第4章 事後評価の概要
2.JICAによる事後評価
(1)国別事業評価(バングラデシュ)
本評価では、71年のバングラデシュ独立以後の同国に対するJICAの援助に関し、重点セクター及び重点課題の選定の妥当性、つまり援助方針の妥当性の検証、及び貧困・ジェンダー分析を含めて評価し、今後のJICAの同国に対する援助戦略の改善に資する提言に結びつけようと試みた。
71年の独立当時のバングラデシュは食糧と開発の基盤となるインフラストラクチャーが絶対的に不足していたことから、バングラデシュ政府及びドナーは「貧困撲滅」と「経済的自立」という重点開発目標のもと、農業・農村開発と電力・天然ガス、運輸交通、洪水対策などのインフラストラクチャー整備に重点を置き、また、国営企業による工業化を進めた。80年代後半以降は、インフラストラクチャー整備には一貫して重点を置いているものの、食糧自給率の向上と工業開発における国営企業主導から民間企業主導への政策転換などを背景に、農業・工業から教育を中心とする社会セクターに開発の重点をシフトさせてきた。このような動向下にあって、JICAは「農業・農村開発」を中心に「運輸・交通」、「洪水対策」を重点セクターとして援助を行ってきた。これらはバングラデシュ政府及びドナーの重点セクターと一致しており、それらの開発事業による効果の発現状況から推定すれば、各セクターにおけるJICAの協力の効果も現れていると考えられる。教育分野により援助の比重をかけるべきであったとの反省は残るものの、JICAはバングラデシュにおいて、援助形態の性格、専門家となる人材の有無、日本の技術の比較優位性など、自らの援助体制の長所・短所を考慮しつつ、重点課題・プロジェクトの選定、援助効果の発現の両面で、おおむね妥当性のある援助を行ってきており、JICAの援助はバングラデシュの開発に着実に寄与していると判断できる。
88~98年のバングラデシュのGDP平均成長率は4.7%(一人当たりGNP増加率は3.1%)であるが、貧困率は91~92年以降、経済成長の加速にもかかわらず改善が見られない。この背景には、経済成長の果実が主に都市部の非貧困層に帰属していること、雇用創出の伸びが労働力を十分に吸収するに至っていないこと、農村部において土地無し農民や、狭小地農民が増えていることなど、発展の果実が貧困撲滅の主要ターゲットである農村の貧困層に浸透していないことがある。この状況を踏まえ、今後JICAは、特に貧困撲滅に関して、1)農村産業の振興、農村での識字教育、職業訓練を含んだ農村開発事業、2)農村の女性就労機会を増加させる研修事業、3)初等義務教育の徹底と教育の質的向上をめざした技術援助、4)都市部での成人識字教育や職業訓練、5)衛生サービスへのアクセスの向上をめざした事業、6)地方自治組織の強化事業などの分野でNGOとの連携を進めるなどして、貧困層や貧困地域を狙い撃ちした事業に取り組む必要がある。さらに、これらの貧困対策へのミクロ的な取り組みのほか、所得の持続的増加をめざして、マクロ経済政策への政策アドバイザーの派遣など経済開発のソフト面でのノウハウ伝達をめざす技術協力も必要となる。
バングラデシュにおけるJICAのWID関連の協力は、分野を問わず、従来型の女性だけを特定の対象とするプロジェクトか、又はプロジェクト内で活動を女性と男性で分担するものであった。このアプローチは、女性により多くの機会が与えられるという点で意義は大きく、今後も継続されるべきであるが、一方で、このアプローチがバングラデシュ女性の開発への参加領域を狭めてきたとも考えられる。仮に女性を対象とした訓練の目的が女性の経済的自立や世帯収入の向上であるとすれば、生産技術の習得のみならず、生産に必要な資源や資本、経営手法、そして男性に独占されている農村市場への参入など、ジェンダー規範に触れ る部分を視野に入れないと、実質的な効果は期待できない。開発計画の重点は、「ジェンダー格差の是正」へと移ってきており、女性対象のプロジェクトであっても、当該セクターにおける男女の資源や機会への不平等なアクセスの改善、すなわちジェンダー構造の改善を協力内容に含めていく必要がある。さらに、実際に雇用や収入の増加という成果を得るためには、農村インフラの整備とうまく連携し、バランスをとりながら行われることが重要であろう。(2)特定テーマ評価
(イ)スリ・ランカ 「WID/ジェンダー」
94年の国際人口開発会議、95年の社会開発サミットや第4回世界女性会議など、近年、開発における女性の役割の重要性が強調されている。JICAは、90年の分野別(WID)援助研究会の開催以来、JICAのプロジェクトにおけるジェンダー配慮に取り組んできたが、JICAのプロジェクトでどの程度ジェンダー配慮が図られ、実際にどのような効果をもたらしているか、これまでほとんど評価が行われていなかった。このような背景のもと、スリ・ランカにおける5つのプロジェクトを対象として評価を実施し、今後、JICA事業においてジェンダーの視点をより効果的に取り込んでいくための提言を導き出すこととした。
本評価では5つのプロジェクトを対象としたが、このなかでは、「ペラデニア大学歯学教育プロジェクト」に、最もジェンダー配慮の視点が取り込まれていた。女性の専門家が派遣され、女性のニーズに合わせたカリキュラム作りをめざしたこと、そして男性専門家もジェンダー配慮の重要性について十分に理解していたことがその大きな要因である。また、計画策定段階からワークショップを積極的に開催して、相手側関係者を広く巻き込んでジェンダー配慮に関する意識改革を図ったことの効果も大きい。
プロジェクトにおいて、専門家とカウンターパートの構成を男性中心にすると、生産労働は男性にのみ責任があるという考え方に偏りやすくなる。男女均等に技術指導、役割分担を行うことが重要であり、その結果としてジェンダー平等が促進されるのである。最初は周縁的な役割であっても、グループの結成などを通じて開発事業への女性の参加を奨励し、女性のリーダーシップ能力を培っていくことによって、次第にプロジェクトでの主要な活動や組織中枢への女性の進出が可能になる。プロジェクトの活動のなかで、ジェンダー配慮の重要性について相手側関係者の理解を深めていくことも重要である。
また、男性主導の組織では、女性が組織の意思決定過程から排除され、女性も経済的に能動的な役割を果たせるということが認識されなくなることが少なくない。プロジェクト実施のために結成される運営委員会を含め、組織の意思決定レベルのメンバーを選考する際には男女バランスに配慮すべきである。メンバーの男女比が対等に近いほど、女性のニーズが反映された計画の策定、実施が容易になる。
