国際協力事業団(JICA)の概要と実績
- 事業の開始の時期・経緯・目的
(1) 開始時期及び経緯
国際協力事業団(Japan International Cooperation Agency。以下「JICA」)は、政府ベースの技術協力を一元的に実施する特殊法人として、国際協力事業団法に基づき、昭和49年8月1日に設立された。(JICAは、海外技術協力事業団(昭和37年6月30日設立)及び海外移住事業団(昭和38年7月15日設立)を統合して設立されたものであり、両事業団の業務等を引き継いでいる。)(2) 目的
開発途上地域に対する技術協力の実施、無償資金協力の実施の促進、青年海外協力隊の派遣等の業務を行い、これら地域等の社会・経済の発展に資することを目的とする。
- 事業の仕組み
(1) 概要
(イ) JICAは、政府の定める方針の下、技術協力事業(研修員受入事業、青年招聘事業、プロジェクト方式技術協力事業、開発調査事業、援助効率促進事業等)、無償資金協力事業の実施促進、開発協力事業、青年海外協力隊派遣事業等を実施している。 (ロ) 技術協力は、開発途上国の国造りの基礎となる「人造り」を目的とする援助であり、150ヶ国以上の開発途上国を対象に実施している。日本の技術や知見を相手国の当該分野で指導的な役割を担う人々(技術協力の「カウンターパート」)に伝える。カウンターパートを通じてその技術が当該開発途上国の国内に広く普及することにより、当該国の経済・社会発展に寄与することとなる。現在、技術協力は、保健医療・飲料水の確保等の基礎生活分野からコンピューター技術や法律・制度の整備等の先端技術やソフト面の協力を含む幅広い分野に及んでいる。 (ハ) 無償資金協力業務について、資金の供与(支払い業務)は日本政府(外務省)が直接行っているが、JICAでは無償資金協力業務のうち、一般無償、水産無償、食糧増産援助の3形態について、適切且つ円滑に進めるための業務を行っている。具体的には施設の建設及び資機材の調達を行うために必要な基本設計の調査団の派遣、無償資金協力がスムーズに行われるための調査、斡旋、連絡等の業務や援助プロジェクトのフォローアップのための調査等を行っている。(詳細は無償資金協力の概要説明を参照のこと。) (ニ) その他、海外での大規模な自然災害が発生した場合の援助である国際緊急援助隊業務や、日本の青年男女が、途上国で現地の人々と生活を共にしながら経済・社会の発展に協力する青年海外協力隊事業、経済・社会基盤の整備を中心とした公共的な開発計画を目的とする調査、或いはそのような計画の基礎となる基礎的情報の整備のための調査を行う開発調査事業等を行っている。 (2) 審査・決定のプロセス
開発途上国政府から在外公館を通じ要請された案件の採択については外務省が行っている。JICAにおいては、要請案件に関し、先方政府の開発政策(重点課題)との整合性、優先順位、緊急性、技術水準の適正度、期待される成果等を考慮し、要請された各案件の妥当性につき検討し、JICAとしての見解を外務省に提出している。
近年、JICAでは、案件の発掘・形成の段階から、情報収集や各国の有する課題の分析に努め、相手国政府との対話を通じ、具体的な協力案件をつくり上げる取り組みを開始している。(3) 決定後の案件実施の仕組
開発途上国政府からの要請に対しては、外務省から在外公館を通じ、我が国政府の採択結果を通報し、採択案件については、各事業形態毎に必要となる手続きを進めている。
- 最近の活動概要
(1) 活動の概要
平成10年度予算における国際協力事業団事業費は対前年度費1.8%減の176,204百万円であり、うち事業実施に係る同事業団交付金は対前年度費1.6%減の172,934百万円となっている。交付金のうち海外技術協力事業費は2.4%減の146,021百万円、海外移住事業費は8.8%減の788百万円、管理費は3.5%増の26,125百万円となっている。
また、平成10年度予算における国際センター等施設改修を行うための国際協力事業団出資金は、前年度比11.4%減の3,270百万円となっている。(2) 地域別実績
平成10年度事業経費実績を地域別にみると、JICAの実施した技術協力の総額のうち、アジアが42.0%、中近東が8.1%、アフリカが14.4%、中南米が19.6%、大洋州が2.7%、東欧等が5.2%となっている。地域別の構成と前年度との対比は図表のとおり。
(注:本実績値は平成10年度末時点の暫定値。)
(3) 主要な具体的事業・案件の内容
