国際農業研究協議グループ(CGIAR:Consultative Group on International Agricultural Research)の概要と実績
- 設立及び我が国の協力開始の時期・経緯・目的
(1) 開始時期
1971年1月、ワシントンにおいて、世界銀行、FAO及びUNDPを発起機関とし、先進16か国、地域開発銀行、途上国農業研究支援に実績を有する民間財団等が参加し、CGIARが設立された。我が国は、昭和52年度より協力を開始し、予算を計上している。なお、その以前には、昭和45年度から昭和50年度までは国際稲研究所拠出金として計上、昭和51年度は国際稲研究所及び国際半乾燥熱帯地作物研究所拠出金として計上した経緯がある。)(2) 経緯及び目的
CGIARは、71年の発足以来、国際農林水産研究に対する長期的かつ組織的支援を通じて、途上国における食糧増産、農林水産業の持続可能な生産性改善により住民の福祉向上を図ることを目的としており、現在、傘下に世界各地に所在する16の国際農業研究センターを擁す。
- 事業の仕組み
(1) 概要
(イ) CGIAR傘下研究センターの研究・普及活動は、開発途上国の食糧作物の約75%(穀物、豆類、イモ類、家畜等)を対象とし、最新の科学研究技術による途上国の多様な土地・生態に適した品種改良や病虫害管理等の技術開発を実施している。また、農業の基盤である土地(土壌)、水(灌漑等)の他、森林資源(熱帯林)や水産資源等の天然資源の適切な管理・保全を行うため、「環境に優しい」農林水産技術の研究開発を行い途上国における持続可能な農業の確立を指向している。 (ロ) 国際とうもろこし・小麦改良センター(CIMMYT、在メキシコ)及び国際稲研究所(IRRI、在フィリピン)は、それぞれ高収穫品種の小麦と米の開発に成功し、両センターにより開発された品種は、今日開発途上国の穀物用の土地の2分の1以上の土地において育成されている。CGIAR傘下のセンターにより改良された新品種の導入により、米、小麦だけで5億人分以上の食糧に相当する成果である年間約6千万トンの増産をみた。「緑の革命」として途上国農業に新たな可能性を開いたこの技術革新は、70年~80年代を通じ、途上国における飢餓追放、栄養不良改善に多大な成果をあげた。IRRI開発によるIR8(「奇跡の米」といわれる短矩多収穫品種)の導入は、アジアで飢餓に苦しんでいたインド、パキスタンの農業事情を食糧自給達成できるまでに改善した。更にその成果は他のアジア途上国全域に波及し、1984年、インドネシアは米の自給を達成した。また、CIMMYTが開発した小麦の近代品種により、メキシコ、コロンビア、チリ等のラテン・アメリカ諸国における農業は食糧自給を達成し得るまでに改善されて、食糧生産量は倍増した。 (ハ) 上記2センターの成果に伴い、各地域の特殊性や流通穀物等に配慮した国際農業研究センターが世界各地に設立されるに至った。その主たる成果は、例えば、国際熱帯農業研究所(IITA、在ナイジェリア)が開発したメイズ(とうもろこし)の200種に及ぶ主要病虫害抵抗品種の開発であり、右は世界41か国に普及し、同研究所と国際熱帯農業研究センター(CIAT、在コロンビア)の共同開発による60種におよぶキャッサバの品種は、強い病虫害や冷害、乾燥地適性を有するものとして、広くアフリカ及びラテン・アメリカ諸国に普及している。また、国際馬鈴薯センター(CIP、在ペルー)により開発された61種の新種の芋は21か国に普及し、国際半乾燥地農業研究センター(ICRISAT、在インド)により開発されたミレット(きび、あわの一種)は、インド一国だけでも全作付け面積の3分の1に当たる3.5百万へクタールに普及している。 (ニ) CGIAR傘下の各センターは、植物遺伝資源の収集とその保全の分野でも多大な貢献をしている。その主たる成果を挙げれは次のとおり。