一方、今回評価したほとんどのプロジェクトでは、男女別のデータが収集・整備されておらず、ジェンダーの視点からのインパクト分析は非常に困難であった。プロジェクトの計画策定から評価に至るすべての段階で統計データや情報を男女別に記録・収集し、時系列的に比較できるようにするとともに、その分析結果に基づき、プロジェクトの活動内容をジェンダー配慮の観点から見直していくことが重要である。(ロ)ケニア「野生動物保護」
野生生物保護は、生物多様性の保全に貢献するものであり、またエコツーリズム開発は収入獲得手段にもつながるものであるため、JICAとしても今後積極的に取り組んでいくべき分野である。ケニアにおける野生生物保護への協力は、無償資金協力と個別専門家、青年海外協力隊の連携が図られており、そのような連携の効果を検証するとともに、今後協力を実施していく際の教訓・提言を得ることを目的として、本特定テーマ評価を実施した。
本協力では、青年海外協力隊が長期にわたり派遣され、機材の保守・点検、修理、管理などの指導が適切に行われていた3公園(ナイロビ国立公園、東ツァボ国立公園、西ツァボ国立公園)を対象として、無償資金協力によって車輌や建設機械を整備し、個別専門家が、それらを含め、ケニア側実施機関であるケニア野生生物公社(KWS)が管理する機材の保守管理に対する指導を行った。このような連携が、整備された機材の有効活用および効果発現に大きく寄与した。
現地調査でのインタビューでは、協力対象の3公園において商業密猟はほとんど無くなっているとの回答を得た。特に東ツァボ国立公園では、以前は公園内外においてゾウの密猟が多かったが、近年は減少したとのことである。道路整備の進展に伴い、密猟防止活動の円滑化が図られるとともに観光客の安全が確保されており、観光客の満足度の増大にも貢献している。
本評価で扱った野生生物保護への機材整備を中心とする協力は、自然環境保護分野における協力が多様化していくなかで1つのモデルケースとなると考えられる。野生生物保護を目的とした活動のなかでは、保護活動を支える機材の整備はほんの一部分にすぎないが、本協力を通じ、KWSの職員のモラル向上、業務の効率化など、KWS職員に与えたインパクトも大きかった。一方、機材整備への協力を継続することには限界があり、整備した機材の老朽化の問題も生じてくる。したがって長期的な観点からは、KWSの経営システム及び料金徴集システムの改善、ワークショップの商業化など、経営状態の改善を促す協力への移行が必要である。(ハ)ザンビア「無償資金協力の自立発展」
日本は、開発途上国のなかでも比較的所得水準の低い諸国を中心として無償資金協力を実施しており、このうちJICAは、一般プロジェクト無償、水産無償、食糧援助、食糧増産援助について、「事前の調査業務」、「実施の促進業務」、そして「フォローアップ業務」を担当している。無償資金協力は、被援助国政府が実施する資機材の調達、施設の建設等に対して日本が資金供与するものであり、整備された施設・機材を有効利用し開発効果をあげていくことは一義的には被援助国側の責任であるが、日本のODAにおける「量から質への転換」に伴い、無償資金協力についても、「成果重視」に向けた取り組みとして、プロジェクトの自立発展性を確保し協力効果を高めていくことが一層重要になってきている。このような背景のもと、ザンビアにおける保健・医療分野と水供給分野の2つのプロジェクトを対象として自立発展状況を検証し、今後日本が無償資金協力を実施していくうえでJICAとして留意すべき教訓を導き出すことを目的として、本評価を実施した。
評価した2つのプロジェクトにおいて整備された施設・機材はいずれも、全体的に有効に活用されており、 地域住民に対する医療サービスの向上、そして衛生的な水の供給に貢献している。その理由として、保健・医療分野のプロジェクトでは、整備された医療機器が操作や維持管理に高度な技術を要するものでなく、故障しても自前で修理できるものが多かったこと、水供給分野のプロジェクトでは、英国DfIDの支援を得たNGOとの連携により、給水施設の建設工事が開始された当初から、地域住民の組織化と衛生教育、給水費徴収の徹底という住民参加型プログラムが同時並行的に実施されたことが挙げられる。
無償資金協力では、プロジェクトの基盤となる「インフラストラクチャー」の部分を主に実施しているが、プロジェクト全体で見たときに、プロジェクト実施のための組織、人材及び予算などの「運営管理」や、プロジェクトの実施者あるいは受益者の「オーナーシップ(主体性を持った取り組み)」が十分でなければ、そのプロジェクトの自立発展は望めない。特にLLDC諸国のような財政的にも組織的にも基盤が脆弱な国において、被援助国側の自助努力のみでプロジェクトの運営体制が全て構築されることは、実際にはあまり多くない。援助の質が一層問われている現在、被援助国側にどの程度の自助努力を求めることが現実的で長期的にも有効か、被援助国側による自立発展を支援するためにどのような協力が必要かという視点を従来にも増して強く意識して、協力内容を策定していく必要がある。現地修理可能な機材の選定、マニュアル整備の徹底、計画策定段階からの地域住民の参加、住民への教育・啓もう活動など、なかには無償資金協力の枠内では対応困難な部分もあろうが、JICAは多様な形態の技術協力を実施しており、これらとの連携を一層図ることによって相当部分は対応できるはずである。また、他の援助機関やNGOとの連携も有効な手段であり、今後も積極的に模索していくことが望ましい。(3)有識者評価
(イ)シンガポール、マレイシア「工業分野プロジェクト」
JICAはシンガポール・マレイシア両国の工業化を推進するため、多年にわたり専門家派遣、研修員受入れ、プロジェクト方式技術協力等の協力形態を通じて人造りに貢献してきた。本評価では、国際協力の現場を多く取材した経験のあるジャーナリスト、青木公氏に総括を依頼し、カウンターパート(帰国研修員を含む)を始めとする現地政府関係者、起業家等へのインタビュー調査を通じ、協力効果、特に社会的インパクトを把握することに重点を置いた。
