世界各国で頻繁に発生している地震や津波、台風、洪水、土石流などによる災害は、単に多くの人命や財産を奪うばかりではありません。災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国では、貧困層が大きな被害を受け、災害難民となることが多く、さらに衛生状態の悪化や食料不足といった二次的被害の長期化が大きな問題となるなど、災害が途上国の経済や社会の仕組み全体に深刻な影響を与えています。
こうしたことから、開発のあらゆる分野のあらゆる段階において、様々な規模の災害を想定したリスク削減策を盛り込むことによって、災害に強い、しなやかな社会を構築し、災害から人々の生命を守るとともに、持続可能な開発を目指す取組である「防災の主流化」を進める必要があります。
< 日本の取組 >
日本は、地震や台風など過去の自然災害の経験で培われた自らの優れた知識や技術を活用し、緊急援助と並んで災害予防および災害復旧分野において積極的な支援を行っています。2005年には、神戸で開催された第2回国連防災世界会議において、国際社会における防災活動の基本的な指針となる「兵庫行動枠組2005-2015」が採択され、持続可能な開発の取組に防災の観点を効果的に取り入れることの重要性が確認されました。日本は国連などと協力してその世界的な実施を推進しています。
また、この会議において、日本はODAによる防災協力の基本方針などを「防災協力イニシアティブ」として発表しました。そこで日本は、制度の構築、人づくり、経済社会基盤の整備などを通じて、開発途上国における「災害に強い社会づくり」を自らの努力で成し遂げることができるよう積極的に支援していくことを表明しました。
2012年の7月3、4日、東日本大震災の被災地である東北3県で「世界防災閣僚会議in東北」を開催し、防災の主流化・強靱(きょうじん)な社会の構築の必要性、人間の安全保障の重要性、ハード・ソフトを組み合わせた防災力最大化の必要性、幅広い関係者の垣根を越えた連携の必要性、気候変動・都市化などの新たな災害リスクへの対処の重要性などを確認し、これらを総合的に推進していく「21世紀型の防災」の必要性を世界に向けて発信しました。また、「21世紀型の防災」を実際に推進していくために、ポスト2015年開発アジェンダにおける防災の位置付け、および、本会議の成果を踏まえたポスト兵庫行動枠組の策定の必要性を各国と確認しました。また、2013年〜2015年の3年間で防災分野に30億ドルの資金提供を行うことを表明しました。
2015年3月には、仙台市で第3回国連防災世界会議が開催される予定です。同会議においては、兵庫行動枠組2005-2015の後継枠組みが策定される予定であり、その議論を通じて、防災の主流化に貢献していく考えです。
ブラジル・サンパウロ州で、河川改修、総延長約50Kmと流量調節ダムの建設が行われ、洪水の減少、上水、灌漑用水、産業用水の安定供給が可能になった(写真:久野真一/JICA)
●国際緊急援助隊
日本は、海外で大規模な災害が発生した場合、被災国の政府、または国際機関の要請に応じ、直ちに緊急援助を行える体制を整えています。人的援助としては、国際緊急援助隊の(1)救助チーム(被災者の捜索・救助活動を行う)、(2)医療チーム(医療活動を行う)、(3)専門家チーム(災害の応急対策と復旧活動について専門的な助言・指導などを行う)、(4)自衛隊部隊(大規模な災害が発生し、特に必要があると認められる場合に派遣される)の4つがあります。
2013年11月、フィリピンにおける台風(ヨランダ)被害で、被災地において診療活動を行う国際緊急援助隊・医療チーム(写真:JICA)
また、物的援助としては、緊急援助物資の供与があります。日本は海外6か所の倉庫に、被災者の当面の生活に必要なテント、発電機、毛布などを常に備蓄しており、災害が発生したときにはすぐに被災国に物資を供与できる体制にあります。
さらに、日本は、海外における自然災害や紛争の被災者や避難民を救援することを目的として、被災国の政府や被災地で緊急援助を行う国際機関・赤十字に対し、援助活動のための緊急無償資金協力を行っています。
2012年度においては、フィリピン、ナイジェリア、フィジーなど16か国に対して計17件の緊急援助物資の供与を行いました。
