4. 中東・北アフリカ地域

中東・北アフリカ地域は、世界の石油埋蔵量、天然ガス埋蔵量とともに約5割を占めており、世界のエネルギーの一大供給地です。日本は原油輸入の約9割を中東・北アフリカ地域に依存している上、日本と欧州とを結ぶ貿易の中心となる航路は中東地域を経由しており、日本の経済とエネルギーの安全保障という意味からも極めて重要な地域となっています。

中東・北アフリカ地域は2011年から2012年にかけて、大きな政治的変動を経験しました。長期政権が崩壊した国では民主化プロセスが進められています。しかし、経済的・社会的な状況は依然として改善したとはいえず、改革はこれからが正念場です。そうした国の改革努力を、経済的支援を通じて後押しし、地域の安定に貢献していくことは、その国自身や周辺諸国だけでなく、世界全体の平和と安定にもつながります。また、これらの地域の中には未だに情勢が不安定な国もあります。シリアでは、2011年3月以降、2年以上経過した現在も弾圧と暴力が継続し、多数の難民や避難民が発生していることに加え、2013年8月にはシリアで化学兵器が使用され、多数の市民が死亡するなど、大きな人道問題となっています。日本は、これまで表明した約9,500万ドルの人道支援を実施したほか、約1.2億ドルのヨルダンに対する円借款を決定しました。さらに、2013年9月の国連総会において、新たに6,000万ドルの人道支援を実施することを表明しました。

また、人口に占める若者の割合が高く、高い経済成長を続ける国が多いことも中東・北アフリカ地域の特徴であり、そうした伸び盛りの国が今後も安定した成長を実現できるよう援助していくことも重要です。

< 日本の取組 >

中東・北アフリカ地域には、パレスチナ問題に加え、アフガニスタンやイラクなど、生活・社会基盤の荒廃や治安の問題を抱える国や地域が多く存在します。これらの国や地域の平和と安定は、地域全体、さらには国際社会全体の安定と繁栄にも大きな影響を及ぼしかねないことから、これらの国・地域に対しては、持続的な平和と安定の実現、国づくりや国家の再建のために国際社会が一致団結して支援していくことがとても重要です。以上のような中東・北アフリカ地域の位置付けからも日本として積極的に支援を行う大きな意義があります。

また、2010年12月以降、チュニジアを発端として中東・北アフリカ域内の各国・地域で市民による大規模デモが頻繁に起こりました。今後、民主化だけでなく、高い失業率、食料価格の上昇、貧富の差の拡大など、多くの経済的・社会的な課題を克服する必要があるため、域内各国はたいへん重要な時期を迎えています。この地域の平和と安定を保つ上でも、このような諸改革や体制の移行を安定的に実現させることが肝心であり、そのためにも国際社会による一層の支援が必要となっています。2011年5月に開催されたG8ドーヴィル・サミット(フランス)においても、出席した各国首脳は、この地域で起こっている変革の動きを「アラブの春」と呼んだ上で、この歴史的な変革を歓迎し、G8としてその努力を支援していくことを互いに確認しました。

2013年5月、最大規模のシリア難民を受け入れているザアタリ難民キャンプの子どもたちのための施設を訪れた鈴木俊一前外務副大臣

2013年5月、最大規模のシリア難民を受け入れているザアタリ難民キャンプの子どもたちのための施設を訪れた鈴木俊一前外務副大臣

中東・北アフリカ地域には、所得水準が高い産油国から、所得の低い後発開発途上国、あるいは紛争後の復興期にある国まで、その経済状況は様々です。日本としては、アフガニスタンやイラクにおける平和と安定の実現、中東和平の実現は、国際社会全体の平和と安全にかかわる問題であり、また、ODA大綱の基本方針である「人間の安全保障」および「平和の構築」の実現という点からも意義が大きいと考え、国際社会と連携しつつ、積極的に支援しています。また、産油国においては、順調な経済発展を続けながら、産業の多角化を推進することで、石油に依存する経済から脱して、安定した経済基盤が構築できるように協力します。

また、石油等の天然資源がない低中所得諸国に対しては、貧困の削減に取り組むとともに、持続的な経済成長のための支援を引き続き実施していきます。特にG8ドーヴィル・サミット以降のハイレベル会合において、日本も、この地域で起こっている変革の動きに対して国際社会と連携して対応し、アジアの成長と安定に貢献してきた経験等を活かし、政府や民間企業が連携して、以下のような取組によって、この地域の安定的な体制移行および国内諸改革に向けた各国の自助努力を積極的に支援していくことを表明しました。

すなわち日本としては、(1)公正な政治・行政の運営、(2)人づくり、(3)雇用促進・産業育成を中心に支援していくとともに、(4)経済関係の強化と、(5)相互理解の促進にも取り組んでいくこととしています。これを受け、日本は2011年9月に10億ドルの円借款による支援を表明し、既に14億ドルの新規インフラ整備支援を決定または表明済みです。さらに、2013年5月、サウジアラビアを訪問した安倍総理大臣は、中東・北アフリカ諸国に対する地域安定化支援および民主化支援として、今後総額22億ドル規模の支援を行うことを表明しました。日本は、国ごとに支援の分野や対象の重点を適切に配慮し、中東・北アフリカ地域の経済的・社会的安定と中東和平達成に向けた環境づくりのための支援を積極的に行っています。
重視していく点は、次のとおりです。

(1)平和の構築支援(イラク、アフガニスタン、パレスチナ)

(2)中東和平プロセス支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援など)

(3)公正な政治・行政運営のための支援(エジプト、チュニジアに対する選挙支援、格差是正と安定化支援(農村開発、貧困削減、水資源、防災、テロ・治安対策等)を含む)

(4)人づくりや雇用促進・産業育成に役立つ経済社会インフラ整備支援

●ヨルダン

「シリア難民・ホストコミュニティ支援プログラム」
青年海外協力隊

現在、ヨルダンには、隣国シリアの情勢不安を受け、約53万人に上るシリア難民が流入していますUNHCR、2013年9月末時点)

日本は、シリア難民・ホストコミュニティ支援として、ザアタリ難民キャンプ、難民受入れ地域(ホストコミュニティ)を対象に、シリア難民とヨルダン国民の双方にとって助けとなり、役に立つことを目指し、様々な支援を行っています。

たとえば、難民キャンプ内での緊急支援物資配布、ホストコミュニティの学校や病院への機材供与および青年海外協力隊員(以下、隊員)の派遣など、草の根レベルでの支援を行っています。派遣中の隊員7名(2013年9月末時点)は、保健師や理学療法士、幼児教育といった専門性を活かし、難民キャンプ内とホストコミュニティに分かれて活動しています。

児童施設では、活動中の隊員が簡単な文字や数字を教えたり、体操などの指導を通じて、子どもたちの心身のケアに努めています。シリア国内の激しい内戦の中で心に傷を負った者もおり、隊員の活動は大きな支えになっています。また、障害者施設の難民には銃撃や爆発に巻き込まれて負傷したあと、十分な治療を受けられずに後遺症に悩まされている人も数多くおり、理学療法士の隊員たちのケア活動は大いに役立っています。

ホストコミュニティで活動中の隊員(幼児教育)とシリア難民の子どもたち(写真:JICA)

ホストコミュニティで活動中の隊員(幼児教育)とシリア難民の子どもたち(写真:JICA)

中東・北アフリカ地域における日本の国際協力の方針
図表 II-11 中東・北アフリカ地域における日本の援助実績

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