第4章 事後評価の概要


3.JBICによる事後評価

(1)詳細評価

(イ)韓国「ソウル地下鉄建設事業(II)」

 韓国の政治経済の中心であるソウル特別市は、90年には全国の人口の約1/4にあたる1,061万人の人口を擁する大都市に成長する一方、都市化の弊害を多く抱えていた。特に交通問題は、早急な対策が求められていた。本事業は、地下鉄網の整備により、ソウル市における交通事情の改善を図るものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業実施後、ソウル地下鉄の輸送量は他国大都市と比べ遜色のないレベルになり、ソウル市における輸送モード別シェアでも、97年にはバスを抜き最大輸送モードとなった。また、本事業を契機に、地下鉄建設・運営の新しい技術が韓国に移転された。

(ロ)フィリピン「首都圏および地方道路事業」

 本評価の対象は、マニラ首都圏において実施された3事業と地方部において実施された4事業の合計7件の道路整備事業である。マニラ首都圏における3事業は、増大する交通需要に対応し、首都圏道路の交通混雑の改善、交通の安全性・円滑性・快適性の向上および経済効果に寄与すべく、道路を改修・建設するものである。また、地方部における4事業は、地域内の交通および、地方からマニラへの交通を改善し、地方部における農業、工業などの産業発展に寄与すべく、国道を改修・建設するものである。借款対象は、各事業費の外貨分全額(一部事業については内貨分の一部も)である。
 これら事業により、首都圏では、雨期における冠水被害の減少や道路利用者の利便性・効率性の向上がもたらされた。また地方部では、輸送効率の改善(長距離バスの時間短縮と快適性向上等)や学校・病院などの各種施設へのアクセスが確保されるなどの効果がもたらされた。

(ハ)フィリピン「カラカ石炭火力発電所2号機増設事業・同追加借款事業」

 本事業は、マニラ首都圏を中心とする電力需要増への対応を目的として、カラカ石炭火力発電所において2号機(出力300MW)を増設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業は、完成後順調に稼動を続けており、ルソン島における電力の安定供給に寄与している。また、国内炭を燃料としているため、燃料輸入分の外貨の節約効果も認められる。
 なお、今回の評価では、事業の環境への影響について(財)日本気象協会相談役(当時)森口實氏に、住民・社会配慮部分についてフィリピン/デ・ラ・サール大学リパ校レビステ教授に、それぞれ第三者評価として評価を依頼した。その結果、環境に関しては、現在のところ基準の範囲内にあり問題ないとの結論となっ たが、今後のモニタリング地点の最適化について提言がなされた。また、住民・社会配慮については、移転住民への様々な施策が評価されたが、これらの様々な支援が住民にわかり易い形で伝わるよう、更なる広報活動が重要であるとの指摘を受けた。

(ニ)タイ「プミポン水力発電所8号機建設事業」

 本事業は、タイにおける適正な電力確保(特にピーク時)を目的として、タイ北部ターク県にあるプミポン水力発電所に揚水式発電設備(8号機)を増設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業は、完成後順調な運転を続けている。97年には434MWhの発電を行うことにより、ピーク時需要に対応し、タイの電力供給の安定化に貢献している。

(ホ)インド「中・低所得者層住宅建設促進事業」

 本事業は、インドが進める中・低所得者層向け住宅融資に資金支援を行うことにより、中・低所得者層向けの住宅建設促進を図り、あわせて設立後間もない実施機関である国立住宅銀行(NHB)の強化を通じ、インド住宅金融セクターの成長を支援するものである。借款対象は、中・低所得者層の住宅建設資金の一部であり、現地の金融機関(仲介金融機関)を経由して融資が行われる。
 本事業では2万戸(一次貸付分のみ)以上の住宅が建設されるとともに、NHBによる長期・低利の住宅資金の供給力が強化され、その後のインドの中・低所得者層の住宅取得が促進された。

