国連環境計画(United Nations Environment Programme,UNEP)の概要と実績


  1. 設立及び我が国の協力開始の時期・経緯・目的

    (1) 開始時期
     1972年の第27回国連総会決議2997(12月15日採択)により設立。我が国の同機関への資金協力は、同機関が翌1973年に活動を開始して以来行われている。

    (2) 経緯及び目的
     UNEPは、1972年の国連総会決議に基づき、環境の保護と改善のための国連内部機関として設立された(右決議は、同年6月に「かけがえのない地球」を合い言葉にストックホルムで開催された国連人間環境会議において採択された「人間環境のための行動計画」の勧告を受け、提案・採択されたものである)。同機関は、既存の国連諸機関が行っている環境に関する諸活動を総合的に調整するとともに、国連諸機関が着手していない環境問題に関して、国際協力を推進していくことを目的としている。
     上記国連総会決議では、UNEPの目的遂行に必要な資金を賄うための環境基金を1973年1月1日より設置することも決定された。我が国は、右基金に対する最初の拠出として、同年、100万ドルを拠出した。

  2. 事業の仕組み

    (1) 概要
     UNEPはその事業として、環境分野を対象に、国連内部での機関間の調整や、各国・機関とも協力しつつ種々の国際協力活動を行っている。
     その活動資金は主に、環境基金に対する各国の任意拠出によって賄われている。96年及び97年の環境基金への拠出総額は、それぞれ45.8百万米ドル及び44.4百万米ドルである(その他の財源として、国連通常予算からの配分(96-97年度(注)で7百万米ドル)、信託基金(特定の目的-例えば長期かつ大規模な事業の実施、JPOへの給与の支出等-のため特に管理理事会で設置を承認された基金で、これまで70の基金が設置されている)への拠出(96-97年度で35百万米ドル)及びカウンターパート拠出(各国が特定の事業にイア・マークを付して拠出する制度。96-97年度で11.3百万ドル)がある。
     (注:UNEPの事業年度は2年間であり、正確な収支額の報告は2年に1回。但し環境基金への拠出額については毎年各国に報告されている。)

    (2) 審査・決定プロセス
     UNEPは、各国からの拠出金見込額を基に、2年ごとに開催される管理理事会において、向こう2年間の分野ごとの資金配分を決定している。この資金配分に従って、UNEP事務局が、管理理事会で決議された方針に従い、又は各国からの要請に応じて、具体的な活動計画を策定している。

    (3) 決定後の案件実施の仕組み
     UNEPの活動は、地球環境のモニタリングとその結果の公表、環境関係条約の作成準備、環境上適正な技術に関する情報収集・配布等、事務局が独自に実施できる場合もあり、また、専門的な分野(珊瑚礁保全、生物多様性喪失の経済的要因、小島嶼国における廃棄物の扱い等)に関するワークショップ開催、特定地域における環境監視システムの構築(例えば南部アフリカにおいては南部アフリカ開発共同体と共同で実施)等、他の機関等と共同で案件を実施する場合もある。

  3. 最近の活動内容

    (1) 概要
     UNEPの活動内容は、環境分野において多岐にわたっていたため、1997年の第19回管理理事会で、UNEPの役割として焦点を当てるべき活動が次のとおり確認された。

    • 地球環境の状況評価と環境問題についての国際協力の促進
    • 国際環境法の発展
    • 環境に関する国際的な合意・政策等の実施の推進や実施状況の監視
    • 国連システム内における環境関係活動の調整
    • 地球環境問題に関する社会各層の啓発・協力の促進
    • 政府その他関係機関に対する政策策定支援・諮問活動
     以上の活動を、広範な環境分野(オゾン層保護、気候変動、廃棄物、海洋環境保護、水質保全、土壌の劣化の阻止(砂漠化への対処を含む)、森林問題、生物多様性の保護、産業活動と環境の調和、省エネルギー、省資源等)について、場合に応じ関係国連機関、国際機関、NGO等とも協力して実施している。

    (2) 国・地域別実績
     上記の通りUNEPの活動は、地球環境問題が対象となっていることからマルチの場での協力が主であるが、特定の国・地域に対する協力も一部実施している。96-97年度の事業のうち特定の国・地域を対象としているものには次のようなものがある。

    • ラテン・アメリカ地域における砂漠化対処条約実施の支援
      (6万ドル。同地域内の同条約実施機関代表65名によるセミナー開催)
    • ガーナにおける環境情報管理のための能力強化
      (4万3千ドル。同国内の環境情報システムの運営管理能力強化のため、種々の訓練コースの実施やワークショップの開催等を行う)
      (ウガンダでも同額で同じ事業を実施)
    • 南部アフリカ開発共同体の環境情報システム構築支援
      (17万5千ドル。南部アフリカ開発共同体と協力して、南部アフリカ地域内の各国間の情報ネットワークの状況検討、右情報システムの核と成りうる機関の評価等を行い、右情報システム構築のための戦略を策定)

    (3) 分野別実績
     UNEPは、上記2.(2)のとおり、2年間の活動について分野別に予算を配分しており、実績も2年間の右分野ごとの支出額が報告される。96-97年度実績額は次のとおり。

