フィリピン(国別援助方針)


  1. 基本方針

    (1)我が国の援助対象国としての位置付け

    (イ)フィリピンは近隣国として、長年にわたり我が国と緊密な関係を保ち両国関係は良好に推移しており、特に貿易・投資等の面で我が国と密接な相互依存関係を有すること、
    (ロ)自然災害等により低迷していた経済を立て直すために、様々な経済改革努力を行うことによって経済運営において一定の成果を上げたが、アジア地域経済危機の影響により経済は減速しており、企業設備の生産性向上・国際的競争力の強化のために支援する必要があること、
    (ハ)依然として多くの貧困層を抱える国であり(94年現在貧困人口約40%)、援助需要が大きいこと、
    (ニ)また、97年アジア経済危機を受けて経済回復のために可能な限りの対策をとる必要があること、

    等を踏まえ、援助を実施する。
     なお、我が国は、98年2月20日閣議決定「東南アジア経済安定化等のための緊急対策」に基づき、同年3月経済構造調整を支援するためのノン・プロジェクト無償資金協力を実施した。
     また、フィリピンは我が国の二国間援助実績(97年までの支出純額累計)で第3位の受け取り国である。

    (2)我が国の援助の重点分野

     我が国は、フィリピンにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び94年2月に派遣した経済協力総合調査団等におけるフィリピン側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。

    (イ)経済基盤整備

     フィリピンの持続的経済成長に資する外国投資促進のためには、今後とも経済基盤整備は必要である。特に、同国の中期インフラ計画の重点分野でもある、エネルギー及び運輸セクターでの協力を中心として行っていく。また、水供給分野への協力の重要性に留意。ただし、整備を行うにあたり環境や住民移転問題に留意する。

    (ロ)産業構造の再編成と農業開発に対する支援

    産業の国際競争力強化による当国の経済発展のためには、産業構造のリストラと農業開発は不可欠。このため以下の協力を行う。(a)人的資源開発、金融面での支援を通じ、中小企業を中心としたサポーティング・インダストリー及び輸出産業育成のため継続した支援を行う。(b)農地改革の進捗を踏まえ、農地改革、農業開発及び農業関連産業の開発に対する支援を行う。

    (ハ)貧困対策及び基礎的生活環境の改善

     フィリピンでは、全世帯の35%が貧困ライン以下にあり、また、貧富の格差が大きい。特に農村住民の都市部への移住は、都市部における生活環境悪化等の社会問題の原因にもなっている。この解決のため我が国援助においては以下のサブセクターに重点を置く。
    (a)保健・医療(含む人口・エイズ協力)、(b)教育、(c)基礎的生活環境(含む上水供給、下水設備、公衆衛生等)。

    (ニ)環境保全

     不法伐採、移動耕作、急速な都市化による森林減少は、環境に悪影響を与えている。持続的発展のためには、開発にあたっては環境面へ最大限の配慮を払うべきである。特に(a)天然資源の保全、(b)公害対策、(c)災害対策、(d)環境行政への支援。

    (3)留意点

    • モロ民族解放戦線(MNLF)等、ミンダナオのムスリム勢力との和平の進展を受け、南部フィリピン開発に留意。
    • 税制制度の改善等を通じた歳入増加及び税負担の公正化をはじめとするフィリピンの自助努力が極めて重要。
    • フィリピン経済の持続的発展のためには、所得格差・地域格差の是正といった公平性の確保や環境問題への十分な配慮が必要。
    • 民活インフラ整備促進への支援等を通じ、ODAの効果的かつ効率的な運用を図る。
    • 地方分権化の進捗により、地方自治体による開発事業の実施の増加に伴い、事業の計画・実施の際に、能力強化を行いつつ事業を実施することに留意。
    • 貧困対策、農村開発等の事業実施の際、地元NGOや住民組織との連携を考慮。
    • フィリピンは日本による経済協力を高く評価し、積極的に広報活動を展開。
    • 新政権の政策内容に留意。

  2. フィリピン経済の現状と課題

    (1)主要経済指標

    一人当たりGNP (96年)と同成長率
    (90-96年平均)
    実質GDP成長率
    1,160ドル、1.0%
    (世銀資料)
    92年0.3%、93年2.1%、94年4.4%、95年4.8%、96年5.7%、97年5.1%
    (比統計局資料)

    (2)現状

     94、95、96年GDP成長率はそれぞれ4.4%、4.8%、5.7%と回復し、税制改革、外国投資誘致の環境づくりも進んできたが、97年東南アジア金融危機の影響を受けたペソの下落、エル・ニーニョ現象の農業生産に与える影響等により、国内経済の成長は鈍化傾向。国内外の投資も、不安定な為替相場、高金利、大統領選挙に伴う政治の先行き不透明により、冷え込んでいる。国内貸出金利の低下による企業活動の活性化、インフレの抑制、海外からの直接投資の促進等が課題。なお、95年9月にIMF8条国へ移行した。

    (3)課題

    • MNLFとの和平合意等、ミンダナオにおける和平プロセスの進展を受けた南部フィリピン開発
    • 財政収支の安定化、経常収支の改善、累積債務問題の解決、規制緩和等による経済構造改革の推進、高金利対策、貿易投資の促進
    • 経済発展の基盤となる経済インフラの整備
    • 農地改革の実施促進と農業生産性の向上
    • 貧困対策、所得格差の是正、地域間格差の是正、雇用対策
    • 電子・電気機器、自動車産業等ハイテク産業の基盤となるサポーティング・インダストリーの育成

  3. 開発計画

    中期開発計画(1993年~1998年)

    • 人造りと国際競争力の強化を2本の柱として持続可能な経済成長を目指す。具体的には積極的公共投資計画、外国投資の誘致、輸出促進政策、貧困撲滅等

    中期公共投資計画(1993年~1998年)

    • 重点投資分野はインフラ整備、農工業部門開発、人造り、行政能力向上、災害予防復旧

    中期輸出振興計画(1993年~1998年)

    • 基本戦略は、(1)輸出指向型直接投資の誘致、(2)14項目の優先輸出産品の指定と輸出主導型中小企業育成

    社会改革アジェンダ(1994年~)

    • 中期開発計画に掲げられた貧困率を30%まで引き下げるとの目標達成のため対象となる州を特定し、プログラムを実施

  4. 援助実績

    (1)我が国の実績(支出純額、単位:百万ドル)

    有償無償技協合計供与先順位
    97年(暦年)16268893195位
    97年(暦年)までの累計5,3781,6311,1208,1293位

    (2)DAC諸国からの実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)

    二国間総額1位2位3位
    748日本 415ドイツ 107オーストラリア 56

    (3)国際機関からの実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)

    国際機関総額1位2位3位
    136ADB 47CEC 42IDA 13
CEC:Commission of the European Communities(EC委員会)

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