(へ)スリ・ランカ「コロンボ港開発事業(IV)・コロンボ港拡張事業(I)~(IV)」

 本事業は、インド洋の中央に位置し、東南アジア、南アジア、中東湾岸、東アフリカの各港を中継する基地港であるスリ・ランカ国コロンボ港におけるコンテナ取扱能力の増強を目的として、新規バースの建設、およびクレーン等の荷役機器の調達を行うものである。借款対象は、事業費の外貨分全額および内貨分の一部である。
 本事業は完成直後から常に能力以上の稼動を続けており、運営状況は良好であるとみなされる。また、コンテナ取扱い料金としてコロンボ港が獲得する外貨は、97年にはスリ・ランカ国の外貨準備の約8.5%に相当する額に達するなど、同国にとって重要な外貨獲得源となっている。

(ト)ジョルダン「教育セクター借款事業」

 本事業は、計7プログラムから構成されるジョルダンの教育開発10年計画フェーズ1のうち、教育施設改善プログラムを世銀との協調融資で実施するものである。借款対象は、小中学校・高校の校舎建設、教育資機 材・什器(コンピュータ、AV機器、実験用具、机・椅子、など)の調達費用である。
 本事業により、181校の校舎が建設され、賃貸校・二部制校が一部制専用校舎に代替された。また、教育資機材の充実も図られた。これらにより、教室の質の向上、教育環境の向上、ひいてはジョルダンにおける教育のレベル・アップがもたらされた。

(チ)エジプト「ベニスエフ・セメント工場建設事業」

 本事業は、75年以降、セメントの輸入国に転じたエジプトにおける一層のセメント需要増加に対応するために、年産100万トン規模のセメント工場を建設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業は、完成後、順調に稼動を続けており、年間100万トン以上のセメントを生産している。また、97年を例にとると、同年のセメント生産量をすべて輸入した場合に比べ、9,700万ドルの外貨の節約に貢献しているとみなされる。

(リ)ボツワナ「鉄道貸車増強事業」

 内陸国であるボツワナは、近隣諸国への鉱物および農産品の輸送を鉄道に依存している。本事業は、ボツワナ国鉄の貨車を増強し、もって同国の輸送力増強を図ろうというものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 80年代半ばには、年間330万ドルにも達していた他国からの貨車の賃借料は、本事業の実施以降、減少傾向にある。また、南部アフリカ地域内(南アフリカ、ジンバブエ等)での貨車の融通にも柔軟性を与え、ボツワナ国内のみならず、地域内の輸送力の増強が図られた。

(ヌ)モーリシァス「通信施設拡張事業」

 本事業は、モーリシァスにおける逼迫した通信(電話)需要に対応するとともに、通信品質を改善することを目的として、同国初のデジタル通信設備となるデジタル交換機(30,000回線)の設置、光ファイバーシステム(4区間)、デジタルマイクロシステム(13区間)および加入者ケーブルを建設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業により、モーリシァスにおける電話交換機の容量、顧客数、普及率などいずれも大きく向上しており、通信の量が確保された。また、デジタル化により、データ通信への対応、音質劣化の最小化、通信量・速度の増加といった通信の質の向上ももたらされた。

(ル)ブラジル「ゴイアス州農村電化事業」

 本事業は、ブラジル東部ゴイアス州の農村部における電化率の向上、および農業セクターの電力需要(灌漑用ポンプ)に対応することを目的に、州南部7地域(約20万km2)を対象として送配電網を建設するものである。借款対象は事業費の60%(外貨分の大半および、内貨分の一部)である。
 本事業により、州全体の売電量および農村部への売電量とも着実に増加した。同時に、本事業対象地域全体の電化戸数および農村電化率は、事業実施前の24,000戸/31.8%(90年)から、実施後は71,000戸/66.8%(97年)へと大幅に向上した。また、送配電ロス、停電回数、停電時間、いずれも改善傾向にある。

(2)第三者評価

(イ)中国「青島開発計画(上水道・下水道)」

 評価実施者:東京市政調査会(担当:山縣昱氏)
 本事業は、増加を続ける中国青島市の水需要への対応、および排水による海洋汚染の防止を目的として、同市の上下水道を整備するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本評価では、わが国における地方自治体の事業との比較を交えながら評価が行われた。その結果、本事業では効率的に事業が実施され、良質の水が十分に供給されるとともに、下水の処理も進むようになり、ひいては環境(水質)の改善がもたらされたことが確認された。