日本と同様に資源小国であるシンガポールは、国際競争力を主眼に置きつつ工業化政策を重点的に推進し、情報産業や日本を手本とした生産性向上を中核とする産業育成を図ってきた。日本は、日本・シンガポールソフトウェア技術学院(JSIST)のプロジェクトを80年12月から10年間にわたり実施した。80年当時、シンガポールのソフトウェア技術者は850人しかいなかったが、JSISTは10年間で約1,400人の卒業生を情報産業に送り出し、80年代の年間成長38%という情報産業の高度成長に貢献した。設立以来の卒業生は現在までに3,000人を超えている。
また、日本は、82年に提案された「ASEAN人造りセンター」構想のもと、生産性向上プロジェクト(PDP)を83年6月から90年5月まで実施した。PDPでは、研修マニュアル・教材の作成、各種セミナーの開催、モデルエ場における5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)運動の導入による収益改善などを図り、その結果、生産性向上運動はシンガポール産業界に浸透していった。
80年代にほぼ並行して進められた両プロジェクトは、リー・クアンユー首相のリーダーシップのもと、シンガポールの産業構造を労働集約型から知識集約型に転換していくうえで大きな要素になった。シンガポールがユニークな都市国家だったという条件はあるが、クリーンで強力なリーダーシップとやる気、つまりグッドガバナンスとオーナーシップがあったため、日本をはじめ先進国の協力が実った好例といえよう。
一方、マレイシアでは、81年マハティール首相の就任後、いわゆる「ルック・イースト(東方)政策」を推し進め、家電、自動車、半導体を中心にした工業化路線をとってきた。日本は、上記「ASEAN人造りセンター」構想のもと、マレイシアの工業化に不可欠であった熟練、専門労働者の育成を目的とする職業訓練指導員・上級技術訓練センター(CIAST)のプロジェクトを82年8月から91年3月まで実施し、93年末までに1万826人が訓練を受けた。マレイシアでは、87年には電機・電子の製造業が農林水産業を初めて上回り、89年には、家電、半導体といった製造品の輸出がパームオイルや石油を上回るなど、産業構造が一変した。これに対して職業訓練の内容や熟練労働者の養成は立ち遅れてしまった。
一方、マレイシア政府は、円借款などを活用して、マレー系の人材を大量に日本の工業高専や理科系の大学に留学生として送り出して、技術吸収に努めた。帰国した留学生のなかには、日系企業に入り、現場で技術経営を学び、少数ながら自立して起業家になった者もいる。国内での技術者養成とともに、日本での自前の人造りが実りつつあった。(ロ)エジプト「船員教育」
JICAは、エジプト・アラブ海運大学校(AMTA)に対し過去約20年にわたり様々な援助形態により協力を実施してきた。本評価は、AMTAに対するこれら一連の協力の効果を検証し、今後の船員教育分野への協力、さらには98年10月に東京で開催された第二回アフリカ開発会議(TICAD)のフォローアップの一環として、中近東・アフリカ地域への協力推進という観点から教訓・提言を導き出すことを目的として実施された。なお、本評価では「納税者の目から見た評価」に主眼を置き、日刊工業新聞社の鎌田克俊氏に総括を依頼した。
プロジェクト方式技術協力で養成された24名のカウンターパートの多くは、協力開始から20年を経た今日でも、AMTAから改組されたアラブ科学技術海運大学校(AAST&MT)に勤務している。AMTA開設以来の入学者総数は、中近東・アフリカ諸国からの訓練生も含め6万人以上に達しており、アフリカ諸国を対象とした第三国集団研修には、85年度から94年度までの10年間で31か国146名が参加した。無償資金協力によって整備された訓練船も、92年2月から99年3月までに37回の航海訓練に供され、合計1,333名が訓練を受けた。うち14回は、地中海・紅海方面への4~5か月間の航海である。
このように、AAST&MTは船員教育機関としての機能及び組織の管理体制が整備され、順調に船員教育活動を展開している。日本によって整備された機材も、訓練船を含め良好な状態で保守、使用されている。
TICADを踏まえて策定された日本の新たなアフリカ支援プログラムには、「今後5年間で2,000名のアフリカの人材が南南協力の下で研修を受けることを支援」とある。アフリカでは今後船員不足の拡大が予測されており、アフリカ諸国での海運分野の人材養成のニーズや必要性は高いことから、アフリカ支援プログラムの一環として、94年度に終了した第三国集団研修の再開が強く求められる。また、JICAがこのような援助事例を国民に積極的に紹介し、ODAに対する国民の理解と協力を得ていくことが、ODAを継続的 に進展させるためには極めて重要である。(ハ)ケニア、タンザニア「農業分野」
本評価では、ジャーナリストとして国際協力の現場を訪問した経験が豊富な河北新報社の武田真一記者に団長・総括を依頼し、タンザニアとケニアにおけるJICAの稲作協力の効果(特に社会的インパクト)を把握することに重点を置いて評価を実施した。
タンザニアのモシは、標高5,895mのキリマンジャロ山の南面に位置し、近郊のローアモシには78年以来20年ごしの援助によって灌漑水路が整備された1,100haの水田と1,200haの畑地が広がる。協力以前は天水田で2t/ha程度の収量しか得られなかった地域であったが、稲品種IR54(現地呼称ジャパーニ=日本)、集約栽培及び改良稲作技術の導入によって、6~7t/haの収量が実現した。現在、タンザニアの1人当たりGNPは210ドル(2.2万円)であるが、プロジェクト対象地域では、平均耕作面積の0.5haから1作で約4.5~5万円の純益が上がるようになった。その結果、最近10年ほどで、プロジェクト対象地域に隣接して500haの土地が自主開田され、地域の農村人口も20年で数倍に増加した。モシのあるキリマンジャロ州全体では、IR54による稲作が自然に普及して4,200haに達し、州の米生産量はこの10年で5倍、5万5,000tに達している。
一方、ケニアでは、78年から87年にかけて、2、3年交替で合計4名の青年海外協力隊員(稲作)がビクトリア湖畔のシアヤに派遣された。協力隊員は集約的な栽培方法と高収量品種を導入し、米の収量は3倍に増加した。隊員は精米機を供与した後、村を去り、その後10年間、村と日本人の関係は途絶え、精米機の運営と管理はこの間すべて農民たちに任された。そして98年、農民たちは、隊員から教わったとおりに精米料を取って蓄えた積立金から、70万ケニアシリング(約140万円)の大金を投じ、供与されたものとまったく同じ日本製の精米機を購入した。99年現在、村では180人が80haあまりの土地で水田稲作を行っている。精米量は1日2t以上に達し、村外からも300人が精米所を利用しに来ている。
