3. 地球規模課題への取組

(1)環境・気候変動問題

環境問題についての国際的な議論は1970年代に始まりました。1992年の国連環境開発会議(UNCED、地球サミット)、2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)、そして2012年6月の国連持続可能な開発会議(リオ+20)での議論を経て、国際的にその重要性がより一層認識されてきています。現在、リオ+20を受け、持続可能な開発目標(SDGs)の交渉や持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム等が進められているほか、G8、G20サミットにおいても、環境・気候変動は繰り返し主要テーマの一つとして取り上げられており、首脳間で率直かつ建設的な議論が行われています。環境問題は、未来の人類の繁栄のためにも、国際社会全体として取り組んでいくべき課題です。地球規模の課題に取り組み、持続可能な社会を構築するため、UNESCO(ユネスコ)が主導機関となり、「持続可能な開発のための教育(ESD)」を推進しています。

< 日本の取組 >

環境汚染対策

日本は環境汚染対策に関する多くの知識・経験や技術を蓄積しており、それらを開発途上国の公害問題等を解決するために活用しています。特に、急速な経済成長を遂げつつあるアジア諸国を中心に、都市部での公害対策や生活環境改善への支援を進めています。2013年には、地球規模で水銀対策を行うための「水銀に関する水俣条約」が合意され、10月9-11日、熊本県熊本市、水俣市で採択、署名のための外交会議が開催されました。日本は、水俣病の経験を踏まえ、条約交渉に積極的に参加し、ホスト国として会議の成功に尽力したほか、途上国に対する大気汚染対策、水質汚濁対策、廃棄物処理分野において3年間で20億ドルの支援を表明しました。

●モンゴル

「ウランバートル市大気汚染対策能力強化プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2010年3月~2013年3月(2013年内にフェーズ2開始予定))

近年高い経済成長を遂げているモンゴルでは、就職先やより良い教育を求め、多くの人が首都のウランバートル市に集まる一方、急激な都市化と人口増加に都市インフラの整備が追いつかず、様々な都市問題が発生しています。

中でも、大気汚染は大きな問題の一つで、ウランバートル市はWHOの調査では世界で2番目に大気汚染が深刻な都市と報告されています。同市内では車両台数が急増したため、激しい渋滞が排気ガスの増大を引き起こしていることに加えて、マイナス30度から40度まで気温が下がる冬には、石炭ストーブの煙や発電所・ボイラーの排出ガスが一体となった煙霧が市内一面に立ち込め、呼吸器疾患等の健康被害が拡大しています。

大気汚染の改善には科学的な根拠に裏付けられた対策が不可欠ですが、モンゴルでは汚染状況の分析が行われていませんでした。こうした状況に早急に対応するため、2010年に始まった大気汚染対策能力強化プロジェクトでは、大気拡散シミュレーションモデルの構築や測定技術、日本の環境対策・制度などについて指導しました。その結果、大気汚染の主な発生源が同市全体の大気汚染にどの程度影響しているのかが明らかになるとともに、これらの原因分析に基づく大気汚染対策の提言がウランバートル市議会で承認されました。

ウランバートル市の大気汚染対策の強化のため、今後第2フェーズの実施を通じて、日本の知見や経験が一層活かされることが期待されています。

空から見たウランバートル市の様子(写真:JICA)

空から見たウランバートル市の様子(写真:JICA)

気候変動問題

気候変動問題は、国境を越えて人間の安全保障を脅かします。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年9月に公表した最新の資料によると、1880~2012年において世界の平均気温は0.85度上昇しているとされています。このような中、先進国のみならず、開発途上国も含めた国際社会の一致団結した取組の強化が求められています。

2012年末にカタール・ドーハで開催された国連気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)では、日本は、2020年以降のすべての国が参加する新しい枠組みの構築に向けて、「交渉の基礎的なアレンジメントを整えた」との明確なメッセージを世界に示すことを目標として、積極的に議論に貢献しました。その結果、最終的に、既存の2つの作業部会(「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会」および「京都議定書の下での附属書I国のさらなる約束に関する特別作業部会」)の作業が終了し、京都議定書に代わる新たな国際枠組みの構築に向けた交渉に専念できる環境が整備されました。京都議定書については、第二約束期間の設定に関する合意が採択されました。また、日本は、2009年に表明した2012年末までの150億ドルの途上国支援について、2012年12月末時点で官民合わせ約176億ドル(公的資金約140億ドル、民間資金約36億ドル)を達成しました。こうした支援の着実な実施は、気候変動の国際交渉において途上国の建設的な姿勢を引き出すとともに、ODA等を通じて低炭素技術を持つ日本企業の海外展開にも寄与しました。

