2. 南アジア地域
南アジア地域には、世界最大の民主主義国家であるインドをはじめとして、大きな経済的潜在力を有する国があり、国際社会における存在感を強めています。地理的には、東アジア地域と中東地域を結ぶ海上の交通路に位置し、日本にとって戦略的に重要であるほか、地球環境問題への対応という観点からも重要な地域です。また、テロおよび過激主義に対する国際的取組における役割といった観点からも、日本を含む国際社会にとって関心の高い地域です。
一方、南アジア地域には、道路、鉄道、港湾など基礎インフラの欠如や人口の増大、初等教育を受けていない児童の割合の高さ、水・衛生施設や保健・医療制度の未整備、不十分な母子保健、感染症、そして法の支配の未確立など取り組むべき課題が依然多く残されています。特に貧困の削減は大きな問題であり、この地域に住んでいる16億人に近い人口のうち約5億人が貧困層ともいわれ、世界でも貧しい地域の一つです。ミレニアム開発目標（MDGs）達成を目指す上でもアフリカに次いで重要な地域となっています（注4）。
日本は、南アジア地域の有する経済的な潜在力を活かすとともに、拡大しつつある貧富の格差をやわらげるため、経済社会インフラ整備の支援を重点的に行っています。
＜ 日本の取組 ＞
南アジア地域の中心的存在であるインドとは、「戦略的グローバル・パートナーシップ」に基づいて、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想（DMIC）の中核となる貨物専用鉄道（DFC）建設計画などの経済協力をはじめ、政治・安全保障、経済、学術交流など幅広い分野で協力を進めています。インドは日本の円借款の最大の受取国であり、日本はインドにおいて電力や運輸などの経済インフラの整備とともに、農村環境の整備など貧困削減に向けて社会分野での開発も進めています。
スリランカでは、2009年5月に約26年にわたる政府軍とタミル・イーラム解放の虎（LTTE）との戦闘が終結しました。日本は、スリランカの平和が長く根付くよう、また経済社会開発を支援するため、地域・民族のバランスに配慮しながら、国民和解の進展ぶりも踏まえて、支援を実施しています。
視覚障害を持った女子生徒たちが音声機能ソフトを用い、実際にパソコン利用学習をしているところを視察する日本大使館担当者（写真：在バングラデシュ日本大使館）
インドのハイデラバード外環道路（写真：船尾修/JICA）
パキスタンは、テロ撲滅に向けた国際社会の取組において重要な役割を担っています。日本は、パキスタンの社会・経済基盤の強化を通じ、その安定的発展を支援しています。2009年4月に、世界銀行と共に東京で開催したパキスタン支援国会合の際に表明した2年間で最大10億ドルの支援、2010年の洪水被害に対して実施した国際緊急援助隊の派遣や総額5.68億ドルの支援等はその取組の一環です。また、2011年2月のザルダリ大統領の訪日に際して署名した、包括的パートナーシップに関する共同声明（注5）の中で、互恵的な経済・貿易活動を強化していくこと、電力・水・インフラ開発といった面でのパキスタンの取組や、人間の安全保障を確保するための取組などを日本が引き続き支援していくことに合意しました。
注4 ： 2013年のMDGsレポートによれば、1日約1.25ドル未満で生活する人の割合は30％（2010年）で、これはサブサハラ・アフリカに次いで高い数字である
注5 ： 「日パキスタン包括的パートナーシップに関する共同声明」
●インド
「デリー上水道改善計画」
有償資金協力（2012年11月～実施中）
人口1,675万人を超えるインドの首都デリーでは、上水道施設の老朽化や不十分な維持管理により、1日平均3時間の制限給水を余儀なくされており、経済発展に伴う急激な人口増加により水不足は今後さらに深刻化することが懸念されています。
このような状況の下、日本は2009年から2011年にかけて、2021年までにデリーでの24時間連続・均等給水の実現を目指すマスタープラン策定を支援しました。2012年から支援を開始しているデリー上水道改善事業では、このマスタープランの中でも優先度の高い地域を対象に、有償資金協力（約290億円）による上水道施設（浄水場、送水管など）の増築・改善を行っています。
また、本事業に関係するソフト面の支援として、地理情報システムを活用した上水道施設のデータ管理や、上水道施設の運営・維持管理体制の強化についても、日本の地方自治体の経験を活かしながら行っています。これにより、経済発展に伴い、デリーに進出している多くの日系企業（2012年10月時点で167社）も恩恵を受けることが期待されます。（2013年8月時点）
水不足により給水タンクに集まるデリー市民（写真：JICA）
●パキスタン
「ファイサラバード上水道拡充計画」
無償資金協力（2010年9月～2012年12月）
パキスタンの都市部では、人口流入や人口増加に対して上下水道施設整備が追いついていません。パキスタン第3の都市であるパンジャブ州ファイサラバード市においても同様の状況であり、上水道普及率は50％と上水サービスの普及が遅れています。市民の中にはこのような慢性的な水不足を補うために自家用井戸を使用している人もいますが、適切な維持管理がなされていないため、肝炎、下痢およびチフス等、水に起因した疾患にかかる人が多くなっています。
そこで日本は、同市の給水状況と衛生環境を改善するため、無償資金協力（7億9,900万円）により、深い井戸の掘削および水を汲み上げるポンプ室の整備を支援しました。今回の協力により、ファイサラバード市内の上水供給量は、１日当たり91,000㎥増える見込みです。これは従来の供給量が1.3倍に増加するとともに、住民に対する給水率が65％に増加することを意味しています。
また、安全な水の供給拡大に伴い、水に起因する伝染病に対するリスクが軽減され、市民の衛生環境が改善することも期待されています。
無償資金協力によって整備された給水ポンプ（写真：JICA）