アフリカはたびたび干ばつ被害に見舞われている。アフリカでは伝統的に畑作農業がべースであるが、人口の急増を受けて畑地の休閑期間が短くなり、土壌劣化が進んでいる。稲作は、畑作と違って同じ土地を毎年活用できる利点があり、コメと稲作はアフリカの21世紀を開く重要なカギと言えよう。瑞穂の国を自任し、高い稲作技術とコメ文化を持つ日本がそこで果たすべき役割は限りなく大きい。
農業支援が、相手国に資金を援助し設備を完備してあげるだけで済むのであれば、これほど簡単なことはない。しかし、作物は土地や環境の条件に応じて工夫し育てていくものであり、育てる技術が現地に根付かなければ、せっかくの設備も無に帰すことになる。設備はいつか潰えても技術は永遠に残る。人に技術を伝える教育や普及こそが最大の支援になる。ローアモシの成果もケニアの草の根支援の足跡も、その一歩にすぎない。「短期の成果にとらわれず、10年、20年の長い目でアフリカの稲作の芽を育て、支援してあげなければならない」。現地で汗を流した人たちの言葉を重く受け止めたい。(ニ)セネガル「職業訓練」
セネガルは、アフリカ地域における日本の援助重点国の一つであり、DAC新開発戦略の重点実施国とな っている。本評価では、今後、アフリカ地域において持続発展性を有する人造り協力を策定・実施していく際の教訓・提言を導き出すことを目的として、同地域の代表的な人造り協力である日本・セネガル職業訓練センター・プロジェクトを評価することとし、国内の公的事業の効果を報道関係者として検証してきた毎日新聞社の河出卓郎氏に総括を依頼した。
本プロジェクトの目標は、日本・セネガル職業訓練センター(CFPT)を設立し、カウンターパートへの技術移転を行うことを通じて、工業設備(電子、電気、機械)に関する基礎的知識と技能を与えるための技術職業訓練を行い、セネガルにおける中堅技能者の育成を図ることであった。この目標は、10年間にわたる日本の協力を通して十分達成されたといえる。
CFPT卒業生は各企業の主としてメインテナンス部門で活躍しており、最新機械の監視なども担当している。また、中小企業ではマネージャーのポストについている者もある。雇用主からも卒業生の勤務態度、基礎学力及び技能について、正当な評価を得ており、かつ、相応した処遇を受けている。
また、特筆すべきは、CFPTが90年に周辺国からの養成訓練受入を開始した結果、CFPTはアフリカ仏語圏(21か国)内のベスト3の訓練センターの一つに挙げられるようになるなど、本プロジェクトが、セネガル国内の関係者はもとより、アフリカ仏語圏(21か国)において高い評価を享受するに至っていることである。
CFPTは日本の協力期間終了後も、セネガル側スタッフの手により、財政上の困難を克服しつつ、意欲的にその活動を持続発展させている。
CFPTのように、自助努力により持続発展を続け、様々な波及効果をあげているプロジェクトに対しては、日本は優先して協力終了後の補完協力を実施すべきである。それによって、より一層の波及効果が維持でき、投資効果も高いはずである。(ホ)パラグァイ「職業訓練センター」
南米地域における経済発展への貢献のための人造り協力の代表的な事例として、「パラグァイ職業訓練センター(CEV)」を取り上げ、南米の経済発展の基盤となる中堅技術者育成に係る協力効果の発現促進要因及び発現阻害要因について、第三者による幅広い視点から評価を行うこととし、時事通信社の長澤孝昭氏に評価調査の総括を依頼した。
CEVが5年間の技術協力期間を経て83年にパラグァイ側に引き渡されてから15年が過ぎたが、日本人専門家とともに確立した生徒指導重点・規律重視型教育システムは完全に定着し、ピエラ校長の高い学校運営能力と、資機材に対する維持管理指導を徹底的に行う熱心な教授スタッフを配置することにより、財政面を除いて学校運営は円滑に行われており、すべての面からみて、CEVは完全にパラグァイ自身のプロジェクトとして生まれ変わっている。
79年の開校当時めざした「何らかの理由で教育制度から離れ、小学校しか終了できなかった者に1年間という短期間内で手に職をつけさせ、労働市場で食べていける初等技術者を養成する」とのCEVの目標は十分達成され、その哲学は同校長及び指導陣の下で現在もなお脈々と受け継がれている。
しかしながら、南米南部共同市場(メルコスール)の求めるニーズへの対応、とりわけ技術面への対応は完全に立ち後れている。機材の更新や指導技術の高度化など時代の環境変化に十分追い付いていない。パラ グァイ側は、“CEV第2フェーズ”に対する日本の新たな協力に期待しているが、パラグァイ政府内部でメルコスール時代に対応した技術者養成のあり方について統一的な基本方針を固めることが先決である。
パラグァイ政府は、93年から教育制度の見直しに着手し、98年度から新しい教育制度の試行に入ったばかりである。政権も98年8月にワスモシ政権からクーバス政権に交替し、財政の立て直しを中心に政策全体の全面的な見直しを進めている最中である。今後、CEVに対して何らかの協力を行うとしても、当面は教育改革の行方を見守ることにとどめるべきと考える。(ヘ)フィジー/パプア・ニューギニア「研修員受入事業」
本評価は、アジア・大洋州地域の国際関係を専門とする獨協大学の竹田いさみ教授に総括を依頼し、南太平洋地域の指導的国家であるフィジー、及び人的資源開発のニーズが高いパプア・ニューギニアにおいて実施された第三国集団研修が、大洋州島嶼国の人材育成にどのように役立ってきたかを検証し、大洋州地域における研修ニーズ、及び協力の方向性を検討することを目的として実施された。
フィジーの第三国集団研修「電気通信」では、15年間に298名のアジア・大洋州地域からの研修員を輩出したが、研修員及びその上司ともに、研修目標は達成されたと高く評価しており、研修で得た知識や技術が帰国後に利用できたかについても、88%の研修員が利用できたと回答した。帰国した研修員のなかには経営代表者や教育者になった者もおり、社会的、経済的なインパクトが多く見られる。ただし、技術革新のスピードが速く民間の活力が高い電気通信のような分野では、最先端技術の研修は民間にまかせ、ODAでは政策立案や管理部門の研修を行うなど、両者が相互補完的に機能していくことが望ましい。