日本は、技術で世界に貢献していく「攻めの地球温暖化外交戦略」の策定に当たるなど、積極的に地球温暖化対策に取り組んでいきます。その一つとして、日本の優れた低炭素技術などを世界に展開していく二国間オフセット・クレジット制度を推進しています。これは、クリーン開発メカニズムを補完するものとして、低炭素技術の提供などによって相手国の温室効果ガス削減に貢献し、日本の削減目標達成に活用する制度です。日本は早期の運用開始を目指して、アジアやアフリカ諸国等との間で協議を進めています。また、31か国で238件のFS事業を実施しました(2013年10月時点)。さらに2013年度からは、実証事業や設備補助事業を実施し、5か国で11案件を採択しています(2013年10 月時点)。これまでに本制度に関する二国間文書を、モンゴルとは2013年1月に、バングラデシュとは3 月に、エチオピアとは5 月に、ケニア・モルディブとは6月に、ベトナムとは7月に、ラオス・インドネシアとは8 月に各々署名しています。(2013年10月時点)

そのほか、日本は、世界での低炭素成長実現に向けて、次のような様々な地域協力を実施しています。2013年5月には、最大の温室効果ガス排出地域である東アジア地域での低炭素成長モデルの構築を推進するために、各国の政府・国際機関関係者を集めた「第2回東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」を実施し、活発な議論が行われました。この対話では、低炭素成長に貢献する技術に焦点を当てて議論し、(1)政府と自治体、民間セクターの連携強化、(2)低炭素成長実現のための適正技術の普及、および(3)市場メカニズムを含むあらゆる政策ツールを総動員することの重要性について各国は認識を共有しました。また、アフリカとの間では、「TICAD(ティカッド)横浜宣言2013」の中で低炭素成長・気候変動に強靱(きょうじん)な開発に関する戦略について言及され、横浜行動計画では本戦略に基づいた支援や二国間オフセット・クレジット制度の普及・促進を行っていくことが決定されました。さらに、日米でも気候変動分野において協力していくことで両国は一致し、今後、(1)2020年以降の将来枠組みの構築に向けた国連交渉の主導、(2)日米両国の先駆的な技術を活用した低炭素成長の実現とその普及、(3)地球温暖化に強靱(きょうじん)な社会の構築の3つの分野で、議論を深めていくこととなりました。

「第2回東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」の会場に設けた企業展示ブースで各国の参加者に日本の優れた低炭素技術を紹介している様子

「第2回東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」の会場に設けた企業展示ブースで各国の参加者に日本の優れた低炭素技術を紹介している様子

持続可能な開発のための教育(ESD)の推進

日本は、「国連ESDの10年(DESD)」の最終年である2014年11月に「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」を岡山市および愛知県名古屋市において開催する予定です。また、DESDの始まった2005年からUNESCO(ユネスコ)に信託基金を拠出し、全世界を対象として気候変動教育、防災教育、生物多様性教育に関するプロジェクトを実施するなど、積極的にESDの推進に取り組んでいます。

用語解説

持続可能な開発目標(SDGs)
リオ+20で議論され、政府間での交渉プロセスの立ち上げが合意された開発目標。国ごとの能力等を考慮しつつ、すべての国に適用されるもの。2015年より先の国連の開発アジェンダに統合されることとされている。2013年1月、SDGsオープン・ワーキング・グループが設置され、分野ごとに議論が行われている。
持続可能な開発のための教育(ESD:Education for Sustainable Development)
持続可能な社会の担い手を育む教育。
「持続可能な開発」とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく現在の世代のニーズを満たす」ような社会づくりのことを意味している。「持続可能な開発」のためには私たち一人ひとりが、日常生活や経済活動の場で意識し、行動を変革することが必要であり、このための教育を「持続可能な開発のための教育」という。
国連総会決議により、2005年からの10年間を「国連ESDの10年(DESD)」とし、UNESCOを主導機関として、世界的に取組が進んでいる。
京都議定書
1997年に京都で開催されたCOP3で採択された、温室効果ガスの排出削減義務等を定めた法的文書。国連気候変動枠組条約で規定されている先進国および経済移行国における温室効果ガス排出量を1990年と比較し、2008~2012年の5年間で一定数値削減することを義務付けたもの。日本は6%の削減義務を負う(第一約束期間)。2012年のCOP18で第二約束期間設定のための改正案が採択され、同期間に参加しないという日本の立場は改正された附属書Bに反映された。
低炭素技術
二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出が少ない環境技術。日本はこの分野で優れた技術を有しており、これを活用し、高効率な発電所、持続可能な森林経営、省エネ・再生可能エネルギーの促進・制度整備、廃棄物管理の支援を通じて、温室効果ガスの排出量を削減する取組を行っている。
二国間オフセット・クレジット制度
温室効果ガス削減につながる技術・製品・システム・サービス・インフラ等の途上国への提供等を通じた、途上国での温室効果ガスの排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価し、日本の削減目標達成に活用する仕組み。
クリーン開発メカニズム
京都議定書によって導入された、各国の温室効果ガス排出削減目標を達成するための手段。途上国での温室効果ガス排出削減量等を、自国の排出削減目標を達成するために利用することのできる制度。

