第1章 ODA評価を巡る最近の動向
3.「ODA評価体制」の改善に関する報告書
2000年3月15日に、援助評価検討部会の河合部会長から、河野外務大臣に提出された「『ODA評価体制』の改善に関する報告書」(以下、単に「報告書」)の内容を、各項目ごとに簡単に解説します。
1.評価をめぐる動き/2.評価の目的(省略)
3.評価の対象
河合会長から河野外務大臣への提出
(写真協力NHK)評価の対象を、「政策レベル」、「プログラム・レベル」、「プロジェクト・レベル」の3段階に明確に区分することが提言されました。(【注釈】参照)
政策レベルの評価とは、ODA中期政策や、現在外務省で策定中の国別援助計画、我が国が主催した「アフリカ開発会議」(TICAD II)の行動計画などの特定の援助政策がその対象となります。従来は、道路建設プロジェクトや井戸掘削プロジェクト、小学校建設プロジェクトといった個別プロジェクトに関する評価が中心でしたが、今後は、その上流部分にまで対象を拡大して評価するべきだということです。言わば、個別のプロジェクトやプログラムの立案・選定のもととなった政策に関して、その実現度合を評価したり妥当性を再検証することにより、今後の援助政策の見直しに積極的に役立てようという提言です。
プログラム・レベルの評価とは、分野別や課題別などで共通の目標を持つ複数のプロジェクトを包括的に取り上げて、評価するものです。例えば、識字率の向上を目的としたプログラムに関する評価では、小学校建設プロジェクトだけではなく、教員養成や運営管理に関する技術支援や、教科書や備品の供与事業も含めて、その効果が検証されるべきだという提言です。
プロジェクト・レベルの評価とは、個別プロジェクトについて評価するもので、従来からODA評価活動の中心となっているものです。ODAで実施される個々のプロジェクトを対象に、達成度、効率性、効果等に関する評価を行なうものです。
また、従来、評価が十分に行われてこなかった研修員受入事業、専門家派遣事業、青年海外協力隊事業、留学生受入事業、国際機関への支援、ノンプロ無償、NGO補助金事業等、及び重要性が増している草の根無償事業にも評価の対象を拡充することが提言されました。
【注釈】(「ODA評価体制」の改善に関する報告書p7より抜粋)
評価の3段階分類について:
「政策レベルの評価」、「プログラム・レベルの評価」、「プロジェクトレベルの評価」ODA評価の分野では、かかる3段階の分類を便宜的に行っている。国際的な流れとしては、ODA評価は個々のプロジェクトやプログラムの評価に限らず、政策レベルの評価も行うべきとの方向に向かいつつある。
現在、多くのドナー国・国際機関は援助実施に際して、個々の具体的なプロジェクトの実施だけでなく、関連する複数のプロジェクトを有機的に組み合わせて実施するプログラム・アプローチを取り入れるようになってきている。これに呼応して、ODA評価もプロジェクト・レベル評価(英語のProject Evaluationに対応)に加えて、プログラム・レベル評価(英語のProgram Evaluationに対応)を導入するようになってきている。
また最近特に、政策レベルの評価(英語のPolicy Evaluationに対応するもの)の重要性が、国際機関等が主催する会議などで指摘されている。ここでいう政策レベルの評価には、援助機関全体として目指すべき方向性や戦略(例:DfIDの「貧困削減」)や国別の援助政策などが含まれる。但し、現在のところ明確な政策レベルの評価の定義が存在する訳ではなく、プロジェクト、プログラムのレベルよりも一段上のレベルの評価を念頭に置いたものである。また、政策レベル評価のための手法も確立しているわけではなく、他ドナー国・国際機関も今まさに試行錯誤を重ねて政策レベルの評価を行おうとしているところである。
委員会としては、かかる国際的な流れを考慮し、便宜的に「政策レベルの評価」「プログラム・レベルの評価」「プロジェクト・レベルの評価」の3つの分類を試みてみた。
4.評価の体系
上記の対象の区分けに従い、援助政策の企画立案を主に担当する外務省は政策レベルの評価に重点を置く一方、実施機関であるJICA、JBICはプログラム及びプロジェクト・レベルに重点を置き、外務省も必要に応じてプログラム・レベルの評価を実施することが提言されました。さらに、個々のプロジェクトの評価は実施を担当するJICA、JBICが中心になって行いますが、それを援助政策の企画立案を行う外務省にフィードバックする体制を確立することも提言されました。
さらに、(1)外務省による在外公館評価は、外務省の評価の重点を踏まえてそのあり方を見直す。(2)JICAの在外事務所による評価はプロジェク卜・レベルの評価のみでなく、プログラム・レベルの評価も含める。また、在外事務所主導で、外国人コンサルタント、有識者、NGO等による評価を拡充する。(3)JBICの在外事務所による評価は、中間監理と事後のモニタリング及びプロジェクト・レベルの評価を主体とする。(4)外務省が中心となって関連省庁間のODA評価における連携を推進していくことが適切である、等も提言されています。5.評価の体制
評価における独立性・客観性を確保するため、学識経験者、会計監査法人、NGO、シンクタンク、コンサルタント等の積極的な活用が提言されました。 また、刻々と変化する現地住民の援助ニーズの変化と我が国ODA事業の評判をきめ細かく把握することは効果的な援助を実施するためにたいへんに重要なことです。 こうした現地ニーズや反応等を定期的かつスピーディーに把握するため、在外公館やJICA・JBIC在外事務所の評価実施体制を拡充することが提言されています。 それに伴い必要に応じ、本省から大使館へ、また実施機関本部から現地事務所への大胆な権限委譲を行い、現地での評価機能の強化を図るとともに、大使館と実施機関現地事務所が一層緊密に連携していく体制を構築することも提言されました。