我が国のODAが、変化の著しい国際情勢や多様化する新たなニーズに対応し、国際社会からの期待に一層応え、質の高いより効果的・効率的な事業の実施が求められる中、JICA事業の最近の動向は下記のとおり。
(イ) 効果的・効率的事業の実施
◯ 社会開発総合プログラム
社会開発総合プログラム協力は貧困層への支援を中心に、プロジェクト方式技術協力を核として他の協力スキームを有機的に連携させた総合的アプローチを平成10年度から新たに実施。ガーナにおいて貧困層に対する生活健康改善総合プラグラムを開始した。現在、基本計画の策定段階にあり、平成10年度には調査団及び短期専門家派遣を行っている。◯ 在外ミニ開発調査
小規模な調査に関する要請に対応するため、在外事務所が現地の事情に精通したローカルコンサルタントを活用し、現地主導で行う機動的な調査を平成10年度より開始。マレイシアの交通調査、象牙海岸共和国の植林調査等、計3件を実施。◯ 南南協力拡大のための第三国研修の拡充
第三国研修は、我が国からの技術移転を受けた当該国が、周辺国等に対してその技術をさらに移転・普及させるものであり、南南協力支援の重要な柱となっている。平成10年度には、全体で116コース、計1,906名の研修員が参加している。(ロ) 国民参加型協力の推進
ODAに対する国民の理解と支持を確保するためには、幅広い国民の参加と協力を得て事業の実施を進めていくことが肝要であり、NGO、民間企業、地方自治体等との連携を通じて、実際に国民が国際協力に参加する機会を増やし、多様化するニーズに合致した専門家等の援助人材の基盤拡充を図っている。従来より専門家の公募(平成9年度2名、平成10年度37名)やシニア海外ボランティアの派遣拡大(平成9年度48名、平成10年度62名)等に努めている。下記については平成10年度から新たに取り組みを開始したものである。
◯ 民間提案型セミナー専門家派遣
民間の知見を活用するためにヴィエトナムにおける国営企業改革促進セミナー、ミャンマーにおける市場経済化を目指した人材開発講座を実施。◯ 自治体連携案件形成ワークショップ
地方自治体の有する経験・ノウハウを開発途上国の地方開発に役立てることを目的に、大分県の推進している「一村一品運動」をマラウイの国造りに役立てるためにワークショップを開催。◯ NGOワークショップ
参加型アプローチを実践している海外のNGO関係者を招へいし、日本のNGO関係者とその経験・知見を共有し、NGO関係者の今後の日本の協力への参加を促進するために沖縄県で開催。◯ JICA事業と連携のためのNGO研修コース
NGO、JICA各々のプロジェクト運営の方法を互いに学び、連携を強化することを学ぶために、JICA、NGOから総勢33名が参加。◯ 青年海外協力隊1年任期隊員の派遣
途上国からの要請で1年間の派遣で対応が可能なものについて1年を任期とする派遣制度を設立。12ヶ国に対して15名を派遣。◯ ジュニア協力隊の派遣
青年海外協力隊員の活動の現場に高校生を短期間派遣し、ボランティア体験を通じて将来の援助人材の育成と国際理解の涵養、相互理解に資するための制度を開始。沖縄県、茨城県、福島県の高校生各10名、計30名を、ネパール、マレイシア、フィリピンに派遣。◯ インターン制度
開発援助分野を研究し、将来援助人材として期待される大学院生に対し、JICAの在外事務所を中心に実習の機会を提供し、国際協力に対する理解を深め将来の援助人材の育成を図るためにインターン制度を開始。タイやインドネシアなど6ヶ国で15名、東京や大阪など国内で22名、計37名の大学院生をインターンとして受け入れた。◯ 開発援助公開講座
地方自治体、教育・試験研究機関等に所属する人員や学生で、国際協力に従事する希望者に対し、国際協力の手法に関する開発援助研修を沖縄県で実施。一般公開されたシンポジウムには200名を超える参加者を得た。(ハ) 人間の安全保障に関する取り組み
「人間の安全保障」は、人間があらゆる恐怖や欠乏から自由になり、選択権を行使できることを保障するという幅広い概念であり、JICAにおいては、その中でも特に、経済開発、食糧、健康、環境の領域に対して重点的に取り組んでいる。その他には、麻薬対策、犯罪防止、障害者福祉などの分野で研修員受け入れを中心に支援している。例えば麻薬対策については「薬物犯罪取締セミナー」「薬物乱用防止啓発活動」などの集団コースを実施し、また麻薬代替作物の栽培指導の専門家を派遣している。(ニ) DAC新開発戦略の重点開発課題への取り組み