パプア・ニューギニアの第三国集団研修「沿岸漁業開発」では、15年間に235名のアジア・大洋州地域からの研修員を輩出した。研修全体についての評価は、研修員とその上司の93%が「良い」または「非常に良い」と回答した。研修で得た知識・技術も、90%の研修員が業務に活用したと答えた。
日本の援助は、大規模なインフラストラクチャー整備という印象を持たれることが多いが、今回評価した2つの第三国集団研修は、大洋州島嶼国の漁業関係者や情報通信の専門家を地道ながら実質的に育成するうえで大きな効果があった。
第三国集団研修に参加した研修員は、日本にとって財産となるべき人材である。しかしながら、制度、人員、予算などの面での制約により、JICAは帰国研修員の動向をほとんど把握できないという問題に直面している。日本にとっての人材バンクを形成し、国際協力を効果的にそして効率的に実施するうえでも、帰国研修員とJICAとの関係をより強化すべきである。(4)JICA/OECF合同評価(タイ、東部臨海開発)
日本は、タイ政府が80年代より国家社会経済開発計画の最優先課題の1つとして位置づけて推進した東部臨海地域開発計画に対し、JICA、海外経済協力基金(OECF)(現在国際協力銀行(JBIC))を通じ、積極的な支援を行った。このような背景から、東部臨海開発に対する協力について、JICAとOECFは合同で評価を行った。ただし、両者の評価視点には相違があるため、JICAは、今後JICAが工業 開発を軸にした地域開発に協力していくにあたっての教訓を得ることに重点を置き、開発調査「レム・チャバン工業基地開発計画」を中心に評価を実施した。
「レム・チャバン工業基地開発計画」はレム・チャバン工業団地の開業1年前にタイミング良く実施され、同基地開発の基本方針の決定に貢献した。97年にレム・チャバン工業団地は全ての用地が利用されるに至り、重化学工業以外の非公害・輸出型労働集約産業の誘致という同調査の目標は達成された。レム・チャバン地域では、民間投資750億バーツ(うち、外資は80%超)が流入し4万8,000人の雇用が創出され、このうち80%以上が日系等の合弁企業で、現地企業への技術移転を進捗させた。また、工業団地周辺に病院、学校、商店街、ゴルフ場等が建設され、地域開発にも貢献した。
工業団地は民間企業を誘致できなければ成功しない。また、その国や周辺地域の経済動向に大きく左右されることから、事前の市場環境調査を入念に行い、適切な建設時期を判断することが重要である。レム・チャバン工業団地は、港に近いことに加え、従業員の生活面からみても、基本的社会インフラストラクチャーを備えた県庁所在地から20km圏内と立地条件が良いため、同工業団地への入居企業の大多数が今後も居住を希望している。このように従業員の生活環境までも含めて立地を検討することが重要である。
組み立てメーカーや現地財閥など、キーテナントの誘致に営業のポイントを置くことによって、販売業務の負担が軽減される。キーテナントを取り巻く裾野産業や中小企業群が工業用地周辺地域に立地するようになれば、地域産業振興に対する貢献も期待できるため、キーテナント誘致のための戦略をたてることが成功の鍵となる。(5)在外事務所による評価
(イ)インドネシア共和国「ラジオ・テレビ放送訓練センターへの協力」
地理的文化的多様性に富む島嶼国インドネシアでは、国家統一や近代化推進のために、ラジオ・テレビの果たす役割が大きい。我が国は、82年度、無償資金協力によってマルチメディア訓練センター(MMTC)の施設・機材を整備するとともに、83年から92年までプロジェクト方式技術協力を実施し、MMTCにおける放送技術者養成能力の向上を図った。さらに90年度、無償資金協力によって機材の追加及び更新を行った。
最新の訓練施設・機材の整備、カウンターパートの教育訓練能力の向上を通じ、MMTCにおける技術者養成機能は強化された。MMTCの研修プログラムに参加した研修生の数は、85年の72名から92年に204名、98年には252名と年々増加しており、卒業率も85年の81.2%から92年に97.5%、98年には98.9%と向上している。
MMTCは、インドネシアにおける放送分野の幹部人材育成について中心的な役割を果たす機関に成長しており、今後はデジタル化をはじめとする技術革新への取り組みが期待される。(ロ)ミャンマー「都市飲料水開発計画」
ミャンマー中部の乾燥地域では、飲料水を初めとする生活用水が極端に不足し、保健衛生の低下が深刻な問題であった。給水は、都市部で部分的に実施されていたが、財政難と人口増加によって給水事情は悪化していた。このため、我が国は無償資金協力により81年度と85年度の2回にわたり、ミャンマー中部の乾燥地 域とその周辺地域に位置し、深刻な水不足に直面する11都市における給水施設の整備を行い、さらに95年度にはフォローアップとして給水施設のスペアパーツを供給した。
11地方都市で給水施設が完成した結果、約69万人の住民が安全で衛生的な水を豊富に利用できるようになり、住民の保健衛生が改善され、労働生産性も増進した。
ミャンマー側は、老朽化した機材の部品の交換に苦心しつつも適切に保守管理を実施しており、現在もすべての給水施設が稼動している。しかし、整備された機材や施設は老朽化が激しく、また不安定な電力供給により揚水ポンプの故障が多発しているため、再度フォローアップによるスペアパーツの供給を検討することが望ましい。(ハ)フィリピン「バギオ市下水処理に対する協力」
観光都市であるバギオ市は、市街基盤整備が立ち遅れるままに急速な都市化が進んだ結果、汚水が無処理のまま河川に放流され、流域の水系を汚染していた。この問題を早急に解決するため、84年度、我が国は無償資金協力によって下水処理施設を建設した。その際、下水管網の整備はバギオ市側が実施する予定であったが、台風災害によって同市の財政が悪化し敷設が進まなかったため、我が国は91~92年度に下水管網の整備に関する無償資金協力を実施した。
下水管は市内129街区のうちの63街区をカバーし、下水処理施設も1日あたりの処理量が5,556m3下水道処理施設も1日あたりの処理量が5,556立方メートルに達しており、本プロジェクトを通じ整備された下水処理システムは、バギオ市における重要な機能を果たしている。処理水が放出されるバリリ川のBOD(生物学的酸素要求量)の値も改善されている。