さらに、評価基準や評価手法の更なる改善、政策レベル及びプログラム・レベルの評価の導入等の課題に関して、より具体的かつ集中的な研究を行うために「ODA評価研究会」(仮称)を新たに設置することも提言されています。
こうした体制充実のための予算手当に関しては、(1)外務省は、政策レベルの評価を外部有識者を含めて実施する予算を措置する。 (2)実施機関(JICA、JBIC)は、事前から事後まで一貫した評価プロセス確立のため事前評価等に十分な予算を確保すること等が提言されました。6.評価の人材
ODA評価体制の改善には、評価を実施する人材の充実が不可欠です。 この状況に対応するため、ODA評価に関する海外での研修制度及び奨学金制度を充実させることや、大学院及び国際協力関連研究・教育機関における専門教育実施体制を拡充することが提言されました。また、援助評価専門家を継続的に育成し、育成された専門家を把握することを目的として、評価専門家の登録制度を導入することが提言されました。
さらに、評価の専門家がお互いの意見交換を通じて評価技術を高めていく場として「日本評価学会」(仮称)を設立することも言及されました。 この専門家の集まりは、ODA分野だけではなく、将来的にODA分野で培われた評価のノウハウや技術を国内にフィードバックしていくことも視野に入れたものとして提案されています。7.評価の時期
従来のODA評価は、主に終了時評価や事後評価が中心でした。 つまり、プロジェクトが実施されて一定の期間が経過した後に、再度現地を訪問して評価作業をすることが中心でした。 報告書では、評価の時期を拡大し、事前・中間・事後の一貫した評価プロセスを確立することが提言されました。 そしてそのために、在外公館やJICA、JBICの在外事務所の評価機能をより一層活用・強化することが提案されています。
さらに、政策レベルの評価は、事後評価のみではなく、政策実施中に複数回の評価を行い、状況の変化に応じた政策の再確認・見直しを行うことが望ましいと指摘されています。8.評価の手法
事前・中間・事後の一貫した評価プロセスを確立することと併せて、個別事業の目的とその達成度を測定する「評価指標」の設定について検討することも提言されました。 例えば初等教育関連のプロジェクトなら、事前評価を実施する際に、プロジェクトの妥当性や費用対効果の検討と併せて、対象地域の就学率などを評価指標と定め、プロジェクト実施前の就学率を測定しておおまかな数値目標を設定しておきます。 この評価指標に基づき、途中段階での達成度と、プロジェクト終了後の最終的な達成度を評価するというものです。こうした事前・中間・事後の一貫した数量的な評価の実施により、プロジェクトの最終的な成果を確認していくとともに、目標達成のために途中段階でさまざまな改善策を講じることが可能になるとされています。
また、費用・効果分析のガイドライン整備や、政策レベル及びプログラム・レベルの評価手法について、他のドナー国や国際機関を対象に早急に調査研究すること等も提言されました。9.評価のフィードバック
現在は、外務省、JICA、JBIC共に、それぞれ独自に評価結果を取り纏め、フィードバック体制を確立しています。 しかし、ODA全体としてのフィードバックがなければODAの質的改善が期待できないといっても過言ではないことから、援助政策の企画立案を行う外務省と、援助の実施機関であるJICA・JBICがそれぞれ行う評価結果を相互に利用し、効果的なフィードバックを実現する体制の確立が提言されました。
10.評価の情報公開・広報
評価結果は毎年、評価報告書として外務省、JICA、JBICから公表されていますが、インターネットの普及を受けて、それぞれの機関のホームページでの迅速な公開が提言されました。 また、従来から行われているNGOとの合同評価や、市民参加によるODA民間モニター制度等の拡充を図り、評価情報をさらに公開していくこと等も提言されました。
援助評価検討部会・評価研究作業委員会
評価の目的
「ODA評価体制」の改善に関する報告書(要点)
評価の対象
- (1)説明責任(アカウンタビリティ)、(2)実施管理支援、(3)フィードバック、(4)国民の理解と参加促進の4点の目的。
評価の体系
- 政策レベル(ODA中期政策、国別援助計画等)、プログラム・レベル(分野別、課題別等)、プロジェクト・レベル(個別プロジェクト)評価の3段階に区分。
- 研修員受入事業、専門家派遣事業、青年海外協力隊事業、草の根無償等の評価拡充。
評価の体制
- 外務省は政策レベルの評価に重点。JICA・JBICはプログラム及びプロジェクト・レベルの評価に重点。
- 外務省が中心となってODA関連省庁間の連携の推進。
評価の人材
- より具体的かつ集中的な研究を行うため「ODA評価研究会」(仮称)の設置。
- 学識経験者、会計監査法人、NGO、コンサルタント等の積極的な活用。
- 現地ニーズ、反応等を定期的に把握するため、在外公館やJICA・JBICの在外事務所の評価実施体制の拡充。
評価の時期
- 援助評価専門家の登録制度を導入。
- 「日本評価学会」(仮称)の設立を通じた援助評価専門家の資質の向上。
評価の手法
- 事前・中間・事後の一貫した評価プロセス確立。特に在外公館、JICA・JBICの在外事務所の評価機能を強化・活用する。
評価のフィードバック
- 政策レベル及びプログラム・レベルの評価の手法について早急に調査研究。
- 個別事業の目的とその達成度を測定する「評価指標」の設定について検討。
- 費用・効果分析の実施体制強化とガイドラインの整備。
評価の情報公開・広報
- 外務省、JICA、JBICの間でODA全体としてのフィードバック体制の確立。
- ホームページでの公開拡充と迅速化。評価報告書のフォームの整理とデータベース化。
- NGOとの合同評価、市民参加によるODA民間モニター制度等の拡充。
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