(1) モイ大統領は、ケニア・アフリカ人国民同盟(KANU)の単一政党制の下、大統領権限の強化を図ってきたが、特に90年代に入ってからの内外よりの民主化要求圧力を受け、91年複数政党制へ移行した。92年、複数政党制の下で大統領・国民議会選挙が実施され、モイ大統領が再選を果たし、KANU与党体制も変わることはなかった。更に、97年の選挙でもモイ大統領が再選、KANUも再び勝利した。現在も引き続き、我が国をはじめとする援助国はケニアにおける人権、汚職、経済改革等の諸問題について一層の進捗を得るべく改善を求めている。
(2) 外交面では、非同盟を基調としているが、旧宗主国である英国をはじめとする先進諸国との関係強化に努めている。アフリカ諸国との関係では、エティオピア・エリトリア国境紛争、スーダン、ソマリア内戦等の平和的解決のための当事者間の仲介努力を行う等、地域の平和と安定のために積極的な役割を果たすとともに、隣国タンザニア、ウガンダとの間で経済・社会開発等の分野で相互協力を推進し、共同市場設立を目的とする東アフリカ共同体(EAC)の枠組みで協力関係の構築に積極的に取り組んでいる。
(3) 90年代に入り、政治・経済改革の停滞に伴い援助資金流入が減少したこと、天候不順による干魃、洪水災害等から、経済は極めて深刻な状況に陥った。
こうした中、世銀・IMFの支援を受けた構造調整政策に基づき、農業部門では、生産者価格の引上げ、市場流通制度の改革等を、工業部門では、独占禁止法の改正、外国投資保護法改正等による投資・輸出促進政策を、金融部門では、中央銀行の権限強化、金融セクター再編成等を推進してきている。
ケニアは、現在、生活水準向上と持続的な開発のための工業化を目指した第8次国家開発計画(1997~2001年)の実施を通じ、改革に取り組んでいる。しかし、97年以降、天候不順、道路等インフラの劣化、治安の悪化等に伴う農業及び観光分野の不振により、GDP成長率は97年2.3%、98年1.8%、更に99年は1.4%と低迷している。また、経済改革の遅れや汚職への対応ぶり等を理由として、97年財政支援型の援助が停止された結果、厳しい財政状況に陥り、過大な対外債務の重圧に直面することとなったが、2000年7月、懸案であったIMFによる融資が再開した。
(4) 我が国との関係は従来から良好である。要人往来も活発で、モイ大統領が大喪の礼(89年1月)及び即位の礼(90年11月)に参列し、最近ではゴタナ外相が第2回アフリカ開発会議に出席のため98年10月に訪日したほか、2000年6月にはサイトティ副大統領が小渕前首相葬儀参列のため訪日した。また、我が国からは99年1月には橋本元首相が、同年8月には鈴木官房副長官(当時)が、更に、同年12月には高円宮同妃両殿下がケニアを訪問した。2001年1月には、現職総理初のアフリカ訪問として、森総理大臣がケニアを訪問した。
貿易関係については、我が国はケニアからコーヒー、ナッツ、魚の切り身等を輸入し(99年輸入額2,570万ドル)、同国に自動車、鉄鋼等を輸出している。(同輸出額1億5,674万ドル)
(1) 我が国は、ケニアが、

東アフリカでの地政学的な重要性に加え、域内で政治経済面で主要な役割を果たしていること、

独立以来市場経済体制をとり、特に93年以降構造調整等経済改革努力を積極的に行ってきていること、

92年末に複数政党制の下で自由かつ公正と評価し得る大統領・国会議員選挙を実施し、その後、紆余曲折を経つつも97年に再び国政選挙を行う等民主化プロセスを進めていること、

