東アジア地域には、韓国やシンガポールのように高い経済成長を遂げ、既に開発途上国から援助供与国へ移行した国、カンボジアやラオスなどの後発開発途上国(LDCs)、中国のように著しい経済成長を成し遂げつつも国内に格差を抱えている国、そしてベトナムのように中央計画経済体制から市場経済体制への移行の途上にある国など様々な国が存在します。日本は、これらの国々と政治・経済・文化のあらゆる面において密接な関係にあり、この地域の安定と発展は、日本の安全と繁栄にも大きな影響を及ぼします。こうした考え方に立って、日本は、東アジア諸国の多様な経済社会の状況や、必要とされる開発協力の内容が変化していくことに対応しながら、開発協力活動を行っています。
< 日本の取組 >
日本は、インフラ(経済社会基盤)整備、制度や人づくりへの支援、貿易の振興や民間投資の活性化など、ODAと貿易・投資を連携させた開発協力を進めることで、この地域の目覚ましい経済成長に貢献してきました。現在は、基本的な価値を共有しながら開かれた域内の協力・統合をより深めていくこと、相互理解を推進し地域の安定を確かなものとして維持していくことを目標としています。そのために、これまでのインフラ整備と並行して、自然災害、環境・気候変動、感染症、テロ・海賊などの国境を越える問題に積極的に対応するとともに、大規模な青少年交流、文化交流、日本語普及事業などを通じた相互理解の促進に努めています。
東アジア地域は、2008年に始まった世界金融・経済危機の影響をおおむね克服しましたが、日本とアジア地域諸国がより一層経済的繁栄を遂げていくためには、アジアを「開かれた成長センター」とすることが重要です。そのため、日本は、この地域の成長力を強化し、それぞれの国内需要を拡大するための支援を行っています。
具体的な対策として2009年4月に最大2兆円規模のODA支援を表明(注1)したことも踏まえ、アジア諸国に対し、インフラ整備の支援、社会的弱者を対象にした支援、低炭素社会の構築のための支援、人材育成などを着実に実施しています。また、食料安全保障面では、ASEAN(アセアン)+3の枠組みで、大規模災害等の緊急時に備えるための取組として、2012年7月にASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)協定が発効しました。本枠組みを通じて、同年12月に発生したフィリピンにおける台風被害を受けた被災者に対し、日本からの拠出金を活用して緊急支援を実施するなど、東南アジア地域の連携を強化しています。
●東南アジアへの支援
東南アジア諸国連合(ASEAN(アセアン))諸国(注2)は2015年の共同体構築を最大の目標としており、日本はこの目標達成のため、ASEAN域内の連結性を強め、格差を是正するための支援を実施しています。特に、ASEAN諸国の中でも低所得国が多いメコン諸国(注3)を支援することは、域内の格差を是正する点からも重要です。
2009年11月には、初めての日本・メコン地域諸国首脳会議が開催され、参加国の間で(1)総合的なメコン地域の発展、(2)環境・気候変動(「緑あふれるメコン(グリーン・メコン)に向けた10年」イニシアティブ(構想)の開始)および脆弱(ぜいじゃく)性を克服するための対応、(3)協力・交流の拡大の3本柱での取組を強化し、「共通の繁栄する未来のためのパートナーシップ」を確立するとの認識が共有されました。この取組を進めるため、メコン地域の中でもカンボジア、ラオス、ベトナムに対するODAを拡充し、地域全体で、3年間で合計5,000億円以上のODAによる支援を表明しました。
こうした支援の着実な実施を受けて、2012年4月に開催された第4回日本・メコン首脳会議では、(1)メコン連結性を強化する、(2)共に発展する、(3)人間の安全保障および環境の持続可能性を維持するといった3本を柱とした、2015年までの新たな協力方針である「日メコン協力のための東京戦略2012」を新たに採択しました。また、その着実な実現のため、日本として2013年度以降3年間で約6,000億円のODAによる支援を行うことを表明しました。さらに、2012年7月にカンボジアの首都プノンペンで開催された第5回日メコン外相会議では、「東京戦略2012」の実現のために、具体的な行動および措置を定めた「日メコン行動計画」を採択しています。
メコン地域の中でも特に民主化を進めるミャンマーに対して、2012年4月、日本は経済協力の方針を見直し、急速に進むミャンマーの改革努力を後押しするため幅広い支援を実施していくこととしました。具体的には、約5,000億円に上る延滞債務の解消や円借款の再開、2013年度末までの実施をコミットした新規円借款を含む総計910億円の支援など、日本はミャンマーに対して様々な支援を積極的に行っています。
日本はこのような取組を進めるとともに、貧困の削減を図り、ASEAN域内の格差を是正することにより、域内統合を支援しています。また、ASEANは、2010年10月のASEAN首脳会議において、ASEAN域内におけるインフラ、制度、人の交流の3つの分野での連結性強化を目指した「ASEAN連結性マスタープラン」*を採択しました。日本はこのマスタープランの具体化に向けてODAの活用や官民連携を通じて積極的に支援を行っています。
