(3)パレスチナ

パレスチナ問題は半世紀以上も続くアラブとイスラエル紛争の核心であり、中東和平の問題は日本を含む世界の安定と繁栄にも大きな影響を及ぼすものです。日本は、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決を支持し、これを推し進めていくためには、一方の当事者であるパレスチナの社会経済の開発を通じて、国づくりに向けた準備を行っていくことが不可欠と考えます。1993年のオスロ合意によるパレスチナ暫定自治の開始以降、日本をはじめとする国際社会は積極的にパレスチナに対する支援を展開してきています。

パレスチナ自治区の人々は、イスラエルによる占領に大きな不満と反発を抱きつつも、経済面では、長年にわたる占領のために、イスラエル経済と国際社会からの支援に大きく依存せざるを得なくなっています。こうした状況が、中東和平の問題解決を一層難しくしています。また、イスラエルの占領政策や停滞する経済により広がる地域格差や高い失業率も、地域の情勢を不安定にする要素となっています。今後、パレスチナが真の和平に向けてイスラエルと交渉できるような環境を整備するためには、こうした人々の生活状況を改善しつつ、同時にパレスチナ経済を自立させることが最も重要な課題になっています。

パレスチナのジェリコ農産加工団地(JAIP)を視察する岸田文雄外務大臣

パレスチナのジェリコ農産加工団地(JAIP)を視察する岸田文雄外務大臣

< 日本の取組 >

日本は、ODA大綱の重点課題である「平和の構築」の観点も踏まえつつ、パレスチナに対する支援を中東和平における貢献策の重要な柱の一つと位置付け、特に1993年のオスロ合意以降、米国、EU(欧州連合)などに次ぐ主要ドナーとして、パレスチナに対して総額約13.5億ドルの支援を実施しています。具体的には、日本は、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区の社会的弱者やガザ地区の紛争被災民等に対して、その悲惨な生活状況を改善するために国際機関やNGO等を通じた様々な人道支援を行うとともに、民政の安定・向上、行財政能力の強化、持続的経済成長への促進のためにパレスチナ自治政府を積極的に支援し、将来のパレスチナ国家建設に向けた準備とパレスチナ経済の自立化を目指した取組も行っています。

パレスチナ自治区の地図

また、2006年7月以降は、将来のイスラエルとパレスチナが平和的に共存し、共に栄えていくための日本独自の中長期的な取組として、日本、イスラエル、パレスチナおよびヨルダンの4者による域内協力により、ヨルダン渓谷の社会経済開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想を提唱し、現在その具体化に向けて、ジェリコ市郊外の農産加工団地建設に取り組んでいるところです。同農産加工団地は、ヨルダン川西岸地域で作られた農産物を加工し、パレスチナ内外に流通させることを目的としており、将来的には約7,000人の雇用を創出することが見込まれています。

パレスチナ難民生計向上のための能力開発プロジェクトにおいて洗剤作りの職業訓練を受け、洗剤販売のビジネスを営んでいるスーフパレスチナ難民キャンプの女性(写真:久保田弘信)

パレスチナ難民生計向上のための能力開発プロジェクトにおいて洗剤作りの職業訓練を受け、洗剤販売のビジネスを営んでいるスーフパレスチナ難民キャンプの女性(写真:久保田弘信)

●パレスチナ自治区

ジェリコ農産加工団地(JAIP)

日本は、2006年から、イスラエルとパレスチナの共存共栄に向け、日本とパレスチナ、イスラエルおよびヨルダンの4者による域内協力でヨルダン渓谷の経済社会開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想を打ち出し、その中核事業である「ジェリコ農産加工団地(以下JAIP(ジャイプ))」の建設・運営に協力しています。

ヨルダン渓谷では、農業が主要な産業でしたが、イスラエルの占領政策の影響で自治区内の物流が制限され、新鮮な農産物を地域内外の市場に出荷できなくなってしまいました。貧困層の農民は収入を失い、苦しい生活を強いられています。JAIP事業は、こうした問題を解決するため、ジェリコ市に、周辺地域で生産された農産物を日持ちのする製品に加工する産業団地を建設するものです。

日本は、JAIPの道路、太陽光発電施設、上下水道、管理棟など各種周辺インフラを整備しました。JAIP整備の一環としてジェリコ市で初めての下水処理施設も建設しました。これは、地下水を共有する隣国イスラエルも恩恵を受けることから、双方の信頼関係を育むことにも貢献しています。また、技術協力を通じ、JAIPの持続的な運営に必要な人材育成も支援しています。こうした日本の取組はパレスチナの民間企業に高く評価され、これまでに2社が入居の正式契約、その他32社の企業が入居に関心を示しています(2014年1月時点)。ここで生産された製品は、自治区だけでなく、隣国ヨルダンを通じて湾岸諸国にも輸出される可能性があり、JAIPは、7,000人の雇用を生み、被雇用者の家族を含めて2万人から3万人が恩恵を受けると見込まれています。

JAIP事業は、パレスチナの民間セクターの振興を通じてパレスチナ経済の自立化を促すと同時に、近隣諸国との信頼関係が良い方向に向かい、今後の和平プロセスにも好影響を与えると期待されています。

現地作業員を指導する日本のサブコントラクターの現場責任者(写真:久野真一/JICA)

現地作業員を指導する日本のサブコントラクターの現場責任者(写真:久野真一/JICA)


<< 前頁   次頁 >>