我が国と緊密な友好関係を有していること、

一人当たりGNPが350ドルと低く、援助需要が大きいこと等から、東アフリカにおける我が国援助の重点国の一つとして位置付けている。
(2) 我が国は本年8月対ケニア援助の一層の透明性の確保及び効率性の増大のために、「ケニア国別援助計画」を策定している。
また、我が国は、ケニアにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び94年1月に派遣した対ケニア経済協力総合調査団及びその後の政策協議等におけるケニア側との政策対話、並びにケニアに対する「国別援助計画」等を踏まえ、次の分野を重点分野として援助を実施している。
(イ) 人材育成
基礎教育の改善への支援に加え、輸出の振興・外貨獲得に資する農業・中小工業分野を中心とする生産力増強に資する職業訓練及び政策策定・実施に関する行政能力の向上への協力を実施する。
(ロ) 農業開発
食料自給及び輸出促進にとって重要な食料生産の増大のため、農業生産基盤の改善、研究協力、農業技術経営の普及等について協力を行う。
(ハ) 経済インフラ整備
東アフリカ地域における交通網の拠点として、周辺諸国への波及効果も考えられるケニアの交通網の整備や、リハビリ、産業活動に欠かせない電力供給の不足を緩和するためのエネルギー資源の開発、民間資本の誘致促進のため急務である通信網の重点的整備等を重視していく。
(ニ) 保健・医療
NGOとの連携に留意しつつ、高い人口増加率の抑制に資する保健医療サービス向上のため、地域レベルに焦点を当て協力する。また、深刻なエイズ問題に関する協力についても積極的に推進する。
(ホ) 環境保全
近年急激な減少が危惧されている野生生物の保護、人口の増加を背景として減少・劣化している森林の保護・造成、都市排水や産業廃水の増加に伴う湖沼や河川の汚染に対する水質保全等に資する支援を行う。また、水供給分野での協力も検討する。
なお、上記5つの重点分野を実施するに当たっては、援助の効果的・効率的活用の観点から、(イ)援助受入体制の強化、(ロ)NGO、他援助国、国際機関との連携、(ハ)南南協力推進、(ニ)債務管理能力の向上、等に留意していく必要がある。また、ODA大綱を踏まえ、汚職問題への取り組みや治安の確保及びIMF・世銀の進める構造調整政策や貧困削減戦略ペーパー策定等の経済構造改革に対するケニア側の一層の努力を促しながら、援助を実施していく方針である。
(3) 99年度までの我が国の援助累計実績は、有償資金協力は1,736.25億円でアフリカ域内第1位、無償資金協力は734.67億円で域内第4位(以上交換公文ベース)、技術協力は652.03億円で域内第1位(JICA経費実績ベース)と積極的に協力を行っている。
(4) 有償資金協力については、運輸・通信分野等の経済インフラ整備をはじめ、農業分野等を含む幅広い分野に対し協力を行っている。無償資金協力については、農業分野、水供給分野、教育分野、保健・医療分野等の基礎生活分野、経済インフラ分野等で協力を実施している。
技術協力については、幅広い分野において、各形態を活用して実施しており、研修員受入、専門家派遣、調査団派遣の各形態における99年度までの累計人数・件数はアフリカ域内第1位である。「ジョモ・ケニヤッタ農工大学」、「ムエア灌漑農業開発」等のプロジェクト方式技術協力は、無償資金協力とも連携してその効果を挙げている。開発調査についても、農業、運輸等のインフラ整備、鉱工業分野等幅広い分野において実施している。
TICAD

のフォローアップの観点から98年5月のバーミンガム・サミットにおいて提唱された国際寄生虫対策の一環としての拠点の立ち上げに関し、ケニア中央医学研究所(KEMRI)をアフリカ側の拠点の一つとして人材開発等の南南協力の推進することとしている。また、アフリカ人造り拠点設置構想のモデルケースとしてジョモ・ケニヤッタ農工大学を中心とした人造り活動を行うための協力を推進することとしている。
更に、我が国は、同国の構造調整努力を支援するため、99年度までに合計348億円の円借款及び合計115億円のノン・プロジェクト無償資金協力を供与した。
(5) なお、ケニアは重債務貧困国(HIPC)であることから、債務負担能力を考慮し、今後は無償資金協力・技術協力をより一層活用した支援を検討していく。但し、有償資金協力についても、ケニア政府が自助努力による債務返済への意思を国際的に明確に表明し、新規資金による経済・社会開発を引き続き希望していることを勘案し、個別案件毎にケニアの財政・債務状況、実施体制等を慎重に見極めた上、検討していく。
(6) また、ケニア政府は、「貧困削減戦略ペーパー(Poverty Reduction Strategy Paper)」(暫定版)を鋭意作成中であり、我が国としてもトップドナーとして右作業に積極的に貢献していく方針である。