整備された下水処理施設・機材の維持管理状態もおおむね良好であり、今後、フィリピン側が、継続的な下水管網整備の実施、各家庭から下水管への接続の奨励、下水処理料金の徴収システムの整備等を通じ、下水処理量の一層の増大と運営体制の強化を図っていくことが期待される。(ニ)中国「鉄道管理学院コンピュータシステム向上プロジェクト」
80年代後半から中国の鉄道は急速に発展し、コンピュータによる鉄道管理と鉄道管理幹部・技術者の養成が急務であった。このため我が国は、鉄道幹部管理学院において鉄道幹部・技術者の育成を図ることを目的として、87年から91年まで、コンピュータを導入した鉄道管理技術の移転に関する技術協力を実施し、その後94年から1年間、アフターケア協力を実施した。
当時の中国の鉄道管理システムへコンピュータを導入することは画期的なことであり、本プロジェクトは中国における鉄道技術の底上げに大きく貢献した。また、鉄道管理技術の向上により、鉄道による旅客輸送量や貨物運搬量の増加、貨物輸送距離の延伸などの効果が現れた。
しかし、本プロジェクトにおいて整備されたシステムは、プロジェクト実施当時は先進的であったものの、その後のコンピュータ技術の急速な発展に対し、プログラムソフトの更新などが十分行われなかったため、このシステムを使用した研修のニーズは減少し、行政改革及び鉄道内部の組織改編の一環として、97年、鉄道管理学院は交通運輸学院自動化システム研究所に吸収された。技術進歩が急速なコンピュータを利用する分野の協力では、協力終了後数年で移転した技術がニーズに対応できなくなるリスクがあるため、協力方法 の選択にあたっては十分な検討が必要である。(ホ)インド「エイズ検査関連機材」
インドのエイズ患者は、86年にマドラスで発見されて以来、年々増加の一途をたどっている。エイズへの感染は異性間の性的接触によるものが74.1%と最も多いが、輸血による感染も7%あると報告されている。このような背景のもと、我が国は、HIV感染者がインド全国の約55%、さらに輸血によるエイズ感染率も全国一であったマハラシュトラ州に対し、安全な輸血用血液を確保し、輸血によるエイズ感染を防止することを目的として、20台のエイズ検査関連機材を供与した。
血液検査機器が設置された20の血液センターでは、血液のHIV検査能力が向上し、安全な血液の収集ができるようになった。マハラシュトラ州の輸血によるエイズ感染は終息に向かい、輸血によるB型肝炎感染も激減している。
本プロジェクトは非常に効果的であったが、現地では血液検査機器の必要性が依然として高いことから、インド側の維持管理体制を確認しつつ、機器の追加供与についても今後検討していくことが望ましい。(ヘ)スリ・ランカ「自動車整備訓練センターへの協力」
スリ・ランカの運輸交通は道路輸送が中心で、輸入自由化後、車両台数が急増した。一方、自動車整備工場の多くは小規模で整備技術のレベルも低いため、車両不良に起因する交通事故の増加につながっていた。このような状況のもと、我が国は無償資金協力によって自動車整備訓練センターを建設するとともに、個別専門家を派遣して訓練カリキュラムの開発、自動車整備の先端技術の移転等を行った。
同センターは、89年に69名を輩出して以来、現在までにスリ・ランカにおける全整備工場の就業者の1.5%に相当する1,058名の卒業生を輩出した。同センターの卒業者の技量に対する業界の満足度は高い。同センターではこのほか、現職整備士の技術向上を目的とした短期コース(年間約300人)や企業からの委託訓練(年間10件前後)も実施しており、本プロジェクトは、無償資金協力と技術協力の効果的な連携事例といえる。
ただし、今後同センターが市場ニーズに的確に応えた訓練を実施していくためには、産業界との関係強化など、運営面の改善を図っていく必要がある。
今後、同様のプロジェクトを実施する場合には、自立発展性を確保するために、運営能力向上までを含めた技術移転を行うことが重要である。(ト)スリ・ランカ「適正技術研究開発センター」
スリ・ランカ政府は地方農村振興を図るため、中小工業の育成、小規模農業の活性化に取り組んでおり、その一環として、適正技術開発センター(ATRDC)が設立された。これに対し我が国は、ATRDCにおける小規模機械・部品の製造及び低価格エネルギー資源(風力、燃料電池)の開発、並びにそれらの地方への普及を目的として、プロジェクト方式技術協力を実施した。
95年から現在までに、ATRDCが所在するクルネガラ地域の5,981企業・工場のうち約900の企業・工場 がATRDCのサービスを受け、訓練専門学校修了者120人がATRDCで訓練を受けた。これらの人材の中には自ら工場を設立したり工場で雇用された者も多く、本プロジェクトは地域産業の振興に貢献している。
しかし、スリ・ランカ政府の産業政策が自国産業の保護育成から市場開放へ変更され、安価な機械が輸入されるようになったため、本プロジェクトで開発された機材やエネルギー源の多くが、価格面で競争力を失った。本プロジェクトでは、ニーズの発掘から技術の開発・訓練・普及まで総合的な技術移転を図ったため、人材・資金面では厳しい状況ではあるものの、ATRDCでは現在この技術をもとに、特殊機具・部品の製作・改良など、輸入品と競合しない分野に絞って事業を継続している。技術に対するニーズは絶えず変化していくため、特定分野の技術移転のみならず、ニーズの発掘、技術開発、訓練・普及までの総合的な能力の向上を図ることが、ニーズの変化にも十分対応して事業を継続していくうえで重要である。(チ)ジョルダン「地方ごみ処理機材改善計画」
ジョルダンでは、ごみ収集用機材の不足と老朽化により、ごみの未収集地域ができ不衛生な状態が発生していた。最終処分場においても、単純投棄のみで衛生的な埋め立てが行われておらず、悪臭や自然発火などの問題が生じていた。このため、我が国は、地方都市・農村における廃棄物処理事業を改善するために必要な機材を、無償資金協力により整備した。
本プロジェクトによって整備された機材は100%使用されており、対象地域のごみ処理事業は大幅に改善された。ごみ収集地域の拡大、収集量の増加により、対象地域の環境と衛生が改善され、都市部の美化が進んだ。埋立処分場でも、衛生状況の改善や悪臭の軽減などの効果が現れている。