DAC新開発戦略における重点開発課題(貧困、教育、基礎的保健医療、環境)について、途上国側の「オーナーシップ」を支援するという基本理念を踏まえつつ重点国を中心に積極的な対応を行っている。例えば、環境分野に関しては、平成10年度にインドネシアの熱帯降雨林研究計画、中国大連省エネルギー教育センター、ブラジル国産業廃棄物処理技術プロジェクト等総計86件のプロジェクト方式技術協力を実施しており、個別専門家については278名を派遣、研修員については地球温暖化対策コース等1,726名の受け入れを行っている。また、平成9年12月に京都で行われた気候変動枠組み条約第3回締結国会議で「京都イニシアティブ」を発表し、平成10年度から5年間に3,000名の温暖化対策関連分野の途上国の人材育成に協力することを約束し、平成10年度で1,154名育成している。(ホ) アジア経済危機への取り組み
JICAは、従来より開発途上国の経済・金融面での人造りや組織体制整備等に協力を行ってきたが、平成9年7月のタイの現地通貨バーツの下落により顕在化したアジア経済危機に際して、緊急人材育成支援、相手国政府負担に対する臨時・緊急支援、社会的弱者支援を三本の柱とする取り組みを行っている。経済・金融分野での人造りに関しては、「日本・ASEAN総合人材育成プログラム」の一環として貿易、金融、投資促進、産業構造調整等の分野に対する専門家派遣や現地セミナーを集中的に実施した他、ASEAN各国の金融担当者をシンガポールに集め、債権管理分野での第三国研修を行い、東京においてもASEAN金融・経済政策セミナーを3回に亘って実施した。社会的弱者への支援については、タイのバンコックのスラム住民に対する衛生・環境改善事業やフィリピンの貧困層結核患者に対する治療薬の配布、治療方法の研修実施等、アセアンを中心に直接住民に裨益する開発福祉支援事業を現地のNGOと協力して29件実施。相手国政府負担に対する支援については、経済危機の影響による予算の大幅削減により、ローカルコストが負担できず、JICA事業の実施が困難となったものに対して支援を行った。インドネシアの例では、貿易実務に係る現地研修が先方政府の予算削減によりその実施が危ぶまれていたが、JICAからの支援により無事開催され大きな成果をあげた。(ヘ) アフリカ開発への支援(TICAD2フォローアップ)
平成10年10月に東京で開催された第2回東京アフリカ開発会議における行動計画を踏まえ、アジア・アフリカ協力を含め、アフリカ開発のための支援を積極的に行っている。JICAはアフリカ開発のための「人造り」を基本とし、債務管理支援、地雷除去支援、教育・保健医療・水供給分野の無償資金協力、国際寄生虫対策、ポリオ根絶、域内協力の強化支援、民主化支援等、多岐に亘る協力を実施している。(ト) 草の根への支援
開発途上国においては草の根レベルの福祉の向上や貧困の撲滅を図ることが重要であり、JICAは開発途上国で地域に密着した活動を展開しているNGOをパートナーとして、住民参加による福祉向上に役立つ草の根技術協力(開発福祉支援事業)を平成9年度から開始し10年度までに33件実施。(チ) 知的支援型協力の拡充
政治体制の民主化や市場経済移行による経済の自由化を基本政策として進めるインドシナ、東欧、中央アジア諸国等に対して、国造りの基盤となる財政・金融政策、産業政策、人的資源開発等の重要な政策の立案形成、経済開発計画や法整備などの制度造りに関する知的支援分野における協力を拡充した。平成10年度には民間のアイディアを知的支援に活かす新たな制度として民間提案型セミナーをミャンマーとヴィエトナムで実施した。また、アジア経済危機に対する取り組みとして、財政金融分野を中心に専門家派遣と研修員受け入れを集中的に実施した。(リ) 事前調査と事後評価等の拡充
協力の入口段階で、開発途上国が真に評価する質の高い案件を適切に発掘・形成するために、在外事務所によるプロジェクト形成調査の件数の増加、無償資金協力における予備調査の実施等、事前調査の拡充を図ると共に、プロジェクトの実施を通じて得た経験を他のプロジェクトにフィードバックするための事後評価を案件増等により強化した。(ヌ) 資金協力との連携
JICAが実施している技術協力は、我が国の各種援助形態(有償資金協力、無償資金協力、技術協力)間の有機的連携を進めていくために大きな役割を担っており、資金協力との連携を一層促進するために、平成10年度より資金協力連携専門家の派遣及び資金協力連携研修員の受け入れを開始した。また、一部の有償資金協力案件の詳細設計を新たにJICAの技術協力の枠組みである開発調査において実施することとなった。
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