国際原子力機関(IAEA:International Atomlc Energy Agency)の概要と実績


  1. 設立経緯及び根拠・目的

    ウラン、プルトニウム等の核物質は、原子力発電のような平和目的のためにも、また、核兵器製造等の軍事利用のためにも使用され得る。このため、原子力平和利用の開発は、常に核兵器の拡散を如何に防止するかという問題を伴う。第2次世界大戦終結後、世界が原子力平和利用から得られる経済的利益に注目し始めたこと等を背景に、この核拡散問題に対処する国際協力体制の必要性が高まり、1957年国際原子力機関(IAEA)が米国のイニシァティブの下に国連総会決議を経て創設された。
    IAEAの主な目的は、IAEA憲章によると(技術協力を通じた)原子力平和利用の促進、原子力活動が軍事転用されていないことを検認するための保障措置の実施及び原子力安全の確保である。

  2. 最近の活動内容

    (1)原子力の平和利用

    (イ)原子力安全

    安全対策の分野では、原子炉施設に関する原子力安全基準(NUSS)、放射性廃棄物安全基準(RADWASS)、放射性物質安全輸送規則(IAEA Safety Series)等の指針を作成し、国際的なガイドラインの導入に貢献している。特にチェルノブイリ事故以降、原子力発電の安全確保の重要性は国境を越えた問題として再認識され、旧ソ連・東欧の発電所の安全性向上等、IAEAのこの分野での一層の活動が期待されている。また、IAEAは、原子力の安全に関する初めての国際約束である「原子力の安全に関する条約」(我が国は1994年9月署名、95年5月締結。1996年10月24日発効。)の検討作業において各国を側面的に支援し、事務局長は、本条約の寄託者となった。また、1997年10月の総会で、IAEAが事務局となって作成された「放射性廃棄物等の管理の安全に関する条約」が署名解放された。

    (ロ)技術協力

    原子力の平和利用は、原子力発電の分野と、環境、医学、鉱工業、食品、農業等におけるRI放射線の利用促進のための非発電分野に大別出来る。技術協力に対する開発途上国からの要請は年々増加しており、IAEAは右を受け専門家派遣、研修員受入れ、トレーニング・コース開催等の事業の規模を年々拡大している。更に、各種報告書の出版、各種会合の開催、データベースの整備等を通じて、原子力の平和利用に関する情報交換の促進にも貢献している。

    (2)保障措置の実施

    (イ)憲章では、IAEAを通じて核物質または設備が供給されている場合には、二国間の原子力協定の当事国が要請した場合及び何れかの国が自発的に要請した場合に保障措置を適用することを定め、これに基づいてIAEAと関係国との間に保障措置協定が締結されている。
    他方、1970年3月に発効した核兵器不拡散条約(NPT)は、締約国である非核兵器国に対し、平和的原子力活動に係るすべての核物質を対象とする包括的保障措置協定をIAEAとの間で締結するよう義務付けており、IAEAの保障措置システムはかなりの充実を見せるに至った。1997年5月で我が国を含む186ケ国がこの協定を締結している。
    (ロ)他方、近年イラクがIAEAとの包括的保障措置協定に違反し未申告で核分裂性物質の製造を実施していたことが判明したり、更に、北朝鮮による保障措置協定違反が生じたことを契機に、1993年、IAEAは、保障措置制度を強化及び効率化するための諸方策に関して検討を2年間で実施する「93+2計画」に着手した。1997年5月には、現行の保障措置協定の範囲内で実施することが不可能な諸方策を実施するため、IAEAに新たな権限を付与するためのモデル議定書がIAEA特別理事会で採択された。すでに、豪はじめ7カ国の追加議定書(モデル議定書に基づき、各国が保障措置に関しIAEAと締結するもの)が理事会で承認されている。その一方で、このように年々増加する世界の原子力施設への保障措置財源を如何に確保するかが今後の課題となっている。

  3. 我が国との関係

    原子力の平和利用の推進及び核不拡散の重要性を認識する我が国は、IAEA憲章の原加盟国であるとともに、発足当初からの理事会指定理事国として、IAEAの政策決定・運営に一貫して参画し、その活動に積極的に協力してきた。また、我が国は97年10月より1年間の任期で理事会議長国を務めている。
    我が国は世界有数の原子力推進国として、開発途上国のための原子力平和利用のためのIAEA技術協力プログラムへの人的・財政的協力を積極的に実施している。アジア地域諸国については、我が国(78年より加盟国)を含む17ヶ国が加盟国であるRCA(IAEA・アジア原子力地域協力協定)の活動を通じて、我が国はその中心国として放射線を利用した環境保全、医学生物学分野での技術協力プロジェクトを積極的に行っている。また、95年よりポーランドにおいて、排煙公害是正のために我が国の原子力排煙脱硫技術を利用した環境保全プロジェクトが実施されている。原子力安全の分野においても、旧ソ連・東欧型炉の安全性確保のためのIAEA支援計画、原子力の安全に関する条約の実施に係る協議等に積極的に参加している。また、放射性廃棄物の処理・処分の安全基準等の検討作業にも多くの専門家を派遣している。
    事務局には、98年1月現在、町末男事務次長(研究・アイソトープ担当)を筆頭に小溝泰義IAEA事務局長特別補佐官を含む25名の邦人職員が在籍している。 財政面では、97年度には、分担金に対し3,447万346米ドル相当(全体の約15.4%、米国に次ぎ第2位)、技協基金に対し1,170万483米ドル(全体の15.6%)を拠出している。


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