現時点では財政的にも技術的にもごみ収集事業に特に大きな問題点は見られないが、長期的には、今後、機材が古くなるにつれて必要となるスペアパーツも増加すると予想されることから、維持管理費用確保のため、ごみ処理料金の徴収体系について、ジョルダン側は再検討することが望ましい。(リ)サウディ・アラビア「標準化公団派遣個別専門家」
サウディ・アラビア標準化公団(SASO)は、同国唯一の標準化機関であり、国家規格の作成と承認、及び計量・更正に関する活動を担っている。日本はSASO研究所に対し、80年以来延べ140名以上の個別専門家を派遣し、日本の標準化制度に基づく技術移転を実施した。
カウンターパートの頻繁な異動、日本人専門家とカウンターパートとの間のコミュニケーション不足などの問題はあったものの、専門家派遣を中心に機材供与、カウンターパートの日本研修受け入れを組み合わせた協力手法は効果的であり、技術移転はおおむねスムーズに進んだ。長期にわたる技術協力によって、カウンターパートの規格作成・管理手法、測定・検査などに関する能力が向上し、研究所の専門性も高まった。カウンターパートは専門技術のみならず、計画立案やスケジュール管理などのノウハウも学ぶことができた。
今後、SASOではアナログ機材からデジタル機材への移行などが必要になると思われる。我が国としては、現在SASOにおいて実施中の第三国集団研修「家庭電気製品の安全性」と連携をとりつつ、短期専門家の派遣などを通じ、SASOの一層の技術力向上を支援していくことが望ましい。(ヌ)トルコ「ツヅラ職業技術訓練高校プロジェクト」
トルコ政府は、急速な工業発展に伴い、特に電気、電子、コンピュータ分野の技術者の育成が急務であった。このため、我が国は、ツヅラ職業技術訓練高校の訓練水準を向上することを目的として、プロジェクト方式技術協力を実施した。
本プロジェクトで作成された教育カリキュラムや教材の使用を通じ、ツヅラ職業技術訓練高校の教育の質は向上し、同校はトルコの中堅技術者教育のモデルとなった。カウンターパートの能力も向上し、彼らがプロジェクト実施中に作成した61の教科書原稿、プロジェクト終了後に独自に作成・出版した27の書籍は、その大半が教育省の認定教科書となっている。また、カリキュラムも教育省によって認定され、他の技術高校で使用されている。
ツヅラ職業技術訓練高校は、夏期休暇時には全国の技術学校の教員を対象とした研修を開催し、別途民間の人材を対象にした研修も実施しているなど、日本から吸収した最新技術を国内に広く普及しようと努めている。しかし、同校の予算や職員数には、今後の新しい技術をさらにフォローしていくうえでどうしても一定の制約があるため、我が国としても機会を捉えて側面的な支援をしていくことが望ましい。(ル)マラウイ「地下水開発計画」
マラウイでは、旱魃と天候不良により水不足が深刻化しており、生活用水及び農業用水確保のための施設整備が急務となっていた。このような状況のもと、我が国は、最も緊急度の高かった北カウィンガ地域を対象として井戸施設を整備し、さらに95年度にはフォローアップとしてスペアパーツを供給した。
井戸施設が整備されたことにより、対象地域の住民は衛生的な水を豊富に得ることができるようになり、乾季の水不足解消、衛生向上、女性や子どもの水運び時間短縮、飲料水に起因する病気の減少などの効果が現れている。また、北カウィンガ地域の住民の定住化が進むとともに農業生産性が向上し、住民の生計も改善された。
マラウイ政府の資金不足や本プロジェクトで採用されたフランス製ポンプの部品がマラウイや周辺国で調達できないことなどにより、井戸施設の維持管理は十分でなかったが、95年のフォローアップによる部品の調達により、協力実施後10年以上を経過した現在も、大半の井戸が現役として稼動している。(ヲ)マラウイ「空港再活性化協力」
マラウイのリロングウェ国際空港は、我が国の円借款によって82年に開港した。開港して10年経過後、OECFが実施したSAPS(援助効果促進業務)において、空港の安全確保のため、老朽化した施設と機材の緊急修復・更新と、空港職員の十分な配置が勧告された。このため、わが国はリロングウェ国際空港機能の回復を図ることを目的として、93年から2年間、再活性化協力を実施した。
本プロジェクトによって誘導システムの交換・修復と施設・機材の更新が行われたことにより、リロングウェ国際空港の施設・機材は国際基準に到達し、リロングウェ国際空港の信頼性が高まった。また空港職員のメンテナンス技術も向上しており、本プロジェクトの目標は達成された。航空の安全性確保は、マラウイと他国との旅行時間短縮、貿易と観光旅行の振興などの効果をもたらしており、マラウイの経済成長にも貢 献している。
ただし、リロングウェ国際空港は航空機の発着回数が少なく、空港収入が乏しいため、空港の運営・維持は財政的に苦しい状況にある。また、退職や異動などにより、技術移転を受けたカウンターパートのうち現在もリロングウェ国際空港に勤務している者は少なくなっており、機材の維持管理やレーダー操作などの訓練について、アフターケアが必要である。(ワ)タンザニア「マラリア抑制への協力」
タンザニアでは、マラリアがほぼ全域で流行しており、同国の公衆衛生と経済成長を阻害する重大な障害となっていた。このため、我が国は、マラリアの重度汚染地区でありタンザニアの社会経済活動の中心地でもあるダルエスサラーム市とタンガ市を対象として、無償資金協力を実施した。
本協力では、461,749mの排水溝整備、殺虫剤の定期的な空中散布、14,727か所のトイレへのポリエチレンビーズの散布、薬剤塗布蚊帳26,494張の実費配布等が行われた。これらの活動を通じ、協力対象地域の蚊のなかでマラリア蚊の割合は88年の17.4%から94年には1.1%に減少し、マラリア罹患率は従前に比べ25~30%低下した。
マラリア対策への協力を実施していく場合、活動の継続性確保の観点から、実際にマラリア対策活動を実施する市レベルの能力強化が重要である。また、地域住民の参加を積極的に図り、住民のオーナーシップを醸成することも不可欠である。(カ)メキシコ「選鉱場操業管理技術」
メキシコは国家開発計画において鉱業セクターの近代化を推進している。しかし近年、メキシコの主要鉱資源物である銀の相場が低迷する中、中小選鉱場の低生産性が問題となっていたため、鉱業振興庁(CFM)は直営選鉱場17か所の近代化計画を打ち出した。このような状況のもと、我が国は開発調査を実施するとともに、同調査の提言に基づき、CFMの直営選鉱場のひとつであるパラル選鉱場において、操業近代化のためのプロジェクト方式技術協力を実施した。