(ロ)フィリピン「メトロマニラ貧困地域電化事業」

 評価実施者:早稲田大学アジア太平洋研究センター菊池靖教授
 本事業は、マニラ首都圏の貧困地域の内、優先的開発地域229ヵ所、約234,000戸に対して、安全、廉価かつ信頼性の高い電力供給を行い、その福祉向上を図るものである。借款対象は、外貨分全額および内貨分の一部である。
 本評価では、これまでのOECFの事後評価ではみられなかった社会人類学的視点からの評価が行われた。その結果、当初期待されていた事業効果、すなわち主に地方からマニラ首都圏に流入した都市貧困層(不法占拠者)に対し、安全・廉価で信頼性の高い電力の提供がもたらされたことに加え、本事業がフィリピンにおける新しいコミュニティ形成に大きくかかわっていることが明らかになった。

(ハ)フィリピン「カラカ石炭火力発電所2号機増設事業・同追加借款事業」

 【詳細評価】の(3)を参照。

(ニ)タイ「東部臨海開発計画・マプタプットエ業団地建設事業」

 評価実施者:東京都環境科学研究所(担当:三好康彦氏)
 本事業は、シャム湾に産出される天然ガスを利用した大型重化学工業をターゲットに、工業団地を建設するもので、タイの東部臨海総合開発計画の一部でもある。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業により、多くの重化学工業が立地することになり、タイ経済に重要な役割を果たしている。今回は、その性格上、本事業では公害対策が最優先課題となる点に着目し、マプタプット団地の公害対策行政について、わが国の自治体の経験からの評価を行った。
 本評価の結果、同団地では天然ガスを燃料・原料としていることから、かつてのわが国のような大気汚染はなく、悪臭と水質汚濁が課題であることが明らかとなった。うち、悪臭については、関係者の努力により改善が進んでおり、やがて解決されると考えられる。また、水質に関しては、予防的な対策により、悪化を防止することが十分可能であるとみなされる。
 本評価は、タイの東部臨海開発計画への円借款支援の総合的な評価の一環として行ったもの。東部臨海開発計画についての総合的な評価結果は2000年9月に「円借款案件事業評価報告書」にて別途公表する予定である。また、本評価の現地調査をJICAと合同で行った。

(ホ)パキスタン「首都圏給水事業(シムリ)」

 評価実施者:中央監査法人(担当:大橋洋史氏)
 本事業は、イスラマバード市の人口増加に伴う水需要に対応するために、既設浄水場の能力を拡大するとともに、市内の既存配水施設までの送水管を増設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額および内貨分の一部である。
 本評価では、事業のサステナビリティという観点から、実施機関の財務面および管理能力面からの評価を試みた。その結果、本事業により建設された施設では95年から給水が開始され、現在はほぼ能力ー杯の給水状況にあり、施設が有効活用されている一方、料金水準・徴収、経営管理体制には改善の余地も認められること、また、実施機関の会計システムに改善が望まれることなどが明らかになった。

(へ)ガーナ「港湾修復事業」

 評価実施者:フランス開発庁(AFD)(担当:コカール氏)
 本事業は、ガーナ政府が実施していた輸出再建を中心とする経済再生計画を支援するため、世界銀行との協力により、テマ港とタコラディ港の修復を行い、ココアや木材等の輸送費用低減を図るものである。借款対象は、総事業費の49%(24.1百万ドル相当)であり、残りは、世界銀行が44%(21.9百万ドル)、ガーナ政府が7%(3.5百万ドル)を負担した。
 本評価は、アフリカ地域での長年の援助経験を有する仏AFDにより行われた。その結果、本事業は、ガーナが86年以降具現してきている輸出主導の経済的回復を可能にしたという意味において成功をおさめたと言えること、また、ガーナ港湾公社の活動の合理化と業績改善をもたらしたことなどが認められた。

(3)机上評価

(イ)韓国「国立保健院安全性研究センター」

 本事業は、韓国における医薬品の安全性の十分な審査実施体制の構築を目的に、韓国国立保健院の付属施設として、ソウル市に安全性研究センターを新設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業により、安全性研究センターの設備用資機材28品目・実験用機器391品目が調達され、良好に利用・維持管理されている。本事業実施後、「医薬品の安全性試験実施に関する基準」に沿った安全性試験の実施が可能となるなど、本事業は韓国の医薬品の安全性研究体制の向上に貢献している。