ベトナムのニャッタン橋建設工事を視察する松山政司前外務副大臣
2011年11月の日・ASEAN首脳会議において、連結性強化のため日本が取り組む主要案件リストを公表し、資金手当として、ODAや国際協力銀行(JBIC)の公的資金を活用しつつ、民間資金を動員する仕組みを考えていくことを発表しました。2013年は日・ASEAN友好協力40周年の年であり、12月には東京で日・ASEAN特別首脳会議が開催されました。同首脳会議では日・ASEAN関係の強化に向けた中長期的ビジョンが発出され、ASEAN連結性強化に向けた日・ASEAN協力も一層促進することが期待されます。さらに、フィリピン・ミンダナオの元紛争地域への集中的な支援や東ティモールの国づくり支援など、平和構築のための取組も行っています。
防災面では、二国間での協力を行うとともに、ASEANに対し、日本が2011年7月に提唱した「ASEAN防災ネットワーク構築構想」に基づく支援を行っています。ASEANの災害対応・防災機関であるAHA(アハ)センター(ASEAN防災人道支援調整センター)を中心に能力の向上支援を実施しています。
日本は、アジア地域において様々な地域協力に取り組んでいるアジア開発銀行(ADB)との連携を強化しています。たとえば、ADBと共に、5年間で最大2,500万ドル規模の資金を用いて、アジアにおける貿易円滑化のための支援を実施します。また、東アジア地域の国際的な研究機関である東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)とも、「アジア総合開発計画」や「ASEAN連結性マスタープラン」の具体化に向けた協力など、連携を強化しています。
また、特に金融面では、急激に資本が海外に流出して、外貨での支払いに支障が出るような危機的な状況が生じた国に対し、短期の外貨資金を供給することで、通貨危機が他の近隣国に波及して大きくなるのを防ぐことを目的に、チェンマイ・イニシアティブ(CMI)*の取組をASEAN+3(日本・中国・韓国)の枠組みにおいて主導してきています。2010年3月には、二国の関係当局間の契約のネットワークであった従来のCMIの仕組みが一本の多国間契約の仕組み(チェンマイ・イニシアティブ・マルチ契約(CMIM契約))に移行しました。これによりASEAN+3地域の国々の国際収支や短期資金の流動性の困難へのより素早い対応が可能となり、世界経済の増大するリスク(危険性)や課題に対処する能力が強化されました。さらに、2012年5月のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議において、CMIMの資金規模を現行の1,200億ドルから2,400億ドルへの倍増や、危機予防機能の導入といったCMIMの抜本的な強化や、域内経済の監視・分析機関であるASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)*の国際機関化に向けた準備の加速化について合意されました。2013年5月のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議において、AMROの国際機関化のための協定案の案文について基本的な合意に至りました。これらの取組が、地域および世界の金融・経済の安定に一層寄与していくことが期待されます。また、日本は、CMIMと共にASEAN+3の債券市場を育成する取組(アジア債券市場イニシアティブ(ABMI))を中心になって進めてきました。特に、ASEAN+3の企業が現地通貨建てで発行する債券を保証するため、「信用保証・投資ファシリティ(CGIF)」を当初7億ドルの資本規模でADBの信託基金として設立することが合意され、2013年4月、初めてCGIFが保証を行う債券の発行が実現しました。CGIFが地域における現地通貨建て債券取引の拡大に貢献し、地域経済の成長に寄与していくことが期待されます。
用語解説
注1 : 「アジア経済倍増へ向けた成長構想」
注2 : ASEAN諸国:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム
注3 : メコン諸国:カンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス
●インドネシア
「ジャカルタ首都圏投資促進特別地域(MPA)マスタープラン調査」
協力準備調査(2011年5月~2012年5月)
