、インフラ整備を中心とする地域的な開発プロジェクトの支援や民間部門の活性化等を支援するために域内外の資本を動員すること及び経済協力等を促進するための経済協力フォーラムを設けることを目的としている。
 エジプトについては、79年に中近東地域で最初にイスラエルとの平和条約を締結する等の和平プロセスへの積極的貢献、域内大国としての地位、我が国との良好な二国間関係等から中近東地域における我が国援助の重点国の一つとして位置付けている。
 ジョルダンについては、その地政学的重要性、94年にイスラエルとの平和条約を締結するなど中東和平プロセスにおける積極的な貢献、民主化・経済改革への積極的な努力、我が国との良好な二国間関係等から中近東地域における我が国援助の重点国の一つとして位置付けている。同国については、99年6月のケルンサミットで国際社会としてその債務負担の実質的軽減を図ることが合意されたことも受け、我が国としても応分の支援を行っていく。
 シリアについては、我が国の経済協力も中東和平プロセスへの同国の関与を考慮しつつ行っている。なお、同国は、92年度より一人当たりGNPの低下に伴い無償資金協力対象国となっており、基礎生活分野等における無償資金協力の実施を検討していく。
 レバノンは、ジョルダン及びシリアと同じく中東和平の当事国であり、16年間にも及んだ内戦からの復興、並びにイスラエル撤退後の南レバノンの復興を着実に進めることが今後の国内安定化及び中東地域の安定化にとって極めて重要である。今後和平プロセスの動向及び国内経済状況(特に国家財政の安定化)等を見極めつつ、有償資金協力及び技術協力を中心に援助実施を検討していく方針である。
 我が国は、占領下で劣悪な社会・経済状況に置かれているパレスチナ人に対し、93年9月及び98年11月にそれぞれ2年間2億ドルを目途とする支援を表明し、UNDP、UNRWA等の国際機関への資金拠出、緊急援助、基礎生活分野の直接支援、暫定自治政府の行政経費支援、パレスチナ評議会選挙支援、研修員受入れ等を実施してきている。99年度末までに、ドナー国中、最大の約5億2,500万ドルの援助を実施している。今後とも、人道的配慮はもちろんのこと、中東和平プロセスの促進に貢献するとの立場から、積極的に対応する方針である。
(4) 湾岸諸国に対する協力
 アラブ湾岸諸国については、国民1人当たりのGNPが比較的高いため、富裕産油国への資金協力は行っていない。しかし、エネルギー供給先としての湾岸地域の政治的安定性は我が国及び世界にとり死活的に重要であり、また、これら諸国の国内技術者層が薄く、国造りを支える人材の育成が重要であることから、平時より良好な関係を構築すべく、国家開発のニーズに応えた協力を行う必要性は極めて高い。
 このような中で、97年11月に橋本総理(当時)がサウディ・アラビアを訪問し、「21世紀に向けた包括的パートナーシップ」の構築として、政治分野、経済分野及び「新分野」(人造り(教育・職業訓練)、環境、医療・科学技術、文化・スポーツ分野(その後、投資・合弁分野も追加))の3つを柱とする協力関係強化を図る旨を表明した。このうち特に「新分野」については、「日・サウディ協力アジェンダ」としてサウディ・アラビアの国家開発に協力していくこととなり、ODAによる協力として、人造り、環境、医療分野における技術協力を実施していく方針である。また、その他のGCC諸国に対しても、対サウディ・アラビアの場合と同様の3分野における協力推進の枠組みとしての「日・GCC21世紀協力」を推進していくこととなった。
 また、アラブ首長国連邦、カタル及びクウェイトについては、96年1月よりDACリストパート1からパート2に移行し、98年度を以てODAによる協力を終了したが、今後引き続き協力を行うに際し、有償による技術協力を含め、協力のあり方について検討していく必要がある。
(5) 北アフリカ諸国に対する協力
 北アフリカ地域は、アラブ諸国の一員であるとともに、地中海地域として欧州諸国との経済的つながりも深く、更にはサハラ以南アフリカ諸国とのつながりも有している。こうした地政学的重要性を有し、また、石油、天然ガスを産出し、我が国も輸入を行っている同地域に対し、その安定のために我が国は援助を実施している。
 具体的には、上記で述べたエジプトの他に、テュニジア及びモロッコに対して、両国における重要産業である農業・水産業の開発・振興、水資源開発、基礎インフラ整備、地方開発、環境分野等を重点分野として援助を実施している。また、開発パートナーとして、サハラ以南アフリカ地域に対する援助を共同で実施する観点から、98年10月にはエジプトと、99年3月にはテュニジアとそれぞれアフリカにおける南南協力推進のための三角技術協力に対する枠組み文書の署名を行っている。
(6) ODA大綱との関係
 我が国はODA大綱において途上国の軍事支出の動向や人権・自由の保障状況等に十分注意を払う旨の考え方を明示しているが、中近東地域には、軍事支出、武器輸出入等との関係で注意を要したり、民主化や人権の面での問題が見られる国もある。
 ODA大綱の原則に鑑み援助方針を見直した例としては、スーダンの例がある。スーダンについては、内戦を起因とする同国における人権侵害状況に対し、我が国を含む各国が再三の改善要求を行ってきたにもかかわらず変化が見られなかったため、92年10月以降当面は緊急・人道的性格のものを除き原則として援助を停止する旨スーダンに伝え、現在に至っている。

表―11 中近東地域に対する我が国の二国間ODA形態別・国別・年度別実績

(1) 有償資金協力
(2) 無償資金協力
(3) 技術協力
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