本プロジェクト開始直前に公布された新鉱業法によってCFMが消滅し、実施機関が鉱物資源審議会(CFM)に代わった。このため、カウンターパートの配置が遅れたが、日本の選鉱操業管理技術が導入され、近代的計装装置が装備された結果、パラル選鉱場では選鉱の実収率がメキシコの平均を8~10%上回るようになり、精鉱の品質も大幅に向上した。また、実収率の向上は、使用する選鉱試薬の節減と廃さいダムに堆積される重金属量の減少をもたらし、環境への負の影響を軽減している。移転された技術は、本プロジェクトで育成された人材によってメキシコ全土に普及されており、今後、周辺中小鉱山への波及効果が期待される。しかし、メキシコでは小規模鉱山は合併や合弁によって中規模以上の鉱山化が進んでおり、中小鉱山を対象とするパラル選鉱場の役割は低下しつつある。また、採算性を維持するために必要な鉱石量の確保も困難となっているため、この状態が続けば、パラル選鉱場の今後の自立発展の道は容易ではないと思われる。(ヨ)サモア「ツアシビ病院再建計画」
サモアは、南太平洋のほぼ中央部に位置し、ウポルとサバイの主要2島とその他の小島からなる島嶼国である。サバイ島のツアシビ病院は、島内の代表的医療機関として患者を受け入れていたが、施設・機材の老朽化等により、ツアシビ病院での医療サービスは限定されたものとなっていた。このため、ツアシビ病院の再建を図るため、我が国は無償資金協力を実施した。
本プロジェクトの結果、ツアシビ病院では、それまで首都アピア(ウポル島)の国立病院でなければ治療できなかった島内の患者を受け入れることができるようになり、患者数は月1,800人~2,000人と再建前と比べ125%増加し、病床使用数も70~74%増加した。検査件数も150%増加し、より多様な検査が可能になった。保健サービスへの時間的・費用的負担が軽減されたため、島内住民の保健サービスへのアクセスは拡大し、サバイ島の医療事情は改善されつつある。また、国立病院への患者の集中も緩和されており、本プロジェクトはサモア全体の医療システムの効率化にも役立っている。
事前調査の段階で、サモア側の維持運営能力と最終受益者のニーズを十分確認して現実的で適正な規模の協力内容を設計したことが、本プロジェクトがこのような効果をあげた要因である。(タ)サモア「フィラリア・コントロールへの協力」
フィラリアはサモアの風土病の1つとされており、64年の世界保健機構(WHO)と国連児童基金(UNICEF)の調査では検出率が21%に達していた。このような背景のもと、サモアでは、WHOの支援によってフィラリア撲滅のための活動が推進されてきており、我が国もWHOと協調して、76年度より青年海外協力隊派遣を主とした技術協力を継続的に実施してきた。
本協力を通じ、フィラリア対策に関するカウンターパートの基礎技術は大きく向上し、フィラリアの検出率も1.1%にまで低下した。フィラリア症の減少は、サモア国民の健康状態の改善に大きく貢献している。また、フィラリア予防のための環境美化運動により、同じく蚊で媒介されるデング熱の予防も容易になった。
青年海外協力隊を中心とした息の長い協力によって、保健省のスタッフの技術水準は、彼らが独自にフィラリア撲滅を推進していけるレベルにまで達しており、今後、WHOの支援を受けながら、サモア側が自助努力によってフィラリア撲滅計画を推進していくことが期待される。(レ)サモア「診療所建設計画」
サモア政府は、医療サービス向上のため、地域診療所の整備計画を策定した。これに対して我が国は、ウポル島レウルモエガ地区とサバイ島サタウア地区の2か所の診療所建設について、無償資金協力を実施した。その後、90年に、サイクロンの襲来によってサタウア診療所が大きな被害を受けたことから、我が国は91年度、同診療所の修復を行った。サタウア診療所の立地が海に近かったことがサイクロンによる被害を大きくした可能性があるため、サモアのように自然条件の厳しい国では、立地条件に考慮が必要である。
両診療所は、周辺地域の住民の医療ニーズに応えた活動を行っており、さらに近郊の空港、埠頭、工場に対する救急活動の支援機関ともなっていることから、本プロジェクトの目標は達成されていると判断される。レウルモエガ診療所では、診療所内での治療だけでなく、看護チームが周辺村落を訪問し、村落の女性グル ープと連携して草の根レベルでの医療サービスも提供している。両診療所の設置はそれまで医療サービスへのアクセスが困難であった地方の住民の健康向上に大きく貢献しており、レウルモエガ診療所の設置は、首都アピア(ウポル島)にある国立病院への患者の集中の緩和にも貢献している。(ソ)サモア/トンガ「運輸交通分野の協力」
大洋州島嶼国では、拡散性、地理的隔絶性、国土及び国内市場の狭小さを克服するため、効率的な運輸交通網の整備・維持が、経済社会開発を進めていくうえで大きな課題となっている。我が国は、サモア及びトンガにおいて、無償資金協力によって、港湾施設を整備するとともに、日本での研修及び第三国集団研修への参加機会の提供によって、相手国側の人材育成・体制整備を支援した。
サモアにおいて整備されたムリファヌア港、サレロロガ港では、大型フェリーの入航が可能になり、現在、同フェリーはサモアの2つの主要島であるウポル島とサバイ島を1日3往復、定期的に運行している。旅客数は83年の12万人から98年には41万4,000人に、輸送車両数も1万4,400台から3万6,000台へと大幅に増加し、国内輸送の活性化に貢献している。同様に、整備の行われたアピア港でも、貨物取扱高が86年の18万700tから97年には25万8,631tへと増加した。計画当時から長年懸案であった港湾管理局の設立も決まり、港湾管理に係わるサービス及び、経済的持続性の強化が期待される。
トンガでは、整備された多機能タグボートによって船の接岸・離岸支援が行われ、港湾内の船体損傷等の危険性が低減しただけでなく、周辺海域での衝突、座礁、船火事や、廃油処理等の災害救助活動が可能となり、安全性が向上した。このため、クイーンサロテ港の入港船舶数は93年の122隻から97年には149隻へと年々増加しており、今後さらに増加していくことが期待される。
大洋州地域では、海上交通分野は経済開発上重要な分野であり、我が国としても長期的な視点から、港湾管理面も含めて継続的に協力していくことが望ましい。
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