(ロ)韓国「ソウル上水道施設近代化事業」

 本事業は、ソウル市における上水の安定供給を目的として、同市内の水源地(浄水場)のうち、最大規模の八堂および九宜水源地を対象に、近代的機器・設備を導入するとともに、水質分析、薬品投入の自動化・適正化を行うものである。借款対象は、事業費の外貨分のほぼ全額である。
 本事業では、事業実施中に急速に進展した円高により、将来の返済負担増加を懸念した韓国政府の判断で、事業範囲の大きな部分を占める九宜水源地近代化が除外され、八堂水源地の調達内容も縮小されるという大幅な変更があった。実際に事業が実施された八堂水源地では、工事完了後直ちに運用が開始されており、その後の運営状況は良好である。
 なお、本事業で実施が見送られた九宜水源地については、他の主要水源地とあわせて、その後、韓国の国内予算で近代化事業が実施されている。

(ハ)中国「深セン大鵬湾塩田港第1期事業」

 本事業は、中国南部における船舶貨物取扱量、特にコンテナ貨物の増加に対応することを目的として、広東省深セン大鵬湾塩田地区に年間貨物取扱量280万トン規模の港湾(埠頭6バース:コンテナ×2、多目的×1、雑貨×3)とそれぞれのバースの付随施設・機器、および港外鉄道(24km)と港外道路(72km)の建設・整備を行うものである。借款対象は、雑貨3バースの建設を除く事業費の外貨分全額である。
 本事業の完成直後より塩田港のコンテナ貨物の取扱量は増加を続け、98年には104万TEU(注1)に達するなど、計画以上の実績をあげている。
(注1)  Twenty-feet Equivalent Unitの略、20フィートコンテナ換算量をいう。コンテナの大きさには20フィートコンテナ(8×8×20フィート)、40フィートコンテナなどがあるが、これらを20フィートコンテナに換算したコンテナ個数で、コンテナの貨物量を表す単位である。

(ニ)インドネシア「ウジュンパンダン上水道リハビリ事業」

 本事業は、インドネシア南スラウェシ州の州都であるウジュンパンダン市の給水事情の改善を目的とする。事業の内容は、既存施設の修復(市内浄水場2ヶ所)、および補強(導水路のパイプライン化、配水管の交換等)であり、これにより給水量の増大および有収率の改善を図るものである。借款対象は、事業費の外貨分全額および内貨分の一部である。
 本事業の実施により、上水道受益者数は大きく増加し、サービス地域も広がった。また、水道の水質改善が行われたことにより、水系伝染病防止等の効果が現れている。

(ホ)インドネシア「沿岸無線整備事業(第2期)」

沿岸無線整備事業は、82年に完成したJICAマスタープラン「海上無線通信網整備拡充計画」にもとづき、インドネシアにおける海上無線通信網の拡充を図り、海上航行の安全性、効率性を確保するものである。本事業はその第2期分であり、沿岸無線局の増強を行うもので、借款対象は事業費の外貨分全額である。
 本事業の性格上、定量的な事業効果の把握は困難であるが、インドネシアの海上交通量(貨物取引量)が増加する中で船舶の事故率が低下するなど、本事業はインドネシアにおける海上安全において一定の効果をもたらしたと評価できる。

(へ)インドネシア「グレシック火力発電所3、4号機ガス化改造事業」

 本事業は、70年代よりインドネシアの国家政策となっていた「エネルギー源多様化による石油依存度低下」にのっとり、東部ジャワ州の州都スラバヤ市北西約20kmに位置するグレシック火力発電所において、重油焚きで稼働中の3、4号機(各200MW)を重油/ガス併焚きに改造するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業は、完成後は順調に発電を行っている。また、燃料のガス化により、グレシック発電所におけるSOx、NOxの排出量は大幅に軽減されており、環境面における本事業の正の効果が認められる。

(ト)インドネシア「バリ国際空港建設事業(I)」

 80年代後半、インドネシア政府は、バリ国際空港における旅客・貨物需要の増大に対応するため、3つのフェーズに分けられた同空港の拡張事業に着手した。本事業は、その第1フェーズに該当するもので、土木工事(滑走路、エプロン、誘導路)、建築工事(旅客ターミナル)、航空保安設備の新設・更新、燃料供給設備の新設、およびコンサルティングサービスを内容とする。借款対象は、事業費の外貨分全額と内貨分の一部である。
 同空港は予測を上回る旅客数・貨物量・発着回数の増加を示したが、本事業によりこれらに対応することができた。また、空港の収益率も向上した。加えて、空港の安全性の向上も、本事業の効果として指摘される。