また緊急無償資金協力については、2012年度に災害緊急援助として、パキスタン、フィリピン、ハイチ等における自然災害の被災者や、シリア難民・国内避難民への支援を目的として、計10か国に対し約35億円を供与しました。たとえば、パキスタンにおける洪水被害に対しては、国際機関を通じ470万ドルを拠出し、食料や救援物資、水・衛生分野の支援を実施しました。
2013年11月にフィリピン中部で発生した台風被害に対し、約6,000万円相当の緊急援助物資(プラスチックシート等)、3,000万ドル(約30億円)の緊急無償資金協力等の支援を実施しました。加えて、国際緊急援助隊医療チーム、同自衛隊部隊、同専門家チーム(早期復旧専門家、油防除専門家)を派遣しました。
また、今回の自衛隊部隊は、約1,200人から成る過去最大規模の派遣であり、医療・防疫活動、被災民や救援物資の輸送等を実施しました。(2013年12月4日時点)
フィリピンの被災地にて、救援活動に参加した自衛官と現地の子どもたちの交流
●国際機関等との連携
日本は、2006年に設立された「世界銀行防災グローバル・ファシリティ」(注12)への協力を行っています。このファシリティ(基金)は、災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な低・中所得国を対象に、災害予防の計画策定のための能力向上および災害復興の支援を目的としています。
防災の重要性への認識の高まりを背景に、2006年の国連総会においては、各国と世界銀行など防災にかかわる国連機関が一堂に会しました。この総会で、防災への取組を議論する場として、「防災グローバル・プラットフォーム」の設置が決定され、2007年6月に第1回会合が開催されました。日本は、この組織の事務局である国連国際防災戦略(UNISDR)事務局の活動を積極的に支援しています。2007年10月には、UNISDRの兵庫事務所が設置されました。
2013年5月には、スイスのジュネーブにて防災グローバル・プラットフォームの第4回会合が開催され、172か国から政府関係者、民間団体・NGO等から3,500名以上が参加しました。日本は第3回国連防災世界会議を日本の仙台市で開催することを表明しました。
神戸での第2回国連防災世界会議から8年が経過していることから、日本は、防災グローバル・プラットフォーム会合の場も活用しながら、国際社会における防災活動の基本的な指針となる兵庫行動枠組のフォローアップに積極的に取り組んでいます。
また、ASEAN(アセアン)防災人道支援調整センター(AHA(アハ)センター)に対して、通信設備の支援や人材の派遣等を行うとともに、緊急備蓄物資の提供と物資の管理・輸送体制の構築支援を行っています。
注12 : 世界銀行防災グローバル・ファシリティ Global Facility for Disaster Reduction and Recovery
●ブータン
「サイクロン災害復興支援計画」
無償資金協力(2011年8月~2013年3月)
ブータンは国土の大部分が険しい山岳地帯で、鉄道・航空網が発達していないため、移動・運搬は道路網に大きく依存しています。2009年5月末にサイクロン「アイラ」が南アジアを襲い、ブータン各地の道路・橋梁(きょうりょう)が破壊され、市場、病院、学校など、住民の日常生活に必要な施設へのアクセスが遮断されました。
破損した橋梁の中には現地の業者では技術的に修復が難しいものがあり、復旧が進みませんでした。そこで日本は、サイクロンで被災した橋梁や、今後被災する可能性の高い脆弱(ぜいじゃく)な橋梁など、計5つの橋梁の架け替えを支援することにしました。まず、中部のトンサ県で国道4号線に接続する農道の3橋梁を架け直したことで、国道と村落が車道で結ばれ、地域住民の社会経済活動が活発化しました。
また、南部のサルパン県で国道5号線上の2橋梁を耐久性の高い橋梁に架け替えたことで、災害に対して強くなるとともに、重量制限が18トンから40トンに緩和され、幅員(ふくいん)も1車線から2車線に改善されました。これにより、国道の輸送性が向上し、国内の円滑な物流が促進されました。
架け替えられた耐久性の高い橋梁(写真:JICA)