タイ(国別援助方針)
CEC:Commission of the European Communities(EC委員会)
- 基本方針
(1)我が国の援助対象国としての位置付け
(イ) 日本・タイ両国は外交関係を開設して以来、伝統的に政治、経済、文化等の各分野において友好関係を増進させてきており、貿易・投資等の面で密接な相互依存関係を有すること、 (ロ) また、順調に成長してきたタイ経済にあって、96年に始まる輸出不振、不良債権増大等を契機として97年7月バーツが下落し、97年8月にIMFと合意されたプログラムのもとマクロ経済の安定化に取り組んできている。しかし一方で、従来からの人材不足、インフラ不足等の構造的な問題に加え、失業者の増大、社会的弱者への悪影響等の問題の解決のための援助需要が高まってきていること、さらには、東南アジア諸国のマクロ経済安定化のためにはタイ経済の安定化が欠かせないこと、 等を踏まえ、援助を実施する。
なお、我が国は、98年2月20日の閣議決定「東南アジア経済安定化等のための緊急対策」に基づき、人材育成を支援するため、タイの政府派遣留学事業を継続させるべく緊急無償援助を実施している。
また、タイは我が国の二国間援助実績(97年までの支出純額累計)で第4位の受け取り国である。(2)我が国の援助の重点分野
我が国は、タイにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び96年1~2月に派遣した経済協力総合調査団等におけるタイ側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。
- (イ)社会セクター支援(教育、HIV/AIDS問題を中心として)
当国は急速な経済発展に伴う歪みの是正の観点から第8次5ヶ年計画において計画の重点を「経済発展」から「人間中心の開発」に移している。我が国は(a)タイが第8次5ヶ年計画で重視している「人間中心の開発」への協力を行い、(b)当国の社会セクターにおいて特に我が国の支援を必要としている、教育分野、HIV/AIDS分野を中心に社会セクター全般の支援を行う。また、(c)援助の際にはWID配慮やNGO支援に留意する。
(ロ)環境保全
我が国は、環境分野におけるノウハウを蓄積してきており、それらは当国に裨益しうるものである。このことから、(a)環境保全に関する技術的なノウ・ハウの移転を促進し、また(b)円借款、開発調査等による環境協力を実施する。
(ハ)地方・農村開発
当国は、バンコク一極集中の緩和及び地域間の経済格差是正に向けて、地方振興を図るべく地方への投資優遇措置の実施等に努力している。このため、我が国はタイの地方格差是正に資するよう、(a)企業の地方展開の拠点造りにつながる地方都市のインフラを整備し、(b)就業人口の50%を占める農業の振興を図り、あわせて農村地域の開発(特に東北タイ等の貧困農村地域開発)に積極的に協力する。
(ニ)経済基盤整備
当国が輸出指向型の高度な産業構造を形成し国際競争力を強化して今後継続的な経済発展を達成するため、我が国は(a)バンコク一極集中及び産業・経済の急速な発展に伴い不足している経済インフラ整備を支援するとともに、(b)急激な産業構造の高度化に対応しうる人材不足(特に技術系の人材不足は深刻)を解消するため、技術系の人材育成に資する職業訓練等への協力を行う。また、(c)産業構造の裾野を拡げるサポーティング・インダストリーの育成への支援を行う。
(ホ)地域協力支援
我が国は、日・タイ・パートナーシップ・プログラム等を通じ当国の南南協力を支援している。また、「インドシナ総合開発フォーラム」や「メコン河委員会」等の枠組みを通じた地域協力が具体化されつつある。今後とも地域協力の枠組みにおける相互協力を推進する。
(3)留意点
- タイの経済発展段階を踏まえ、93年度をもって殆どの一般無償資金協力の供与を終了した。(文化無償資金協力、草の根無償資金協力については継続している。)
- 但し、97年7月に発生した経済危機に対しての例外的措置として、一般無償資金協力(失業対策、教育機関への支援、貧困家庭・社会的弱者への支援)、ノンプロ無償、食糧増産援助などの更なる支援策を検討する。
- 円借款について、今般の通貨危機とそれに伴う構造調整政策実施等による影響を軽減するため、98年2月20日の閣議決定「東南アジア経済安定化等のための緊急対策」、4月の総合経済対策のアジア支援策の趣旨を踏まえた支援を行うことが重要。
- 97年12月ASEAN首脳会議で橋本総理が提唱した「日・ASEAN総合人材育成プログラム」の推進により、経済の持続可能な発展のために必要な人材の育成を支援する。
- タイ経済の現状と課題
(1)主要経済指標
一人当たりGNP (96年)と同成長率
(90-96年平均)実質GDP成長率 2,960ドル、6.7%
(世銀資料)92年8.1%、93年8.3%、94年8.7%、95年8.5%、96年6.4(見込値)、97年▲0.4%(推定値)
(タイ国家経済社会開発庁資料)(2)現状
80年代後半の高度経済成長に続き90年代に入ってからも順調な成長を示していたタイ経済は、96年に入り輸出の伸び悩みや経常収支赤字の拡大から、高度成長に陰りが見え、深刻な不動産不況を招き、金融機関の倒産・不良債権の拡大などが顕在化した。このような経済の悪化を背景に97年7月、為替制度の実質的変動相場制移行に伴い、バーツが大幅に下落し、経済危機が発生した。以降、IMFとの合意に基づく財政金融引き締めや金融セクター改革などの構造改革等からなる構造調整政策を実施する等、経済再建を進めてきた。98年5月現在では、為替相場の安定・経常収支の改善など危機的状況を脱しているが、一方では財貨の流動性不足が生じ、内需の落ち込みや輸出の伸び悩みを招いている。
(3)課題
- マクロ経済の安定、金融セクター改革、民営化の推進、流動性不足解消
- 産業や経済の高度化に対応した技術者、熟練労働者、行政官等の育成及び中小企業、サポーティング・インダストリーの育成
- 大気汚染防止及び水質保全をはじめとする公害対策や自然環境保全
- 経済発展の基盤となる経済インフラの整備
- 所得格差及び地域格差の是正
- 社会的弱者の救済、経済構造調整、人材育成、雇用対策
- 開発計画
第8次経済社会開発計画(1996年10月~2001年9月)
(目標)
- 国民の潜在能力の向上
- 安定的社会環境の発展及び家族・地域共同体の強化
- 国民経済の安定的かつバランスのとれた成長
- 天然資源と環境の利用と保全
- 行政機構の改革
(主要目標値)
1997 1998 1999 2000 2001(年)
- 経済成長率
-0.4 -3.5~-3.0 1.8 3.4 3.7(%)
- インフレ率
5.6 11.6 6.0 5.0 4.0(%)
- 貿易収支赤字の対GDP比0.5%(最終年度)
- 経常収支黒字の対GDP比0.4%(最終年度)
- 貧困者比率10%以下
- 熟練労働者の割合の50%まで引き上げ(最終年度)
- 森林保護区の対国土面積25%以上
- 援助実績
(1)我が国の実績(支出純額、単位:百万ドル)
有償 無償 技協 合計 供与先順位 97年(暦年) 340 2 127 468 4位 97年(暦年)までの累計 4,536 879 1,605 7,019 4位 (2)DAC諸国からの実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)
二国間総額 1位 2位 3位 803 日本 664 ドイツ 23 オーストラリア 21 (3)国際機関のODA実績(支出純額、96年(暦年)、単位:百万ドル)
国際機関総額 1位 2位 3位 35 CEC 23 UNHCR 6 UNDP 5
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