(チ)インドネシア「ラジオ・テレビ放送網拡充事業(I)(II)」

 本事業は、84年度に策定されたインドネシアの放送セクター開発新15ヶ年長期計画の第1期にあたる放送セクター開発第4次5ヶ年計画(84~88年度)に対応するものであり、ラジオおよびテレビの番組制作施設および送信施設の整備を通じ、ラジオ・テレビの受信地域・人口の拡大と放送の質の向上(ラジオの中波・FM化、テレビのカラー化など)を目的とする。借款対象は、事業費の外貨分全額及び内貨分の一部である。
 事業は2フェーズに分けられ、フェーズIでは、主に番組制作設備の整備・拡充が、フェーズIIでは、主に送信設備の建設・改善が実施された。
 本事業において、ハードのみならずソフト面での技術移転がはかられた結果、インドネシアにおいては、地方局も含め、番組制作能力が向上した。また、特にテレビにおいて受信可能人口が大幅に増加し、情報伝達の迅速化・広域化がなされた。

(リ)インドネシア「ワイウンプ・ワイプングブアン灌漑改修事業」

 本事業は、インドネシア・スマトラ島ランポン州の農業生産の拡大を目的として、同州ワイウンプ・ワイプングブアン地区の灌漑施設の改修を行うものである。改修の対象となる灌漑施設は、以前に円借款にて実施されたワイウンプ・ワイプングブアン灌漑事業で建設されたが、その原事業の完了後に行われたOECFによる事後評価(1986年)の結果、施設の破損が著しく、早急な改修の必要性が認められたことから、本事業が実施される運びとなった。借款対象は、事業費の外貨分全額および内貨分の一部である。
 本事業対象地区の米の単収を事業の実施前・後で比較すると、ワイウンプ地区では3.0t/haから3.5t/haに、ワイプウングブアン地区では3.2t/haから5.0t/haに、それぞれ増加した。また、両地区合計で新たに9,083haの水田が開発されている。

(ヌ)マレイシア「エンキリリ~シブ送電線建設事業」

 本事業は、マレイシアのサラワク州に立地するバタンアイ水力発電所の発電電力を有効活用して、サラワク州シブ地区等の電力需要増加に対応するとともに、サリケイ地区、スリアマン地区などのサラワク州西部地域の電力供給系統を改善するものである。借款対象は、事業費のうち、送電線(275、132kV)および変電所機器の一部(275、132kV 変圧器、分路リアクトル)にかかわる外貨分全額である。
 本事業により、サラワク州第2の都市であるシブ市は、275kV/132kVの送電系統に組み込まれ、5つの主要発電所からの送電を受けることが可能になり、市内の供給電力の信頼性が向上した。

(ル)マレイシア「中小企業育成事業(工業開発銀行)」、「中小企業育成事業(興業銀行)」、「中小企業育成事業(開発銀行)」

 本事業は、マレイシアの経済活動の原動力となる中小企業、特に製造業、観光業などの民間経済部門の発展・育成を目的とし、同国の中小企業にとって調達が困難な低利・長期資金を政府系金融機関(対象業種別に、工業開発銀行、興業銀行、開発銀行の3行)を仲介して供給する、いわゆるツー・ステップ・ローンである。借款対象は、エンド・ユーザーたる中小企業が設備および環境保護機器を更新・購入するのに必要な費用の外貨分全額である。
 本事業を通じて供給された資金は、同時期のマレイシアの中小企業向融資の約1割を占めており、中小企業における技術・生産性の向上をもたらした。

(ヲ)マレイシア「ラブアン連邦直轄区電力設備増強事業」

 本事業は、マレイシアのサバ州西海岸電力系統における、特にピーク時の需要増加に、迅速かつ経済的に対処し、電力の安定供給を図ることを目的として、同州ラブアン島(連邦直轄区であり、政策により金融センター化が進められている)のパタパタ発電所内に、33.2MWのガスタービン発電設備を1基増設するものである。借款対象は、本事業に必要な外貨分全額である。
 本事業により、サバ州西海岸電力系統における電力供給の安定化がもたらされた。また、国産天然ガス利用によるエネルギー源の多様化も図られた。