●ベトナム

「森林・自然環境保全プログラム」
技術協力プロジェクト(2010年8月~実施中)

ベトナムの森林被覆率(国土面積に対する森林面積の割合)は、過去の戦争や、人口増加と貧困による森林の農地への転換、違法伐採などによって、1945年の約43%から1990年には約28%まで減少してしまいました。このような状況を改善するため、ベトナム政府は、2020年までに森林被覆率を国土の45%に回復させる政策目標を立て、森林面積回復と持続可能な森林管理に取り組んでいます。

日本は「自然環境保全プログラム」を通じて、持続可能な森林管理と生計向上の両立、生物多様性の保全などについて幅広く支援しています。たとえば、中部地域の11の地方省では、「保全林造林・持続的管理事業」(有償資金協力)により、保全林を育てるとともに、林業インフラ・村落インフラなどの整備を支援しています。森林地域を整備することで、山地が水を蓄え、河川の水量が調節されるとともに、生物多様性が保全されることを目指しています。また、北西部地域では、「北西部水源地域における持続可能な森林管理プロジェクト」(技術協力プロジェクト)により、51の村で住民と共に森林管理を行うことで、「持続可能な開発」の意識を住民に啓発するという「ESD(持続可能な開発のための教育)」にも役立つ事業を実施しています。また、果樹・野菜の栽培、家畜の飼育などを始めることで生計を向上させることにも取り組んでいます。

南部地域では、「ビズップ・ヌイバ国立公園管理能力強化プロジェクト」(技術協力プロジェクト)により、国立公園と地域住民が協力して行うエコツーリズムを推進し、自然環境に配慮した農業手法の普及を支援しています。これにより住民への意識啓発、生計向上と自然環境の保全を両立させています。(2013年8月時点)

住民参加による森林管理の様子。森林の保護、植林と持続的な利用について住民が話し合っている(写真:JICA)

住民参加による森林管理の様子。森林の保護、植林と持続的な利用について住民が話し合っている(写真:JICA)

●カメルーン、中央アフリカ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国

「コンゴ盆地における持続可能な熱帯雨林経営と生物多様性保全のための能力強化計画(ITTO連携)」
無償資金協力(2012年3月~実施中)

中部アフリカのコンゴ盆地は、アマゾンに次いで世界で2番目に広い熱帯林地帯(約2億ヘクタール)であり、豊富な生物多様性※1を有しています。しかし、コンゴ盆地を中心とするアフリカの国々では、森林経営を行う技術者が不足しているためアジアや中南米の熱帯林と比べ、持続可能な森林経営の確立が遅れているのが現状です。

コンゴ盆地では、毎年600人以上の技術者が新たに必要とされていますが、現在この地域内の人材育成施設が輩出する技師・技術者は、年間320人程度にとどまっています。さらに各施設では、研修機材が不足するなどして、研修生が実務で必要とする知識・技術を十分に身に付けることができていません。

そこで日本は、コンゴ盆地の熱帯林地域において活動実績のある国際熱帯木材機関(ITTO※2)と協力し、カメルーン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、および中央アフリカの人材育成機関施設を整備しています。支援内容は、持続可能な森林経営に関する訓練プログラムの策定、訓練プログラムの実施に必要な施設・機材の整備、各国の森林技術者の育成機関の講師が、機材・策定プログラムを活用し、指導するための訓練活動です。これらの活動により、各機関での教育の質が向上し、さらに育成される技術者が年間350人に増加します。