3,000種以上の食糧作物、肥料、牧草等有用植物遺伝資源からなる50万点以上の植物遺伝資源を、失われつつある貴重な植物種の保全、途上国の作物等の品種改良、育種等に活用。また先進国、途上国を問わず、これら遺伝資源を各国の遺伝子研究のため利用。さらにCGIARは、国際植物遺伝資源理事会(IPGRI、在イタリア)を中心に、これら遺伝資源の保存、利用等に関する地球規模のネットワークを作ろうと努力しているが、これは国連環境開発会議(UNCED)で主要議題となった生物多様性の保全という観点からも重要な活動である。(ホ) 87年以来、CGIARは、従来の地球規模の人口問題に伴う農業分野の食糧増産を中心とした研究に加え、地球規模の砂漠化、森林破壊、土壌劣化、気候変動等の環境要因を重視し、持続可能な農業生産のための天然資源の管理と保全等をも研究の重点目標に置くに至った。かかる観点から、同機関は新たにマンデートを拡大し、林業、水産、灌漑等の分野を取り込むと共に、既存のセンターの環境関連業務を強化している。特に、地球規模の環境問題への貢献のため、熱帯林の保全のための国際研究体制強化の声の高まりに呼応して、89年以来林業分野のマンデート拡大に取り組み、91年には、国際アグロフォレストリー研究センター(ICRAF、在ケニア)を傘下に編入し、農耕地に樹木を植えながら農作物を作るアグロフォレストリー(農林複合生産システム)研究を通じて、土地の持続的利用と森林保全に資する研究を強化した他、92年には、新たに国際森林・林業研究センター(CIFOR、在インドネシア)を設立、熱帯林保全研究に取り組む体制を整備した。 (2) 審査・決定プロセス
CGIARの意志決定は、統括委員会、財務委員会、技術諮問委員会等の委員会による協議を経た後、毎年5月に行われる年央会合、毎年10月に行われる年次会合において、コンセンサスにより行われる。(3) 決定後の案件実施の仕組み
CGIARの会合における決定は、議長により発表され、メンバー及び傘下の16の国際農業研究センターにより実行される。
- 最近の活動内容
(1) 概要
1997年以降、貧困削減への一層の貢献のため、農業研究を通じた貧困層の福祉向上を図るべく機構改革を検討中である。(2) 地域別実績
CGIARは、1997年に、その事業の41%をサブサハラ・アフリカにおいて行っている。次いで、アジア(31%)、ラ米及びカリブ(17%)、西アジア及び北アフリカ(12%)となっている。(3) 主要事業
CGIARの事業の分野別の内訳は、生産性向上に関するものが40%、各国農業研究システム強化に関するものが21%、環境保全に関するものが17%、生物多様性保護に関するものが11%、農業政策に関するものが11%をしめている。
- 我が国との関係
(1) 意志決定における我が国の位置付け
我が国は現在、16の国際農業研究センターの全てに理事を擁し、理事会、TAC、CGIAR全体会合等、各過程での審議及び決定プロセスに積極的に参加しており、また我が国の専門家、研究者が多くのセンターで活躍している。また、我が国におけるCGIAR拠出国会合の開催や各種協議会、セミナー、シンポジウムの開催等、我が国はCGIARに対するプレゼンスを高めると共にその運営に積極的に協力。さらに我が国は、CGIARと共同で途上国における作物品種改良の最新技術や臨床実験、営農技術等各種の研究を推進しているのみならず、CGIAR傘下の各センターが有する育種の素材となる遺伝資源(これらは、我が国が途上国食糧・農業援助を行う上で基礎となるもの)を利用し得る等の利益も享受している。(2) 邦人職員
CGIARの邦人職員は21人で、全体の2.4%(98年現在)である。岩永勝国際植物遺伝資源理事会(IPGRI)副所長らが活躍している。(3) 財政負担
我が国からは積極的に資金援助を行っている。CGIARに対する拠出は、97年度は4,168,705,000円、98年度は3,997,300,000円を拠出した。全拠出金にしめる97年度の我が国の拠出の割合は10.5%であり、世銀、米についで第3位である。
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