(ワ)フィリピン「イロコス・ノルテ灌漑事業(Stage1)」

 本事業は、フィリピン北部イロコス・ノルテ州(ホンガ川右岸 10,200ha)における農業生産性の向上を目的として、頭首工5ヶ所、用水路、排水路等の灌漑施設および関連道路を建設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業では、水路および末端圃場施設整備について、伝統的灌漑組合である「ザンヘラ(Zanjeras)」のニーズを取り入れる形で設計が行われた。
 本事業の実施により、米などの農作物の生産高は大きく増加し、農家の平均収入は数倍に増加した。また、「ザンヘラ」の参加は、受益者参加型事業の好例として注目される。

(カ)フィリピン「灌漑運営体制強化事業」

 本事業は、既存の国営灌漑施設127ヶ所のリハビリテーションを通じた灌漑施設の稼働率向上、および灌漑施設の維持管理の質と効率の向上、の2点を目的とする。本事業は世銀との協調融資により実施され、円借款対象は「既存灌漑施設のリハビリテーション」部分であり、その他のコンポーネントは世銀の借款対象であった。
 事業対象地域全体での米の生産増は、審査時の見込みを大きく上回る年間58万トンとなっており、これを受けて農家の収入も計画より大幅に増加した。末端の灌漑水路を補修した効果が発現したといえる。また、 灌漑可能面積に対する実際の灌漑面積の割合は事業実施前の雨期69%・乾期47%から、実施後にはそれぞれ72%・63%に向上している。

(ヨ)フィリピン「ダム洪水予警報システム建設事業(II)」

 ダム洪水予警報システム建設事業は、毎年、台風等により甚大な洪水被害を受けているフィリピン・ルソン島において、人命や財産等の洪水被害を軽減し、流域住民の民生安定・福祉増進を図ることを目的に、島内の主要5ダム(アンガット、パンタバンガン、ビンガ、アンブクラオ、マガット)に洪水予警報システムを建設するものである。本事業は、上記5ダムのうちアンガット、パンタバンガンを対象に実施された「ダム洪水予警報システム建設事業(I)」の継続事業として、残りの3ダム(ビンガ、アンブクラオ、マガット)を対象としている。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業完成後のダム洪水予警報発令実績、洪水災害の状況・住民からのヒアリング結果等からみると、本事業は洪水被害の軽減および民生安定に貢献があったといえる。また、本事業では関係各機関の協力関係が確立され、またこれらの各機関の間でシステム運営のための相互技術移転が行われた。

(タ)タイ「新ラマ6世橋建設事業」

 本事業は、タイの首都バンコック市の北西部の交通渋滞緩和を目的として、チャオプラヤ川に架かり老朽化の進んだ既設ラマ6世橋を代替する新橋を、現橋の上流(北)側に建設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額および内貨分の一部である。
 本事業(新ラマ6世橋)により、往復2車線の旧ラマ6世橋が往復6車線になったことで交通の大幅な増加が可能となり、渋滞の緩和をもたらした。また、重量制限が大幅に緩和されたことによって、バンコック市中心部とチャオプラヤ川西岸のトンブリ地区との間の物流の円滑化・活発化がもたらされた。

(レ)エジプト「エルサラーム水路揚水機場建設事業」

 本事業は、エジプト・ナイルデルタ東端のナイル川ダミエッタ支流とスエズ運河を結ぶ延長82kmの基幹灌漑水路(エルサラーム水路)に、水位の確保を目的とする揚水機(ポンプ)場および変電施設などの関連施設を建設するものである。借款対象は、事業費の外貨分全額である。
 本事業では、工事請負契約の変更、軟弱地盤による施工の長期化などにより6年7ヶ月の遅延となった。また、本事業と並行して進められていた農地開発事業(83,000ha、借款対象外)は、本事業の完工時点でも終了していなかったため、本事業(ポンプ)の稼動状況は高いとはいえない水準にある。
 なお、本年(99年)前半にOECFがその後の状況を調査した結果、農地開発事業の進展、およびエルサラーム水路を利用したスエズ運河東岸への送水開始により、本事業(ポンプ)の稼働率も、今後は向上していく見通しである。
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