育成された技術者により、コンゴ盆地域内において持続可能な森林経営が推進されます。またこれらの技術者が、持続可能な森林経営を住民や民間企業等にも広めることで、森林資源に依存しながら農村部で生活する住民の貧困削減や所得向上にも貢献します。その結果として、この地域における生物多様性・気候変動分野の対応能力が向上することが期待されています。(2013年8月時点)

※1 こちらを参照
※2 国際熱帯木材機関 ITTO:International Tropical Timber Organization

研修施設での学習の様子

研修施設での学習の様子

1997年の内戦以降再建されていない森林開発要員の養成施設(コンゴ共和国)(写真:2点ともITTO)

1997年の内戦以降再建されていない森林開発要員の養成施設(コンゴ共和国)(写真:2点ともITTO)

●バングラデシュ

「南北スーダンからの廃棄物管理第三国研修」
第三国研修(2012年12月)

2012年12月に、バングラデシュの首都ダッカにおいて、スーダン共和国と南スーダン共和国の行政官を対象に廃棄物管理の第三国研修を実施しました。

1,500万人近くの人々が居住するダッカ市では、長年にわたり、人口増加による都市衛生の悪化が問題となっており、日本が10年以上にわたり、廃棄物管理改善の技術指導等を行う技術協力プロジェクトや、排気ガスを抑えたごみ収集車100台を供与した無償資金協力、地域住民への啓発活動等を行う青年海外協力隊の派遣など、様々なスキームで継続的な支援を行ってきました。こうした支援の結果、収集・運搬できるゴミの量が約40%増加しただけでなく、廃棄物処分場に「福岡方式」と呼ばれる準好気性埋立構造※の衛生埋立地を導入したことにより、廃棄物の管理水準が大幅に改善しました。

南北スーダンにおいても、都市部において人口が増えるにつれて、廃棄物量も増加しています。また、経済的問題や社会システムが十分に機能していないことから、廃棄物の管理体制ができていないことにより、都市衛生環境の悪化が深刻になっています。そのような中、日本はスーダンにおいて、専門家派遣を2010年から、南スーダンにおいては技術協力プロジェクトを2011年から実施しています。

南北スーダンの行政官は、ダッカ市の廃棄物取組に触発され、地区ごとに責任と権限を持たせる管理方法などについて自国の政策にも活かしたいと話していました。3か国の関係者が今後も学び合うことが期待されています。

※ 福岡大学と福岡市が1970年代に共同で開発した埋立技術。「福岡方式」は、途上国で従来採用されていた嫌気性埋立に比べメタンガスの発生が抑制される一方、先進国に多い好気性埋立に比べ構造が単純でコストが安い。

無償資金協力により提供された、低排気ガスのごみ収集車(写真:JICA)

無償資金協力により提供された、低排気ガスのごみ収集車(写真:JICA)

生物多様性

近年、人間の活動の範囲・規模・種類の拡大により、生物多様性の喪失が問題になっています。このような中、日本は、2010年10月に愛知県名古屋市で開催した生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の成果を踏まえ、生物多様性の保全と持続的な利用に取り組んでいます。2012年10月には、ハイデラバード(インド)にて第11回締約国会議(COP11)が開催され、開発途上国等における生物多様性に関する活動を支援するための国際的な資金フロー(資金の流れ)を2015年までに倍増させるという資源動員に関する暫定的な目標が合意され、愛知目標達成に向けてCOP10において醸成されたモメンタム(機運)を次回会合に引き継ぐことができました。

また、2012年4月には、生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBESが設立され、2013年1月にIPBES第1回総会(IPBES-1)が開催されました。

パラオのサンゴ礁モニタリング能力向上プロジェクト(写真:JICA)

パラオのサンゴ礁モニタリング能力向上プロジェクト(写真:JICA)

食物多様性

生物に国境はなく、世界全体で生物多様性の問題に取り組むことが必要なことから、「生物多様性条約」がつくられました。その目的:(1)生物多様性の保全、(2)生物資源の持続可能な利用、(3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公平な配分です。先進国から途上国への経済的・技術的な支援により、生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組を行っています。

用語解説

愛知目標(戦略計画2011-2020)
「ポスト2010年目標」とも呼ばれている。中長期目標として「2050年までに人と自然の共生の実現」を、短期目標として2020年までに生物多様性の損失を止めるための行動を実施することを掲げ、「少なくとも陸域17%、海域10%が管理され、かつ保全される」など20の個別目標を採択。
生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)
科学的評価、能力開発、知見生成、政策立案支援の4つの機能を軸に、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する活動を行う。

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