マレイシア(国別援助方針)


  1. 基本方針

    (1)我が国の援助対象国としての位置付け

    (イ)マレイシアは、近隣国として我が国と密接な歴史的関係を有するとともに、貿易、投資等の面で密接な相互依存関係を有するなど、我が国にとって政治・経済面において重要な存在であること、
    (ロ)また、調和のとれた安定した複合民族国家の構築のため人造りを重視しており、労働倫理、経営哲学を日本等に学ぶ「ルックイースト政策」を推進しており、我が国との関係が全般的に極めて良好であること、
    (ハ)更に、近年の急速な経済発展に伴い、環境、貧富の格差等様々な問題も顕在化してきていること、
    (ニ)最近マレイシアから、経済構造の一層の高度化のために、我が国からの技術移転を求める声が強まっていること、

    等を踏まえ、援助を実施する。
     なお、我が国は、98年2月20日閣議決定「東南アジア経済安定化等のための緊急対策」に基づき人材育成を支援するため、マレイシアの政府派遣留学事業を継続させるべく、緊急無償援助を実施している。また、4月24日の総合経済対策により、人材育成に対する円借款については年0.75%の特別金利の適用が可能となっている。なお、マレイシアは我が国の二国間援助実績(97年までの支出純額累計)で第13位の受け取り国となっている。

    (2)我が国の援助の重点分野

     我が国は、マレイシアにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び93年3月に派遣した経済協力総合調査団等におけるマレイシア側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。

    (イ)環境保全

     マレイシアの持続的な発展の実現のためには、環境と開発の両立が必要。開発にあたっては環境面に最大限の注意が払われるべきであり、我が国の協力は(a)森林等の自然資源の保全及び持続可能な利用、(b)都市環境の改善・整備、(c)産業公害対策といった点に留意する。

    (ロ)貧困撲滅と地域振興

     マレイシアでは急速な経済発展によりセクター間や地域間での所得格差が拡大した。絶対貧困層は劇的に減少したものの、相対的な貧困の問題が顕在化している。このため、(a)地方振興、(b)農業振興、(c)農村工業振興に最もプライオリティーを置く。

    (ハ)人材及び中小企業の育成

     マレイシアにおいては求人に対し労働者の供給が非常に不足している。今後のマレイシアの発展には、特に不足している熟練工・技術者の養成が不可欠である。また、現在の経済成長を支えている輸出産業と国内中小企業の連携を強化する必要がある。このためには国内の中小企業が、国際的に通用するレベルまで熟練し、国際競争力を備え、サポーティング・インダストリーとして育成されることが必要である。
     このため、我が国としては、(a)人材育成、(b)中小企業・サポーティング・インダストリーの育成を重点的に支援する。

    (3)留意点

    • マレイシアに対する有償資金協力は、近年の経済成長により中進国となり、円借款を卒業したことから、環境案件等急速な経済成長に伴って生じた歪みの是正に資する案件を対象に検討を行うこととしている。人材育成分野(留学生プログラム)への円借款については、最近の経済困難の影響を踏まえ、上述の特別金利による供与を検討している。
    • 所得水準が高いことから、無償資金協力については、文化無償及び草の根無償についてのみ実施している。
    • 97年12月ASEAN首脳会議で橋本総理が提唱した「日・ASEAN総合人材育成プログラム」の推進により、経済の持続可能な発展のために必要な人材の育成を支援する。

  2. マレイシア経済の現状と課題

    (1)要経済指標

    一人当たりGNP (96年)と同成長率
    (90-96年平均)
    実質GDP成長率
    4,370ドル、6.1%
    (世銀資料)
    93年8.3%、94年9.2%、95年9.6、96年8.6%、97年7.8%(見込値)
    (マレイシア大蔵省資料)

    (2)現状

     88年以降96年まで9年連続実質8%以上の成長を遂げ、経済は極めて順調に推移してきたが、97年以降のアジア地域の通貨・経済危機により経済困難に直面した。マレイシア政府は金融市場の安定と信用回復のために慎重なマクロ経済政策を実施するほか、政府支出の削減・大型インフラ計画の延期などを発表し、IMFなど国際的支援を仰がず独自で経済構造改革を推進しており、金融安定化に効果を発揮する一方、経済成長率の低下・雇用対策・社会的弱者対策などの課題も生じている。また、インドネシア情勢の影響で、不法入国者が急増し、社会問題となっている。

    (3)課題

    • 経済措置の強化と金融システムに対する信頼の醸成
    • 経済発展のボトルネックとなっている経済インフラの整備
    • 大気汚染や産業廃棄物等の公害対策や自然環境保全
    • 所得格差及び地域間格差の是正
    • 産業や経済の高度化に対応した技術者、熟練労働者の育成、雇用問題対策の強化
    • サポーティング・インダストリーの育成、輸出産業と国内産業の連携強化

  3. 開発計画

    国家開発計画(1991年~2000年)……長期政策

    • 二大目標として国家の統合及び貧困の撲滅・社会の再編成を掲げつつ、成長を阻害しないようなブミプトラ政策(マレイ系経済的地位向上政策)の柔軟な運用を行うこととしている。

    第7次マレイシア計画(1996年~2000年)……中期計画

    (目標)

    ①経済を投資牽引型から生産性牽引型に転換。②労働節約型・技術・資本集約型産業への転換。③物価と対外バランスを安定させる持続的成長の堅持。④産業間の連関の強化と資本財・中間財の国内生産化による輸入削減と輸出拡大。⑤競争力のある産業の育成。⑥サービス産業等の新しい成長産業の育成。⑦科学技術、研究開発の振興(特に情報技術)。⑧民営化の推進。⑨環境や国土保全にも配慮し持続的開発を目指す。⑩社会経済の安定、社会の再編成を図る。⑪社会のモラルや倫理の維持。

    (主要経済指標の目標値)

    • 実質GNP成長率(平均):8.0%
    • 経常収支:黒字に転換
    • 雇用:完全雇用

  4. 援助実績

    (1)我が国の実績(支出純額、単位:百万ドル)

    有償無償技協合計供与先順位
    97年(暦年)-323163-259175位
    97年(暦年)までの累計498728951,46413位

    (2)DAC諸国からの実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)

    二国間総額1位2位3位
    -455デンマーク 8ドイツ 8オーストラリア 6

    (3)国際機関のODA実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)

    国際機関総額1位2位3位
    8UNDP 4UNTA 1UNHCR 1
UNTA:United Nations Regular Programme of Technical Assistance(国連通常技術援助計画)

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