2010年12月、日本とインドネシアは、ジャカルタ首都圏※1の投資環境を改善し、インドネシアがさらに経済成長を遂げるために「ジャカルタ首都圏投資促進地域(MPA※2)構想」を進めていくことで合意しました。インドネシア経済にとって、ジャカルタ首都圏は、全人口の10%以上が居住する重要な地域であり、ジャカルタ首都圏からの輸出はインドネシアからの輸出の60%を占めています。2012年10月には、日本の支援で作成された基本計画(MPA戦略プラン)が、両国の閣僚により開催されたMPA運営委員会で承認され、(1)2020年時点のジャカルタ首都圏の「都市ビジョン」、(2)45の優先事業を含む2020年時点までのジャカルタ首都圏のインフラ整備計画、(3)(2)の優先事業のうち、2013年末までに着工することが期待される18の早期実施事業に、両国が協力して取り組むことが合意されました。
これらの早期実施事業には、インドネシアで初の地下鉄となるジャカルタ都市高速鉄道(MRT)南北線、ジャワ島とスマトラ島を大規模送電線で結び、首都圏に電力を供給するジャワ・スマトラ連系送電線、ジャカルタの洪水対策のためのプルイット排水機場の整備など、日本のODAで支援している事業が多く含まれています。
この案件は、日本・インドネシア間の経済面での互恵関係の象徴ともいうべきものであり、この大きな成果が、両国の官民の連携の下、具体的なプロジェクトとして両国の利益につながることと期待されています。
※1 ジャカルタ首都圏は、ジャカルタ(Jakarta)、ボゴール(Bogor)、デポック(Depok)、タンゲラン(Tangerang)およびブカシ(Bekasi)を含む。
※2 MPA:Metropolitan Priority Areas for Investment and Industry
鉄道駅開発のイメージ図(写真:JICA)
●タイ
「要援護高齢者等のための介護サービス開発プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2013年1月~実施中)
タイでは、医療水準の向上や出生率の減少により、高齢化が急速に進んでいます。全人口に占める65歳以上の人口は約8.9%と、既に「高齢化社会」(全人口に対する65歳以上の人口が7%以上)に突入しています。また、「高齢化社会」から「高齢社会」(全人口に対する65歳以上の人口が14%以上)への移行に要する期間は23年間と推計されており、日本の24年間をしのぐスピードです。
また、若い世代の都市部への出稼ぎ、核家族化等の社会構造の変化に伴い、高齢者世帯が増加し、家族による介護能力が低下しているほか、今後、要介護高齢者のさらなる増加も見込まれています。これまでの家族やボランティアによる介護に依存するばかりでなく、制度として整った公的サービスとしての介護能力が求められつつあります。そこで日本は、「要援護高齢者等のための介護サービス開発プロジェクト」を通じ、財政的にも技術的にも持続可能な介護サービスのモデルを提案すべく、支援を行っています。
プロジェクトでは、全国6サイト(地域)におけるモデル介護サービスの開発と実施、介護人材の養成プログラムの開発のための活動を行っており、その一環としてタイの介護政策関係者や介護人材を日本に招いた「高齢者福祉行政」や「介護技術」の研修も実施しています。2013年秋には全国6サイトでそれぞれの地域に合ったモデル介護サービスを実施する予定です。
これらのモデルサービスの実施・評価や人材育成事業を通じて、将来的にタイ政府が実施すべき介護サービス・制度に関する政策提言を行い、さらに、タイの経験をASEAN諸国向けに共有するために、国際セミナーの開催なども行っていく予定です。(2013年8月時点)
スラタニ県にて高齢者ケアプランを作成する短期専門家(写真:磯部陽子)
●中国との関係
1979年以降、中国に対するODAは、中国の改革・開放政策の維持・促進に貢献すると同時に、日中関係の主要な柱の一つとしてこれを下支えする強固な基盤を形成してきました。経済インフラ整備支援等を通じて中国経済が安定的に発展してきたことは、アジア太平洋地域の安定にも貢献し、ひいては日本企業の中国における投資環境の改善や日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与しました。2008年5月の日中首脳会談において、胡錦濤(こきんとう)中国国家主席(当時)が心からの感謝を表明するなど、中国側も様々な機会に日本の対中国ODAに対して高い評価と感謝の意を表明してきました。
一方、中国は経済的に発展し、技術的な水準も向上しており、また、中国自身の資金調達能力と民間資金の流入が大幅に増大するなど、ODAによる中国への支援は既に一定の役割を果たしました。対中国ODAの大部分を占めてきた円借款については、中国の経済・社会発展を象徴する2008年の北京オリンピック前までにその新規供与を円満に終了することについて日中間で共通認識に達し、2007年12月1日に交換公文に署名した2007年度案件が最後の新規供与となりました。
対中国ODAが既に一定の役割を果たしたことを踏まえ、現在では、両国が直面する共通の課題であって、日本国民の生命や安全に直接影響するもの(たとえば、日本への越境公害、黄砂、感染症、食品の安全など)といった、限定され、かつ日本のためにもなる分野に絞り込んでODAを実施しています。