    (単位:千ドル)
     ・淡水及び海洋環境の管理6,956
     ・生物資源の管理4,238
     ・土地資源の管理4,351
     ・政策決定及び行動計画策定のための情報3,854
     ・持続可能な生産4,812
     ・エネルギー消費の環境に対する影響の削減1,796
     ・環境上持続可能な生産・消費行動パターン322
     ・有害化学物質・廃棄物の影響の削減4,781
     ・都市における環境管理活動の改善1,905
     ・環境上の変化及び緊急事態519
     ・貿易と環境718
     ・環境経済学464
     ・環境法2,674
     ・政策決定に関連した調査の調整・促進684
     ・環境状況の評価3,217
     ・地域・小地域協力の支援4,673
     ・公衆の啓発・教育5,477
     ・国際情報交換システム(UNEPNET)の構築・運営3,172
    合計54,613

     以上の各分野での活動のうち主要なものとして、例えば「政策決定及び行動計画策定のための情報」の分野で、環境状況の評価・報告のための地域的な環境及び天然資源に関する情報ネットワークの構築・改善と運営のために、種々のアセスメント、訓練、域内会議開催等を実施しており、各地域ごとの所要額を合計すると約2,264千ドルになる。また「環境状況の評価」の分野では、例えば、地球環境に関する総合的な情報・評価・分析を、地球全体及び地域ごとにまとめたGlobal Environment Outlookという報告書を作成した。右報告書の編集及び出版等に要した費用は合計約927千ドルであった。

  4. 我が国との関係

    (1) 意思決定機構における我が国の位置づけ
     UNEPの最高意志決定機構は管理理事会であり、国連総会において選出された58ヶ国(任期4年)により構成されている。我が国は1972年のUNEP発足当初より現在に至るまで、管理理事会構成国に選出されている。

    (2) 邦人職員
     99年2月現在で、プロフェッショナル職員(P1以上)は300人程度。そのうち日本人職員は7人(いずれもPレベル)で、全体の2%程度(なお、右に加え99年3月現在、アジア・太平洋地域事務所次長(P5)に1名が内定している)。邦人職員の割合が少なく、特に幹部職員がいないため、我が方としては現在環境庁職員1名をD1ポスト(地球環境ファシリティー調整官)に推薦中である他、邦人国連本部職員1名がD2ポスト(環境政策策定・法律部長)に応募したことに対して採用を働きかけている。

    (3) 財政負担
     我が国は、上記1.(2)のとおり、UNEP創設以来資金拠出を継続しており、最近の毎年の拠出規模は各国中1位から2位であった。96年及び97年の拠出状況(上位10ヶ国の拠出率・額及び全体額)、及び98年の拠出見込(99年3月現在で確定額は未発表であり、各国の拠出確約額等(デンマークについては未確約のため97年拠出を基にした見込額)を基に算出)は次のとおり。

    1996年1997年1998年(見込)
    国名拠出率額(千ドル) 国名拠出率額(千ドル) 国名拠出率額(千ドル)
    日本 19.96 9,000 15.20 6,749 17,92 8,235
    15.53 7,000 日本 13.52 6,000 15,09 6,934
    13.88 6,258 12.82 5,691 11.56 5,312
    12.40 5,591 10.36 4,600 日本 10.72 4,928
    フィンランド 8.46 3,814 フィンランド 7.11 3,156 フィンランド 6.69 3,073
    スイス 7.05 3,179 スウェーデン 6.03 2,677 スウェーデン 5.72 2,628
    スウェーデン 6.50 2,930 スイス 5.83 2,589 スイス 5.48 2,518
    オランダ 5.22 2,355 デンマーク 5.18 2,300 デンマーク* 5.00 2,300*
    デンマーク 5.17 2,331 ノルウェー 5.18 2,299 オランダ 4.34 1,995
    ノルウェー 5.09 2,296 オランダ 4.63 2,056 ノルウェー 4.31 1,983
    60ヶ国 100% 45,083 84ヶ国 100% 44,390 100% 45,961

    (4) 主な使途を明示した信託基金への拠出、活用状況
     我が国は、開発途上国への環境上適正な技術の移転を目的としたセンターである「国際環境技術センター」(IETC)の設置をUNEPに働きかけ、その結果、1992年、IETCの我が国への設置(大阪と滋賀に事務所を置き、前者は都市環境問題を、後者は湖沼・淡水環境管理を、それぞれ担当)が決定され、その運営経費を賄うための信託基金が設けられた。我が国はIETC事業への主要拠出国として、右信託基金に対し、96年及び97年には250万ドルずつを、また98年には181万6千ドルを、それぞれ拠出した。IETCは現在、環境上適正な技術に関するデータベースの構築、各種セミナーやワークショップ等の開催等により、開発途上国・市場経済移行国への技術移転を行っている。
     また、1994年には、日本として地球環境問題に対する開発途上国支援を機動的に行うため、日本・UNEP信託基金を設置した。右信託基金への拠出額は、96年及び97年にそれぞれ100万ドルずつ、また98年に45万4千ドルとなっている。右信託基金による事業としては、(イ)アジア太平洋地域の海洋資源保全、森林保全、湖沼の水質調査等の各種調査、(ロ)各種環境関連国際会議への途上国の参加支援、等がある。

    (5) 我が国ODAとの協調実績
     特になし。


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